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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第2.5部 短編・番外編集
83/140

†我ハ漆黒ノ不死鳥也† 其ノ十

「はぁ……勝てたか」


 炎と化してPKの首魁に突撃し、西武の中継ぎのごとくド派手に炎上させた不死鳥。いつもの決めポーズと共に名乗りを上げ、敵の消滅と戦いの終わりを見届けた彼は、そこでふっと力を抜いた。

 そのタイミングでアビリティ【FoW:漆黒ノ不死鳥】の効果が消え、彼の背中から炎の翼が消え去る。

 そして彼の前に、システムメッセージが表示された。


『【FoW:漆黒ノ不死鳥】のアビリティレベルが上昇しました』


 先ほどまで発動していたアビリティのレベルが上昇する。

 不死鳥はウィンドウを開き、素早く目を通してダメージの上昇率や効果時間といった各項目が強化されている事を確認した。


(すごく強力なアビリティだ……しかし、これは一体……)


 先ほどまで自らが使っていた力。そのあまりの強力さと、得体の知れなさに恐れを抱く不死鳥。だがその考えは、次のメッセージを見て吹き飛んだ。


『効果時間中のデスペナルティが適用されます。

 今回の死亡回数は一回。一回分のデスペナルティが適用されます。

 経験値が減少しました。

 装備アイテムの耐久度が減少しました。』


「デスペナあるの!?」


 そのメッセージに驚く不死鳥。

 そんな彼をよそにデスペナルティが粛々と適用され、彼の所有する経験値が減った。


『効果時間中に死亡した回数分のデスペナルティが適用されます。また、一度の効果発動中に何度も死にすぎると、ペナルティがより大きくなります』


 彼のツッコミに反応して、システムが返答を返した。

 嬉しくないお知らせである。非常に強力なアビリティではあるが、タダで何度も復活できるような甘い話は無かった。


『アビリティレベルを上げる事で、効果時間中の死亡によるデスペナルティを抑える効果も得られます。ただしアビリティレベルを上げるには、このアビリティの効果で復活を行なう必要があります』


