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(人気小説家)うさぎと(素人)かめ  作者: 花澤文化
うざぎとかめの競争
3/8

第2話 うざぎの挑戦状

「『機械仕掛けの魔導士』・・・」


 見慣れたタイトル。

 好きだった作品。それが目の前にあった。現在60話以上登録されているその作品だが、小説タイトル部分には機械70という文字が。70話はもちろん投稿されていない。じゃあ元あった作品をコピーしたというわけではないのだろう(それはもう盗作だが)。


「何あんたこのサイト見てるの?」

「え、ああ」


 いきなり訊ねられそのような答えしか返せない。

 その時はとてつもない間抜け顔を晒していたのだろう。


「ふーん、じゃあこの作品は読んだことある?」

 

 そう言って指差すは機械仕掛けの魔導士の画面。

 この画面がここにあるということはこの作品の作者はこの女の子なのだろう。しかしいきなりのことでまるで現実味がなく、この時俺も完全に信じきることができなかった。

 そもそも、この女の子に嘘を吐く必要はないと判断し、混乱した頭で本当の事を告げることにした。


「読んだことあるよ。というかすっごい好きだその小説!」

「ちょ、ちょっと・・・」


 相手のツインテール黒髪はそのセリフにどことなく恥ずかしそうにしながら俺を止めようとする。割とでかい声だったからな。しかし好きなものを語り出したら止まれないのがオタクの性。

 俺はまくしたてるように話しだした。


「まず、世界観がいい・・・!全てが機械で出来ているというファンタジー設定ながら、どこか荒廃的な感じもあり、寂しさもある、童話のような世界。そんな中で紡がれる心温まるストーリー!」


 そう、機械仕掛けの魔導士にはバトルもあるものの、それがメインではない。まわりに馴染めない唯一の少年が機械の知り合いや友人と繰り広げる人間ドラマにこそその物語の人気が集中しているのだ。

 俺も読んでいて何度泣いた事か・・・。


「ああ、特に第3章の終わり。あそこは号泣したなあ」

「さ、3章っていうと確か・・・」


 恥ずかしそうにしていた彼女も俺の勢いに気圧され、いや引いていて今ではその会話に参加している。

 というか確かって。

 お前が書いたのだとしたらそれぐらい覚えておけよ。


「あの主人公が飼っていた機械の犬が壊れてしまうシーンだよ!」

「ああ、あれね」

「あれねって!反応薄すぎるだろ!」

「いやだってあれ書いたの私だし・・・」


 そう言われて詰まる俺。

 確かに自分で書いたストーリーで感動するのは難しいかもしれないが・・・。

 ということは本当にこの女の子があの時計仕掛けの魔導士を書いたのか・・・?本当に・・・?


「それにだな、今書かれている4章、あれもたまらなくいい。なんか悲しさがある優しいストーリーなのにとてつもないわくわくがあるんだよな、あの作品」

「も、もう分かったわ・・・」


 女の子はげんなりとしていた。

 それはもうありえないぐらいに。


「いや、分かっていないはずだ。こんなものではあの作品の良さは伝えきれない!」

「いや分かったから、あんたがすごいオタクだってこととか色々」


 というかそもそも、と女の子は言葉を区切り。


「何度も言ってるけどあれを書いたのは私なの。熱烈な応援メッセージありがたいけど、その作品の良さを私に伝えるのは間違いだわ」

「なんかいまいち信じられないんだが・・・」


 俺のイメージ・・・というかそもそも作家にイメージなど俺は抱かないが、それでもこんなに小さな女の子が書いているイメージはなかった。

 それにああいった優しいストーリーを紡ぎ出すような感じだとは思えない。あの睨み顔といい、大きなキンキン声といい、どちらかというと真逆だ。


「ふん、それは悪かったわね!でも、あれを書いているのはわ・た・し」

「そこまで言うなら・・・ということは君がうさぎ先生・・・」

「それはネット上の名前。私の名前は兎塚月美とつかつきみ、2年生よ」

「あ、ああ、俺は亀戸空、同じく2年生だ」

 

