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ある意味怖い話  作者: 谷口由紀
6/17

真横からこんばんは ※

※これは心霊現象といえるかもしれませんが怖くない、と思います。






 当時我が家にはペルシャ猫が五匹いた。


 (つがい)で飼っていたら繁殖フィーバーが来たのだ。血統書付の子猫なので、離乳がすめばペットショップに売られていく。しかし毎回一匹は家族の誰かがわがままを言って手元に残した結果、五匹が残った。

 母猫、芹香(せりか)さんを筆頭に、その子どものちび・美幸(みゆき)純黒(じゅんくろ)華子(はなこ)だ。ちなみに父猫ジャムさんは、発情期に網戸を破ってまで野良猫を追って出て行ったまま、戻ってきませんでした……。

 ……今はもう全員虹の橋を渡ってしまったけれど。


 この話には、その猫たちのうち、真っ黒な姿の「純黒・略して純」も関わってくる。

 

 あれは我が家が出来たばかりの頃。新築で真新しい香りのする部屋で過ごす初めての日だった。

 他の猫たちは新しい家に戸惑い押入れに隠れていたが、黒猫の純だけは早々に散策を始めていた。一階をうろうろしたあと、慣れたように階段をあがり二階へ向かう。

 

 私も自分の荷物を一通り片付けを終え、パイプベッドも完成して暇になっていたから、黒猫の気ままな散策に付き合うことにした。

 純が先に入ったのは兄専用の部屋だった。いまだ作業中の兄にひとしきり甘えると、満足そうに部屋をでた。

 そして向かったのが私の部屋だった。


 ――純は部屋に入りふんふんと匂いを嗅いだ後、くるりと振り返った瞬間ピタリと止まった。


 固まってしまったのかと思うほど、部屋の壁を見上げて微動だにしない。なんだかそれがとても気持ち悪かったので、純に近寄りその小さなカラダを揺さぶった。


 純のカラダは揺れるのに、頭――というか視点は全くぶれなかった。動いてもカバンが動かないパントマイムの頭バージョンだ。


 そして静かに尻尾がブワリと膨らんだ。

 動物を飼っている人ならわかるかもしれないが、猫の尻尾は感情がでる。ペルシャ猫は長毛種で、その尻尾もフサフサと優雅だ。


 ――その尻尾が普段の倍以上に膨らんでいる。

 視線の先にある「何か」をとてつもなく拒否していたのだ。


 猫の視線の高さにあわせ、見上げる先を見てみると、それはただの白い壁にみえた。

 ただその高さは成人男性の平均より頭一つ分ほど上だ。

 壁にエアコンが取り付けてあるのだけれど、そこよりわずかに下だった。

 

 組んだばかりのパイプベッドは下に机が入っているタイプで、梯子を使ってベッドにあがる。

 そのベッドの真横を、純は見つめていた。


 それを見守る途中、流石に少し怖くなり兄や母も呼んだが、誰が呼んでも純は動かなかった。

 そして押入れから無理やり連れてきた華子さん(私担当の真っ白な愛猫)は「連れてこられて華子マジ迷惑ぅー」といった表情で、さっさと押入れに戻ってしまった。

 華子はツン多めのツンデレで可愛いのだが、こういう場面では何の反応もしなかったという……。


 しばらくの間尻尾を膨らませていた純は、20分ほどそのままだったが、徐々に尻尾の膨らみは戻っていった。

 完全に元の尻尾に戻った時には、欠伸をしながら兄の部屋で昼寝をしに行ってしまったようだった。



 そして初めての夜がやってきた。

 昼間の純が気にはなったが、あの後純はいつも通りだったので特に何もせず眠りにつくことにした。隣の部屋には兄もいるし、ベッドは壁際だ。何かあったら殴れば音で気づくだろう――そう思っていた。


 それに気づいたのは、眠りについてすぐだったのかもしれない。


 耳のすぐそばで、不快な耳鳴りがするのだ。そして真っ暗な部屋だというのに、部屋の中が見える。――カラダを動かしていないのに。そもそも瞼は閉じていたのに……。


 他の人と比べたことがないから分からないのだけれど、「金縛り」が起きるとき、私は足の先からじわじわと固まっていく派だ。

 固まる速度はじわじわじわじわーーっと早いのだが、完全に固まりきる前に手や足の指先を少しでも動かせたら解除? できたので、その日も「やっべ! 動けー!」と思った。

 

 しかし間に合わず、完全に固まってしまった。

 こうなると非現実的なことが起こり始めるから不思議なものだ。動かないカラダ、閉じられた瞳。それなのに見渡せる部屋。

 

 仕方がないので原因を探る。

 この日は思い当たることがあったので、純が見つめていた壁に意識を集中した。


 ……最初は黒い点のようだった。

 そこからジワリと黒いものが盛り上がる。

 そしてそれは『髪』だと気づいた。


 人が壁から生えてくる――その成長を見守っているような気持になった。

 髪が出て、次は額。そして眉毛で、その次は目。


 ……その目は何故か私を睨んでいた。

 そしてそのまま鼻、口。……最後には胸部まで飛び出していた。

 腕は壁に刺さったままなので、首を絞められたりとかいうホラーな展開は全く無かった。


 しかしながら、超至近距離に般若……というか愛染明王(あいぜんみょうおう)のような表情をした男性に見降ろされているのは落ち着かなかった。

 不法侵入した挙句、10代女性の寝顔を無断でのぞき込むのだからせめて笑顔でいればいいものを、まさかの憤怒! おかげで私も憤怒した。


 だがいかんせん金縛りのため動けない。

 見知らぬ男性と睨み合っていても、何も始まらない――そう判断した私の脳は、突如お花畑な答えを導き出した。


 こ れ は 夢 だ !


 そう気持ちを切り替えた途端、壁に生えている男性もお洒落なオブジェに見えてくる。

 ゴスロリのイメージが偏っているのだけれど、骨とか十字架とか黒とかフワフワとかがあるのだから、壁の男性もその一種! そう思ったら自己主張するのは人間の三大欲求。

 つまり睡魔が襲ってきたのです。


 固まったまま、いつの間にか私は眠っていました。



 そして翌朝ある事実に気づいたのです。


 純の尻尾が元に戻った理由は多分、男性に慣れたのだ――と。

 初めましてかつ、好意的ではない人(?)に警戒して尻尾ぷくぷくにしてみたものの、動かないし何もしてこない。ゆえに飽きて昼寝を選択したのだ……。


 猫って、自由ですね。

 それ以後彼が私の寝顔を覗く事はありませんでした。


 今ではもう調べようがないのですが……夢、だったのかもしれません。

 

 黒猫はナニかが視える。この子だけは、時折不思議な経験をさせてくれました。

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