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童話シリーズ

うちの勇者が魔王に転職していて呆然とした話。

昔々、魔族が人間と敵対していた頃の話です。

彼らの戦いはそれはそれは激しく、両方の種族が段々と疲弊していきました。


そんなときに表れたのが、勇者だったのです。

国で最高位の神官が貴方がこの戦いを終わらせると託宣が下したので、彼は勇者になりました。


勇者は冴えないごく普通の青年でした。

青年は半信半疑ながらも、自分が選ばれた存在となったのを喜びました。

そうして勇者は魔法使いと戦士とでパーティを組み、魔王城へ向けて旅立ったのです。


旅は長くて苦しいものになりました。

勇者は沢山の魔物を殺してどんどん強くなりました。

けれども、彼はやがて疑問を持つようになったのです。


勇者が殺した魔物にも、両親や友人はいたのです。

何故、姿かたちが違うからと言って争わなくてはいけないのでしょうか。

その疑問は、自分が殺した魔物の死体に子供が泣いて縋りついているのを見たとき決定的になりました。


そんなある時のことです。

勇者は戦闘中に仲間とはぐれて、一人ぼっちになりました。

彼は、深い傷を負い追ってくる魔物達からがむしゃらに逃げました。

そうしている内に、高い崖から落ちてしまったのです。

勇者は死を覚悟しました。


彼は、気がつくと洞窟の中にいました。

傷口を見るときちんと手当がしてあり、介抱してくれた人間がいたことが分かりました。

ああ、助かったのだと勇者は思いました。


その時、ガサリと音がしました。

そこにいたのは、女のゴブリンでした。

彼は反射的に身構えましたが、彼女が話しかけました。


「怪我はもうよろしいのですか?」と、


勇者は驚きました。

魔物が言葉をしゃべることが出来るなんて知らなかったのです。


「ありがとう、君が治療してくれたのかい?」


女ゴブリンは、そうですと答えました。

彼女はどうやら優しい性格らしく傷ついた勇者を放っておけなかったのです。


それから彼と彼女は沢山の話をしました。


魔族でも高位の者は人語を解すること。

長い戦争で苦しんでいるのは魔族も同じこと。

あまりにも長く争いあっていたので、やめるきっかけが見つからないこと。

夫が死んで娼婦になる妻や孤児が溢れかえっているという話も聞きました。


勇者は、彼女の芯の強さに徐々に惹かれていきました。

彼女は恐ろしげな見た目とは裏腹に澄んだ眼を持っていました。


そんな日常は、あっけなく壊れました。

いつもと同じように勇者が女ゴブリンと話をしていると戦士が彼女を

後ろから剣でずぶりとさして殺したのです。


彼女からドクドク溢れる血を見ながら、勇者は何も考えられなくなりました。

その様子を見て、かえり血をたっぷり浴びた戦士は大丈夫だからもう帰ろうと言いました。


勇者には戦士が悪魔のように見えました。


戦士と魔法使いは、いなくなった勇者のことをずっと探していたのです。

そうしてやっと見つけた時は、ゴブリンと楽しそうに話していたので唖然としました。

きっと、妙な精神魔法でも掛けられて魔物が人間のように見えているのだろうと思った戦士は

元凶を躊躇なく殺しました。


勇者は、その後戦士と魔法使いと別れ、一人で魔王城に向かいました。

2人には、今まで3人でやってきたのにと激しく非難されました。

それでも彼が、どうしても1人で行かなくてはいけないと言うとやがて諦めました。


勇者は魔王城に辿り着くと魔王を殺しました。

彼はそうすると、自分が新しい魔王になりました。


当然、魔物たちは激しく反発したものの、勇者の圧倒的な力に黙らざるをえませんでした。

人間たちも裏切られたと彼を厳しく糾弾しましたが上手に説得しました。

彼は、四面楚歌の中をうまく立ち回りました。


勇者は血のにじむような努力をして両者の平和協定を取り付けることに成功しました。

彼が在位してから、500年余りたった現在でも人間と魔族の抗争はありません。

確かに勇者は人間と魔族の争いを終わらせたのです。










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― 新着の感想 ―
[一言] ゴブリンがかわいそうです。 とってもいいやつだったのに。 なんで確認もしないで、殺せるんでしょうね?  長い戦いが人の精神をそうさせたのでしょうね? 怖いですね、戦争って。って思いました。
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