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(人気小説家)うさぎと(素人)かめ  作者: 花澤文化
うざぎとかめの競争
7/8

第6話 かめの作品

「というかこの展開は正直どうかと思うわ。だっておかしいじゃない!これもう10巻よ、10巻!ライトノベルで10巻といえばもうそれなりの巻数、それこそ作品によっては最終巻近いじゃない!なんでこの土壇場に付き合うヒロインが180度変わってしまうのよ!もうこっちは今までの1~9巻の積み重ねでこの主人公はメインヒロインであったはずの転校生クラスメイトと付き合うという準備が出来ていたのに!」


「そんな怒ることか?要所要所で伏線的なものもあったし、何より幼馴染と付き合うという潔さがいい!だって最近の作品ってほら幼馴染ってもうそれだけで負けフラグじゃん?でもやっぱり男としては隣の家から2階の窓に入ってきて朝起こしてくれるような幼馴染に憧れるんだよ。だからなんでこいつ?なんでぱっとでのこいつなの?可愛いじゃん幼馴染。みたいな気持ちを代弁してくれたみたいで読んでいて気持ちよかった!」


「先輩の好みは幼馴染なんですね、メモります」


 文芸部。

 今日ここに集まっているのは俺、亀戸空かめいどそら。そして人気小説家の兎塚月美とつかつきみ。pixiiというサイトで絵を描いて投稿している赤石有栖あかしありす

 その3人がここにいた。

 ここに集まった当初はそれぞれの作業をしていたはずだった。ノートパソコンを開き執筆している兎塚に、アナログ絵(紙にペンで描く絵)を描いている赤石ちゃん。

 そして特に何をするわけでもなく、今週発売されたライトノベルを読む俺。正直なんでここにいるの?と言われてもしょうがないぐらいにはそれぞれの作業に没頭していたはずだったのだ。

 しかし兎塚がふと、俺の読んでいるライトノベルに気付き、その話が弾んでしまった。特に俺が今このライトノベルを読み終わってからは兎塚の語りはヒートアップ。


「裏をかくような展開もいいけど、やっぱり王道だって捨てがたいのよ。もうこっちはこのクラスメイトがメインヒロインだって思ってたから完全にそっちと付き合う感じで感情移入していたの。急な方向転換はどんでん返しなんかじゃないわ!」

「いいや、それ含めてどんでん返し。これは素晴らしい最後だと俺は思う」


 部長がいなければ止める人間はいない。

 誰も彼もが煽り続け、話し続ける中、ひとしきり言いたい事を言い終わると静かに着席し己の活動をし始める。そんな光景もまたいつも通りと呼べるようなものだった。

 幽霊部員から復帰してから約1か月。色々なことがあったものだが、これが日常と呼ばれるまでに浸透している。


「・・・・・」


 無言でライトノベルを読み続ける。

 やはりいいなあ・・・これ。主人公がうじうじ迷わず、清々しく決めるその瞬間がやはりかっこいい。時代は鈍感主人公よりどことなく気付きつつも触れられない主人公がいい。

 いや、それも結局はへたれか・・・。

 俺はその本をきりのいいところまで読み終えると本をたたみ、スクールバッグの中からノートパソコンを取り出す。みんなも何かしら活動しているわけだし、俺もなんだか創作意欲が湧いてきたのだ。

 カタカタとキーボードを打っているとちらちらとこちらを見る視線に気づく。


「・・・・・」


 兎塚だった。

 まあ、見なくとも俺の方に視線をよこす人間なんて兎塚しかいない。残念なことだが、赤石ちゃんは俺に対してまるで興味がない、それこそ同じ部員の人間に向ける興味すらないのだ。

 何かパソコンで作業をしている赤石ちゃんをちらりと見て、そして兎塚の方を見た。


「やはり気になるか・・・俺の新作・・・」

「なに・・・もう新作書いてるの・・・?」


 そのセリフに対して兎塚はどうやら呆れているようだった。飽きたから、人気が出なかったからもうやめてしまったのか、と。魔法の槍は打ち切りエンドなのか、と。

 しかし違う。魔法の槍がもう少しで完結するのは本当のことだが、別に打ち切りエンドなどではない。


「そもそも魔法の槍って隣の国との戦争を書いたものだから、普通に短めの話だったんだよ最初から」

「ふうん、なるほどね。どう相手を騙すかのネタがそこまで多くなかったから最初から少ない話数で終わらせるつもりだったのね。よく自分のことを理解できてるわね」

「それは褒めてないよな・・・?」


 魔法の槍は普通のただの槍を魔法のない相手国に対して恐ろしい魔法の槍だと誤解させたまま、勝っていくという話なのだ。ということはこの話の肝となる部分は相手をどう騙していくか。

