男たちの頂上決戦 ~謎のおっさんと○○○○○○~
「……行くか」
ぼそり、と呟いて立ち上がる男が一人。
ぼさぼさの黒髪に無精ひげ。口には煙草を咥えた、白いツナギを着た中年男性だ。顔つきは整っているが人相は指名手配犯とタメを張れるレベルで悪い。とりわけ目つきは地獄の鬼も失禁しながら土下座する程の凶悪さであった。
男の名は、謎のおっさん。
彼はこれより、決戦の地へと赴く。
これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきたおっさんにとっても、経験が無い程の熾烈な戦い、一大決戦。
だが、おっさんの様子に緊張や怯えは見られない。彼の胸中にあるのは勝利への想いのみ。
いつも通りにただ戦い、勝つ。それだけの事だ。
気負いも緊張も無い。絶対強者たる己が敗北する可能性など、おっさんは一切考えていなかった。
◆
「行ってくる」
優しくそう言った青年を、心配そうに見上げる魔物たちの姿。
小さなドラゴンや、黒い体毛の狼。蝶のような羽をもつ妖精の少女に、炎を纏う巨大な鳥、額に角を持つ馬など、多種多様なモンスターが勢揃いしている。これらはテイミングモンスター……すなわち、この青年の持つ【テイミング】スキルによって、彼の仲間になった魔物たちだ。
青年の名はカズヤ。
孤高のソロプレイヤーであり最強の魔法剣士。そして魔物を捕獲し、育て、共に戦うテイマーとしても非常に優れた能力を持つ男だ。
だが、今日これより行なわれる戦いには、彼の仲間達は付いていく事はできない。あくまでカズヤは、その身ひとつで立ち向かわなければならないのだ。
孤独な戦い。そして相手はいずれも強敵・難敵揃い。
だが負けぬ。カズヤは勝利への誓いを胸に、心配そうに見つめる仲間たちへと背を向けた。
◆
「そろそろ、時間ですね」
そう言って名残惜しそうに立ち上がる少年と、そんな彼の背中を見つめる女性の姿があった。
少年の名はシリウス。トップギルドの一角【流星騎士団】を束ねる騎士団長であり、最硬の盾役にして魔剣使い。
「どうか、気をつけて。無事に帰ってきてね」
シリウスの背中に、そう声をかけた女性の名はカエデ。長い黒髪と巫女装束が特徴的な美女だ。長身でスレンダーなモデル体型の持ち主である。
「ええ、必ず。勝って戻ってきます」
振り向いて、年上の幼馴染であり恋人でもある女性にそう答えたシリウスは、迷う事なく戦場へと向かって駆けていった。
かつてない程の強敵との巨大な戦、苦戦は免れない。
だが負ける訳にはいかない。必ず勝利し、彼女の元へと帰ると少年は決意した。
◆
「行って参ります、女神様」
頭を垂れて言うのは筋骨隆々の、赤い髪の男。そして跪く彼の前には、純白の八翼を持つ神々しい美女の姿があった。
「どうしてもゆくのですね、イグナッツァ」
その女性、創世の女神イリアが目の前の男、炎神イグナッツァに言う。イグナッツァはその問いに、無言で頷いて答えた。
彼の決意がオリハルコンよりも固く、決して揺るがぬ事を見てとったイリアは、ただ一言。
「どうか貴方に武運がありますように、祝福を」
そう言って、イグナッツァの肩へと手を伸ばした。光がイグナッツァの体を優しく包む。
「一度は邪神族の奸計に陥り、貴方を裏切った私への寛大なお言葉、感謝いたします……」
イグナッツァは立ち上がり、イリアに深々と頭を下げる。
そして彼女に背を向けると、振り返る事なく走った。
我が勝利を、女神に捧げん。
必勝の誓いと共に、イグナッツァは戦場を目指した。
◆
そして遂に、戦場に四人の男達が集う。
東の方角からカズヤが。
北の方角からシリウスが。
南の方角からイグナッツァが。
そして西の方角から、謎のおっさんが。
男達は無言で視線を交わし合った。
目の前に立つ敵たちの姿を前に、もはや言葉は不要。
そう、決戦はこの四人の男達によって行なわれる……!
