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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
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4.争いの火種

 大陸北部、第四エリア。

 エリアのほぼ全てが広大な大森林であり、良質な木材が数多く採れる事でも有名な地域である。

 ギルド【C】の木工職人たちはその日、パーティーを組んで斧を手に、木を伐採していた。


「おっ、★×9のエンシェントウッドが出たぜ」

「ヒューッ、良いポイント見つけたな」

「マップに印付けとこうぜ」


 良質な素材を採集でき、喜ぶ職人たち。早速それをアイテムストレージに仕舞うと、マップウィンドウを開いて印を書き込んだ。

 その時、彼らのうちの一人がマップを見て呟く。


「良く見るとここ、エルフの村に結構近いんだな」


 彼の呟きに、他の者達が相槌を打つ。


「おっ、そうだな……。エルフ領には入ってないよな?」

「そこは問題ないぜ。あいつら勝手に入るとうるさいからな」


 エルフ。

 少し前に、この北部エリアのエリアボスが討伐された事によって封印が解かれ、復活した太古の七種族のうちの一つ。

 長い耳と美しい容姿が特徴で、力や体力は低いが器用で、高い魔力を持つ。


 彼らエルフは復活後、この北部第四エリアの大森林に村を作った。村とその周辺はエルフ達の領土とされている。


 エルフ族は自尊心の高い者が多く、また排他的だ。

 彼らを解放し、また復活後も様々な援助をし、隣接する北部第三エリアに領土を持つ【流星騎士団】とは仲が良いが、基本的にあまり人間が好きではないようで、自分達の住処に入られるのを嫌う。


「もうちょっと奥に行くと、エルフ領だから気を付けようぜ。いちいち絡まれても面倒臭ぇしな」

「賛成」

「あいつら綺麗なのに愛想悪いからなぁ……勿体無え」


 打ち合わせを終えて、再び職人たちは斧を手に伐採作業に戻ろうとした。

 だが、その時。


「……あ?」


 突然、風切り音と共に飛来する矢が、一人の職人の首に突き刺さった。

 ダメージエフェクトと共に、戦闘能力は高くない彼のHPが大幅に減少する。


「PKか!?」


 伐採用の斧を投げ捨て、職人たちは素早く武器を装備する。

 そして、矢が飛んできた方向へと目を向けた彼らが見たものは……



  ◆



「エルフに襲われた、だと?」


 大陸西部、第八エリア――ギルド【C】本城、玉座の間にて。

 玉座に座るのは、ギルドマスターであるおっさん。彼の隣には直弟子のユウが控えている。

 そして、おっさんの前には襲われた木工職人達と、彼らのリーダーであるゲンジロウが居た。


「ああ、確かに俺達を襲ってきたのはエルフだった……」


 襲撃された木工職人、総勢六人が見たのは、弓矢を構えたエルフの部隊であった。

 彼らは襲ってきたエルフの弓隊と戦ったが、抵抗空しく全滅。

 死に戻りでイグニスの街に帰還した後、すぐに城に戻っておっさんに報告をしていた。

 彼らの報告を受けて、おっさんは厳しい顔で眉間に皺を寄せた。


「うっかりエルフ領で伐採して襲われた……って事は無ぇよな?」


 念の為に、とおっさんは彼らに問う。

 もしも勝手に領土に入って、彼らの大切な森を伐採していたのならば、エルフ達にも彼らを襲撃する正当性がある。

 とはいえ、警告も無しでいきなり矢を浴びせるのはどう考えてもやり過ぎであり、そこを突いてやる事はできそうではあるが。


「いや、そこは問題ねえよ。俺ら直前までマップ開いてたしな。戦闘ログとSS(スクリーンショット)も保存してあるぜ」


 最初に矢を受けた男が、そう言って複数のウィンドウを開き、それをおっさんの前に移動させた。おっさんはそれを受け取り、素早く目を通す。


「………………確かに。間違いは無えな」


 マップの位置を確認し、SSと照らし合わせて間違いが無い事、エルフ側から発表されている、領土とも重なっていない事を確認する。

 更に念の為にと、ログが改竄されている形跡がない事も確認したおっさんは、そう言って頷いた。


「――アナ公!」

「ハイハーイ。お呼びデスカー?」


 おっさんがそう呼びかけると、天井裏から床に降り立つ人物が一人。

 犬耳と尻尾のアクセサリを付け、忍者装束を着た金髪の少女。アナスタシアだ。


「話は聞いてたな?一応確認するが、エルフが発表している連中の領土は、このマップに記載されている物で間違い無えな?」


 おっさんが見せたマップを見ると、アナスタシアは頷いた。


「Yes。間違い無いデース。ワタシ達のギルドにも、領土が広がったという情報は入ってないデスヨ」

「よし。ご苦労」


 おっさんがアナスタシアにゴールドを手渡す。それを受け取ると、アナスタシアは再び天井裏に消えた。

 彼女の所属するギルド【アルカディア放送局】は、このゲーム内の様々な情報を集めるために日夜奔走しており、その情報の量と正確さは随一だ。間違いはないだろう。


「これで決まりだな」


 おっさんは玉座から立ち上がり、下命する。


「お前達はゆっくり休め。デスペナで失ったアイテムは、ギルド倉庫から補填して良し。それと正確なログを残し、迅速に報告した事を評価して経験値を贈与する」


 おっさんがギルドマスター専用メニューを開き、溜まっているギルド経験値を使って、六人の職人達に経験値を振り分ける。

 そして失ったギルド経験値は、おっさん自身が所持している経験値を使って補充した。


「リベンジの機会は与えてやる。そいつを使って足りてねえ戦闘スキルでも覚えときな」

「――押忍!」


 六人の職人パーティーが退出する。そして……


「少し出かけてくるぜ。ユウ、幹部共を集めて説明をしておいてくれ。それとゲン爺、あんたは俺と一緒に来てくれ」


 おっさんはそう言い残し、襲撃された木工職人達のリーダーであるゲンジロウを伴い、城を出るのだった。

 彼が目指す先は、勿論……


「エルフの村にカチコミだ。行くぜゲン爺」

「おうよ。よくもわしの可愛い弟子共を襲ってくれたものよ。目に物見せてくれるわ」


 大陸北部、エルフの村。

 心せよ、エルフ達。おっさんが来るぞ、気を付けろ。

戦争が始まります。今回はプロローグ。


最近また忙しくて体調崩したりで、またしばらくの間投稿ペースが下がりそうです。


(2014/12/30 誤表記修正)

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