第3話
どぞ!
目が覚めると、森の中にいた。
俺は仰向けに寝ていて、木々の間からのぞく青空が視界に入る。
さぁあ~と風が吹き、草木が揺れる。
背中がチクチクするのでいい加減起き上がる。
立ち上がって体の確認。うん。よく分からないけど、無事に転生できたようだ。ちゃんと15歳まで若返っているみたいだし、これといって問題はなさそう。
状況確認のため周囲を確認。するとすぐ傍に俺のであろう弓と矢筒、それに剥ぎ取り用でもある短剣が落ちていた。
何故そう分かるかというと、自分でもよく分からないけど恐らく神様がそうさせたんだと思う。神様が俺の頭に手を置いたとき一緒にこの世界の知識を少なからず入れてくれたようで、弓の使い方も捕まえた獲物の解体の仕方も森にある薬草もこの世界での通貨も、結構広い範囲での知識がある。
という訳で矢筒を背負い弓を持ち、短剣は背中側の腰に挿して準備完了。一応この知識通りに弓が轢けるか不安だったため、弓の試射ももする。
俺が放った矢は綺麗な弧を描き、木に突き刺さった。
矢を回収して矢筒にしまう。矢は残り5本。
短剣も抜いて振ってみる。一応様にはなっているが……悪魔で護身程度だと考えた方がよさそうだ。うん。
少し振った後、短剣をしまう。
因みに、頭にある情報からするとこの世界はゲームのようなステータスというものは存在しない見たい。
確かに今思えば適性の紙に書かれていたのは魔法系のみだけで、何というか…戦闘系? 剣術とか体術とかそういったものはなかった。そう言ったものは個々の力でつけていくしかないらしい。
だからあれだね、よくラノベで見るようなスキルポイントを使ってスキル取って、はいそく最強とはいかないみたい。若干そう言うのに期待していた分少し残念だけど、村人として最小限必要な技術は神様がくれたみたいだから良しとしよう。
あと設定だけど少し変更があったみたい。初めは薬草取りに行っているという設定だったらしいけど、戦闘技術があった方がいいと神様が判断してくれたらしく急きょ狩りに出かけていたという設定に変更してくれたらしい。
正直これには感謝しかない。だって日本で生きていた俺が剣とか振るえる訳がない。一応高校生の時はフェンシング部に入っていたから、レイピアとかエストックとかなら扱えるかもしれないけど所詮は付け焼刃。実践でどこまで使えるか分からない。
頭に流れてくる情報によると、神様がくれたのは本当に狩り人が必要とする能力しかないみたい。分かりやすく言うと弓術に隠密、後は気配察知にちょっとだけ短剣術……って感じ。
こういう言い方をするとさっきのスキル云々が何だかわかりにくいけど、さっきも言ったけどこの世界にはスキルポイントを使って得られるようなスキルはない。でも、スキルという言葉は普通に使われているみたい。
簡単にいうと、例えば冒険者が「君は一体どんなことができるんだい?」と他の冒険者に聞くとき、「君は一体どんなスキルがあるんだい?」と聞くみたいだ。だからよくラノベとかで見るようなスキルによる補正みたいなのはないし、ポイントもなければ習得という概念もない。日本で格闘技を習うように、少しづつ身に着けていくしかない…ということだ。
俺の場合だと「俺は弓を扱うのが得意で、後は隠れるのも得意です。狩りをしていたので物音や気配にも敏感です。短剣は剥ぎ取る時ぐらいしか使わなかったので、護身程度でちょっと振れると思ってください」…と、こんな感じになる。何だか面接みたいだね。
まぁスキルに関してはそういうものだと思って欲しい。説明が難しいし、俺も何だか混乱してきた。
さて、そろそろ村に向かおうと思うのだが、その前に魔法の練習もしておこう。
召喚魔法はまだ契約している魔物や精霊がいないためと試すこともできないから放置。練習するのは俺のもう一つの属性、水だ。俺の要望通りに水の状態変化ができるかも試したい。
ということで、実践。
頭に流れてくる情報によると、まず魔力を感知しないといけないみたい。
だから目を瞑って座禅を組んでみる。
ほどなくして、胸の辺りにぽかぽかと温かい何かを感じるようになった。恐らくこれが魔力なんだろう。一度感じ取ってしまえばはやいもので、後は常に魔力の存在を感じ取れるようになった。
魔力を感じ取ってからは…イメージが大切らしい。そしてそのイメージをより明確化するために言葉に出した方がいいようだ。これが俗にいう詠唱なんだろう。ただこの詠唱は別にイメージを明確化するためだけのもので、中二病的なことは言わなくてもいいようだ。慣れたら詠唱しなくても魔法はできるようだ。
取り敢えず初めてなので普通に使ってみる。ただ水が出せたらいいので、詠唱は簡単に【水よ】でしてみる。
「【水よ】」
俺がそう言うと同時、手の平から水が湧き水のように溢れてきた。止めれと念じれば水は直ぐに止まった。
もう一度水を出してみる。今度は手のひらに少しばかりすくって飲んでみる。よく魔法で生み出した水を飲むという描写があったから、一度本当にできるか試してみたかった。
