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(人気小説家)うさぎと(素人)かめ  作者: 花澤文化
うざぎとかめの競争
2/8

第1話 うざぎとかめ

「駄目か・・・」


 俺は暗い部屋でノートパソコンを開き、画面とひたすらにらめっこしていた。キーボードを叩く手が止まり、今はひたすらマウスで画面をスクロールしている。

 何度も何度も見たその画面。しかしそれは夢でもなんでもなく現実として俺を襲った。10回ぐらいブラウザの更新を行うも、意味がないと判断し、額に手を置いて天井を見た。

 あたりにはフィギュアやゲームの箱、さらにその特典、ライトノベル、アニメのBDやゲーム機そのもの、モニターなどが置かれている。典型的なオタク部屋というやつだ。いつもは輝いて見えるそれらの宝が今は全く目に入らない。


「・・・・・はあ」


 大きくため息を吐いた。

 作業をして疲れていた腰を大きく伸ばし、あくびをする。画面をのめり込むように見て作業していたからか目も痛い。椅子から机のとなりにあるベッドに移動し、思いっきり飛び込んだ。

 ギイギイという音を鳴らし俺を受け止めるベッド。

 そのまま布団をかぶり、寝てしまいたいぐらいだった。


「・・・・・」


 目を閉じる。

 寝よう。そのまま寝てしまおう。そうすれば忘れられるかもしれない。しかし俺のそんな思いとは裏腹に気持ちが体が動き出してしまう。

 体を起こし、再びノートパソコンの前へ。ブラウザを更新し、画面を見る。そして何も変わらないその画面を見て、またため息をつくのだった。


 そのノートパソコンの画面に映っているのは『小説家になるぞ!』というサイトだった。

 誰でも小説を執筆し、そしてそれを投稿出来る。投稿された小説はこのサイトに登録していない人でも見る事ができ、無料で公開されているのだ。

 連載小説という続きものから短編小説という単発ものまで様々な種類がある。

 読む側は気に入った小説があればお気に入り登録や、評価、感想などを書く事ができる。それらをポイント換算しており、人気のある小説ほどポイントが高くなっている。また、書く側はそれらだけでなく、何人の人がその日1日でその小説を読んだのかを見ることができる。

 すなわち、書いている側に人気かどうか、気に入ってくれているのかどうかがダイレクトに伝わる仕組みになっているのだった。


 俺は本当にひょんなことからこのサイトに小説(しかも連載小説)を投稿することになり、現在は10話まで投稿している。昨日その10話目を投稿したのだが・・・。


「・・・・・・」


 今日、どんな反応があるかとわくわくしながら見てみるといつものように感想なし、評価なし、お気に入りなしの0ポイント。昨日、今日の今までこの小説を見てくれた人は10人と少し。

 元々根気強い方では無い俺の心はすでに折れそうだった。

 もちろん見ている人、すなわち読者の方々が悪いわけではない、全ては・・・。


「俺の実力不足・・・」


 それなのだ。

 今まで文章なんか書いたことがなく、小さい頃の宿題の作文も最後まで残し、前日に焦ってやるタイプでこういうことに向いているとは思っていない。

 ただ、俺は小説が、ライトノベルが好きだった。だからこの部屋にある数々の作品のように色々な人を楽しませてみたい、そう思っていた矢先にひょんなことが起こったのである。

 自信はなかったわけではない、これだけ数々の作品を読んで来たんだ。面白い場面とか、受けるジャンルとかは分かっているつもりだった。


『受けるジャンルを狙うというあざとさは評価するけれど、あんたはなんもわかってない!ほんっとうに馬鹿だわ!』


 ひょんなことの原因であるキンキン声を思い出す。

 今思い出しても腹が立つが、確かになにも分かっていなかった。分かっていたのは俺自身のことだけ。それだけでは万人に受ける作品を作ることができない。


『うーん・・・あたしとしては別に商売じゃないですし、作家といってもアマチュアですが、その作家さんの好きなように書けばいいんじゃないですかねぇ。周りの評価なんか気にしないで』


 と、言う後輩がいた。

 それはそうだ。今俺がやっているのは自己満足なんだ。だったら最後までそれを貫けばいい。このサイトに投稿している人はみんな自分の書きたいことを書きたくてここに投稿しているのだ。

 でも俺はやはりやる以上、人気が欲しいと思うしそれに・・・今回は自己満足では駄目なのだった。

 認めさせなければならない人がいる。

 その人に認めてもらうこと、それが俺の第一歩なのだから。





 遡るときっかけは1年生の頃だった。

 現在高校2年生の俺、亀戸空かめいどそらの1年前。高校に入学したての俺は何か部活に入ろうと思っていた。

 別にその部活に打ち込むつもりはなかった。俺は幽霊部員でもいいような楽な部活に入りたかったのだ。中学の頃、運動部に打ち込んでいた俺はどことなく部活に入っていなければ恥ずかしいという気持ちが芽生えており、また、その高校が部活入部率90パーセントという高校ということもあり、そのような行動をとっていた。


 もう一度運動部をやる気力はない、疲れる。そんなありえないほどゆとりな気持ちで楽な部活を探していた頃、ふと文芸部の部長が放任主義で楽な部活だという噂を聞き、部室を訪ね、その場で部員届け出を出したのだった。

 そして本当に見事な放任主義であった部長のおかげで4カ月に一度程度しか顔を出さなくても怒られないし、周りのメンバーもしょうがない、といった感じで接してくれる。最高だった。


 そんな中、ふとライトノベルにハマっていた俺は『小説家になるぞ!』という誰でも登録すれば小説を投稿できるサイトを見つける。

 まずは登録せず、適当に何かないものかと小説を探していた。最初に見たのはもちろんランキングだ。今人気なのはこの1~10位なのか、と思い試しに読んでみると・・・驚いた。

