5.平和なエルフの村に謎のおっさんが攻め込んでくるなんて
連載ペースが遅くてすまんのう。
多分今年最後になると思います。皆様良いお年を。
大陸北部エリア3、ギルド【流星騎士団】本部、作戦会議室にて。
そこに集う、騎士団長シリウスと幹部一同の顔は一様に暗かった。
その原因は、少し前にもたらされた、とある情報にあった。
――エルフの過激派がギルド【C】の職人達を襲撃。
元々エルフ族は保守的・排他的な傾向があるが、かといって積極的に人間や、他の種族と争おうとはしていなかった。
むしろ彼らは封印され、永い時を経て人間に助け出された事によって、今後は他種族とも助け合っていこうと考え出している所である。
勿論、そうすぐに大きな変化は訪れないだろう。それでも、ゆっくりとでも確実に、エルフ達は融和への道を模索している所であった。彼らもまた、自分達のみの力ではこの先、生きのこるのは難しいと理解しているのであろう。
……だが、それを良しと思わぬ者達も存在していた。
とりわけ若いエルフに多い、過激派と呼ばれる者達である。
生来、自尊心の強いエルフ族の中でも彼らは特にその傾向が強く、他の種族を見下している。そして最近では自分達の領地の外にまで足を伸ばし、近づく者を威嚇していると聞く。
シリウスと、彼が率いるギルド【流星騎士団】は数ヶ月前に、エルフ族の封印を解放した。
それを成し、創造主たる氷神アクエリアと勇敢に渡り合い、激戦の末に見事勝利したシリウス達には、エルフ族も比較的、心を開いているほうだ。
そういった理由やシリウス本人の責任感から、ギルド【流星騎士団】は、エルフ族と他種族との交流の窓口の役割を担っている。
少しずつでも、エルフ達が心を開いていく手助けになればいい。そう思って、彼らは活動を続けてきたのだが……
「よりによって、おっさんの所にかぁ……」
頭を抱える幹部達。
彼らはエルフ族の内情をよく知っているが、果たしておっさんや【C】のギルドメンバー達はどうであろうか。
もしかしたら最悪、報復にとエルフの村に攻め込むような事があるかもしれない。
いやいや、いくらおっさんでもいきなりそこまでは。
嫌な予感を膨らませながら、どう対策するかと悩む流星騎士団の幹部達であったが、そんな彼らに悪い知らせが届いた。
「報告!おっさん達が我々の領地に入りました!バイクに乗って、物凄いスピードで北上しています!」
ギルドチャットによって、離れた場所にいるギルドメンバーの声が聞こえた。
「北上……あっ(察し)」
「やべぇよ……やべぇよ……」
流星騎士団の領土から北に向かうと、その先にあるのはエリア4の大森林、そしてエルフの村だ。
おっさんの行き先を察した幹部達が頭を抱えた。
「……僕が行こう。馬を用意してくれ……」
鎧の上から胃を押さえながら、シリウスがそう言った。
◆
「さて、この先がエルフの村だな」
バイクに跨ったおっさんが言った。
「このまま突っ込むのも悪くはねえが、邪魔が入ると面倒だな」
「ふむ。ならば何とするか」
ゲンジロウの相槌に、おっさんはアイテムストレージから、あるアイテムを取り出す事で応えた。
「それは……?エルフの耳のように見えるが」
「一応言っとくが、エルフの耳をむしり取った訳じゃあねえぜ」
おっさんが取り出したのは、エルフの特徴である尖った耳を模した付け耳であった。
「こいつはさっき、樹脂で作った付け耳よ。こいつを付けてエルフに変装すりゃあ、怪しまれずに族長の所に行けるんじゃねぇかな?」
「なるほど、考えたのう」
おっさんは一組をゲンジロウに手渡し、もう一組を自らの耳に装着した。
「よし、行くぜ」
そして彼らは、エルフの村へと侵入する。
「初めて来たけど、なかなか良い所じゃないの」
森の中に作られた集落。
質素だが、自然と調和した穏やかな空気の村だ。
そんな村を、おっさんとゲンジロウは我が物顔で練り歩く。
マップウィンドウを開き、そこに表示されている族長の家に向かって進んでいった。
「そこの怪しい二人組!止まれ!」
だがその時、そんな彼らを呼び止める声が後方から聞こえた。
それと共に、物陰から数人のエルフ達が飛び出して、おっさん達に弓矢を向けた。
「貴様ら、何者だ!?」
警戒している様子で、エルフの青年が詰問する。
おっさんは包囲網を敷く彼らをちらりと見ると、
「この耳が見えねえのかい。通りすがりのエルフだよ」
と、胸を張って堂々と答えてみせた。
ここで、彼らを包囲しているエルフ達の目線で、彼らを見てみるとしよう。
まず一人目。
黒髪黒目の、ツナギを着た中年男性。腰には様々な工具の入ったポーチに、ホルスターに入った巨大な拳銃型の魔導銃が二つ。
更に背中には、回転鋸のような刃を持つ、凶悪な見た目の魔導機械式大剣を背負っている。
人相は控えめに言って、かなり悪い。口には火のついた煙草を咥えており、こちらを見据える鋭い目つきは、油断なく隙を伺っているように見える。
脱力し、一見隙だらけのようにも見えるが妙な凄味と威圧感を感じ、軽々しく仕掛けては致命的な傷を負う予感がひしひしとする。
次に二人目。
白い頭髪と、同じく白く長い髭が特徴的な老人だ。紋章の描かれた、見慣れない和風の衣装を着ている。
(※白い紋付袴。ゲンジロウが戦闘時に着用する服)
痩せており、手足は枝のように細いが、よく見れば一切の無駄がそぎ落とされた、引き締まった肉体である事が見て取れる。
背中には木製の大型弓を背負い、腰に矢筒。弓はエルフ達から見ても、これまで見た事がないほどの高品質な逸品だ。
彫りの深い、皺が刻まれた顔は、蓄積された経験に裏打ちされた自信に溢れており、静水のような穏やかさの下に、烈火の如き激しさを隠している。そんなイメージを湧かせる。
二人の耳を見れば、確かにエルフ族特有の尖った耳が付いている……が。
「貴様らのようなエルフがいてたまるか!正体を現せ!」
そもそもエルフは寿命が長く、老化が極端に遅いため、中年や老人のエルフなど族長を含めても両手の指で数えられる程しか存在しない。
おっさん痛恨のミスであった。
いや、そもそもそれ以前の問題として彼らの纏う雰囲気は、エルフから見れば違和感バリバリの異質な物であり、バレて当然ではあるのだが。
「チッ……バレちまっちゃあ仕方がねえ」
おっさんはそう言って、付け耳を外して投げ捨てる。
「やはり人間……!」
それを見て驚き、警戒を強めるエルフ達だったが……
「ゲン爺!」
「任せい!」
「「【ユニゾンアーツ:真・弾幕結界】!!」」
背中合わせになり、一瞬にしてそれぞれの武器、二挺拳銃と弓を構えるおっさんとゲンジロウ。
おっさんが連続で放った魔力弾がエルフ達の持つ弓を破壊し、ゲンジロウが纏めて放った矢は、エルフ達が番えていた矢を悉く弾き飛ばす。
一瞬にして、包囲していたエルフ達が無力化された。
「さて、てめぇら……俺達は族長に用がある。案内して貰おうか」
何が起こったのかわからない、といった様子で混乱するエルフ族の青年に向かって、おっさんはそう言って凄んで見せるのであった。
年末休暇なんですか!執筆時間いっぱい取れるんですか!やったー!
↓
ほとんど休日出勤じゃないですかー!やだー!