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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第2.5部 短編・番外編集
77/140

†我ハ漆黒ノ不死鳥也† 其ノ四

 前回までのあらすじ。

 VRMMORPG「アルカディア」のトップギルドの一角、【魔王軍】を指揮する大魔法使いエンジェ。彼女は現実世界においては四葉杏子という名の、中学二年生の少女であった。

 2039年1月、新学期が始まったその日、杏子のクラスに一人の少年が編入してくる。

 非常に小柄で童顔な、まるで少女のような外見。黒羽根不死鳥(フェニックス)という珍奇な名前。そしてその名に負けないエキセントリックな言動。双子の妹である黒羽根天使(エンジェル)共々、彼は一躍クラスメイト達の心に己の存在を刻み付ける。


 そんな黒羽根兄妹は帰宅後、最新型のVRマシンとVRMMORPG「アルカディア」のVer.2実装記念プレミアムパッケージを入手した。

 妹と共に、喜び勇んでアルカディアにログインした不死鳥。彼はチュートリアル担当NPCと化した【創世の女神イリア】のサポートを受け、基本的な操作方法やスキル・アビリティの習得などを済ませるのであった。

 そしていよいよ、チュートリアル戦闘が開始される。



  ◆


 【練習用ダミー】


 頭上にそう書かれた敵対NPCが出現する。見た目は丸太を繋ぎ合わせて人型にしたような姿、木人だ。


「よっしゃあ、行くぜ!」


 不死鳥は左手を前に突き出し、右手を腰だめに構える。なかなか堂に入った構えだ。そして彼はそのまま、木人との距離を詰めようとするが……


「あ、待ってください。初見の敵が相手の場合、まずは観察してみる事をおすすめします。【眼力】スキルのアビリティ、【アナライズ】を使ってみてください」


 その前に、イリアが不死鳥にアドバイスをした。


「なるほど、やってみる……って、アビリティってどうやって使うん?」

「頭の中で、この技や魔法を使うと強くイメージすれば使えますよ。アーツやアビリティの名称を発声する事によって音声認識サポートが働くので、慣れるまでは声に出してみるのもいいですね」

「わかった!」


 元気に返事をして、不死鳥は目の前で動かない木人をじっと見つめた。


(相手をじっくりと観察して、情報を見抜くイメージで……)

「【アナライズ】!」


 不死鳥のイメージと発声にシステムが応答し、アビリティが発動した。不死鳥の目の前に、敵の情報が書かれたウィンドウが表示される。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【練習用ダミー】

 かなり弱い敵だ。


 【詳細データ】

 HP 1000/1000

 MP 0/0

 STR 10

 AGI 10

 VIT 10

 DEX 10

 MAG 10


 【解説】

 チュートリアル用のダミー人形。HPはかなり高めだ。

 だが戦闘能力は低いので、思う存分技の練習台にしよう。

 一応反撃してくるが、ダメージは殆ど無いので安心してほしい。

――――――――――――――――――――――――――――――


 それと同時に、木人の頭部に赤い色のサークルが表示される。その中心には「weak!」という文字が書かれていた。


「あそこが弱点って訳か」


 不死鳥は頷くと、練習用ダミーに飛びかかる。まずは近づいて左のジャブとローキックを一発ずつ素早く入れて相手の体勢を崩した不死鳥は、アーツを発動させた。


「【ライジングアッパー】!」


 飛び上がりながら、拳に火炎を纏ったアッパーカットを木人の顎へと直撃させた不死鳥。弱点攻撃によって経験値ボーナスが入り、ダメージを受けた木人が後ろにのけ反る。しかし、それだけでは木人のHPをすべて削りきる事はできなかった。


 攻撃された事により不死鳥を敵と認識し、木人が反撃体勢に入る。

 いっぽう不死鳥は、アーツを放った体勢のまま、空中にて滞空している状態である。無防備な不死鳥へと向かって、木人が拳を突き出そうとしている。


 アーツは強力な必殺技だが、そのぶん普通の攻撃に比べて使用前、使用後の隙は大きい。

 不死鳥は使用前の隙を、事前にコンビネーションで敵の体勢を崩す事で補ったが、使用後の隙はどうにもならない。

 大抵のプレイヤーは、ここでアーツ使用後の隙を突かれて反撃を受け、アーツを使用すべきタイミングを学ぶ。

 恐らくは彼もそうなるであろう。イリアはそう思って次のアドバイスを準備するが……


(やばい、動けないぞ)


 【ライジングアッパー】を放った体勢のまま動けない不死鳥。無防備な彼に木人の拳が迫る。だが不死鳥は諦めず、思考を続けた。


(待て、変だぞ。なぜ俺は動けない。技を放った直後とはいえ全く身動きができないのはおかしいんじゃないか?普通のゲームなら兎も角、自分の体を動かしているんだから。現に俺はアッパーを放つ前に、続けて追撃を入れる事を想定して動いていたはずだ。なのにアーツを使い終わった瞬間に俺の体は勝手に止まった。おかしい、こんな事は許されない。誰に断って俺の動きを勝手に止めやがった。まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ(ここまで0.5秒)

 ……というわけで結論、俺の体が動かないのは間違っている。動け)


