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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第2.5部 短編・番外編集
76/140

番外編・謎のおっさんとFPS(中編)

 前回のあらすじ!

 東京の片隅にひっそりと住む一人の男、その名は不破恭志郎。

 彼には二つの顔がある。一つは腕利きの私立探偵としての顔。

 そしてもう一つは、凄腕のゲーマーとしての顔だ。

 そう、彼こそがVRMMORPG「アルカディア」において、トッププレイヤーとして君臨する【謎のおっさん】の正体であった!


 VR空間内における犯罪者の制圧や、揉め事の解決を生業とする【VR探偵】としての側面も持つ恭志郎はある日、大学生の青年から依頼のメールを受け取る。


 依頼人の青年は世界初のVRFPS「WAR AGE ONLINE」のプレイヤーであった。

 彼がサークルの友人達と共に結成したクランは、現在危機に瀕している。その危機とは、凶悪な精鋭トップクランに目をつけられ、毎日のように襲撃され、一方的に虐殺されているという事であった。

 なんたる事か!確かに対人戦闘・殺人が前提となっているゲームではあるが、特定の相手に付きまとって、執拗に嫌がらせのごとく追い回すのは明らかなマナー違反である!


 そんな被害を受けている彼らであるが、勇気を振り絞って己の力で強大な敵に打ち克たんとしている。そしてそのために、凄腕のゲーマーであり、かつて伝説の傭兵と呼ばれた男に指導の依頼をしたのだ。

 あくまで自分達の力で立ち向かおうとする彼らの心意気に打たれた恭志郎は、依頼を快諾。VRFPS「WAR AGE ONLINE」……通称WAOの世界へと降り立つのであった。


 FPSでも謎のおっさんが大暴れだ!奴の暴挙を見逃すな!



  ◆



 VR空間にログインした不破恭志郎。

 普段であればVRMMORPG「アルカディア」を起動するところだが、今回に限っては違った。彼が起動したソフトはWAOである。


 当然であるが別タイトルである為、アルカディアのデータを使用する事はできない。恭志郎は、まずキャラクターの作成を行なった。


「ランダム以外は甘え。そうだろう?」


 誰にともなく呟いた彼は、迷わず「おまかせ」のボタンを押す。現実世界の彼の身体データを元に、アバターが形成された。


 次に初期武装の選択。

 アサルトライフル、サブマシンガン、ショットガン、スナイパーライフル……と、FPSでは定番ともいえる各カテゴリの武器が並ぶ。

 だが彼はそれをことごとく無視。普通なら誰も選ばないようなカテゴリへと手を伸ばした。


 『Main Weapon:Colt SAA buntline special』


 選択されたのは、拳銃。シンプルで洗練されたデザインの、回転式リボルバー拳銃であった。

 コルト・シングルアクションアーミー。19世紀末にコルト社によって生み出された傑作であり、西部劇の代名詞とも称される程にメジャーな拳銃だ。

 そのバリエーションの内の一つ、バントラインスペシャル。12インチの長銃身を持ち、かつて僅か五挺だけ生産されたと言われている品で、かの保安官、ワイアット・アープも使用していたという。


 そして次に恭志郎はサブウェポンを選択。こちらもメインウェポン同様に、拳銃が選択された。


 『Sub Weapon:S&W M29』


 サブウェポンとして選ばれたのは、スミス&ウェッソン社の回転式拳銃、M29。

 1970年代の傑作ハリウッド・アクション映画『ダーティハリー』で『世界最強の拳銃』として有名になった。銃に詳しくない方でも、この銃に使用する弾薬……【.44マグナム弾】の名前くらいは聞いた事があるだろう。


 最終的に彼の装備は、メインとサブウェポンに高威力のリボルバー拳銃、近接武器にナックルガード付きの、肉厚の大型ナイフ。消耗品として選択されたのはフラッシュグレネードだ。