 当たり前ではあるが俺はそこに一番苦戦していた。今までものを書いたことなどほとんどないというのもあるが、話のネタがまるで思い浮かばなかったのだ。

 だからこそ、最初から少なめの話数で完結させてしまえばいい、という判断になった。


「連載小説は最後まで完結させることが難しい。まさか本当にやり切るとは思っていなかったわ」

「そらどうも。でもほんと俺でも意外だ」


 すぐに冷めるのではないか、と思っていた。

 消費者ではなく、生産者。その側にまわるということは新鮮で、新しいことに挑戦するわくわく感があった。でもそれは長続きしない。きっと。

 なぜ長続きしているのか、というとそれはきっと1つ。兎塚とコンビを組めるかもしれないから、だろう。もちろん売れている作家とのコラボ・・・というのもあるが、やはり俺は兎塚と組めるのが嬉しいのだ。憧れていた、うさぎ先生と。


「しかしまあ、うさぎ先生って。かわいらしい名前を付けるものだな」

「うるさい!」


 ばん!と机をたたく。

 相変わらず恐ろしいやつである。


「それよりも、あんた新作って何を書くつもりよ」

「何ってファンタジーだけど」


 それを聞いて兎塚は「はあ・・・」とため息をついた。

 言いたい事は分かる。どうせまた懲りもせず難しい分野に手を出しやがってとでも言いたいのだろう。

 だが、今までの俺とは違う。

 魔法の槍を完結させて、兎塚の作品に触れて、部長の作品に触れて。そして今この手にある他の作家さんのライトノベルを読んで理解できたことがいくつかあるのだ。


「兎塚には特別に説明してやろう」

「なんかとてつもなく腹が立つけど、まあいいわ。話してみなさい」

「お前もかなりの上からだな・・・」


 お互い主導権を握ろうとして失敗している。

 気をとりなおしてノートパソコンを開き、説明し始める。


「舞台はそうだな・・・霧が立ち込める・・・草原、とか?」

「なんで不安げなのよ」


 またもや呆れた視線が俺を襲う。

 不安になるのも当然である。俺はこの作品で兎塚の気持ちを動かし、そしてコンビを組もうと思っているのだから。そう、認められるための作品。そして俺が長い間迷っていた好きな作品。


「そこには真っ赤な花が咲いてるんだ」

「それを説明するということは物語に関わって来るということよね、その赤い花が」

「ああ、その赤い花は人間になるんだ」

「なんでよ!」


 またもやばん!と机をたたく。

 隣ではそのせいで線がずれてしまったのか、絵を描いているらしい赤石ちゃんが悔しそうな、ぐぬぬという顔をしていた。この2人、すごく仲がいいわけではないんだよなあ。


「そういう世界設定なんだよ。赤い花から人間が産れるんだ。ここはそういう世界。そういうふうに人間は増えていっている。ただ、もちろん花から産まれたわけだからさ、普通の人間とはまた違うんだが」


 俺は説明しながらも頭の中で話す事を考える。

 なぜこんなプレゼンテーションみたいな方法で俺は兎塚と話しているのかまるで分からないが、相手に俺のやりたいことが伝わらなければ意味がない。

 だからこそ慎重に、そしてゆっくりと。


「ご飯は食べれるけれど、主な栄養は水とか養分、あとは日光とか」

「へえ・・・そういう世界観なんだ。植物と同じ成長をする人間・・・確かに面白そうね」

「ああ、その特別な人間がイチャイチャラブコメを展開するんだ」

「それはスパイスとしては必要かもね。どういった恋をするのか、とか。この人間が産れるシステムはなんなのか、とか。そこらへんに言及するためには必要なことなんでしょ」

「たぶん、というかぶっちゃけイチャイチャするだけだけどな、この作品」

「え、それだけ?」


 兎塚は素っ頓狂な声をあげた。


「それだけ。俺が書きたいのってさ、不思議ファンタジーとかそういうのも好きだけど・・・やっぱりみんなが笑顔になれて、どのヒロインが好きかで一喜一憂できるラブコメなんだ」


 確かに触れなければならない部分は世界の謎に触れなければならないだろう。その時は死に物狂いで考えるしかない。でも、やっぱりそれは俺の書きたい作品でも、兎塚に認めてもらいたい作品でもない。

