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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
97/140

7.謎のおっさん、密談する

「よう……ヒーロー気取りかい、シリウス。随分と恰好が良いじゃねえか」

「ええ、ヒーロー気取りですとも。僕はそういうロールプレイが好きでやってるんですよ。何か文句でも?」


 対峙する両者。まず最初に口を開いたのはおっさんであり、シリウスを煽る。だが当のシリウスは実にあっさりとした顔で言い返して見せた。


「ククク……いいや、何も問題は無いな。ゲームなんだから、自分が一番楽しいと思うスタイルでやるのが一番さ」

「ご理解頂けたようで幸いですね。かく言うおっさんだって悪役ヒールを気取って楽しんでるじゃないですか」

「全くもってその通りだ。反論のしようがねえな」


 両腕を広げ、やれやれと溜め息を吐くおっさんに、シリウスは言う。


「とりあえず、細かいルールは後ほど協議しましょうか」

「おっ、そうだな。ダナンの例の店で待ち合わせるとしようかい」

「了解です」


 そう言って、おっさんとゲンジロウが退室する。後に残されたのは、シリウスとエルフの首脳陣。

 そのエルフ達だが……彼らは、何が起こったのかわからないといった様子で困惑していた。


「あの……シリウス様?」

「あ、はい。何でしょうレティさん」


 声をかけられ、シリウスは背中に庇っていたエルフ族の族長、レティに向き直った。


「私の見間違いでなければ、先ほど貴方はあの方に戦争を仕掛けた筈ですが……」

「ええ、そうですよ?」

「それにしては、なんというか仲が良さそうというか、二人とも自然体過ぎると言いますか……一体どういう事なのでしょう?」


 混乱した様子のレティに、思わずシリウスは吹き出した。


「もう、シリウス様!?私は真面目に……」

「ははは……失礼。いやぁ、見事に騙されてるなぁと思いまして」


 笑いながら、シリウスはその一言を放った。


「つまりエルフの皆さん、おっさんに担がれてたんですよ」



  ◆



「おおよそ、お前さんの計画通り……といった所かね?」


 エルフの村からの帰り道、魔導バイクで併走しながら、ゲンジロウがおっさんに話しかけた。


「おや、やっぱゲン爺にはバレてたかい?」


 その話しかけられたおっさんはと言うと、悪戯がバレた子供のような顔でニヤニヤと笑いながらそう返答したではないか。


「当ったり前じゃい。シリウスの小僧にもバレバレだったではないか」

「分かっててノってくれるんだから、あいつも大概お人好しだよなぁ。しかしまさか、あんな絶妙なタイミングで逆に宣戦布告かまして来るたぁ、流石の俺にも予想外だったが」

「中々したたかな小僧じゃわい。流石にこの世界で最大のギルドを率いておるだけの事はある」


 楽しそうに話すおっさんには、先程まで見せていた鬼気迫った様子はない。

 突然、おっさんの邪魔をする形で宣戦布告をしてきたシリウス、および流星騎士団への怒りを見せる様子もなく、むしろ満足そうな様子だ。

 一体これはどういった事であろうか。


「じゃ、俺はアイツと話をしてくるからよ。ゲン爺は先に帰っててくれや」

「よかろう。早めに帰って来るのじゃぞ」


 そう言ってゲンジロウと別れたおっさんは一人、バイクを駆ってある場所へと向かった。

 その場所とは、城塞都市ダナンの片隅にある、一軒の酒場であった。


 酒場に入り、個室に案内されたおっさんは、椅子に腰をかけてくつろいでいた。

 この酒場はVIP用の個室があり、密談をする為の場所としても一部のプレイヤーに有名だ。

 盗聴防止のセキュリティや、顧客の情報に対する機密性も万全であり、評価が高い。


 しばらく待つと、コン、コンとドアをノックする音が聞こえた。

 おっさんはドアの向こうに居るであろう人物に向かって話しかける。


「誰だ」

「シリウスです」


 扉の向こうから聞こえてきた声は、先程おっさんに向かって宣戦布告をしてきた流星騎士団の団長、シリウスの物だった。

 敵対関係にあるこの二人が、この場所で一体何を話そうというのか?

