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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
98/140

8.謎のおっさんVSシリウス

 イグニスの街に建造された、巨大な闘技場コロシアム

 本日のメインイベントは、ギルド【流星騎士団】のギルドマスター・シリウスと、ギルド【C】のギルドマスター・謎のおっさんの一騎討ち。

 この好カードを一目見ようと、多くのPC・NPC達が闘技場に集まった。

 チケットは即日完売し満員御礼。ギルド【アルカディア情報局】の協力で、某大手動画サイトの生放送でも大々的に放送される事となった。


 また、この闘技場はギルド【C】が建造・運営している物である為、チケット代や会場内で売れた料理や飲み物、応援グッズ等の収益は全て【C】の懐に入り、財政を潤す事になる。

 ちなみに【流星騎士団】サイドにも、シリウスへのファイトマネーという形で収入の一部が流れる裏取引が交わされていたりするが、その事は極一部の人間しか知らない機密である。読者の皆様もどうか、この事は胸の内に秘めておいていただきたい。さもないと、おっさんが放った刺客が……おっと、余計な事は言わないでおこう。


「まもなく始まります世紀の一戦!実況はわたくし、【アルカディア放送局】のギルドマスター、アテナが!全国のアルカディアプレイヤーの皆様のアイドル、アテナがお送りいたします!皆様アテナに清き一票と熱い声援を!」


 放送席ではギルド【アルカディア放送局】のギルドマスターを務める女性プレイヤー、アテナがまくしたてるような勢いでトークを繰り広げており、そんな彼女にギルドメンバー達がカメラを向けていた。


「うるせーぞアテナ、静かにしろー!」

「相変わらずやかましい女だ……」

「アナ公と代われー!」


 観客達が、そんなアテナに対して野次を飛ばした。


「おぉっとここで実況に対して熱い罵倒が!泣きますよ!?ですがそれはひとまず置いといて、本日の相方をご紹介します!なんと本日、解説を担当していただくのは……この方です!どうぞ!」

「解説のカズヤだ。今日はよろしく頼む」


 アテナの隣に座っていた男性、カズヤがマイクを受け取り、自己紹介をする。


「キャー龍王様ー!」

「生カズヤさんキター!」

「カズヤさーん!俺だー!うちのギルドに入ってくれー!」


 すると、そんな彼に会場中から歓声が飛んだ。


「あるぇー私の時と対応が全然違うぞぉ~?マジで実況泣きますよコンチクショー。えー、という訳で皆様ご存知、超有名プレイヤーのカズヤさんに解説をお願いしちゃいました!というわけでそろそろ試合開始の時間になります!皆様準備はよろしいでしょうか?」


 アテナの実況に、もうすぐ試合が始まる事を再認識した観衆が会場に集中する。


「ビールにおつまみ、ソフトドリンクはいかがですか~?」

「お弁当はいかがでしょうかー!」


 ボルテージが高まる観客席を、【C】の売り子が料理や飲み物を売り歩いている姿がちらほらと見える。この日のために【C】の料理人たちが気合を入れて作ったそれらの品は飛ぶように売れた。

 ちなみに会場内には、【C】が用意した売店が各所に設置されており、応援グッズや本日試合を行なう両選手……おっさんとシリウスのグッズ等も販売されている。

 彼らの直筆サインが付いたレプリカ装備……【レイヴンコート・レプリカ】や【カオスジェノサイダー・レプリカ】等が、特によく売れている。

 ちなみに【流星騎士団】の職人達もこれには一枚噛んでおり、シリウス関連のグッズの売り上げは流星騎士団の懐に入る事になっていた。


 そんな賑わいに応えるように、いま二人の男が闘技場に姿を現した。

 シリウスは白銀色の騎士甲冑に、ギルドエンブレムの刺繍がされた青いマント。左手に大型盾、右手に刺々しいデザインの黒い魔剣を携えている。

 対するおっさんは、黒い羽飾りの付いた革のジャケットにパンツ、ブーツ姿。腰のガンベルトには二挺の魔導銃剣が吊るしてあり、背中にはチェーンソーめいた巨大な機械剣を背負っている。

