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電車ざっかんちょう

中吊りの女

作者: 味の外

 電車に乗っていると、目に留まるものがあった。


 中吊(なかづ)りである。

 どこかしらのスプリングフェアを大々的に広告している。女子大生の送るメールのような文体で、ズラリと横書きに文字が並んでいる。

 若さと活力に満ちた文章の長さに、気圧される錯覚に陥った。絵文字の多さは、もはやスパムメールを彷彿させる。隔世の痛感。

 くらり、めまいに襲われて一度目を離した。だが、車内で他に見る対象も特段なく、仕方なく再び首を伸ばし、年度末商戦の使者と向き合った。


 読み進めた最後の行で、強烈な違和感に襲われた。

「あっ、4月から増税……増税じゃん! ガビーン」

 圧倒的な存在感を主張する「ガビーン」のワンフレーズ。その言葉だけ、別人格の女子大生が語りかけてきている。

 エクソシストな女子大生を夢想した。頭は上下180度反転し、ブリッジの体勢で階段を下りてくる女子大生。フレアのスカートはもちろんはだけて肢も露わ、片手にはスマートフォンを握って。

 ちょっと会ってみたい。出来ればお化け屋敷で。

「バイトですか?」

「大変でしょう、そのポーズ」

「その芸ならテレビ出られるんじゃない?顔もかわいいし。ねえ、デビューする前に電話番号教えてよ」

 夢想が加速するのに反して、駅に近づいた電車は減速していた。車内アナウンスで停車駅が告げられる。

 夢想を急停止させ、アナウンスに耳を澄ませた。違う。間違った。逆方向の電車に乗り込んだ。


「ガビーン」


 身に降りかかった「ガビーン」を情けなく感じながら、電車の停止を待った。

 降り際にもう一度「ガビーン」の広告をふり返った。内容よりも、やはり「ガビーン」が目を引く。

 しばらく忘れられない女だな。

 降車して反対側のホームに歩く間、さて、こちらの電車でも「ガビーン」の女子大生に会えるだろうかと、期待に胸が躍った。いつもより一駅長く乗る電車に、華やいだ空想を抱きながら家路に着く。

 春だな。そう失敗を誤魔化しつつ、正しい行き先へと導く電車を待った。


 作中では意図的にぼかしてますが、三井アウトレットパークの中吊りです。今現在は見ないでしょう。先週(3/15以降だったかな?)に見た記憶。

 印象的なフレーズなので、何か使えないかなと思い、コミカルな広告のイメージを壊さずに、ギャグ風味に仕立ててみました。若干ホラーか。いや、やはりギャグだと思いたい(三井の広報に睨まれたくない一心で)。

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