 俺は俺の好きな作品で兎塚に認められたいし、兎塚もきっとそんな俺の好きな作品を読みたいはずだ。自信はある。


「でも・・・それだけじゃ・・・」


 それだけじゃ難しい設定をぶん投げているだけ。

 ここから先は説明しても伝わらないだろうと考えた俺はノートパソコンの執筆中小説を表示させ、今書いている3話までのストーリーを読んでもらう事にした。

 兎塚は素直にそれに従い、そして目で文章を追っていく。俺みたいな素人の作品でもこうして全力で読んでくれる、兎塚のそういうところが好きなところの1つだ。

 それぐらいの時間がたっただろう。

 赤石ちゃんが飽きて立ちあがってノートパソコンを見ている兎塚のスカートの中を覗き込もうとしているぐらいには時間が経っている。集中力ねえな、この後輩。

 対する兎塚はそれにも気付かず、未だに俺の文章を見ている。そこまでの量は書いていないし、ここまで長く読まなくてもいいと思うんだが・・・。


「・・・・・」


 兎塚はようやく読み終えたのか、画面から目を離した。それと同時に赤石ちゃんもやばい、と思い顔を引っ込ませ、絵を描き始める。


「読ませてもらったわ・・・」

「感想は?」


 俺は極めて軽く聞いてみる。

 しかし内心はドキドキだ。これで幻滅されてしまえば、コンビを組むこともなくなってしまう。しかし、俺はそうなったとしてもこの作品、赤い花だけは完結させようと思っている。

 まあ、読んでみてもうちの部長の一般小説に影響を受けているし、兎塚の作品からも影響を受けている。俺の作品、と自信をもって答えられるが、これは俺だけの作品ではないような気がする。

 そこまで俺が考えたところで兎塚は静かに口を開いた。


「文章もめちゃくちゃ・・・。展開に至るまでが早足・・・。この展開書きたかったんだろうなあって部分だけ細かく描写されていて、他は飽きている部分も見受けられる・・・。改行も少なく読みにくいけど・・・面白かった」


 兎塚は・・・俺の短編小説を読んだときと同じ感想を述べ、そして最後の最後に俺にとって最高の言葉を述べた。まあまあ面白かったからランクアップだ。


「それは褒めてる・・・よな?」

「・・・・・」


 兎塚は急に静かになり・・・そして・・・。


「え、あれ・・・?」


 ものすごい勢いで部室から出ていってしまった。

 あれ?なんで?これ完全に合格の流れだったんじゃないの・・・?不安にしている俺に赤石ちゃんは不敵に笑い、「あ、先輩これ・・・」と気になるところでセリフを切るのだった。

 後で覚えておけよ・・・。





 兎塚月美は人気作家だ。

 人気、とはいえ書籍化されたばかりではあるものの、下積み時代なども考えると今は相当に人気があると考えていいだろう。

 そんな兎塚の悩みは今自分が書いている小説は本当に自分の書きたい小説なのか、ということ。

 売れるように、人気が出るように、と書いた作品は確かに売れはしたのだが、そこに自分の好きという気持ちが入っているのかどうか、それが分からなくなっていたのだ。

 そこに現れたのが亀戸空。

 彼は兎塚の小説を大好きといい、それに影響されて自分で小説を書いているといった。それだけならばただの痛いファン、なのだが彼の書いた作品は自由で、そして自分の好きな、書きたい要素を詰め込んだ作品だとすぐ分かるようなものだった。

 もしかしたらこの人なら自分に書きたかったもの、好きなものとは何かを教えてくれるのではないか、そう思った。コンビを組もうと言いだしたのもこのためだ。


「はあ・・・はあ・・・」


 兎塚は全力で走った。

 すでにその学校の玄関についてしまっている。手元には全ての持ち物があったからいいものの・・・もし、それらを忘れていたら気まずい中、部室に戻らなければならなかった。

 兎塚は大きく深呼吸をして、口を手で覆う。

 やばい、そう思った。

 口元のにやけが止まらない。たまたま手に取ったライトノベルがまさに自分にマッチする内容で、読んでいて先の展開が楽しみで・・・でも読み終わると寂しいからページはめくりたくなくなる。そんな気持ちが胸に飛来していた。

 感想の通り、彼の作品はとても上手いものではなく、めちゃくちゃで、読みにくくて、自分の気持ちを紙に書き殴ったような作品だった。

 兎塚の作品に影響を受けたところも見られ、純粋な彼だけの作品ではないのかもしれない。

 それでも・・・はやく家に帰って本気で小説書きに取り込みたいと思ってしまうほどには兎塚の心は動かされた。

 世に出しても人気がないかもしれない。それでも好きがつまったその作品は兎塚にドストライクな作品だったのである。


「・・・・・」


 静かに兎塚は似合わないガッツポーズをとる。

 見込み通りだった。兎塚はどこかにやけながら、家に帰宅したのだった。


次回、エピローグになると思います。

しかし、いくらでも次が考えられるお話なため、いつか続きを書いていきたいと思いつつ、最後の挨拶は次回へ。


読んでいただきありがとうございます。

それでは恐らく今日投稿するエピローグもよければよろしくお願いします。

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