アルカディア最強の男達は手強い敵の姿と、これから始まる戦いに闘志を漲らせた。
「全員揃ったな」
そんな四人の男達の前に、一人の男があらわれて言った。
作業服を着て、眼鏡をかけた知的な雰囲気の青年だ。
彼の名は【機工師】ジーク。
おっさん率いる生産ギルド【C】の幹部であり、【魔法工学】と呼ばれる、魔法と科学が融合した、魔力によって動く機械製品を創り出すスキルの熟練者。
「ジークか。装置の準備は出来ているな?」
「当然だ。抜かりはないぜ」
おっさんの質問に、ジークが答える。
その答えを聞いて、おっさんは満足そうな、獰猛な笑みを浮かべた。他の三人も同様である。
おっさん、カズヤ、シリウス、イグナッツァ。
この四人による頂上決戦は、ジークが用意した、とある特殊な装置を使用して行なわれる。
アルカディア最高峰の技師が作りし装置は彼らの前に鎮座しており、白い布でその姿を隠されていた。
「では……始めようか。決戦を!」
白い布が取り払われ、巨大な装置が彼らの前にその姿をあらわした。
四人の男達が、その装置へと近づく。
シリウスがその装置の北側へ。
イグナッツァがその反対方向の南側へ。
カズヤが東側へ、おっさんが西側へ。
四人の男達はそれぞれ、装置の東西南北、四方へと別れて配置についた。
彼らの前にはそれぞれ、両手で持つレバーのような物があった。
男達は、それを両の手でしっかりと握る。
「準備が出来たようだな……じゃあ、始めるぜ!!」
ジークのその言葉と共に、装置が音をたてて起動する。
戦いの幕が――上がる!
そして彼らは両手で握ったレバーへと力を込める。
そして、今まで抑えていた闘志を存分に発散させんと――叫ぶ。
「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥ――――――ッ!!」
「「「超!エキサイティン!!!」
装置の天井部分から転がり落ちてくるのは、色とりどりの大量の球体!
それを彼らは手元のレバーを操作して、自分のゴールの手前にあるフリッパーで弾き飛ばして、自分のゴールにボールが入らないようにすると共に、相手のゴールを狙うのだ!
大量のボールを次々とフリッパーを操作して弾き、そのたびにドカドカと派手な音が鳴る。それと共に装置の天井部分が発光して赤や黄色の光を撒き散らし、男達の興奮を煽る。
彼らがこの戦いに使用している装置の名、それはバトルドーム!
ボールを相手のゴールにシュゥゥーーーーッ!
超!エキサイティン!!
3Dアクションゲーム、バトルドーム!
ツクダオリジナルからかつて販売されていた、伝説の玩具!
ルールを説明するぜ!
このゲーム、バトルドームは四人で対戦するゲームだ。
四人のプレイヤーがそれぞれ四方向にあるゴールと、フリッパーを操るレバーの位置へと付いて、スイッチを入れたらゲームスタートだ。
するとドームの天井部分にセットされているボールが、フィールド上に落下する。そしてボールはフィールド上を転がって、各プレイヤーのゴールに向かって落ちてくる。
後はわかるだろう。これは対人型ピンボールゲームだ。ボールが自分のゴールに落ちてこないようにフリッパーを使って弾きつつ、相手のゴールに向かって叩き込め。
ボールには色があり、色によって点数が違う。少ない点数のボールはあえて見逃し、高い点数のボールを的確にスナイプするテクニックも重要だ。
そしてゲーム終了時に、自分のゴールに入れられたボールを数えて最も合計点数が少なかった者が勝者となるのである。
彼らがプレイしているのは、ジークがその技術を結集してゲーム内で作り上げた巨大バトルドーム!
臨場感も難易度も、通常のそれとはケタが違うぜ!
「シュゥゥーーッ!!」
「超!エキサイティン!!」
男達は叫びながら、必死にレバーを操作して巧みにボールを弾き返す。
大きくエビ反りにのけぞって、エキサイティン!しながら雄叫びと共にボールを弾き返し、貪欲に相手のゴールを狙う男達の姿にギャラリー達のテンションもウナギ・ライジングだ。
普段は冷静なカズヤさえもが超!エキサイティン!しながら闘志を剥き出しにする姿には感動すら覚える。
次々とフィールド上に現れるボールは増えていき、戦いは激しさを増していくが、いまだ戦況は五分と五分、予断を許さない。
果たして、この戦いの勝者は誰になるのであろうか!?緊迫の次回を震えて待て!
続く訳ねぇだろォォォォォォォ!!
という訳で、謎のおっさんとバトルドームでした。
酷いスランプで納得いく物がかけず、書いては消しての繰り返しが続いているため、気分を変えて物凄い勢いでトチ狂った物を書こうとした結果がこれです。
(2014/11/4 誤字修正&ちょっとだけ加筆)




