†我ハ漆黒ノ不死鳥也† 其ノ五
「おお……人がいっぱいだ」
アルカディアに降り立ったプレイヤー達の、スタート地点となる第一の町。
周囲を高い城壁に囲まれた円形の大きな都市で、その名を【城塞都市ダナン】という。
その中央広場へと、不死鳥……キャラクターネーム、†黒羽根フェニックス†は降り立った。
周囲を見回すと、多くのプレイヤーが操るPCや、NPCが多く存在している。いかにも初心者といった見た目の者達や、そんな彼らに声をかける先輩プレイヤーの姿。
不死鳥が彼らの中から目当ての人物を探すと、幸いにもすぐに見つかった。何しろその人物……彼の双子の妹である黒羽根天使は、そこらの男よりも背が高いため、よく目立っていた。
不死鳥が近づくと、向こうも彼の姿を見つけたようで手を振ってくる。
「悪い、待たせた?」
「問題ない。こっちもつい先程きた所」
黒羽根天使。彼女の操るキャラクターは、現実世界の彼女と同様に、かなりの長身だ。モデル顔負けのスタイルと長い艶やかな黒髪はこちらでも健在であり、多くの人――特に男性プレイヤー――の目を引いていた。
この姿はランダムで選ばれた物であり、頭上に表示されているキャラクターネームは「†黒羽根エンジェル†」。ちなみに彼らは打ち合わせ等は一切していない。
「エンジェルさん、この子は?」
「顔と名前がそっくりだけど……妹さん?」
その時、どうやら不死鳥が来る前に、天使に話しかけていたらしきプレイヤー……男性の二人組が話しかけてきた。
(何だこいつら?)
不死鳥は妹を庇うように前に出る。身長差のせいで全く隠れていないのはご愛嬌だ。そして不死鳥は彼らの顔を見上げ、睨みつけて言う。
「俺、男だから」
ちなみに不死鳥は声変わりもまだであり、その声は中性的だ。彼の言葉を聞いた男達は驚きの表情を浮かべる。そして、そんな彼らの方へと振り向いた天使が、不死鳥を指さして口を開く。
「弟です」
「違う。ユーアー俺の妹!オーケー?」
「おっけー……」
「え、マジで!?」
兄妹の会話に驚く男達。そんな彼らに不死鳥がキレ気味に叫ぶ。
「あーん?何ですかコノヤロウ。妹より背が30㎝近く低くて童顔で女顔のこの俺に何か文句でも?」
「い、いや……なんつーかその、スマン」
「まあ元気出せよ少年、背だけが男の価値じゃないさ」
「やめろよ同情すんなよ泣くぞ」
「よしよし」
そして妹に頭を撫でられる不死鳥。どう見てもお子様であった。
「……で、あいつら何だったん?」
「ギルドの勧誘だった……断ったけど」
お詫びの印に、と幾許かのゴールドと、初心者向けの良さげな装備、消耗品などを貰った二人は、広場の片隅へと移動した。
「そういえば不死鳥……そのアバターだけど」
「ん?おう、かっこいいだろ?」
「現実より小さくなってない?あとかっこよくない。かわいい」
「そっちは逆に少し大きくなってるよな……。え、かっこよくない?」
妹の言葉にショックを受けた不死鳥は、恰好良さそうなポーズを取った。が、やはり子供が背伸びをしているようにしか見えなかった。
「かわいい」
「えー……ってこら、お兄ちゃんを抱っこするんじゃありません」
「ぎゅー」
不死鳥の静止を聞かず、天使は兄の頭を胸元に抱え込むようにして、きつく抱きしめた。不死鳥は何とか振りほどこうと抵抗するが、体格差がありすぎて無駄な抵抗に終わった。
「あのー天使さん?離してくれませんかね」
「かわいいからしばらくこのままで」
「苦しいんでちょっと緩めてくれませんかねぇ……!」
「不死鳥、おっぱいの中で喋らないで。くすぐったい。動くのも禁止」
「え、悪いの俺?つーかやばい、マジで苦しい。しぬ」
ちょうど顔が天使の豊かな胸で塞がれている恰好になっている不死鳥が、天使の腕をタップする……が、無駄っ……!