 書籍化されている作品ももちろんあったが、最初から書籍化されていたわけではない。最初は恐らく誰だってアマチュアで初心者だったはずだ。それなのに、とてつもない完成度で毎回わくわくするような終わり方、次を思わず求めてしまう面白さ。


 なんだこれは。


 それが俺の最初の感想だった。

 中でも好きだったのが『機械仕掛けの魔導士』という作品だ。ランキング9位。ファンタジー世界を舞台とした作品で、人間含め世界にある全てが機械によって作られており、機械で動くもののことを『魔法』と呼ぶとても珍しい作品。

 主人公は唯一普通の人間として生まれてしまい、まわりの世界や周りの機械で出来た人間との違いに悩みながらも成長して行くストーリー。

 バトルあり、人間ドラマありの最高の小説だった。


「すごい・・・書籍化は・・・まだされていないのか」


 それでも絶対にされるだろう。理由のない自信が俺にはあった。

 その話を見てすっかり俺は感化されてしまったのだ。1か月後、様々な作品を読み、その作品で自分自身に響いた点を書き出し、ストーリーの勉強に評判のいいゲームをやることもあった。

 そうしていくつか短編を掲載したところ、2ポイントや4ポイントという少ないポイントながら、お気に入りをもらうことが出来た。一日その画面ばかり見るほどに嬉しかったのだ。


 そんなことを繰り返し4月。

 2年生に進級した俺は久々に文芸部に行き、文章の勉強や、文芸部の作品を読もうと思ったのだ。放任主義の部長は去年3年生だからもういない。

 もしかしたらもう放任してくれない人が部長になったのかもしれないので好都合だった。これを機会に俺は真面目に文芸部に出席しようと決意したのだ。

 それが1週間前の出来ごと。

 そして文芸部を訪れた俺に思わぬことが起きてしまったのだ。


「あれ・・・1人・・・?」


 文芸部のドアを開けるとそこにいたのは1人だけだった。

 黒髪をツインテールにした小柄な女の子。その女の子が信じられないぐらい前のめりでノートパソコンと格闘していたのだ。


「くぅ・・・コンタクトにしたのが間違いだったわ・・・」


 目が疲れる・・・と天井を仰ぐ彼女。

 その時にふとこちらに気付いたのか、一瞬だけかたまった。


「あ、ども。一応部員の亀戸です・・・」

「・・・・・・・・・」


 無反応だった。

 いや、なんでだ。

 怒っているのだろうか、今まで幽霊部員だったから。でも・・・この文芸部での活動はほとんど0に等しい。あったとしても本を読んだり、作品を作ったり・・・どれも1人で出来るようなものばかりだ。

 そりゃ合作とかもあるかもしれないが、両者の意見が一致しなければ意味がないし、そもそも俺にはそんな依頼来ていない。


「えっと・・・」

「・・・・・・・・何?私に何か用があるわけ?スモールオリンピック」

「そういうわけじゃなくて・・・え?す、すも・・・なんて?」

「スモールオリンピック。あんたのあだ名よ。4カ月に1度しか来ないから規模の小さいオリンピックみたいって主に私が笑ってたわ」

「・・・・・・・」


 ひどく馬鹿にされていたみたいだ。

 せめてオリンピックと呼ばれたかったが、4年に一度だと本当に一回も出席することなく高校生活が終わってしまう。


「確かに幽霊部員だったけど・・・それが気に障ったなら謝るよ」

「別に・・・・・あんたが来ようがこまいが私の知った事ではないけど!」


 そう言うと再びノートパソコンに向かう女の子。

 さらっと敬語を外して話してみても何も言われないということは恐らく同い年なのだろう。同じ2年生で、文芸部に所属して同じ1年というところか。

 

「はあ・・・」


 なんとなくため息をついて、いくつかあるテーブルのうちの1つに荷物を置く。

 ツインテールの女の子は未だにこちらを見ていた。


「な、なんだろうか・・・」

「あんた今更何しに来たの?」

「何しにって・・・部活をやりに、だけど」

「はあ!?じゃあこれから毎日ここに来るわけ!?」


 ものすごい睨まれる。

 何かそこまで睨まれるような事を言っただろうか。


「このままじゃ私の執筆スペースがなくなっちゃうじゃない!」

「え・・・?」


 とか考えていたらありえないほど私事な理由を述べていた。


「つーかなんてあんたも来たのよ!せっかく私だけの空間だったのに!」

「怒っていたのはそっちの方なのかよ!」


 せっかく自分だけの空間が出来たのにそこに入る無粋な男。

 それが俺。

 というか他の部員はどうしたんだ・・・?


「すまないが俺も今日から毎日部活に出るぞ」

「なんでよ・・・」

「なんでって色々な」


 同学年らしいということが分かってから少しだけ親しみやすさを感じる。相手は完全に俺の事を拒否しているみたいではあるが。

 そう考えながらずっと気になっていた彼女のノートパソコンの画面をひょいと覗いてみた。


「あ、こら・・・」

「こ、これって・・・・」


 そこに映し出されていたのは『小説家になるぞ!』の執筆画面。

 そして書いていた作品は・・・。


「『機械仕掛けの魔導士』・・・・・」

プロローグでも同じことを書いていますが、創作のあれこれを現実っぽく書いています。

しかし作者はそこらへんのことを知らないため、現実と違う、あれがおかしいなどという点があると思います。

そういう場合はこの作者馬鹿だなあと思いつつスルーしていただければ幸いです。


作品自体の感想、指摘、評価はいつでもお待ちしています。


よろしくお願いします。

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