 おっさんは続けて、扉の向こうにいるシリウスを名乗る男に向かって言った。


「お前が本当にシリウスなのかを確認するために、これから一つ問題を出す。本物のシリウスであれば答えられるはずだ」

「また面倒な事を……まあ、いいですけど」

「では問題だ」

「どうぞ」

「2005年プロ野球日本シリーズ、阪神タイガース対千葉ロッテマリーンズの試合結果と、全試合の両チームそれぞれの得点の合計を答えよ」

「そんな物なかった(震え声)」

「よし、入れ」


 おっさんが扉を開ける。

 迎え入れられたシリウスは「なんでや……阪神関係ないやろ……」などと呟きながら入室すると、テーブルを挟んでおっさんの向かい側の椅子に座った。33-4。


「さて……色々と面倒かけてすまねぇな、シリウス」

「いえいえ。エルフ族の失態は僕達にとっても他人事ではありませんし、むしろおっさんにも苦労をかけて申し訳ないと思っています」


 向かい合って話をする二人の様子はいつもと変わらない。宣戦布告を行なった者と、それを受けた者、敵対関係にあるようにはとても見えなかった。


「しかし派手に決めてくれたなぁオイ。中々の役者ぶりじゃねえの」

「お互い様でしょう?それにどうせやるなら、派手にやった方が良いかと思いまして」

「こいつめ」


 シリウスが薄く微笑みを浮かべ、おっさんがゲラゲラと豪快に笑う。


「いつからバレてた?」

「最初は焦りましたが、すぐに気付きましたよ。おっさんが本気で怒ってるなら、そもそもあんな面倒臭い真似なんかしないでしょう?」


 シリウスの言う通り、おっさんが本気で犯人――エルフの過激派に対して怒っており、復讐をしようと考えていたのならば、わざわざ話し合いなどする必要は無かった。

 直接犯人の所に乗り込んで、有無を言わさず実力行使をすればいいだけの話であり、おっさんの実力であればそれは容易だった筈。


 ならば、何故おっさんはそうしたのか?それは、おっさんには別の意図があったから。


「わざわざ流星騎士団うちの城の前を横切って、姿を見せるあたりも露骨ですよね。ついでにアナスタシアさんに、【C】の職人がエルフに襲われたっていう情報を流させたのもおっさんでしょう?」

「何でい、そこまでバレてやがったか」

「バレバレですってば。おっさんの企みも察しはついてますよ」

「ほーう?なら当ててみろよ」


 挑発するように言うおっさんに、シリウスは自らの推理を突きつけた。


「ズバリ、西部エリアの大部分を支配下に収めたおっさんの目的は、北部エリアへの進出。だけど北部エリアは僕達【流星騎士団】の支配力が強く、このままでは手が出しにくい状態です。だから……僕達が同盟を組んでいるエルフ族と、【C】の間に問題が起こったのを好機と捉えたおっさんは、エルフ族をダシにして僕をおびき寄せる事に決めた」

「……クックック」


 ニヤニヤと楽しそうに笑いながら聞くおっさんに、シリウスは続ける。


「エルフの族長を激しく詰問するが、それはあくまでも囮。本命はそれを庇いに入るであろう僕に色々と難癖を付けて、ギルド戦争を吹っ掛ける事にあった。

 そして【流星騎士団】に勝利して領地の一部を手に入れつつ、更にエルフ族の負い目に付け込んで、北部エリアに対する影響力を盤石にしようと企んだ。以上がおっさんの目論見であると僕は推測しました」


 シリウスが語り終える。

 たった今彼が話した内容は……おっさんの企みを見事に当てていた。

 そう、おっさんの真の目的は、北部エリアへの侵略!その大義名分を無理矢理に作り出そうとしての物であった。


 ちなみにおっさんは、仮にシリウスが庇いに入ってこなかった場合は、そのままエルフ族に対して宣戦布告をする予定であった。

 その場合でも全く問題は無い。何故ならエルフ族と流星騎士団が同盟関係にあるのは周知の事実。ならばその状況で、助けに入らないならばシリウスと流星騎士団の名声は地に堕ちる。正義感溢れる騎士のロールプレイを楽しんでいる彼らにとって、助けないという選択肢は存在しえない。どちらに転んだとしても、流星騎士団を戦場に引っ張り出して、彼らの力を削ぐ事は可能だっただろう。


 ちなみにその場合、一つの種族を全滅させかねない戦争を仕掛けた事で、おっさんの悪名が更に高まるというリスクもあったのだが……それは他ならぬシリウスの手によって回避された。

