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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
96/140

6.謎のおっさん、恫喝する

 エルフ族の衛兵ガード達に案内されて、おっさん達は族長の家へと辿り付いた。より正確に言えば力の差を見せつけた上で、強引に案内させた訳だが細かい事は気にしないでほしい。

 族長の家の前に立ったおっさんは、全く遠慮する事なくドアを勢いよく開け、まるで自分の家に帰ってきたかのような態度でずかずかと土足で上がりこむ。

 そして遂に、おっさんはエルフ族の族長と対面するのであった。


「初めまして。私がエルフ族の長、レティと申します」


 おっさんとテーブルを挟んで向かい合い、そう名乗ったのはエルフの女性だった。表情に乏しく、どこか冷たい印象を受けるスレンダーな美女だ。


「ご丁寧にどうも。こんな妙チキリンな名前で悪いが、俺の事は好きなように呼んでくれて構わねえぜ」


 ふてぶてしい態度で椅子に座りながら、おっさんはそう言って、自らの頭上に表示されているキャラクターネームを指さした。

 そんなおっさんの態度に、族長の周りに座るエルフの側近たちが苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「さっそく本題に入りましょうか。人間の冒険者がわざわざ訪ねてきて、私に何のご用でしょうか」


 だが長であるレティは冷静そのもので、おっさんに対してそう切り出した。


(成る程。怒らせて出方を伺ってみるつもりだったが……周りの取り巻き共は兎も角、こいつは頭が冷えてるみたいだな)


 心中でレティに対する評価を高めると、おっさんは姿勢を正した上で、画像ファイルをウィンドウ上に表示させた上で、エルフ達に提示してみせる。


「まずはこいつを見て貰おうか」


 複数の画像が映ったウィンドウを目の前に出され、それを見たエルフ達の顔色が変わった。


「見ての通り、少し前に俺の身内が六名、武装したエルフ共に襲われて死亡した。画像に映っているのは犯人どもの姿と、襲撃された位置が示された地図。そしてエルフ共が先に手を出したという証拠の戦闘ログだ!」


 おっさんの言葉に、エルフ達がむむむ……と唸る。

 もしもこれがおっさんの言葉のみであったのならば、


「そちらが先に手を出したのではないか」

「勝手にエルフの領内に侵入したのではないか」


 等と反論する事も可能だっただろう。

 だがおっさんは、先に動かぬ証拠を突きつける事でそれらを封じたのだ。


「データや画像の改竄が無い事は俺が保証するが、疑うんならそっちで存分に調べて貰って構わねえぜ」


 おっさんの言葉に、レティは小さく首を横に振った。

 画像に表示されている犯人の姿には、レティや側近達も当然、見覚えがあった。

 そして、彼らにならば人間を襲う動機があるであろう事も理解しており、それはおっさんの言葉が事実であるという事を裏付けていた。


「お話はわかりました。貴方たちは詰問の使者ということですか」


 レティの言葉に、おっさんが頷く。


「返答によっては、そのまま宣戦布告させてもらうがな。さて、それじゃあ答えて貰おうかい。エルフ族がうちの連中を襲ったのは、一体どういうつもりなのかをな!」

「……わかりました。全てをお話ししましょう。我がエルフ族が抱えている問題を……」


 レティは、おっさん達に過激派と呼ばれるエルフ族の若者達がおり、今回の件は彼らの犯行である事を説明した。

 それを聞いたおっさんは……


「そうかい。だったら……そいつはアンタが悪いな」


 と、レティの目をまっすぐに見据えて言った。


「貴様、今の話を聞いていなかったのか!今回の件に族長は関与していないと言っておるであろう!ふざけているのか!?」

「ふざけてんのはテメエだ三下!てめえらがそんなアホ共を野放しにしておいたせいで今回の事件が起きたんだろうが!下の者をしっかり管理して、何か問題が起こったら責任を取るのがリーダーの役目だと俺は思っているが、エルフ族にとってはそうじゃねえのかい!?」


