パーティー
ポルトナー様がパチンッと指を鳴らすと、一瞬で僕の服装が替わった。淡い藍色のシャツと、ズボン。濃い藍色の長靴まではいている。
「学生服に似てるけど、どちらかというと軍服に近いかな?」
「冒険者ギルドの貸制服だよ。式典に出席したり、高貴な身分の人に会うために貸し出す服だよ。」
なるほど。レンタル品か、僕は〝生まれ〝が貧民街だ。ソーシさんはそれだと初期装備がほとんど貰えないのではないかと推測していた。そのせいなのかな?
「確かに初期装備は布の服、棍棒、お金は500G、確かに辛いだろうがんばってくれたまえ。」
あっ、心を読まれたよ。
「では状況を説明しよう。君は3日前に冒険者登録を済ませたばかりの新人冒険者だ。」
今回のイベントについて、ポルトナー様から以下のことを伝えられた。
この国の首都レオンハートでは年に一度、冒険者ギルド主催のパーティーが行われる。ギルド関係者は誰でも参加出来るが、新人冒険者の交流を主な目的としたパーティーである。この国の貴族も招かれている。噂話ではこの国のお姫様も参加しているとかいないとか。新人冒険者のアユムはその会場の片隅に1人でいる。アユムを知っている人はいないから。今は、立食形式のパーティーなのでテーブルの上に盛り付けられている料理を適当にパクついている。
「状況説明は以上だ、ああ、君に”強制”するのはこのパーティーに参加することだけだよ。ではキャラクター・アユム、グッドラック!」
そう言ってポルトナー様は消えてしまった。周りの人達は全くそのことを気にした様子がないので見えていなかったのだろう。
しかし、いきなりこんな大きなパーティーに放り込むとはちょっとひどくね?僕はただの中学生だよ、マナーも知らないし周りの人に話しかけるタイミングも掴めないよ。
そんなことを考えていたら1人の娘と目があった。同じテーブルの向かい側で美味しそうに料理を食べていた。丁度料理を……たくさんほうばった直後に目があったので恥ずかしそうにしている。背は低いが歳は僕と同じ位ではないだろうか、髪も瞳もピンク色だ。顔は丸っこくて、妹に少し似ていた。そのせいか、つい微笑みながら見てしまう。
それが恥ずかしかったのか、その娘は恥ずかしそうに頬を染めて他のテーブルに移って行ってしまった。しまったな、話しかけるいい機会だったのに。
くいっ、くいっ。
「ん?」
唐突に尻尾を引っ張られて振り向くと僕の狐尾を小さな女の子が抱きしめていた。入念にカールされた金髪でお人形のように可愛いお嬢さんだ。
「超モフモフ〜」
「……よかった、気に入ってくれたみたいだね。」
僕は人孤族であるから立派な尻尾をしている。ソーシさんも人孤族の尻尾は獣人最高の美尾と自慢していた。ソーシさん直伝の手入れもかなり入念にしている。だからモフモフだと喜んでくれるのは僕も嬉しい。ひと言断ってから触って欲しいがお子ちゃまでは何も言えないね。
「うんとっても気に入った〜!これ欲しい〜おもちかえり〜」
「お待ちください!お嬢様、人孤族などなんの役にもたちません!尻尾なら俺の「やだ!こっち!」を……うおおお〜ん!」
何か不穏な発言をした少女に人狼族の若者が近づき手馴れた様子で少女を僕の尻尾から引き離した。そしてジタバタする少女を抱き上げながら爆涙する人狼族の若者……なんだかなー。ってそんな視線だけで殺せそうな眼をこっちに向けないで。
「狐〜貴様の挑戦受けてやる!ステージに上がりやがれ!」
……はい?
感謝・感謝です。