3話 種族と生まれ
ノーア登録所に入ったピノ様と僕はとても豪華な部屋に案内された。
そこには白い服を着た銀髪の女性がいてピノ様に丁寧なお辞儀をし、優雅に挨拶をした。
「ピノ様、この度はお初のご利用ありがとうございます。ここのシステム管理を担当しておりますフェル・シールと申します。」
「韋駄天のピノです、今日はよろしくね。」
「はい。そして、アユム様ですね。」
「はい、よろしくお願いします。」
僕は身体を90度くらい傾けてお辞儀した。この方も神様なのだろう。
「まあ、お行儀がよろしいのですね。」
優しく微笑まれ一瞬心臓がドキンとした。ピノ様もとても美しい美少女神だが、外観や話し方から若い同年齢くらいの印象を受ける。そのおかげか緊張しないで話しをすることが出来る。それに対して、フェル・シール様は大人の女性の印象が強い。正直視界に入っているだけで頬が熱くなるのを感じるくらい。
そういえば名乗らなかったのに、名前はすでに知られていた。ピノ様に記憶を読まれた経験があるのでそれ自体は驚かなかったけど、もしかしたら僕の考えはすべて筒抜けかなのもしれない。頭の中の煩悩にも失礼の無いように言い聞かせないと。
ピノ様とフェル・シール様はしばらくの間2人で会話をしていたが、僕からは少し離れていたため聞き取れなかった。たぶんゲームの説明かなにかを話しているのだろう。やがて話しが終わったらしくピノ様達は僕のところまで戻って来た。
「では、キャラクターの作成を始めます。年齢は15歳固定です。性別は男性のままでよろしいでしょうか?」
「ええ。」
ピノ様がそう答えると、フェル・シール様の前に5枚のカードが現れた。
横一列に浮いており、ピノ様と僕の方からは無地の白いカードにしか見えない。フェル・シール様の方からは中身が見えているのだろう。
「ではこれから2回カードを引いてもらいます。キャラクターの種族と、生まれを決めます。まずは種族を決めるカードです。5枚のうちからお選びください。」
ピノ様は真ん中のカードを指差した。
(確か、ヒューマンが3枚、それ以外が2枚ってピノ様は言っていた。当然ヒューマン!確率60%!当たれ!)
クルリと裏返ったカードは……
「あら、当たりですね。獣人・人猿族です。」
フェル・シール様の説明では普通の人間のヒューマンは可も不可もない種族でそれ以外は亜人か鬼人。能力は亜人・鬼人のほうがヒューマンより高く、本来はそちらの方が当たりらしい。が、僕の狙いは当然ヒューマンだったわけで、ハズレなのだ。
顔が多少引きつっているかもしれない。でも、僕は腹を決めてここにきている。
「人猿族はアタリですよ、いいキャラクターが期待出来ます。次は生まれです。」
フェル・シール様がそういうと、次の5枚のカードが現れた。ちなみに先ほどの5枚のカードは1段上に上昇している。
「それ。」
ピノ様はこんどは左ハジを選んだ。そのカードは……
「あらら〜、貧困街が出てしまいました。」
……だ、大丈夫!カクゴ決めてるから、な、なんとかやっていけるさ!
「これで基本のキャラクター作成は終了ですがカード1枚だけは選び直しができます。生まれを選び直しますか?」
フェル・シール様がピノ様に静かに微笑んだ。フェル・シール様の前に5×2で合計10枚のカードが浮いている。選び直しがあるので、選ばれなかったカードを含め全てのカードが
がまだ存在しているのだろう。
「ちょっと、アユムと相談してもいいかな?」
「ええ、構いません。」
そういうと、フェル・シール様は数歩分後ろに退いた。
「歩クン、打ち合わせではヒューマンがでなかったら”種族”を選び直すことにしてたけどさ、ボクは”生まれ”を選び直したほうがいいと思うんだけど、どうかな?」
「”種族”のチェンジをお願いします!」
「やっぱりそっか。うん!わかったよ。フェル・シール様、”種族”を選び直します。」
「人猿族はパワーもスピードもあるので大変オススメなのですよ。それでも変更なさいますか?」
「うん、出来ればヒューマンにしたいんだ。」
「ですが、ヒューマン以外になる可能性も40%あるのですよ。」
「そのときはそのときさ!」
「……そうですか、わかりました。では種族のカードを元の伏せ状態に戻します。」
人猿族のカードが裏返り、5枚がシャッフルされた。そしてピノ様が選んだカードはまた真ん中。
そのカードは……
「獣人・人狐族です。人狐族は敏捷性が非常に高く、種族特性の妖術が使えるメリットがあります。ただ、力がヒューマンよりも非力で、攻撃力だけでいえば最弱の種族です。正直に申しますと、ハズレ種族です。」
残念、ヒューマンにはなれなかった。確かにヒューマンでないのは残念だ。しかし、僕はそんなに落ち込んでいない。こうなることも予想してきているんだから。
それに実は弱いキャラクターの方が”普通の人生に近い方向へいける可能性がある”と僕は考えている。なぜなら、ここでのキャラクターとは英雄であり主人公だ。なら、強い主人公の方が強い敵が現れる可能性が高いのではないかと僕は推測している。
だから、僕は正直”人猿族”より”人狐族”の方がいいと思っている。
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