 側近の一人が立ち上がり、おっさんに怒鳴るが、おっさんも立ち上がって机を勢いよく叩くと、負けじと怒鳴り返してみせた。

 おっさんの反論と気迫を受けたエルフの男は、怯んだ表情を見せて黙り込む。そんな彼に、レティは言った。


「……彼の言う通りです。控えなさい」


 そう言って側近達を黙らせた彼女は、おっさんに頭を下げた。


「貴方が先程言ったように、全ては私の至らなさゆえ。責任は私が負いましょう」

「そうかい。アンタは他の連中と違って、話がわかるようで何よりだ」


 レティがそう言った事で、おっさんも納得したようで表情を緩ませた。


「それじゃあ、こちらの要望としては……」


 一つ、謝罪の証として一定額のゴールド、あるいは相応のアイテムを支払う事

 二つ、犯人たちの身柄を引き渡すこと


 おっさんがエルフ族に対して出した要望は、以上のような物であった。

 相手の対応によっては相当に吹っ掛ける予定だったが、長であるレティが真摯に謝罪の意を示したことで、おっさんはかなり譲歩した条件を出した。

 だが、それに対するレティの反応は……


「一つ目の条件については構いません。ですが、二つ目に関しては承服しかねます」


 というものであった。


「……一応、理由を聞こうか」


 おっさんが静かに尋ねる。落ち着いた様子だが、それはまるで噴火前の火山、あるいは嵐の前の静けさを思わせる。


「罪を犯したとはいえ、彼らは我々エルフ族の同胞です。同胞が処断されると知りながら、彼らを差し出すわけにはまいりません」


 そんなレティの返答に対して、おっさんが突っ込みを入れる。


「俺は別に、そいつらを処刑する……なんて事ぁ一言も言っていない筈だがなぁ」


 そのおっさんの言葉を、レティは一言で切って捨てた。


「いいえ、貴方はそうするでしょう」

「……ほう?ちなみに、そう思った根拠は?」


 おっさんの目が鋭さを増す。だがレティは臆する事なく、言った。


「根拠も何も……貴方はそういう人(・・・・・)でしょう。自らの邪魔になる者を、一切の躊躇なく排除する事ができる。そんな貴方が、彼らを生かしておく理由があるとは思えません」


 レティの回答に、それまでおっさんの隣で黙っていたゲンジロウが軽く吹き出した。


「クックック……小僧、おぬし見透かされておるぞ」

「ああ……気に食わねえ事だが、そのようだな」


 笑いながら言うゲンジロウに、憮然とした表情で頷いた後、おっさんはレティに向かって、降参だというように両腕を広げてみせた。


「認めようじゃねえか。確かに俺は、連中を生かしておくつもりは無かった」


 おっさんの言葉に、レティを除くエルフ達がざわめいた。


「ならばどうする?拒否するのはいいが、当然代わりの案は用意してあるんだろうな」


 おっさんの問いに、レティは頷いて言う。


「罰は私が受けましょう。彼らの代わりに、私の身柄を差し出します」

「族長!?何を言っておられるのですか!?」


 レティが悲痛な表情で言うと、エルフの側近達が慌てて止めに入るが、おっさんは呆れた様子で溜め息を吐いた。

 もしもこの場にいたのがおっさんではなく、年若い青少年であったならば、見目麗しいエルフの長を自分の物にできるという魅力的な提案に飛びついた事だろう。

 だが今、おっさんは使者として、リーダーとしてこの会談に臨んでいる。ゆえに、その提案を突っぱねる。


「俺がどういう奴か、わかった上でそう言えるアンタの覚悟は認めてやる……が、はっきり言うぜ。話にならねえな。第一、今アンタが居なくなったら過激派の連中がますます暴走するだろうし、族長を取り返すためだとか理由を付けてウチに攻め込んで来かねない」