 東西それぞれの選手入場口から現れた二人は、一定の距離を保ったまま向かい合った。


 そして、まるでそれを見計らったかのように……会場内に設置されたバックスクリーンの時計が「21:00」に変わる。それと共に「試合開始」の文字がでかでかと表示された。

 その瞬間、闘技場と観客席との間に不可視の障壁が張られ、外部からフィールドに干渉する事が不可能になる。そして、向かい合い二人の前には、


 【決闘開始デュエルスタート


 というシステムメッセージが表示された。


「【スターダストサイクロン】!!」


 先に動いたのは、意外にもシリウス。

 一気におっさんとの距離を詰めると同時に、白光を放つ魔剣、カオスジェノサイダーを全力で振るう。すると巨大な竜巻が発生し、風と共に光の粒子が凄まじい勢いで渦巻く。

 おっさんはそれを、大きくバックステップをして回避した。


「おぉーっと、先手を打ったのはシリウス選手!いきなり大技が飛び出したぁ!私にも見覚えのないアーツのようですが、解説のカズヤさん、あの技は一体?」

「【スターダストサイクロン】。【神聖剣】スキルのレベルが55以上で習得可能な奥義だ。小さな光弾を大量に竜巻に乗せて放ち、広範囲に疾風と神聖属性の魔法ダメージ、切断属性の物理ダメ―ジを同時に与える。奥義の中ではモーションが小さく、発動後の隙も少ないため……」


 開幕早々に大技を放ったシリウスだが、その動きは奥義を放ってもなお止まらない。むしろ、ここからが本番だとばかりに更に加速する。


「秘奥義への連携が容易な部類に入る。来るぞ」


 カズヤの言うように、再びシリウスがその手に握る魔剣が眩い光を放つ。


「【スターライトブレイザー】!!」


 前方扇型の範囲攻撃。シリウスが横薙ぎに魔剣を振るうと、凄まじい勢いで閃光と爆炎が迸り、おっさんを飲み込んだ。

 それに留まらず、シリウスが放った秘奥義は観客席にまで到達しようとするが、その直前で障壁に阻まれて四散した。


「決まったああああ!いきなり秘奥義が炸裂しました!普段は慎重なシリウス選手らしからぬ開幕ぶっぱでしたね!」

「確かに普段のシリウスとは真逆の行動だ。おっさんと普通にやり合ったら不利と見て、賭けに出たのかもしれないな」

「なるほど……その不意討ちが功を奏したといったところでしょうか?」

「いや、残念だが……」


 シリウスが放った秘奥義のエフェクトにより、遮られていた視界が徐々に戻ってくる。そうして決闘フィールド内と改めて見回してみれば……


「あれ……おっさんが居ないぞ!?」

「おっさん何処行った!?」

「まさか今ので死んだか!?あっけなさすぎるぞ!」

「いや、Winner表示が出てねえ!まだ勝負は付いていないぜ!」

「バックスクリーンに表示されてる、おっさんのHPも減ってねえぞ!」

「さてはまた何処かに隠れてるな!?」

「上から来るぞ!気をつけろ!」


 おっさんの姿が無い事に気付いた観客が騒ぐ。

 そう、そこには秘奥義を放ち終え、残心するシリウスの姿があるばかりであった。

 彼の放った秘奥義【スターライトブレイザー】により、その前方の床は大きく削れ、焦げたような跡が残っている。

 そして、先ほどまでそこに立っていたはずのおっさんの姿は……無い。


(何処に逃げた?)


 今さっき放った秘奥義で、おっさんを倒せていないというのは相対しているシリウスが一番よく分かっていた。

 レアスキル【神聖剣】の上位奥義アーツから秘奥義への連携、並のプレイヤーならば防御すら出来ずに瞬殺できるコンボではあったが、手応えが無かったし、何よりこの程度でおっさんが倒せるなら誰も苦労していない。


