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ある意味怖い話  作者: 谷口由紀
9/17

恥ずかしがり屋の隣人

※守ってくれていた、のかもしれません。




 あれは一人暮らしを始めたばかりの頃のことだった。

 どこにでもある二階建てのアパートで、1kのユニットバスタイプの部屋に住むことを決めた。駐車場もあり、一階には小さな庭もあったので家庭菜園好きの自分としてはプランターを三つほど並べられるサイズが有り難かった。


 引っ越し当日、タオルと石鹸という無難なセットを片手に全六部屋を回った。

 両隣と上の人だけでもよいとは思ったのだけれど、部屋数も少なかったのでついでにご挨拶を……と思ったのだ。


 左隣の住人以外は手渡しできたのだが、そこの住人だけはいつ行っても会えなかった。

 夜外からみたらカーテン越しに電気が付いていたので、ご挨拶セットを持ってインターフォンを鳴らしても、決して出てこなかった。

 それどころか、ご丁寧に室内の電気を消して居留守(?)をしてくれるのだ。

 仕方がないので、一筆箋に隣に越してきたことを書いてドアの郵便受けに差し込んでみた。そしてそっとかげから眺めていた……すると、それはゆっくりと郵便受けの向こう側へずるずると引き込まれていった。


(――シャイなのかな?)


 そう思い込もうとしたけれど、不思議とモヤモヤしたことを覚えている。


 ある日洗濯物を干していた時、気づいたことがある。

 隣の部屋のカーテンが真っピンクだということに。……ではなく、カーテンが五センチほど開いているのだ。

 そこをなんとなく見つめていたら、シャッと閉まった。


(在宅なのか)


 その時はその程度にしか感じなかった。

 それから何となくカーテンを気にする日々が始まった。

 仕事がら帰りは終電頃だったのだが、左隣の隣人の部屋は常に電気がついていた。そしていつもカーテンには隙間が開いていて、向こう側から覗いているのだ。


 なぜそれが分かるかというと、夜暗い外から明るい室内を眺めてもらえばすぐに気づくだろう。

 明るい部屋から窓ギリギリまで張り付いていたら、カーテン越しにシルエットでまるわかり……ということが。

 そして、室内も少しだけ隙間から見えてしまった。

 カーテン以外もピンクだった。

 そして覗いているのはオッサンである、と。


 オジサンがピンク好きでも全く構わないのだが、何故覗くのか。

 電車で帰宅していたし、駅からは歩きだったから騒がしくはなかったはずなのに。


 そして玄関側に回るときには、ドアスコープから光が全くなかったので電気を消していたようだった。


 そんな彼(?)と一瞬だけ遭遇したことがある。

 休日、うっかり寝すぎて洗濯物を干す時間が遅くなった時のことだ。

 普段全く生活音のしない隣人が、珍しく洗濯物を干す音がしたので、居ることはわかった。私は全くやましいことはないので、洗濯物をもって構わず窓を開けて庭に出た。

 

 初めてその姿を見た彼は、目玉が落ちるのではないかと心配になるほど目を見開いていた。

 そして即座に部屋に入ってしまった。


 その様は、まるで「某銀色の素早いスライム」のようだった……。

 そして残された彼の洗濯物は、八割がピンク色で二割は黒やグレーだったことを覚えている。


 彼の深夜の見守りは、私が一年で引っ越すまで続いた。

 

 今も恥ずかしがり屋の彼は、その部屋で静かに隣人を見守っているのだろうか……


 


 

ドアスコープに明かりが無かった、のではなく、向こう側に張り付いていたんだとしたら……ちょっとイヤです。

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