 どちらにせよデスペナは避けられないらしい。

 もう二度と使うものか。そう決意する不死鳥であったが、どうせ妹がピンチになればそのうち使う事になるのは確定的に明らかであった。


 不死鳥はウィンドウを閉じると、妹の元へと歩み寄った。


「天使、勝ったぞ」

「……ん」


 天使が立ち上がる。妹を見上げて、不死鳥はガッツポーズを取った。


「もう大丈夫だ。だから泣くな」


 そう言って笑う不死鳥から、恥ずかしそうに顔を逸らす天使。


「……泣いてない。きっと不死鳥の見間違い」

「そっか。ならそういう事にしておこうか」


 妹にそう言うと、不死鳥は背後に振り返った。

 彼の視線の先には、一人の少女。

 宙に浮かぶ箒に腰掛けながら、退屈そうにウィンドウを操作している。

 彼女は不死鳥の視線に気付くと顔を上げ、彼と視線を合わせた。


「ん、何だ。もういいのか?」

「ああ、待たせて悪い」

「別に構わん」


 彼女の名はエンジェ。

 ギルド【魔王軍】を率いるギルドマスターであり、ゲーム内でも屈指の魔法使いだ。


「まずは……助けてくれてありがとう」

「ありがと……」


 不死鳥と、その隣に並んだ天使が揃って頭を下げる。

 それに対してエンジェは不機嫌そうな表情を見せる。


「ふん、別に礼を言われる程の事ではない、ほんの気紛れだ。それに最後は貴様が自分で決めたわけだし、我も奴等の妨害で大して動けなかったしな」


 そう言うエンジェであるが、実際に彼女はPK達の八割以上をその手で葬っている。それでもPK達の連携に阻まれて思うように動けなかった事は、大いに不満であるらしい。


「とは言え、貴様には色々と聞きたい事がある。礼の代わりに、少し付き合って貰うぞ」

「それは構わないんだけど……一旦街に戻らないか?長くなりそうだしさ」


 不死鳥の提案に、「確かにな」と頷くエンジェ。

 彼女は杖を掲げ、魔法を発動させた。


「【ディメンジョンゲート】」


 何もない空間に、突然巨大な門が出現した。


「拠点に転移する為のゲートを召喚する魔法だ。使用者が入ると消滅するゆえ、お前達が先に入るがいい」


 エンジェが門を指さして言った。不死鳥と天使はその言葉に従い、門の中へと足を踏み入れた。



  ◆



「おかえりなさいませ、魔王様」

「うむ、今戻った」

「……そちらの二人は?」

「私の客だ。しばらくギルドマスタールームには誰も通すな」

「ははっ」


 門をくぐり、転移した先はギルド【魔王軍】の拠点であった。

 石造りの廊下を通り、エンジェの先導で黒羽根兄妹はギルドマスタールームへと案内された。


「さて……自己紹介がまだだったな。我が名はエンジェだ」


 高級そうなソファーに座り、ふんぞり返って名乗るエンジェ。

 そんな彼女に、黒羽根兄妹は怪訝そうな目を向けた。


「何だ貴様ら。我が名に何か文句でもあるのか」

「いや、単に妹と名前が似てて呼びにくいなぁ……と」

「……パクリ?」

「天使や、いきなりパクリ疑惑は良くない。せめて類似品と……」

「やかましいわ!ええい、ならば我の事は魔王様と呼ぶがいい!」

「わかったぜ魔王様!」

「魔王様……」


 どうやらエンジェの呼び名は魔王様で定着した様子である。


「さて……率直に聞くが、先程見せた貴様の力……あれは【Force of Will】による物で間違いないな?」

「……知っているのか!?」


 不死鳥がその言葉に反応し、勢いよく椅子から立ち上がった。


「座ってろ。……我もそれほど詳しく知っている訳ではないが、それを使える人間を貴様の他に、二人ほど知っている」

「俺以外にも、この妙なスキルを持ってる人がいるのか……」

「今のところ貴様を含めて三人しか使えない、極めて希少なスキルだ」


 不死鳥はスキルウィンドウを操作し、問題のスキル……【Force of Will】の項目をタップした。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【Force of Will】


 種別 シークレットスキル

 所有者 全プレイヤー


 【解説】

 大いなる意思の力は、世界の理すら超える。

――――――――――――――――――――――――――――――


 あまりにも短く簡潔な説明文。

 全プレイヤーが所持していると表記されているにも関わらず、使える者は不死鳥を含めて三人しか存在しないという。


「その説明文の通りだ。そのスキルは意志の力によってシステムの束縛を超越する理外の力。理論上は誰にでも使えるとの事だが、実際に使用する為には……それこそ、世界の理を打ち破るほどの、強い意志の力が必要になる」


 不死鳥の目をじっと見つめる、エンジェの瞳に力が入る。不死鳥はその視線に思わず気圧された。


「世界の理を打ち破るほどの、強い意志……」

「そうだ。貴様はそれをもって【Force of Will】を発動させた。恐らく今日はじめてこのゲームを始めたばかりであろう貴様が、だ」


 そう言ってエンジェは立ち上がり、不死鳥を見下ろしながら言葉を紡ぐ。


「『あの二人』と、そして貴様にあって私に無い物……世界の理を変えるほどの大いなる意志の力。私はそれが何なのか知りたい。教えてくれ黒羽根フェニックス。貴様のその意志の源は、一体なんだ?」


 不死鳥はその質問を受けて……目を閉じ、しばし考える。

 そして目を開くと、隣に座る妹……黒羽根エンジェルをちらりと見て、口を開く。


「なぁ天使、そろそろ晩飯の時間だよな?悪いんだけど先に落ちて、飯の支度をしててくれないか?」

「……内緒話?」

「いやぁ、そういう訳じゃないんだけど……」

「………………まあ、いいけど」


 台詞とは裏腹に不満そうな顔で、天使は立ち上がって部屋を出ていった。音をたてて扉が閉じる。


「妹には聞かせたくない話だったか?」

「まあ、そんな所。さて、何から話したものか……」


 不死鳥は少し考えてから、話し始める。


「俺は常に、自分の事を恥じている」

「……は?」


 唐突な、予想だにしない言葉に、エンジェの表情に困惑が浮かぶ。


「まず俺は見ての通り背が小さいし力も弱い。運動神経はそこそこ良いほうだと思ってるけど、体力も持久力も無い。子供の頃に比べたら相当マシにはなったけど体は弱いし、家事は大体苦手だ。ついでに言うなら頭も悪い。私服で街を歩いてると女に間違われるなんて事はしょっちゅうだ。あと運も悪い」

