8話 2本目の尻尾
「……様、アユム様。」
「ん⁉︎」
誰かの声に目を覚ました僕は、上体を起こして声の主を見上げた。声をかけてきたのはフェル・シール様だった。ここは……ストーンサークルか。
「ソーシさんに切られて死に戻ったのか。」
そうなりますねというフェル・シール様の返事を聞きながら周りを見渡す。やはりソーシさんはいないか。わかってはいたけど、一月もの間、一緒にいたのだ、別れに寂しさを感じないわけない。
「アユム様、わたしがここにいることでお気づきと思いますが、チュートリアルはこれで終了いたします。ご苦労様でした。」
僕に向かってフェル・シール様が優雅にお辞儀をする。全ての動作が、振る舞いが完璧すぎて一瞬ほうけてしまう。さすが女神様だなぁと思う。そんなことを思いつつ、ポケっとしていたが、何もしないと失礼だと気付いて、僕は慌ててお辞儀を返した。
「では、長らくお待たせしました。ラッキーカードの特典をお渡しします。お受け取り下さい。」
「うおぅ⁉︎お尻に違和感‼︎」
振り返って見るとふさふさした自分の尻尾が2本に増えていた。
「狐の獣人の身体能力は尻尾の数分だけ底上げされます。また、特殊能力は尻尾の数分だけ種類が増えて行きます。アユム様は2つ目の特殊能力”念術”が使用できるようになりました。」
フェル・シール様の説明によると、
1つ目の”狐火”はただの”消えない火の玉”で明かり取りにしか使えない設定。そして2つ目の特殊能力”念術”は相手の精神に干渉、つまり精神攻撃の能力なのだそうだ。
ここで一つ疑問が浮かんでくる。ソーシさんは狐火で魂を抜く特殊能力を使っていた。その質問をフェル・シール様にすると、それは2本目の尻尾が生えかかっているため1つ目の特殊能力を使った際、2つ目の特殊能力”念術”が不完全な状態で発動してしまっているからだと教えてくれた。
「デフォルトでは狐の獣人は獣人中最弱の設定にしてあるのです。しかし、この尻尾数を増やすことで強力になりキャラクターとして活躍出来る仕様なのです。それが……」
フェル・シール様は少し険しい顔をして、
「ノーアでは今言った不完全な念術を狐火の能力と誤解されたため、2つ以上の尻尾を生えてくる狐獣人が非常に少ないのです。そこで運営側といたしましてはこれからはキャラクターにはこの情報を公開することに決めました。」
なるほど。まあ、運営側の考えは僕にとってはまあどうでもいい話だ。そんなことより、この目立つ尻尾どうしよう?今の話だと、2つ目の尻尾をもつ狐獣人はあまりいないことになる、目立つなぁ。
試しに尻尾を振ってみる。おお、ピッタリ合わせて振ればなんとか1本に見えるな、うん!
「それでは、獅子の王国の王都レオンハートの冒険者ギルド前に転送します。がんばって下さいね。」
「はい、色々あり……はや!」
フェル・シール様にお礼をと思ったが、言い切る前に転送されてしまった。しかし、ここはホール?何かのパーティー会場みたいだ。
「転送したのは僕だよ。フェルがなかなか君をよこさないからこちらから呼ばせてもらったのだよ、全く彼女は用意に時間をかけすぎ。」
「うおぅ⁉︎」
いきなり後ろから声をかけられて、僕はびっくりして飛び上がりながら振り向いた。
そこにいたのはタキシードにシルクハットを被った長身の男性で、ものすごい美男子だった。
「ああ失礼、自己紹介がまだだったね、私はポルトナー。キャラクター・シナリオを制作する者の1人さ。そう!私が君のオープニングイベントの担当なのだ!」
ポルトナー様によると、運営側はキャラクターに基本的に不干渉であるが、幾つか強制参加を強いる出来こと、いわゆる”イベント”があるという。そういえば以前フェル・シール様もそれっぽいこと言ってたな。
「ではパーティーを始めるよ。」
一体どうなるの?
感謝・感謝です。