 唐突に始まった自己紹介に驚きながらも応える。

 そうか・・・執筆中の原稿も見てしまったし、信じざるを得ない。

 というかわざとではないにしろ読者側としては執筆中原稿を見てしまうというファンとしてはいけない行動をとってしまったと少しだけ罪悪感を抱いているのだ。

 それを認めたくないために否定していたが、あの内容、間違いなく機械仕掛けの魔導士だ。


「だが、がっかりなどしていない。作家が誰であろうと作品は作品だからな」

「それってたぶん悪口よね。というかさっきあんだけイメージと真逆だと言っておいてよくもまあそんなことが言えるものだわ!」

「あれ地の文のはずだろ!」

 

 言ってた?

 俺口に出してた?さっきのモノローグ。


「この部活に顔を出すのを決めたのもその作品が原因だし、恨むなら自分の作品を恨むんだな」

「なんで私の作品を私が恨まなきゃならないのよ!」


 ギャーギャー騒いでいた兎塚はふと、何かを考える素振りを見せ、俺に訊ねてきた。


「なんで私の作品原因でこの部に顔を出すの?」

「いや、俺もなんか書いてみようかなあって」

「小説家になるぞ!で?」

「う、うん」


 いきなりくいついてきたな。

 しかしその目は真剣で、ふざけられる空気ではなかった。


「そう・・・見てもいい?」

「見るって・・・俺の書いた小説を?」

「それ以外何があるっていうのよ」


 いや、とてもじゃないが兎塚に見せられるようなものではない。

 だって相手は人気の作家だ。書籍化だってされている。そんな人相手に自分の最近書き始めたばかりの小説を見てもらうって言いにくいが正直恥ずかしい。


「いいから見せなさいよ。大体私もあんたもほとんどの作家も自分の妄想をただ文章にしてるだけなんだからみんな恥ずかしいもの書いてるの。それが書籍化されるってどういうことか分かる?自分の妄想を不特定多数の人々に見られるってことなのよ。それと比べれば私に読まれるぐらい・・・」

「わ、分かったから!分かったからそのどこかにケンカを売っているようなセリフはやめてくれ!」


 というか俺は別に不特定多数に見られるのが恥ずかしいと言っているのではない。

 特定の人間に、しかも今後ずっと顔を合わさなければならないかもしれない人間に見られるのが嫌だったのだ。

 というようなこともどうせ聞きいれてもらえないので諦めてスマートフォンをいじる。

 まさか兎塚のパソコンを借りるわけにもいかないし、俺はノートパソコンなんか持っていない。

 スマートフォンでも見るぐらいなら余裕で出来るのだ。便利な世の中。

 最近書いた短編のページを見せ、相手に渡す。


『俺の学校の生徒のほとんどが俺に従順なイチャラブ恋人』


 驚いただろう。

 何を隠そうこれはこの作品のタイトルだ。そしてこういう突飛なタイトルいじりもすでに使い古された感がある。


「うわあ、こってこてのラブコメ臭のするタイトルね・・・・これ・・・」

「別にいいじゃん!」


 というか1つ1つの情報に何かコメントするつもりなのかこいつ・・・!

 しかしその考えとは裏腹に兎塚はそのページを凝視し、ずっと静かに読んでいた。スクロールする指の動きもなめらかで、きっと話しかけてもその声は届いていないのだろうというぐらいに集中している。