結局彼が解放されたのは、それからしばらく経った後の事であった。
「ぜーぜー……くそっ、危うくゲーム内での最初の死亡が【死因:妹の乳で窒息死】とかマジで意味のわからない事になる所だったぜ……」
解放された不死鳥が視界の片隅にあるHPバーを見れば、結構な割合で減っていた。
(このゲームは自由度の高さが売りであり、街中であろうと容赦無くHPは減るし、殺人や施設の破壊なども可能である。ただし街の中でそういった犯罪行為をすれば、屈強なNPC衛兵や正義感の強いプレイヤー達、PKKなどがすっ飛んでくるのでお薦めはできないが)
ちなみに現実世界において、不死鳥は平均して週に二回くらいの割合で、その死因で死亡しかけている。
「とりあえず天使、反省しなさい」
「さーせん」
「お詫びとして夕食後のデザートを俺に譲渡する事を要求する」
「陸軍としては海軍の提案に反対である」
交渉の結果、夕食のコロッケを一個譲渡する事で決着がついた。
◆
「ところで、そっちはどんな構成にしたんだ?」
ふと気になって、不死鳥はそれを尋ねた。
これから一緒にプレーするにあたって、相方のスキル構成や戦闘スタイルを知っておくことは重要だからだ。
ちなみに彼らは事前の打ち合わせ等は一切していないため、どんな組み合わせになるかは実際にゲームを始めるまで解らない状態だった。
「スキルウィンドウを出す」
「あれ、それって他のプレイヤーも見れんの?」
「許可した相手にのみ見せたり、ギルドメンバーに見せたりとかはできる。それと高レベルの眼力スキル持ちの中には、他プレイヤーの持っているスキルを見抜ける人もいるらしい」
「そっか。じゃあ俺のも見せるよ」
二人は同時に、相手に見えるようにスキルウィンドウを表示した。
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【スキルウィンドウ:†黒羽根エンジェル†】
武器スキル
【斧】斧系の武器を扱うためのスキル
補助スキル
【両手持ち】両手持ちの武器を扱う際に便利なスキル
【重量上げ】重い物を持ち上げる為のスキル
【薙ぎ払い】長柄の近接武器による範囲攻撃を習得可能
【剛力】STRや物理攻撃力上昇させるアビリティを習得可能
【強振】ダメージの安定性を犠牲に最大値を上昇させる
【捨て身】防御力を犠牲に攻撃力を上昇させる
【一撃必殺】速さを犠牲に攻撃力を上昇させる
【物理特化】魔法攻撃・防御を犠牲に物理攻撃・防御を上昇
【ダッシュ】素早い移動を可能にするスキル
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「まさかのガン殴りスタイル!?」
脳筋ギルド【バーバリアンズ】の団長が見れば泣いて喜びそうな、いっそすがすがしい程の物理攻撃特化型……いわゆる脳筋ビルドであった。ステータスもSTR特化型だ。
「スキルを上げて物理で殴ればいい」
「お前、これ……何?え、攻撃力以外スッカスカじゃん。どうすんのさこれ」
「足りない部分は不死鳥が補ってくれるって信じてた」
「俺も防御力は紙なんだけど……てか武器、両手斧かよ」
「巨大武器はロマン」
そう言って天使が取り出したのは、巨大な長柄斧だった。
「斧こそ至高の武器。序盤の敵ならきっと一撃」
「さよか……まあ天使、攻撃以外はダメっぽいから基本的に俺が前に出よう。幸い俺は色々できるから、敵の隙を作ったり体勢を崩したりする。で、その間に天使が重い一撃を入れる。この方針で行こうか」
「アックス(了解)」
「え、それ返事?」
「アックス(肯定)」
◆
「じゃあ確認もしたし、そろそろフィールドに出るか?」
「その前にアイテムの確認をするべき」
「そういえば特典アイテムとか貰ってたな。開けてみるか」
不死鳥がアイテムウィンドウを開くと、そこにはチュートリアル報酬の消耗品――HPやMPを回復するポーションや、一瞬で町に移動可能な転移の羽、料理など――が幾つか。
そして、プレミアムパッケージ特典BOXという、宝箱が一つ入っていた。
「えーと、実体化。これでいいのか」
不死鳥がそのアイテムをタップすると、サブメニューが開く。その中から【実体化】を選択すると、目の前に宝箱が出現した。
同じく宝箱を実体化させた天使と共にそれを開くと、中からは様々なアイテムが出現する。
「どれどれ……経験の書、使用してから二時間、取得経験値を二倍にする……か」
「こっちは修練の書。同じく二時間、スキル成長速度を二倍にする」
「HPエリクサーにMPエリクサー、それぞれHPとMPを全回復。それと復活の宝珠、死亡時に消費してデスペナルティを無効にして即座に復活可能……と」
「祝福の粉。アイテム製造の時に素材として使う事で成功率と品質を上げる」
中身は課金アイテムの詰め合わせであった。まず最初に出てきたのは様々な消耗品だ。
「次に、これは……腕輪?アクセサリかな」
「これが一番の目玉っぽい。装備しているだけで経験値が増える」
「マジで!?」
不死鳥は目を見開き、そのアイテムの詳細を確認した。
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【女神の腕輪】
種別 アクセサリ
品質 ★×10
素材 ピュアオリハルコン
HP+500 MP+500
全ステータス+20
装備中、常に取得経験値が+5%される。
このアイテムは他のPC・NPCと取引できない。
このアイテムは耐久度が存在せず、破壊されない。
このアイテムは所有者が死亡時にドロップしない。
【解説】
創世の女神イリアの祝福を受けた腕輪。
全てのステータスが大きく上昇する。
また、装備しているだけで経験値を多く得ることができる。
Ver.2実装記念プレミアムパッケージ特典アイテム。
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「なにこれすげえ」
「さすが特典アイテム。すごいね」
オンラインゲームにおいては、後から始めた者が先行者に追いつく事は非常に難しい。ネトゲは開始後のスタートダッシュこそが最も大事とさえ言われる程で、スタートがほんの数日遅れただけでも驚くほどの差がつき、それを取り戻すのは容易ではない。
ゆえに後発者に向けて、こういった成長を促進するための特典が与えられる例は多い。このゲームもまた例外ではなかった。
「あとは……なんだこれ?」
腕輪を装備した二人が最後に取り出したのは、小さな紙束だった。
「プレミアムガチャ券……五枚セット」
「アイテムガチャか……」
説明しよう!アイテムガチャとは、課金アイテムであるガチャ券を使用して、ランダムにアイテムを一つ入手できるシステムである!