 その事に対する礼の意味も込めて、おっさんはシリウスに言う。


「まずは正解、と言っておこうかい。だが……それだけじゃ50点だな」


 ニヤリと笑って言うおっさんだったが、そんな彼にシリウスは満面の笑みで言い返した。


「ええ。もう一つの目的も、ちゃんと見当はついていますよ」

「……ほーう?そいつぁ面白え。当ててみろよ」

「ならば遠慮なく。それは……」


 シリウスが言った驚くべき内容、それは、


「エルフ族が抱えている、問題の解決」


 という、エルフ族や流星騎士団が成そうとしている事と、同じ物であった。

 それを聞き、おっさんが珍しく本気で驚いた表情を浮かべた。


「理由その一。おっさんは以前より、北部や南部といった他のエリアに手を広げる事を考えていた筈。ならば、それらの地域に住む種族が抱えている問題を、知らないという事があり得るでしょうか?おっさんの下にはアルカディアで最高峰の情報屋である、アナスタシアさんが居るのに?

 結論として、それはあり得ないと言っておきましょう。おっさんは北部エリアに進出するにあたり、その地に住むエルフ族が抱えている問題を、解決する必要性を感じていたと推理します」

「……その一ってこたぁ、まだあるんだろう?続けてみな」


 シリウスの推理を聞いたおっさんが続きを促すと、どうやら当たりのようですねと笑い、シリウスは話を続ける。


「理由その二。おっさんが今回動いた理由は、ギルドメンバーがエルフに襲われたという事ですが……果たしておっさんは、その程度の事で激昂するような人だったでしょうか?

 答えは否。『職人であろうと自分の身くらいは自分で守れ。フィールドでモンスターやPKに襲われて殺害されたとして、それは警戒を怠ったそいつ自身の責任であり、それで問題が起こった場合は自分で解決するべきだ』……以前【C】の職人がPKに襲われた時の、おっさんの言葉でしたね。今回の件はその発言と大きく矛盾しています。

 それにおっさん……言い方は悪いですが、たかがゲームでギルドメンバーが殺された程度で、いちいち怒るような人でしたっけ?」


 そしてシリウスは、最後にこう言った。


「以上の理由から、おっさんは特にエルフに対して怒りや憎しみを抱いている訳ではないと考えました」


「そうかい……だがその理由だと少し弱いなぁ?ただ単にエルフ族を上手く利用してやろうと考えているだけかもしれねぇぜ?何せおっさんは、邪魔者は一切躊躇わずに切り捨てられるような非情な男だ。あの美人の族長さんもそう言ってたじゃねえの」

「成る程、確かにそうかもしれません。レティさんのおっさんに対するその評価も、間違ってはいないでしょう。ですが、それはあくまで一つの側面に過ぎないと僕は思っています」


 シリウスは微笑みを浮かべて、おっさんに言う。


「理由その三。おっさんは冷徹な所もありますがその反面、お人好しで人情家な顔を持っている事を僕は知っています。

 アクの強い【C】のメンバーを完璧に統率し、一般プレイヤーの中にもおっさんを慕う人は多い……。レッドやカズヤさんですら、おっさんに対しては尊敬の念みたいな物を抱いていると思います。果たして非情なだけの人間に、そんな事が可能でしょうか?僕はそうは思えませんね」


 おっさんはシリウスのその言葉を聞くと、椅子に深く腰をかけたまま煙草を取り出し、それを口に咥えて火を点けて煙を吸い込むと、降参だというように両手を挙げた。


「お前、俺より探偵に向いてるんじゃねえの?いっそ俺の仕事手伝わねえか?」

「遠慮しておきます。命がいくつあっても足りそうにありませんし」

「遠慮すんなよ、無敵の壁役らしくねえな」

「いやいや、現実リアルでは善良な一般市民ですから……」


 冗談めいた誘いをかけるおっさんに、苦笑しながら首を横に振るシリウスであった。

 そんな会話の後に、おっさんは話を切り出す。


「まあバレてるんなら話は早い。お前の言う通り、別に俺はエルフの過激派とやらの命を取るつもりは無ぇ。まあ……多少荒っぽいやり方で更生させようとは思っているがな」

「それなら僕達にとっても有難い話ですね。そろそろ説得だけじゃなく、別のアプローチも必要だと思っていた所ですので」

「そう言うと思っていたぜ。という訳でエルフへの対応に関しては問題無い訳だ。お前が良い警官で、俺が悪い警官だ」


 戦争でどちらが勝ったかによって細部は異なるだろうが、エルフへの対応策に関してはお互いの考えが一致したと言っていいだろう。


 おっさんはエルフ族に対して恫喝や脅迫といった強硬的な手段に訴え、恐怖を与える。その裏ではシリウスや他のプレイヤー達が彼らを庇うと共に、説得や懐柔を行なって信頼を得る。

