エピローグ めでたしめでたし
次の日の登校日。
俺は通学路を歩きながら移動している。
考えているのはもちろん昨日のことだった。兎塚に渾身の出来の作品を見てもらったところまではいい。結果を聞こうと思う前に兎塚は部室から走り去ってしまったのだ。
面白い・・・とは言ってくれたし、ひどい出来ではなかったと思うのだが・・・。
ドンっという衝撃が不意に俺を襲う。
そこにいたのは兎塚だった。
「と、兎塚・・・」
「おはよ」
そう言いながら俺の隣に並ぶ。
部活以外では滅多に会わないし、会ったとしてもお互いなんだか意識してしまうため話したことはなかったのだが、珍しいことに今日は兎塚から声をかけてきた。
そのためにタックルしてくるのはどうかと思うが・・・。
不機嫌そうなところはいつも通りだが、なんだか眠たそうである。
「なんだ?寝不足か?」
「別に・・・関係な・・・・くもないのよね・・・」
と、途中で小声になる。
不機嫌そうでもあるし、死ぬほど眠そうではあるのだが、どこか満足げなその表情を見ていると、なんだかこっちまで何かを成し遂げた感じがしてくる。
やはりなんらかの作業を夜遅くまでしていたのだろう。書籍化作家は大変だ。
「あの・・・さ・・・」
「ん?」
「今日も部活来るでしょ?」
「ああ、たぶん。変な用事がなかったら行くよ」
たまに先生などに頼まれて授業の片づけだとか、実験室の掃除だとかを頼まれることの多いうちのクラス。それでも部活に出れないほど遅くなることはないだろう。
「ん。じゃあ・・・待ってるから。またね、亀戸」
そう言って昨日と同じように走り去ってしまう。
俺は昨日と同じように呆けることとなってしまった。もしかしたら他の人間では分からないかもしれない変化。今まで「あんた」とか「ねえ」だとかって呼ばれていた俺の名前をきちんとあいつは呼んだのだ。「待ってるから」というのもあいつらしくないが。
「・・・・・・」
口元がにやけていないか確認する。
兎塚のセリフ、あれが間違いなく昨日の答えなのだろう。俺は思わず嬉しさで飛び跳ねてしまう衝動を抑えつけ、授業が始まってもいないのに、はやく部活の時間にならないものか。そう思ってしまうのだった。
一応のめでたし、めでたし。
これで一応の終わりになりますが、続きを書く可能性があります。もし何かしらでたまたま見かけた場合は「また始めたんだー」的な気持ちで見ていただけると嬉しいです。
短い話でしたが、読んでいただきありがとうございました。
また別の作品でお会いできれば幸いです。