 左右へと素早く視界を巡らせるが、おっさんの姿はない。

 その瞬間、シリウスは上空から何かが落ちてくる気配を感じた。


「上か……はぁっ!?」


 頭上に盾を掲げて防御姿勢を取りつつ、迫りくる敵を見上げるシリウス。

 そんな彼の視界に映ったのは、おっさんの姿ではなく。


「あーっと!シリウス選手の頭上に、突然巨大な金タライが出現ー!?」

「おっさんがよく使う錬金術トラップだな」


 吹き出しそうになるのを堪えながら、実況のアテナが叫ぶ。

 彼女が言ったように、シリウスの頭めがけて落ちてきたのは巨大な金タライであった。

 落下してきたタライは、シリウスの盾と激突してカーン!と良い音をたてて地面に転がる。そして、それと同時に……


「イヤッハアアアアアアアア!」


 シリウスの足元から、床を割りながらおっさんが出現した。

 おっさんは巨大なドリルを片手に地中から飛び出すと、そのままシリウスのボディに高速回転するドリルを突き刺した。

 不意討ちでドリルアッパーを食らわせたおっさんは、そのまま上昇を続けて天井まで到達する。


「まだまだ行くぜぇ!」


 おっさんが左手の革手袋に仕込まれたワイヤーを射出、天井にぶら下がる。そして右手で魔導銃剣を抜き放つと、その銃口を眼下の対戦相手へと向けた。


「まずは挨拶代わりに……こいつを食らいな!」


 おっさんが銃口から巨大な魔力弾を放つ。

 それはシリウスへと一直線に飛んでいったかと思えば、丁度おっさんとシリウスの中間地点で、無数の小さな魔力弾へと分裂し、降り注いだ。


「今度はおっさんの反撃ィー!解説のカズヤさん、あのアーツは?」

「銃の奥義の一つ【メテオレイン】。空中から地上に範囲攻撃を行なえる。扱いは難しいが攻撃範囲とヒット数に優れる」


 降り注ぐ魔力弾を盾で防ぎ、剣で弾いてガードするシリウス。

 そこに、おっさんが続けて襲い掛かった。

 天井を蹴り、機械仕掛けの大剣を構えて急降下したおっさんは、その勢いのままにシリウスに斬りかかった。


「行くぜシリウス、止めてみな!」

「この程度っ!」


 落下の勢いを利用しての、真上からの斬り下ろしを、シリウスは盾で受け流そうとする。そのタイミングは完璧であった。

 しかし……


「おーっと、おっさんが攻撃を途中で止めたぁー!?と思ったら、何とシリウス選手が構えた盾を蹴り飛ばしたぞぉー!?」


 おっさんは、シリウスの動きを見切っていた。

 大剣による攻撃はフェイントであり、斬撃を防御せんと突き出した盾を、横から蹴り飛ばすおっさん。


「甘えぜシリウス!この俺がそんな単純な攻撃をすると思ったのかぁ!?」


 そして、おっさんは本命の攻撃を繰り出した。


「不破流鏖殺剣、七ノ型【甲冑断かっちゅうだち】」


 鎧ごと敵を両断し、地面まで抉り取るほどの強烈な斬撃が直撃し、吹き飛ばされるシリウス。


「決まったぁー!!凄まじい斬撃、まさに一刀両断!これは決まったか……な、何ぃー!?」


 おっさんは着地し、大剣を背中の鞘に納めると、油断する事なく吹き飛んだシリウスを睥睨する。


「……まさか、そこまで硬ぇとはな。流石の俺も予想外だったぜ」


 そう呟いたおっさんの視線の先には、立ち上がって盾を拾うシリウスの姿。

 おっさんの強烈な斬撃を受け、吹き飛ばされたシリウスだったが……その表情には余裕が見られる。

 その理由は……


「ご覧ください皆様!おっさんの必殺の一撃が直撃したにも関わらず……!なんとシリウス選手、HPがほとんど減っておりません!」


 彼の頭上に表示されているHPバー。

 それはおっさんの攻撃を受けて僅かに減少したものの……いまだ9割以上が健在であったからである。

 そして、そのHPバーが……時間と共に、少しずつ回復しているではないか!


 シリウスは、にっこりと笑って言った。


「僕のVITは補正込みで約12000、最大HPはおよそ15万です。そしてアビリティとアクセサリの効果で、一秒につき400ポイントほどHPが自動回復します。

 ……と言うわけで、持久戦に付き合って貰いましょうか……!」

VIT12000は比較対象が七柱神レベル。

参考までに炎神イグナッツァが10000、土神グランエルが15000で現在世界2位。

ちなみにおっさんのDEXとかエンジェのMAGも大体それくらいです。


(2015/2/11 表記ミス修正)

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