 そうする事でエルフ族はおっさんに対する恐怖と、流星騎士団や一般プレイヤー達への信頼から、人間に頼り、融和しようと考えるようになる。

 以上が彼らの思い描く未来のビジョンであった。


 おっさんと【C】にとって、北部エリアに進出する以上、エルフ族は大事な取引相手となる為、今の閉鎖的な状況は好ましくない。またシリウスは同盟関係にあるエルフ族に、もっと人間や他種族に歩み寄って欲しいと思っている。

 ゆえにエルフ族に関しては、両者の利害は一致しているのであった。


「となると、後は純粋に……」

「北部エリアの支配権を賭けた戦い……という訳ですね」


 ゆえに、残った問題は一つ。北部エリアの支配権である。


「俺が勝った場合は、流星騎士団の領地の一部を貰う。それと今後、俺らが北部エリアでの商売や開拓を行なう際にも色々と協力して貰うぜ」

「僕が勝った場合は……領土は要りません。その代わりにエルフ族に対しては僕達が主体となって交渉を行なうので、その裏で色々と協力してもらいましょうか。それと【C】が極秘にしている生産レシピの一部公開を要求します」


 それぞれが勝った場合、相手に要求する事項の設定も終わった。

 最後に残るは……


「最後に、戦争の規定レギュレーションを決めましょうか」


 ギルド戦争の中には、幾つか種類がある。

 領地を賭けて攻撃側と防御側に分かれての攻城戦が一番の華だが、それ以外にも独立フィールドを使っての野戦や、それぞれのギルドから数人ずつの代表者を選出して、精鋭同士がぶつかり合う選抜戦などがある。


「では、コレ(・・)なんかどうでしょうか」


 リストの中から、シリウスが選択した物を見たおっさんの目が、見開かれる。


「本気かい?随分と俺に有利なルールに見えるが」

「ええ、構いません。僕にとっても色々と都合がいいですから」


 シリウスがおっさんに提示したルール。それは……


 【一騎討ち】。


 すなわち、ギルドマスター同士が一対一で戦うルールであった。


「理由は三つ。一つは、そちらのギルドは全員が、戦闘力に乏しい職人。そういった相手に剣を振るうのは抵抗がありますし、おっさんも彼らを前線に出すのは本意ではないでしょう」

「ま、うちの職人どもは最低限の自衛が出来る程度には鍛えてあるし、中には戦闘メインのプレイヤーにも引けを取らねえのもそれなりに居る……が、確かにお前ん所の精鋭と戦えるような奴は……俺と幹部共くらいだろうな」


 おっさんのギルド【C】の職人達は、確かに優れたアイテムやおっさんの薫陶によって、職人でありながら高い戦闘力を持っている者も多い。

 が、それも一般のプレイヤーと比較すれば……の話である。

 これから戦う相手はトップギルドの一角【流星騎士団】。

 ギルドマスターであるシリウスの、比肩する者が無い防御力は有名だが、それだけで頂点に立てるほど甘くはない。

 彼を支える騎士団員たちもまた、いずれ劣らぬ強者揃い。西部や北部のエリアボス討伐の中心となり、常に前線を支え続けてきた猛者たちである。

 いくら【C】の職人達が、職人としては高い戦闘力を持っていようと、到底勝てる相手ではなかった。


「二つ目は、総力戦となるとお互いに損害がとんでもない事になるでしょうから」


 シリウスの言う通りに、お互いのギルドが全力でぶつかり合えば、相当共に甚大な被害が出る事が予想される。

 【C】の職人達はチートじみた技術力を最大限に発揮し、様々な兵器を持ち出して殲滅しようとするだろうが、当然それらを製造・運用するには莫大な費用がかかる。

 そして【流星騎士団】は防御力・突破力に定評がある最強の一角。【C】が戦費を惜しまず全力でかかれば痛手を与える事は出来るだろうが、簡単に制圧できるほど甘い相手ではない。