「いきなり何だ……」


 唐突な自虐に呆れ顔になるエンジェ。そんな彼女をよそに不死鳥は続ける。


「そんな俺には双子の妹が居る。背は高いしスタイル抜群なラッキーガールだ。運動も勉強も俺よりずっと得意で、料理も上手い。ちょっと無口だけど優しい子だし、正直俺が勝てる部分なんて何一つとして無いわけで、俺には勿体ないくらいの出来た妹だ」

「………………」


 不死鳥の台詞に、エンジェは不思議な共感を覚えた。

 思い浮かぶのは兄の姿。何をやっても常人である自分の数段上を行く、自慢の兄であると同時に、決して超えられない壁として君臨する男の姿。

 エンジェの心の奥底には、兄に対する劣等感や嫉妬が常にあった。

 目の前の少年も自分と同じように、妹に対する複雑な感情を抱いているのだろうか。

 そう思って不死鳥の目を見つめるエンジェだったが、彼の目にはそういった、負の感情は一切見られなかった。


「さて……そんな訳でこの俺、黒羽根フェニックスは妹に全ての才能を吸い取られた出涸らしダメ兄貴な訳だが……当の妹は、なぜかそんな俺の事を兄として慕って、いつも支えてくれているんだよな。……昔から、ずっと」


 そう語る不死鳥の瞳には喜びと、ほんの少しの悲しみがあった。

 そして、不死鳥がエンジェの瞳をじっと見返して言う。その目に宿る炎に、エンジェは気圧された。


「あいつは俺の、たった一人の妹で、宝物だ。俺はあいつの為ならいつでも死ねるし、あいつを傷つける奴が居るならば、例え世界中の人間が相手でも戦って、護ってみせる。もしも俺の中に、世界の理を超えるほどの強い意志があるというならば……それは妹、黒羽根天使への愛だ」


 それこそが、黒羽根不死鳥の唯一つの誇りであり、譲れない想いだった。

 その想い……妹を護りぬくという絶対の意志が【Force of Will】の発動を可能にしたのだ。


「……そうか。よくわかった。ありがとう」


 その言葉を聞いて、エンジェは薄く笑った。


「じゃあ、俺そろそろ落ちるな。もうすぐ晩飯の時間だしさ」

「ああ。手間をかけさせたな」


 不死鳥が部屋の扉を開く。

 彼が出ていく寸前に、エンジェはその背中に声をかけた。


「ちなみに妹を先に帰らせたのは、さっきの話を聞かせたくないからか?」

「……あったりまえだろ。恥ずかしくて聞かせられるか、あんなの」

「ククク、恥ずかしいという自覚はあったのだな。驚きだ」

「うっせうっせ。じゃあ、またな魔王様!」

「フッ……ああ、またいつでも来るがいい」


 扉が閉まり、不死鳥の姿が消える。

 それを見届けたエンジェは、ソファーにどっかりと腰を下ろした。


「はぁ~……敵わんな、全く」


 溜め息を吐くエンジェ。

 【Force of Will】を発動させた第三の男。

 その力を発動させるためのヒントを得るために、話を聞いてみたは良いが……


「ただの超凄いシスコンか。ったく、参考になるか、あんなの」


 呆れと、僅かな悔しさを滲ませた声でエンジェが独りごちる。


「……なんかモヤモヤする。落ちるか」


 もう良い時間だし、ログアウトして兄の作る夕飯を食べよう。

 そう考えて、エンジェはログアウトボタンを押すのだった。

長くなりましたが、次のエピローグで終わりです。


どうにもモチベーションが上がらずに難航しましたが、名明さんに素晴らしいレビューをいただいたお蔭でだいぶ持ち直しました。感謝。

という訳でお前らはこの作品にブラボーなレビューをくれた名明伸夫さんを崇め奉るべきだと思います。実際彼の書く様々な短編小説は短い時間で読めて、そのくせ充実した内容で満足できる事間違いなし(唐突なステマin後書き


(2014/11/6 誤表記修正)

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