ガチャ券の値段よりも高価な課金アイテムが出たり、非常に入手困難だったり、ガチャでしか手に入らないレアアイテムをゲットできるという利点がある反面、ランダム性が高いために狙ったアイテムが出にくいというデメリットもある。また、結果はプレイヤー本人のリアルラックに大きく左右されるのは言うまでもない。
「早速引いてみるべき」
「えーと、確率はRが50%、SRが30%、URが19%、GRが1%か……」
不死鳥がガチャの説明文を読んでいる間に、天使はさっそく手に持ったガチャ券を使用する。
彼女が束の中から一枚を取り出し、それを掲げると……ガチャ券が光に包まれて消滅。そして、エフェクトと共にアイテムが現れる。
不死鳥もそれを見て、自分のガチャ券を使用してガチャを引いた。そして……
「………………」
「不死鳥、どうしたの」
「普通のレアしか出ねー……」
がっくりと項垂れる不死鳥であった。
残り一枚を残し、四回引いて全てレア!SR以上無し!しかもその内容は、全て彼の戦闘スタイルには合わない装備品であった!現状では売って換金する以外に使い道なし!
「……ちなみに、そっちは?」
「SRがみっつ。URがふたつ」
「そうか……相変わらずの豪運だな……」
黒羽根天使は、非常にクジ運が良い。おみくじでは大吉以外に引いた事は無いし、福引きでも毎回のように上位の賞品をかっさらってくる。麻雀でリーチをかければ二回に一回は一発でツモり、裏ドラもごっそり乗る。その運はゲーム内でも変わらずに発揮されているようだ。
ちなみに彼女の兄である黒羽根不死鳥は、逆にひどく引きが悪い。身長と運を妹に吸い取られた男とはヤツの事さ。
「あー、天使。最後の一枚、使うか?」
「……いいの?」
「いいよ。俺が引いてもどうせろくな物出ないしさ。まあ俺の券だし、大した物は出ないかもしれないけど……俺が引くよりはマシだろ、きっと」
妹の幸運と、自らの運の悪さをまざまざと見せつけられ、僅かに沈んだ様子の不死鳥が、最後のガチャ券を天使へと差し出した。
天使は、そんな兄の手からガチャ券を受け取ると……その手を両手でぎゅっと握った。
「そんなことない」
「……天使?」
「いっしょに引く」
天使が不死鳥の手を握ったまま、ガチャ券を天に掲げる。
「ふたりで一緒にやれば、きっとうまくいくから」
先ほどと同じように、彼女の手の中で券が消滅する。
「何だ!?」
そして先ほどまでとは違う、天から白い羽と共に黄金色の光が降り注ぐエフェクトが発生し……
『おめでとうございます!†黒羽根エンジェル†さんがガチャでGRアイテム、【女神の金槌】を引き当てました!』
「GRおめ!」
「おめでとう!」
「おめええええええええ!」
「めでてえwww」
「GRキタアアアアアア!!」
「ちょっwそれ俺が狙ってたやつwww」
「売ってくれえええ!20M出すぞ!」
「安いわアホ!俺は30M出す!」
「めでたいなぁ!」
ワールド全体にシステムメッセージが流れる。そのシステムメッセージが流れた瞬間、世界チャットで数百人のプレイヤーから祝福のメッセージが届いた。
そして、当の引き当てた本人は、
「ほらね。言った通り」
そう言って、得意げに笑うのだった。
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【女神の金槌】
種別 生産道具
品質 ★×10(伝説級)
素材 神聖鋼
このアイテムは耐久度が存在せず、破壊されない。
【解説】
創世の女神イリアに祝福された最高級の金槌。
【鍛冶】系統のスキルを使用し、アイテムを生産する際に使用する。
生産成功率と生産品の品質に絶大なボーナスを得られる。
とても希少で、鍛冶師であるならば喉から手が出るほどの一品だ。
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妹メイン回。
妹キャラとかイマイチ上手く書ける自信がありませんでしたが、クールだけど兄思いな良い妹を書けるように頑張りました。
だが私はどちらかというと姉属性のほうが好きという有様。
(2014/10/3 表記修正・システム説明文追加)