 ま、その時はその時で返り討ちにしてやるだけだがな、とおっさんは付け足した。


「要するに、だ。奴等の身柄を差し出すのが嫌なら、連中を今すぐ大人しくさせるか、あるいは近いうちにそうするための案を出せって言ってんだよ」

「私が説得してみせます!きっと彼らも、話せばわかってくれるはず……」

「駄目だな。話し合いでどうにかなるようなら、最初からこんな問題は起こっていなかった筈だ」


 レティの訴えを、おっさんは冷たく退けた。


「そうやって問題を先送りにして何になる?大人しく奴等の身柄を差し出せば、俺らはこのまま引き下がるし、アンタの悩みの種も無くなる。良い事づくめじゃねえか」


 嘲笑するような口調で言うおっさんに、レティは思わず叫んでいた。


「そのような、過ちを犯した者を切り捨てるような非情なやり方では、人はついてきません!」

「全体の為に小を切り捨てる、非情な判断もリーダーには必要だ。アンタにはそれが足りねえ。だから決断が遅く、事態が深刻化してから慌てる羽目になるのさ」

「貴方は結論を急ぎすぎです!時間さえあれば、彼らもまた変われると私は信じています!」

「成る程、確かにそうかもしれん。だがアンタが言うように、奴等が真っ当に生まれ変わるまでに俺達はどれだけ待てばいい?一週間か?一か月か?それとも一年か?その間にまた今回のような事が起きたら、またアンタは同じ事を言うつもりか?」


 そしておっさんは立ち上がり、最後通牒を突きつけた。


「ゴチャゴチャ言わずに連中の身柄を差し出せ。イエスかノーかではっきりと答えて貰おうじゃねえか」


 口調は静かだが、常人ならば気を失いかねない程の殺気を正面から叩き付けられて恫喝され、レティの全身に嫌な汗が浮かび、心臓が早鐘を打つ。

 だが、そうした状況下においてもレティは、おっさんの目を見据えて毅然とした態度で、


「……お断り、します」


 と、言ってのけた。

 素晴らしき胆力。見た目は麗しい美女だが、まさに一種族の長たるに相応しい。

 ああ、しかし残酷な事だが……


「……そうかい。認めようじゃねえか。甘い所もあるが、確かにアンタはリーダーに相応しい器だ。この俺を前にして、はっきりとノーと言えるその度胸。感動的だな」


 その瞬間、おっさんは確かに、目の前にいるこの女性の事を認めた。

 そう、己が戦うにふさわしい敵として。


「だが、無意味だ」


 おっさんがギルドマスター専用メニューを開く。

 ギルドクエスト発行、ギルドメンバー管理、領土管理、同盟管理、ギルドスキル管理、ギルド解散……様々な、ギルドマスターのみが実行可能なコマンドの中の一つを、おっさんは押す。


 【宣戦布告】。


 そのコマンドを選択し、更に宣戦布告を行なう対象を選択。


『【エルフ族】に対して宣戦布告を行ないます。よろしいですか?』


 目の前に表示されたシステムメッセージと、YES/NOの選択肢。おっさんの指が、YESのボタンを押そうとする。その寸前であった。



『ギルド【流星騎士団】がギルド【C】に対して宣戦布告を行ないました。一定時間の後、ギルド戦争を開始します』



 ワールド全体に、そのシステムアナウンスが流れる。


 そして、それと同時におっさんの目の前に表示されているシステムメッセージが変化していた。


『戦争期間中のため、他勢力に対して宣戦布告を行なう事ができません』


 それを見たおっさんが、思わず笑い出す。


「……ククク。まさか、こんな止め方があったとはなぁ。してやられたという訳かい。それにしても、エルフとの戦争を止めさせる為とはいえ……随分と思い切った真似をしてくれたじゃねえか」


 そしておっさんは、顔を上げ……その男を睨みつけた。


「なぁ?シリウスよ」


 エルフ族の長、レティを庇うように盾を構え、おっさんと対峙する端整な顔立ちの少年騎士。

 彼はおっさんに対しても怯む事なく、堂々と宣言する。


「話は聞かせていただきました。同盟関係にあるエルフ族を護るため、【流星騎士団】団長シリウスが、ギルド【C】に対して宣戦を布告させていただきます」


 ギルド【C】対【流星騎士団】、ギルド戦争……開幕。

あけましておめでとうございます(激遅)


色々あって、物語を生み出すためのエネルギーみたいな物が自分の中からすっかり失われた状態でした。

大変お待たせして申し訳ない。

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