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ある意味怖い話  作者: 谷口由紀
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次からは全力でモぐ。

「痴漢~夜道の一人歩き~」


 ちょっとアダルティなサブタイトル(?)にしてみましたが、一部の殿方が期待するような場面は全くありません。

 今回は少し長いかもしれません。




 あれは「地下鉄にて……」が起きた時期よりも、少し過ぎた夏のことです。


 某N市で働いていた私は、相変わらずの終電生活をしていました。

 当時住んでいた場所から駅までは徒歩五分程度だったため、急ぎの時以外は毎日歩いて通いました。


 駅の真横にコンビニがあるので、仕事で疲れていた私は休みの日以外は自炊をせず、毎晩そこで晩御飯と朝御飯を買うのも日課の一つでした。ちなみにメニューは毎回なにがしかのサラダと月見とろろそば。そして朝御飯用にツナマヨおにぎり二つと野菜ジュース……健康に気を使っているような、そうでもないようなメニューです。


 その日もコンビニでの買い物を終え、いつもの道を歩いていました。

 その道は表通りではなく、一本奥に入った道。民家はあるし、明かりも無いことはない。人通りは無いけれど、何かあったら声を出すかどこかのお宅に突撃してやろう……そんなことを思ったりもしていたものです。


 女性が泣きながら「助けてください!」と言いながら深夜のお宅に突撃しても、お断りするほど冷たい人間はいないだろう。そう日本社会に甘えきっていたのでしょう。


 ところで、サスペンスドラマでよくある場面に、夜中女性が一人で歩いていると後ろから足音がする。しかし女性が止まると、足音も止まる。――振り返ると誰もいない。……というものをよくみかけます。


 それと全く同じ状況がジャストでナウであると気づいたのは、アパートまであと二分といった中途半端な場所でのことでした。


 職場は飲食店で通勤の服装指定が全くなかったため、その日はGパンTシャツ、そしてサンダルというおよそ社会人らしからぬ恰好だった。女の色気など微塵もないこの私の後をつける(やから)がいる! そう思うと自然に怒りがこみあげてくるものです。

 振り返ってしまった時点で、相手の存在に気づいていることを知られているはず――そう判断した私は、歩きながら今の状況を確認しはじめた。


 まだ民家はある。しかし襲われたわけではないし、アパートまで行けば明るい。自動ドアではあるが、住人がカギを使わなければ開かない。ドアが閉じてしまえば、外からは開けられない。

 振り返った時点で姿が見えなかったのだから、アパート直前で駆け込めばなんとかなる!そう判断したのだ。



 これを読んでいる人は疑問に思うかもしれない――なぜ谷口(おまえ)はそんなに冷静なのか、と。



 じつは両親が警察官だったため、昔から色々な物事への対処法を教わっていたのだ。

 そして何より私自身剣道を八年習っていたため、細身(当時)の姿に騙されて寄ってくる痴漢くらいならば反撃も可能だろうと思っていた。

 手元に竹刀(しない)は無いし、それに代わる棒などもない。しかしアパートの鍵がある。先端が中指と薬指の間から出るように握りこめば、相手の眼球くらい狙えるだろう。

 


 ――その油断がダメだったことに、後で気づくわけです。

 まさに後の祭りです。

 終わっちゃったら祭りじゃないのです!


 それはともかく、予定通りアパートの直前で駆け込み、ポケットからカギをだして自動ドア横の錠に差した時にそれに気づいたのです。

  


 開 く ま で に タ イ ム ラ グ が あ っ た よ ね ――と!



 あちゃー、です。

 まさに「あちゃー」って思った瞬間、背後から突如抱きしめられました。

 タダで胸と腰を揉まれました。むしろ無料で鷲掴みです。鷲掴めるほど胸は無いけれど、日本語の表現的にそれでした!


 その瞬間真っ先に考えたのは「カギを奪われたら困る!」でした。抱きしめられながらも、なんとか錠からカギを抜いて握りしめます。

 次に思ったのは「背後から抱きしめられていたら股間を蹴れない!」その一念で、身体を捻りました。そしてとうとう相手とご対面です。


 感動もへったくれもありません。

 突如見知らぬおよそ30代後半の男に抱きしめられているのです。

 しかも、自分で身体を捻ったため、向かい合って恋人状態で抱きしめられているのです。

 パーソナルスペースなんてあったものじゃありません!


 しかし向かい合う姿を選択した自分にGJをあげたいと思いました。おかげで腕を突っ張って相手の胸を全力で押し返せたのです! 


 離れてしまえばこちらのもの!

 しかし私も焦っていたのでしょう……口からでた言葉はおよそ女性らしからぬものだった。



「突然女性に抱き着くとは、無礼でしょう!」

 ……無礼。この言葉をよもや日常で使うことになるとは、夢にも思っていませんでした。


 そして父から教えられていた言葉も出るわけです。

「見ず知らずの相手に無礼な振る舞いをしたあなた! あなたは誰ですか! 身分証を掲示してください!」

 ……するわけないですよね、掲示。

 念のため言っておくと、父は「事故にあった時などは、相手にも免許証を掲示してもらうんだよ」と言っていたのです。

 対痴漢のための注意事項ではまったくありません。


 剣道をやっていたからか、私の声は本気になるとかなりデカい。その声でいきなり「身分証を出せ」と言われた痴漢は、何を思ったのか言い訳を始めました。


「ここの五階に知り合いがいて……」 


「ここは四階建てのアパートですが?」


「知り合いと間違えて……」


「知り合いだとしても突如抱きつくのは無礼千万(ぶれいせんばん)ですよ?」


「すみません……」


「身分証を掲示してください、免許証っ! 早く!」


「忘れてしまって」


「手荷物確認させてください」


 ……忘れていなければ免許証出したのか? と今ならば突っ込みたいのだけれど。

 落ちていたヤツの鞄を拾おうとしたとき、同じアパートの住人がたまたま自転車で帰ってきた。


 その瞬間、ヤツは鞄を拾い脱兎のごとく逃げ出したのだ。


「大丈夫ですか?」

 その声が優しかった。


 そして私は自室に戻り実家の父に電話をした。

「痴漢に襲われたんだけど、被害届だしてもいい? お父さんの職場に迷惑じゃない?」


「うちの管轄じゃないから、そちらの署で指示を仰ぎなさい。……で、何された?」


「……服の上から胸と腰鷲掴みにされた。けど、身分証を掲示しろって怒ったら逃げた……」


「お前、さすが俺の子だわ! 強いわ。通報したか?」……父、大爆笑でした。


「いや、もう深夜一時近いから迷惑かなって」


「警察や救急は二十四時間対応できるから」


 ……そうだった。「深夜は留守です」というような警察などなかった。

 そして初めての110番通報をしたのだ。


「夜分遅く申し訳ありません、先ほど痴漢にあいまして……」

 電話応対も冷静だ。

 

 その後警官が三名来てくれて、それとは別に二名がパトカーで近所を回ってくれたらしい。


 調書を書いてもらったおかげで、今でも詳細に思い出せる。

 来てくれた警官の方々にも「すごく冷静だね」と驚かれた。……足は震えましたよ? 怒りで。



 それから数か月、何度も警察署に通っては痴漢の容疑者の写真を確認したのだが、結局ヤツは初犯だったせいかみつからなかった。


 初めて痴漢した相手がコレならば、少しは肝が冷えただろう。

……そう願いたい。



 次は股間をもいでやる!!


 あなたが痴漢しようとしている相手は、反撃してあなたの目玉を潰してやろうと考えている――かもしれません。

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