「だらっしゃあああ!」


 勢いよく叫び、不死鳥はシステムに縛られて動けないはずの体を強引に動かし、アッパーを放って突き上げた右腕を全力で振り下ろす。

 真下に向かって打ち下ろした肘が、勢いよく木人の額にカウンターで突き刺さった。二回連続の弱点攻撃を受けて、木人が仰向けに倒れた。


「ブーッ!?」


 その光景を見て、思わず噴き出すイリア。

 そんな彼女をよそに、不死鳥はすぐさま追撃の体勢に入った。


「【エンチャント:ファイアボルト】!」


 【魔法剣】スキルにより、拳に炎の矢を放つ元素魔法、ファイアボルトを付与した不死鳥は、倒れた木人に馬乗りになった。

 木人はそんな不死鳥を押しのけようとするが、その前に……


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」


 マウントを取った不死鳥が、左右の拳を次々と弱点部位の頭へと振り下ろした。拳による物理ダメージ以外にも、時折魔法剣による炎の矢(ファイアボルト)が発動して頭に突き刺さる。


「君が!死ぬまで!殴るのをやめないッ!」


 ノリノリで台詞を叫び、ひたすら木人をタコ殴りにする不死鳥。彼はトドメにアーツを発動させた。


「【ブレイジングクロー】ッ!」


 これもまた火炎属性を持つアーツである。炎を纏った手で対象焼くと同時に握り潰す、所謂アイアンクローのような技。隙は大きいが強力なアーツ。不死鳥はそれを発動させ、木人の頭へと小さな掌を押し付け、力を込める。


「(とりあえず、これは言っとかないとな……!)ヒィィィト、エンドォォオッ!」


 不死鳥がキメ台詞を叫ぶと共にヒットポイントが0になり、アワレにも木人は灰と化した。


「フッ……」


 それを見届け、ニヤリと満足そうな笑みを浮かべて立ち上がる不死鳥。


「見たか我が力!その魂に刻め、我は漆黒の不死鳥、黒!羽!根!フェニーックス!さあ、次の相手は何だ!?」


 いつものポーズを決めつつ、チューリアル担当NPCたるイリアへと振り返る不死鳥。そんな彼へとかけられた言葉は……


「あ、もういいんでさっさとゲーム始めてくださいますか?」

「えっ!?」


 という、実に冷ややかな言葉と視線であった。


「あの、イリアさん?なんか対応がさっきと違くないですか?」

「いえ気のせいです。先ほどの戦いぶりを見るに、もう貴方に教えられるような事は何も残っていないのでさっさとゲーム本編を始めちゃってください。あ、これチュートリアル完了報酬と、プレミアムパッケージ特典のアイテムですので。お帰りはあちらになりますのでさっさと行って下さいよ私は忙しいのでほら早く(ハリー)早く(ハリー)!」


 イリアはひどく焦っていた。

 こいつはアレ(カズヤ)とかアレ(おっさん)と同じ種類の人間だ。関わってはいけない。

 言葉ではなく本能でそれを理解した彼女は、一刻も早く不死鳥を追い出さんとする。


「ちぇっ、なんだよ畜生、俺が何したってんだよ!」


 その対応に拗ねた不死鳥は、特典アイテムを受け取ると同時に、素早くイリアのスカートを盛大にめくり上げた後にダッシュで逃走した。


「ちょっ!?何するんですか!」

「よし、見えた!あばよとっつぁーん!」

「ぐぬぬ……このっ、二度と来るなー!」

「もう来ねえよバーカ!」


 小学生かお前ら。ともあれ子供のような捨て台詞を残してその場を後にした不死鳥であった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 不死鳥が出ていくのを見届けて、深いため息を吐くイリアだった。

 何とか追い出すのに成功した。チュートリアルが途中で終わってしまったが、初っ端からあれだけ無茶な事をする彼ならば問題はないだろう。むしろアレに巻き込まれる他のプレイヤーが心配である。

 次に来る人はマトモなら良いが……そう考えてイリアが一息つこうとしたその時。


「よう、今何か面白そうな気配がしたから寄ってみたぜ!」


 彼女の脳内ブラックリスト、その筆頭のとあるプレイヤーが突然顔を出した。


「ちょっ!?何で居るんですか!?どうやって入ってきたんですか!?ここ初心者専用エリアなんですけどおおおおお!!純粋な初心者の皆さんが汚染される前に早く出ていってくださいよぉ!」

「酷ぇ言い草じゃねぇか。まあいい、どうやら居なくなったみてーだし帰るわ。また来るぜ!」

「二度と来るなぁ!……はぁはぁ、今日は厄日ですか……まったくもう」


 それを必死に追い出した後、疲れた様子で座り込むイリアであった。



  ◆



 システムメッセージ履歴


 『【マルチアクション】スキルの習得条件を満たしました』

 『【カウンター】スキルの習得条件を満たしました』

 『【追撃】スキルの習得条件を満たしました』

 『チュートリアル完了報酬を入手しました』

 『プレミアムパッケージ特典アイテムを入手しました』



  ◆



 アルカディアBBS


 取引掲示板 スレッド名:【買】胃薬


 1.イリア@創世の女神

 誰かお願いします。

 このままでは私の胃がストレスでマッハ。


 2.シリウス@流星騎士団

 すいません僕にもお願いします


 3.サウザー@流星騎士団

 団長ェ……


 4.虎徹@バーバリアンズ

 なんぞこの謎定期


 5.クック@C

 とりあえず胃に優しそうな料理用意しときますね


フェニックス?ああ、あいつね、カズヤ級のバグキャラだよ?




おっさん級じゃないだけ有情(キリッ

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