結果、水は普通に飲むことができた。天然水みたいで結構おいしい。これは使える。
他にも魔法を試してみる。兎に角攻撃魔法を使って見たかったので、ここは妥当に水の玉を生み出して木にぶつけてみることにした。
「【水球】」
俺が気に翳して向けた手から、こぶし大ほどの水球ができ、それなりのスピードで飛んで行った。
バシャ、という音がして、木に命中。しかし威力は何とも言えない。それなりに衝撃はあるのだろうが、如何せんぶつけたのが木なのでただ濡れたようにしか見えない。
次はゲームでもよく見る水の槍をイメージしてみる。ここは妥当に【アクアランス】とかが横道な気もするが、個人的にあれは長いと思っているので、簡単に【水の槍】で済ませることにした。
「【水の槍】」
今度は手のひらから円錐状の水の塊が放出され、木に命中。今度は木にそれなりに大きな穴をあけた。
「これは結構使えるな。でも、決定打には欠ける…か」
さて、どうしたものか。個人的にはこの木が貫通、もしくは切り落とせるぐらいの威力は欲しい。
そう言えば日本では、高圧水流で車のドアを切る…というものがあったような………。
試してみるか。
そうだな…イメージとしてはビームのような水を出して振るう感じ。それで周りにいる敵を一気にズバッ! っていう感じでいこう。
あ、でもそれなら剣のイメージの方が付きやすい。ビームみたいに水を飛ばすのは貫通技で使うか。
ということで、まずはビームから。これの詠唱はどうしようか……ただ単純に【ビーム】だと、何か味気ない。………【水鉄砲】でいいか。イメージは手をピストルみたいに構えて人差し指の先から高圧水流の小さな水球が出る感じ? ビームどこいった。でも、これでいこう。イメージが付きやすい。
「【水鉄砲】」
手をピストルみたいに構え、そう詠唱するとイメージ通りまるで本物の銃を撃ったみたいにかなり高速の水が飛んでいき、ピシュンという音と共に、見事に木を貫通し小さな穴をあけた。しかもそれは後ろにあった木までも穴をあけており、貫通はしていなかったがかなり強力であることが分かった。
「これ強! これ採用即採用! 他の魔法も高圧水流イメージしてやればとんでもない威力になりそうじゃん!」
もしかしなくても、水魔法って最強なんじゃなかろうか。
とにかく、今度は一気にズバッと切るイメージで。もう詠唱は【水剣】でいい気がするのでそれでいく。
「【水剣】」
そう言うと同時、右手にロングソーどぐらい長い水の剣のようなものが生まれ、一気に横に振るってみる。するとその剣は木を綺麗に切断。木がバキバキと音をたてながら倒れ、見事な切断面が現れた。
「強!」
その一言である。
試しに、剣の長さを伸ばせないか試してみたところ、大体3メートルぐらいまで伸ばすことができた。結構長い。これは敵を一気に屠れるのではないだろうか。
後は一応相手の攻撃を防ぐように【水の盾】を詠唱してみた。すると丸い水の円が手のひらから現れ、見事に楯のようになった。ただ、これ物理攻撃を防げない。試しに腕を通してみたら、見事に貫通した。これは対魔法用って感じ。物理には氷にして受け止めよう。
氷だが、試してみた水の魔法全てにおいて氷でも使うことができた。もう簡単に氷魔法とするが、この氷魔法【水剣】【水鉄砲】でやると威力が弱くなるのだが、他の魔法だと威力が上がっていた。ただ、他の魔法も高圧水流でやると水の方が威力が高いみたいで、基本的には攻撃を防ぐ壁として使いそう。後は相手を拘束するときにも使えそうだ。攻撃力も十分だしかなり応用がききそうで、氷魔法は重宝しそうだ。
後は水蒸気だが…これはかなりの水が必要になるが、これで霧が作れることが分かった。
これって、実はかなり強いんじゃないか? 霧を発生させて煙幕みたいに逃げることもできるし、逆に霧に紛れて暗殺もできる。【水鉄砲】を組み合わせて使うと、音もなく敵を倒していけるのではなかろうか。
………強くね? これ俺強くね? 魔力もまだ半分以上残ってるし、もう一度言うけどこれ俺強くね? え? 強すぎない? もし今の俺がこの世界で平均レベルなら…どうしよう、俺生きていける自信がないんだけど。
………。
うん、考えないでおこう。今考えても分かんないし、そのうち分かるでしょう。
さて、大体の検証もすんだし、そろそろ村の方へ行ってみようと思う。神様が言っていることが正しければ死体があるだろうけど、覚悟はできている。それに俺は直接彼らと暮らしたわけではないが、設定上彼らと暮らした記憶があるし全員の名前も知っている。彼らを放置しておくのは、俺にはできそうもない。
何だか一緒に暮らしていたわけでもないのにこうした記憶があることに罪悪感を覚えるが、頭に流れてくる神様の言葉曰く許可は取ってあるらしい。
だからせめて、お墓を作ろうと思う。これは単なる自己満足だ。
俺は魔法の試し打ちで滅茶苦茶になった周囲を見渡し、忘れ物がないかを確認すると、村がある方角へ歩を進めた。
ありがとうございました!