 甚大なダメージに耐えながら攻め寄せる騎士団員たちの反撃で多くの兵器が破壊され、それを失った非力な職人達が討ち取られるだろう。

 おっさんは、総力戦になれば、ほぼ間違いなく勝てると踏んでいたが、その場合は相当の被害が出るであろうと確信していた。


「そして三つ目……これは単に、僕の個人的な……意地の問題です」

「ほう……?意地ときたか」

「ええ」


 シリウスは、まっすぐにおっさんの目を見据えて、迷いのない顔で言う。


「手前味噌で恐縮ですが、僕はこのゲームで最強のギルドの一つ……そのギルドマスターをやっています。そして僕自身も、最強のプレイヤーの一人と認識されているでしょう」


 彼の言うように、最強のプレイヤーは誰か、ギルドは何処かという議論が起これば、彼の名は必ず上がる。

 お人好しで、よく貧乏くじを引く苦労人という印象が強いシリウスだが、間違いなく彼は最強の一角として相応しい実力を持っている。


「ですが、僕はあくまで三番手……βテストの頃から、ずっとそうでした。いつだって僕の上には、カズヤさんと貴方がいた」


 しかし、それ以上に多くのプレイヤー達が


「ヤツこそが最強である」


 と考える男が二人いた。

 一人は孤高のソロプレイヤー、カズヤ。

 もう一人が、目の前にいるおっさんである。


「エンジェさんやレッドのような、僕にとって好敵手ライバルと呼ぶべき人達も、どんどん強くなり、進化している。僕自身も強くなっている……という自覚はありますが、それでも僕は、いまだに貴方達を超える事ができないでいます」


 押し殺したような声で、シリウスが語る。

 これまで決して表に出す事は無かったが、シリウスもまた、その想いを抱えていたのだ。

 そう、オンラインゲーマーならば、きっと誰でも一度は抱くであろうその想い。

 すなわち、


「自分より強い奴が居るのが気に入らねえ」


 である。

 ネトゲにハマった事のある読者の方ならば、身に覚えがある方も多いのではなかろうか。筆者にも覚えがある。


「おっさんと本気で戦える機会なんて、そうそう無いですからね……丁度いいんで、そろそろおっさんを倒して最強の称号でもいただこうかと思いまして」


 笑顔でそう言って、おっさんに挑むシリウス。

 そんな彼を見て、おっさんは楽しそうに笑った。


「その度胸は認めてやらあ。精々楽しませてくれよ?」


 おっさんはそう言って、立ち上がった。


「一騎討ちの舞台はこっちで用意してやるよ。折角だから派手にやろうじゃねえか。詳しい事は後で連絡するぜ」


 そして、おっさんはもはや話す事はないといった様子で、扉に手をかけて退出しようとする。

 だが、その背中にシリウスが声をかけた。


「おっさん!」

「……何だ?まだ何か言いてえ事でもあんのか?」


 扉を開けようとした恰好のまま、おっさんが止まる。

 その背中に向かって、シリウスは言った。


「ちょっと在庫切らしてるんでポーション売ってくれません?あ、それと素材集まったので、盾の改造もお願いしたいんですけど」

「……ちゃっかりしてんなぁ、オイ。一応俺ら戦争してんだけどなァ……」


 一気に脱力するおっさんであった。

 ちなみにおっさんは、ぶつくさ言いながらもシリウスの注文にはしっかりと応えた。何だかんだでシリウスはおっさんにとって上客の一人であり、シリウスにとってもおっさんは、知りうる限り最も腕のいい職人だ。

 確かに彼らは現在、敵対しているギルドのマスター同士ではあるが、


「それはそれ、これはこれ」


 と、お互いに利益があればそんな事は横に置いておくのであった。デキる男には切り替えの早さも大切なのだ。

 それはそれとして、決戦は三日後、ギルド【C】がイグニスの街に建造した闘技場にて、衆人環視の下で行なわれる事となった。

 果たしてシリウスは、おっさんに対していかなる策をもって立ち向かうのか?そして、おっさんがそれをどう打ち破るのか?

 次回へ続く!

感想欄を見て「クククこいつら見事に騙されてやがるぜ」とニヤニヤしつつも「そんな蹂躙展開を期待されても正直、その、困る」と困惑したりと忙しかったです。


この「おっさん実は大して怒ってなくて、むしろ今回の事件を嬉々として利用している」という流れは本来予定していた物ですが、その伏線がわかりにくい&エルフに対して少々ヘイト稼ぎ過ぎたかと反省しきり。

そんなこんなで次はシリウスとタイマンになります。

おっさんがボスキャラみたいですが、もはや仕様。

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