表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(人気小説家)うさぎと(素人)かめ  作者: 花澤文化
プロローグ うさぎ先生
1/8

プロローグ 『機械仕掛けの魔導士』

「僕は機械じゃない」


 トロンは1人呟いた。

 目の前には今、自分が住む街が広がっている。ここは街の近くにある小さな丘。あたりには木が生い茂っており、自然を感じさせるような場所だった。トロンはそこがお気に入りだったのだ。

 しかしその木からも、草からも、地面からも、全てからギイギイと何かの音がしている。いや、木だけじゃない、目の前の街からもひっきりなしに小さな音がしている。

 普通の街だ。

 大きな街で不思議な形の家や、マンション。人通りは多く、車や歩道を歩く人も見かけられる。トロンは図書館で見た大昔の外国「ヨーロッパ」とかいうところの街並みに似ていると思った。

 でも、その街からギイギイと音がしている。

 トロンは思わず耳を塞いだ。

 うるさいわけではない。大きな音でもない。普段は気にならないその音もこうして1人になってしまうととても耳障りで、腹が立つ。


「・・・・・嫌だ」


 この世界は全て機械で出来ている。

 全てがオイルで動き、全てがネジで出来ている。車は元より、家も、木などの自然も、空に浮かぶあの雲も。全てが機械だ。きっと街を歩く野良犬でさえ機械だろう。

 そして・・・人間でさえも。


「・・・・・嫌だ・・・!」


 そんな中、そんな世界でトロンは唯一の人間だった。オイルのにおいもしない、機械音もしない唯一の存在。歯車のかみ合わせを気にする事もないただの人間。

 そんな人間である事がトロンは嫌だった。

 誰と関わってもどこか自分と違い、そして・・・自分よりもはやくいなくなってしまう。

 人間らしく作られているとはいえ機械だ、命は人間のそれよりも短い。


「なんで僕ばっかり・・・なんで僕ばっかりここに残らなくちゃいけないんだ・・・」


 トロンの世界はきっとここじゃない。

 普通の人間が生き、コンクリートで出来た地面を踏み締め、自然を楽しむ。その世界がトロンの世界のはずだった。なのになぜトロンはここにいるのだろうか。

 トロンを育ててくれた親はトロンを産んだわけではない。機械だ、何かを産むことはできない。そんな育ての親はトロンを孤児院から預かったと言っていた。

 ではトロンはその孤児院にいる前、どこにいたのだろうか。

 すでにその育ての親もいない。壊れてしまった。

 答えはきっと永遠に分からない。


「なんで・・・・・なんで僕は人間なんだ・・・・・」

「少年、なぜ君は人間を嫌うのかな」


 そんなトロンの元に1人の人物、いや機械が現れる。近付いてくることにトロンは全く気付かなかった。どうやら何かを使って自分の機械音を消しているらしい。


「魔導士様・・・」

「様はいらない。何度も言ったはずだよ」


 魔導士と名乗るその人物は綺麗な顔つきだった。見た目は美しい女性のようで、長い髪も風になびいている。しかし本当は女性なのか男性なのかも分からない。

 なぜなら機械なのだ。

 男性型として作られていても、作動させると女性のようであったり、女性型でも男性のような機械人間だっている。

 でもトロンはそれを気にしていなかった。

 人間である自分にはどんなものも同じ機械にしか見えなかったのだ。


「魔導士さ・・・魔導士さん。僕は人間が嫌です。人間は長生きで、機械のことなんか分からない。僕はこの世界に孤独なんです。人間であるばっかりに」

「孤独か・・・確かにそうかもしれないなあ」


 そう言うと手に持っていた杖を軽く地面に叩きつける。微弱な電波が出ており、その電波は機械の地面を通って、木までいき、木に咲いていた花の機械動作を止める。

 止まった花の機械は枝からひらひらと落ち、ガシャっという音と共に地面に着いた。

 

 機械を動かしたり、止めたりすることを自由に出来ることを魔法と呼んだ。そしてそれを使うものを魔導士と呼んだ。


 魔導士は地面に落ちた花の機械を拾い、トロンに渡す。


「私程度の魔法じゃ花ぐらい簡単な機械じゃなきゃ止めれないんだ」

 

 恥ずかしそうにそう言って笑った。


「トロンは長生きだ。きっとそれは孤独なのかもしれない。でもその長い人生の間で色々な人に出会っていく。きっとそれがトロンのやるべき事なんだよ」

「そうだとしても・・・僕はもう辛いんです」

「そうかもしれない。そしてその事に関して私は何もすることができない。でも今は私がいる」


 トロンの手を魔導士が握る。

 とても機械とは思えない柔らかな手で、温かい手だった。


「今はそれで許してくれないか。私はきっと君と共に君が好きになるような世界の見方を見つけてみせる。だからそれまで時間がほしい。それまではトロン、どうか生きていてほしい」

「魔導士さん・・・僕はこの世界が嫌いなんじゃない。僕は僕自身が嫌いなんだ・・・でも」


 トロンは魔導士の手を握り返す。


「ありがとうございます、魔導士さん。僕は、これ以上僕のことを嫌いにならないためにも、この世界を心から好きと言えるためにも頑張ります。生きていきます」


 強い言葉だった。

 ここから魔導士見習いのトロンの冒険が、日常が始まって行く。


 『機械仕掛けの魔導士』、書籍化決定。





 俺は画面をかぶりつくように見ていた。

 最高だった。

 大好きだった。

 この小説が、本当に好きだったのだ。



はじめまして。読んでいただきありがとうございます。

この作品は一応、今のところ短く終わるつもりです。


また、この作品では創作関連に関するあれこれが出てきます。現実と違う、これはありえない、などという場面も多々あるかと思いますが、スルーしていただければ幸いです。


ただ、そのことについての知識や評価、文章が矛盾しているなどの指摘は待っています。


どうか、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