 しばらく黙りこんでいると、不意に画面から目を離し、こちらにスマートフォンを差し出した。


「か、感想は・・・?」

「感想言って欲しいなら言うけど、私はただ純粋にあんたの作品を読みたかっただけよ。別に馬鹿にしようとか、なじろうとか考えていたわけではないわ」

「お前それもうほぼ感想だからな・・・!」


 そりゃあ、認められるとは思っていないが、こうして面と向かって言われるととてもショックな気分だ。そう、少しだけ自信があった作品。考えて考えて考え抜いた作品。

 それをがっつり批判されることもなく、柔らかくスルーされるのはとてもこたえる。


「でも最後の展開は少しだけ引い・・・驚いたわ。まさか学校中にいるそのイチャラブ恋人が実は全員血の繋がりのある妹や姉で主人公が絶望するなんて展開どうやったら思いつくのよ・・・」

「引いたって言おうとしただろ。いやあ、改めてそう言われると頭おかしいな、俺・・・」


 別に妹萌えだとか姉萌えだとかそういうわけではないんだが・・・。

 衝撃の展開、衝撃の展開・・・と考えていく度にどんどん変な方向へいったのを覚えている。なぜいくつかある中のこの短編を見せてしまったのか。

 そう、何がおかしいってこの小説短編なのだ。ほんと大変だった。どうやって1話にまとめるか本当に考え抜いた。どのヒロインをピックアップするかも、だ。


「本当は他のヒロインも主人公に気持ちを伝えたかったかもしれないんだ。それなのに短編で伝えられるのはたった5人だけ・・・。本当はもっともっと詰め込みたかった!」

「あんた自分の作品にもそこまで感情移入するのね・・・」

「普通するだろ!兎塚だって自分の小説で泣くだろ!?」

「いや、全然」


 すごく冷たい目をしていた。

 主に俺を見るという意味で。


「私の今書いているこの機械仕掛けの魔導士は人気が出るようにって思って書いていたものよ。よく言えば王道的で万人にウケる、悪くいえばウケを狙っている。こんな状態じゃなきゃ、私だってそういうアホみたいなラブコメとか書いてみたい」

「誰がアホだ」

「でも、他の短編を投稿してみても、この機械仕掛けの魔導士の投稿を急かされているような気がして、うまくいかない。何をするにしてもこの作品の次回の内容を考えてしまう、そういう状態なの」


 ま、私の責任だし、私の思いこみかもしれないけどと言いながらまたノートパソコンを見る。

 さきほどあんなに前のめりで画面を見ていたのは次回の展開で何か悩んでいたのかもしれない。それもそうか、書籍化したんだ。その負担や重荷は俺の比なんかではないだろう。

 目の前の小さな女の子の姿を見ていると、もう気楽に「新刊はよ」とか「投稿はよ」なんて言えない。


「だから私は私の作品で泣く事なんて出来ない。この作品は受けを狙ったもの、どんな展開にしてもどうしても邪な思いが私を邪魔するの。・・・・・・なんて、おかしいわね、なんで初対面のあんたにこんなこと話してるんだろ」

「いや、初対面じゃないから」


 一応去年も部員だったから。

 いい感じの空気の中、さりげなくショックなことを混ぜ込んでくるな。まあ、俺もまるで覚えていなかった、いやまるで部室に顔を出していないが故に知らなかったから強くは言えないが。


「軽い感想だけど、ま、まあまあ面白かったわあんたの短編・・・」


 照れ隠しなのか、さらに画面に前のめりになってそう言った。


「文章もめちゃくちゃ。展開に至るまでが早足。この展開書きたかったんだろうなあって部分だけ細かく描写されていて、他は飽きている部分も見受けられる。改行も少なく読みにくいけど・・・まあまあ面白かった」

