プロローグ 始まる前から終わっていた話
【プロローグ】
「誠に申し上げにくいのですが……」
その言葉を聞いた途端、真締 龍河の世界は崩壊した。
眼前にいる初老の男が言ってることが良く理解できない。いや、そもそも声が、音すら聞こえてこないときている。心臓はドクドクと嫌な音をたて始め、ツーっと冷や汗が一滴背中を垂れていく。
「そんな馬鹿なッ!」
「な、何かの間違いです! そうに決まってるわ! ウチの子が……そんなッ!」
すぐ真横にいた両親の怒声で遠くなりかけた意識が帰還する。リュカはまず呼吸を落ち着けると現状の確認から再出発した。
アルコールと薬品の匂いが充満する部屋。自分と対面して座っている白衣姿の男は誰がどう見ても医者であった。そして両親との四人。
医者はカルテを見ながら「残念ですが……」と慮るように呟く。それが死刑宣告だった。
「ま……ちょっと待ってください!」
掠れそうになる声をようやくの思いで張り上げる。思わずリュカは立ち上がっていた。
「言ってることは……その、分かります。診断を疑ったりしてるわけじゃありません……ただ、なんで……なんでそんなことになるんですか」
男にしてはやや高い声が震えている。背も低く、体つきも華奢で、顔つきも寧ろ、いや明らかに一見しただけでは少女に見間違えるそれであった。現にこの病院の受付でも何度も確認されたほどである。
そんなリュカという名前からして紛らわしい少年を前に、医者は「では……」とカルテを捲り始めた。流石国立病院だけあって、インフォームド・コンセント――患者側が自身の病気と医療行為について知る権利と、医師側がそれを説明する義務――は徹底しているらしい。
「DNA診断ではシロでした。ですがテストの結果がですね、えー。第25項目と第84項目の其の3……それと第186項目の全てに於いてですが異常が検知されました。これにより―……」
その後は長々と過去の症例との判断やら、そうなった場合の法律の話やらが続く。だが、リュカにとってそれら全てはもうどうでもいいことだった。確かに分かっているのは、これでおしまいだという現実だけだ。
真締 龍河……今年で16歳、高校1年生……になるはずだった。
そう、全てがパァになった。中学までが昔懐かしい学ランだったため、必死に勉強してブレザーが制服の高校を受験した。通学のため自転車も入学祝いに新しく買ってもらった。つい先日には分厚い教科書の束も届いたばかりである。
それら全てが無駄になった。そう無意味、これで終了、ジ・エンド。彼の人生は十六年という短さで幕を閉じるのだった……。
――完――
『いやいやいやいやいやいやいや! 死んでない! 死なないからね!? 落ち着け、落ち着くんだ僕!』
そう、これは別に最近流行の主人公が病気に罹り、なんだかんだでご都合主義のストーリーが流れ、視聴層である女性受けするよう甘ったるい恋愛模様なんかも描いちゃったりして、最後感動のラストシーンを涙々で飾る……と言った『主人公死んじゃう系』の物語では、ない。
リュカは病気どころか怪我一つしていやしないし、そも健康が取り柄と言い切っていいほどに病院とは無縁の人生を送ってきたのだ。だからこそ、こうして家族一同呼び出され狼狽しているわけなのだが……。
「――えぇ、以上なわけでして……法律に定められている通り、龍河君はえー……移送が決定したわけでして……」
「い、いや。何かの間違いだ! これはきっと、きっと診断ミスに違いない!」
だがリュカの父親はまだその現実を認めきれないらしい。いや、認めたくないといったほうが正解だろうか?
そんな思惑を粉々に粉砕するかのように、医者は言い放った。
「いいえ、事実です。テストの結果からも明らかなように、御子息様は――」
「変態です」
昔書いて電撃に投稿したモノなのですが
「下ネタという概念が存在しない退屈な世界』というアニメを見て
ネタが同じだったためこの度没にした作品です。
供養のため放流することにいたしました。読んでくださったら光栄です