 なんとも極端で尖った構成。普通ならばまずやらない、ネタ装備と揶揄されても文句を言えないラインナップである。


 最後に、キャラクターネームの設定。

 恭志郎はアルカディア同様に、【謎のおっさん】の名を使おうとしたが……


「って、何でぇ。アルファベットと数字しか使えねぇのかい」


 世界中で同時発売されているタイトルだけあって、名前に使えるのは英数字のみであった。

 仕方なく彼は別の名前を設定しようとし、少し考えた末に空中に表示されたキーを叩く。


「ま、これでいいか」


 【Raven(レイヴン)


 それが不破恭志郎の、WAOでの名前となった。

 ゆえにこのお話では、彼の事をそう呼ぼうと思う。



  ◆



「うわああああ!何だこのおっさん!?」

「なんでこの距離で弾が当たらねえんだ!クソッ!」

「馬鹿な、何故アサルトライフルが拳銃に撃ち負ける!?」

「おい、そっち行ったぞ、挟み撃ちに……おい、どうしたB班!?おい!応答しろよぉ!?」


 バトルフィールドに、哀れな羊達の悲鳴がこだまする。

 たった一人の男により、チームは壊滅状態に陥っていた。


 ルールは8対8のチームサバイバル。

 赤チームと青チームに分かれ、殺し合う。先にキル数が100に到達するか、タイムアップの時点でキル数がより多いチームが勝利する。シンプルでオーソドックスなルールだ。


 遡ること数分前。

 赤チームの面々は、いつものように各々の愛銃を手に拠点を出て、突撃した。

 ステージ中央にある通路付近で敵とかち合い、撃ち合いになるのがいつもの展開。今回もそうなると決めてかかった彼らは、目の前に現れた男の姿を見て動きを止めた。


 黒く染められた、鴉の羽のような装飾が付いた野戦服を着た、中年の男。

 手に持っているのは、二挺のリボルバー拳銃。


(何だこいつは?ふざけてるのか)

(メイン・サブ共に拳銃だと?頭がおかしい初心者か?)


 ライフルやマシンガンと拳銃、どちらが射程や火力に優れているかは言うまでもないだろう。

 閉所戦闘用のサブウェポンとしてなら兎も角、メイン武器に拳銃を選ぶなどという事は舐めプ以外の何物でもない。

 ゆえに彼らはその男――レイヴンの行動を挑発行為、あるいは勝負を捨てた馬鹿の、笑えないジョークと受け取った。


(馬鹿にしやがって)


 男達がレイヴンに銃口を向け、トリガーを引く。

 銃弾が次々と発射され、目の前の馬鹿をハチの巣にする――男達はそれを疑わない。


 が、しかし。

 まるで舞うような軽やかな動きで、その男は銃弾を回避してみせる。

 まさに男達が銃弾を発射する、その瞬間を完全に見切って動き出し、最低限の動きで全てを回避して見せたのだ。


 そしてそのまま、最も近くに居た男の眉間に銃口を向け、発射。.44マグナム弾が狙い違わず眉間を貫通して殺害する。ヘッドショット!


「「「「「!?」」」」」


 それを目撃した残りの男達が動揺する。その隙を見逃す訳もなく、レイヴンは急加速。

 凄まじい速度で彼我の距離を詰めると、先頭の男にスライディングタックルを仕掛けて転ばせる……と共に両手の拳銃を、不安定な体勢のまま標的を見もせずに発砲!しかし見事に両方ともヘッドショット!ダブルキル!トリプルキル!


 更に右手のバントラインスペシャルを上空に放り投げると共に立ち上がり、腰の鞘からナイフを抜き放つと、スライディングタックルで転ばせた男の首、頸動脈を掻き切った!ナイフキル!マルチキル!


 そして間髪入れず、レイヴンはナイフを敵の一人に矢のような速度で投げ放つ。そして空いた右手でバントラインスペシャルをキャッチすると同時に、再び銃弾を二発同時発射。ナイフと拳銃で残った三人を同時に殺害!ジェノサイド!