「それ褒めてないだろ!」


 最後のまあまあ面白かったじゃ相殺しきれないぐらいの辛口批評だからな、お前。

 しかし最初よりかはどうやら俺のことを受け入れてくれたようだ。最初はこの部室にいるな、みたいな雰囲気もあったものの、今では特にそんなことはない。

 今の会話で少しだけ打ち解けたのかもしれない、少なくとも俺はそうだった。


「さらにこの文芸部の部室から出て行ってくれれば褒める箇所が増えると思うわよ?」

「・・・・・」


 全く打ち解けていなかった。

 あの目は本気だ。冗談なんかじゃない。本当に俺を邪魔だと思っていやがる。

 とはいえここで退く気は全くない。むしろ腹立たしいのでこのまま居座る気でいた。

 近くにある本を取り、読もうとしてそしてふとこんなことを言ってみた。


「兎塚」

「何よ!今せっかく何かアイデアが・・・!」

「俺と組んで何か書いてみないか?」

「は?」


 素っ頓狂な声。

 目を見開いて、俺を見ている。というか今日初めてじゃないだろうか。こうして顔を見合わせて話したのは。いつも何かしらの画面を見ていたからな。


「はあ!?」

「いや、もうそれは聞いた」

「あんた何言ってんの!?私が誘うならまだしもなんであんたに私が組まないかと誘われなきゃならないのよ!」

「自分に信じられないぐらい自信があるんだな・・・」


 分からないでもないが。

 要するに格下である俺に誘われる意味が分からないというのだろう。テニスやバドミントンのダブルスでアマチュアの人間がプロに組まないか?というようなものだ。

 まだ兎塚側から誘われたのならば俺には何か隠された才能があるんじゃないかと思ってしまうが。


「でもほら、俺のアカウントとかならそういうの気にせず投稿できるかなあ、と」

「そんなことしなくても私が新しいアカウント作ればいい話でしょ!」

「確かに・・・」


 本当に考えなしの発言だったため、簡単に折れてしまう。

 そもそもこんな話に乗るようなやつだとは思っていないが・・・。

 俺はそのまま何も言わず、手元にあった本を読む事にした。ライトノベル以外の小説だってオタクだろうが読む。単行本とかも普通に読むのだ。

 そうしてしばらく時間が経つ。

 部室には俺と兎塚以外誰もいない。部員はこの2人だけ・・・ってことはないと思う。俺がたまに顔を出したときはそれなりに人数がいたはずだし・・・。


「・・・・・・・・・その話」


 不意に兎塚が声を出した。


「その話、あんたが私を認めさせるような連載小説を書いたら・・・考えないでもないわ」

「なぜ上から・・・。いや、この場合は上からでも問題無いか・・・。っていうかマジ!?あのうさぎ先生が俺と!?コンビ!?」

「だから私が認めるような連載小説を書いたらって言ってるでしょ!」


 兎塚はまたしても前のめりに画面を見ている。


「え、『俺イチャ』じゃ駄目なのか?」

「あれはそもそも短編でしょ!というか大して人気もない癖に略称なんか作ってんじゃないわよ!」

「なっ・・・!別にいいだろ!長いタイトルの作品を書いているものにとって略称を付けられることは夢なんだぞ夢!」

「だからそれを自分で付けちゃ駄目でしょって言ってるのよ!あんな馬鹿みたいな内容の短編小説に略称なんかいらないわ!」

「お前褒めてくれただろうが!」


 そんな言い合いを繰り返しているうちにその部室に新たな人が2人入って来ていた。


「おわ、いきなり兎塚先輩が知らない人と喧嘩してます」

「あら・・・確かあの子は・・・」


 この2人こそ、絵がうまく同人活動もしている1年生の後輩、赤石有栖あかしありす。そしてこの文芸部をまとめる現部長にして様々な伝説を持っている3年生雉間喜咲きじまきさき

 しかし言い合いに夢中でこの2人が部室に入ったことに気付くのはもう少しだけ後のことだった。

読んでいただきありがとうございます。今のところ短く終わる予定ですので、最後までお付き合いいただければと思います。


プロローグ、1話のあとがきにも書きましたが、創作のあれこれを現実っぽく書いていますが作者はあまり詳しくありません。

現実と違う、あれがおかしい、普通これはありえないという点は多々あるかもしれませんが、この作者馬鹿だなあと思いつつスルーしていただければ幸いです。


しかし作品自体の感想、指摘、評価、また知識としての創作についての指摘もお待ちしています。


よろしくお願いします。

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