「う……うわああああああああ!?」


 運よく標的にならなかった、最後列に居たスナイパーが怯えながら、震える手を抑えながら狙撃銃のスコープを覗き込む。

 恐慌しながらも何度も繰り返して体に染みついた動きで、一瞬で標的に照準を合わせたその時――スコープごしに敵、レイヴンと目が合った。


「ひっ!?」


 凶悪な目つき。そしてそれ以上に、まるで明日の朝に屠殺される家畜を見るような、僅かな同情が混ざった冷酷なその目が、彼の僅かに残った戦意を奪い去った。



 そして現在。

 レイヴンというワンマン・アーミーによって壊滅させられた赤チームの面々は、拠点でリスポーンし、再度出撃した後も、何度も一方的に屠られ続けた。


 馬鹿正直に正面から行けば、一方的に蹂躙される。

 チームワークを活かして包囲しても、あっさりと逃げられる。

 むきになってヤツ一人を追えば、その隙に他の青チームの者達に奇襲され、そちらに対応している内に件の男は自分達の背後に回っている。

 ゲームが終わる頃には、青チーム100に対して赤チーム13という屈辱的なスコアで大敗した。そして赤チームが稼いだ13というキルスコアの中に、レイヴンは入っていない。


「ま、こんなモンか。お疲れさん」


 試合終了のアナウンスが鳴ったところで、レイヴンは二挺の拳銃をホルスターに収め、チームメイトに声をかけた。


「サー!お疲れ様でありますサー!」

「また機会がありましたら宜しくお願いいたします!サー!」


 そんなレイヴンに対して、青チームのメンバーは直立不動で敬礼を取る。その姿は頼れる上官に付き従う新兵のようであった。


「いやー、あの人マジでパネェわ……」

「銃弾発射されるの見てから回避するとか人間じゃねぇな」

「いや、あれはその前の段階で、射撃のタイミングや着弾点を見切ってると見た。明らかに射撃前から回避運動に入ってたしな」

「あと何で背後の敵に向かって正確にHS(ヘッドショット)叩き込めるんですかねぇ……」

「あと途中で俺、スナイパーに狙撃されたんだけどさ。あの人が拳銃で横から銃弾撃ち落として助けてくれたんだが」

「マジで?」

「俺も見たわ。敵スナ幽霊でも見たような表情で棒立ちしてたぞ」

「指示も完璧なんだよなぁ……あの人の指示したルート進んだら簡単に敵の死角突けたし」

「そうそう。無双しながらこっちのフォローもしてくれたし」

「とりあえずSS撮ったしスレに貼り付けてくるわ」


 レイヴンが去った後も、青チームの男達はフィールドに残り、彼について話していた。


「何者なんだろうな、あのおっさん……」

「どっかで見た事あるような気はするんだよなぁ……」

「レイヴン、か……。ちょっと調べてみるか。あれほどの腕前で凄く目立つし、詳しく知っている奴が居るかもしれん」


 すっかりレイヴンのファンになった男達が、彼の正体に辿り付くまでには暫しの時間を要する。

 そして、当の本人はと言うと……


「肩慣らしとしちゃあこんなモンか……しかし小さいミスが幾つかあったな。まだ少し時間はあるし、カンを取り戻す為にもう少し戦っていくか」


 自らの戦いぶりに今一つ納得いっていない様子で、約束の時間までに調整という名の蹂躙を何度も繰り返すのであった。



  ◆


 【キャラクターネーム】

  Raven


 【戦績】

  参加ゲーム数 10(内訳:チームサバイバル10)

  勝率 100%

  Kill数 540

  Dead数 0

  K/D 分母が0のため計算不可能

  ヘッドショット率 62%

  ナイフキル率 38%

  最大連続キル数 15

  ワンゲーム最大キル数 58

作者はFPSに関しては、一時期サルのようにハマっていましたが下手の横好きです。

初心者には勝てるけど上級者に虐殺される程度のよくいるタイプ。

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