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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第2.5部 短編・番外編集
73/140

†我ハ漆黒ノ不死鳥也† 其ノ二

「失礼しましたーっ!」


 大声で声をかけつつ、職員室の扉を勢いよく閉めたのは一人の男子生徒だ。肩のあたりまで伸びた、艶のある漆黒の髪の毛。端整だが幼い、中性的な顔立ち。中学生の男子生徒としては、かなり短い背丈。


「うるさいぞ黒羽根!もう少し静かに閉めろ!」


 職員室の中から聞こえた怒鳴り声を無視して、その少年――黒羽根不死鳥(フェニックス)は悠々と歩き出した。

 始業式と担任教師の有難い説教が終わり、後はもう帰るだけである。


「不死鳥」


 と、そんな彼に声をかける人物が一人。女子生徒である。長い黒髪、そこらの男子生徒よりも高い身長に、中学生離れしたグラマーな体つき。顔は不死鳥とよく似ている。

 彼女の名は黒羽根天使(エンジェル)。不死鳥の双子の妹だ。


「天使。そっちも終わった?」


 彼女は兄の質問に、こくりと頷いた。


「帰ろう」

「ああ。今日はあれ(・・)が届く日だからな。早く帰らねば」

「ん、とても楽しみ」


 天使が不死鳥の隣に立ち、二人は帰路についた。小さい兄と大きい妹。並んで立つとより一層お互いが目立つ。色々とアンバランスだが、兄妹仲は良好だ。



  ◆



 帰宅し、妹の作った昼食を食べた後。

 自室に戻った不死鳥は、どこかそわそわとしながらベッドに寝転がり、漫画を読んでいた。だが漫画の内容はほとんど頭に入らず、落ち着かない様子で起き上がったり、再び寝転がったりしている。

 どれほどの時間そうしていただろうか。ピンポーン、という音が鳴った。来客があった事を告げる音だ。


「ついに来たか……!!」


 仰々しい台詞を呟きながら、不死鳥は勢いよく起き上がり、ベッドから飛び降りた。そして勢いよく部屋のドアを開け、外へと飛び出す。


 全く同じタイミングで、妹の天使もまた部屋から飛び出してきた。


「不死鳥、来た。急ぐべき」

「ああ!……って待て天使、その恰好で行くな!」


 普段クールな妹が、こころなしかワクワクした様子で急かすのに頷こうとした所で、不死鳥は彼女の肩を掴……もうとしたが背丈が足りず、届かなかったので服の裾を掴んだ。


「……?」

「不思議そうな顔すんな!色々見えそうになってるから!」

「……あ」


 見れば天使は着崩したパジャマ姿であり、上のボタンは適当に止めただけで、下着もつけていない状態である。

 当の本人は、不死鳥に指摘されて初めて気付いたといった風な表情。色々と無防備な娘さんであった。


「俺が受け取ってくるから、部屋で待機!OK?」

「おっけー……」

「あと、家の中だからってあんまりだらしない恰好するんじゃないの。女の子なんだから」

「……善処する」


 不死鳥は妹のパジャマのボタンを丁寧に止め、待機を命じた後に階段を三段飛ばしで駆け下り、玄関へと向かった。


「すいません、お待たせしました!」


 勢いよく階段から飛び降り、回転しながら華麗に着地を決めて現れた少年に驚いた様子の客人。その正体は、運送会社の配達員であった。


「アッハイ……すみません、こちらにハンコお願いします」


 不死鳥は素早く荷物を受け取り、送り状に判を押した。

 そして配達員を見送ると、受け取った段ボールを抱えて階段を駆け上がる。そして廊下を駆け抜け、妹の部屋のドアを蹴破らんばかりの勢いで開け放った。


「受け取ってきたぞ!」

「おー」


 不死鳥が手に抱えていた段ボール箱を床に置き、ガムテープを勢いよく剥がして開梱する。そして、箱の中から現れたのは……


「遂に念願のVRマシンを手に入れたぞ!」

「ころしてでも、うばいとる……?」

「やめろ、ちゃんと天使の分もあるから」


 ヘッドギア型のVRマシンが二つ。カラーはどちらも黒だ。

 それも、ただのVRマシンではない。

 本日はVRMMORPG「アルカディア」の、最新版パッケージの発売日である。それと同時に、本体とセットで購入することで様々な特典が受けられるキャンペーンも開始された。

 彼らが購入し、たった今手元に届いた物は、アルカディアの最新版クライアントがインストールされ、パッケージに付属している特典アイテム、それから本体同時購入キャンペーン、予約特典、オフィシャル通販特典と、様々な特典が付属した品である。

 前々からこのVRMMORPG「アルカディア」に強い興味を抱いていた彼ら兄妹は、お年玉をはたいてこの最新版クライアント付きのVRマシンを購入したのだ。


「じゃあ、また後で向こうでな!」


 不死鳥は自分の分のVRマシンを手に持ち、妹の部屋を後にした。そして駆け足気味に自分の部屋へと入り、VRマシンを頭に被り、ベッドへとダイブした。

 長めのケーブルを電源へと接続し、初期設定を終わらせる。

 どちらかといえば機械は苦手な不死鳥であったが、音声認識などのわかりやすいサポートのおかげで、特に苦労する事もなく設定を終わらせる事ができた。


「さて、それではいよいよ……!」


 ごくり、と生唾を飲み込んで、初めてのVR空間へのログインに心を躍らせる不死鳥。彼は勢いよく立ち上がると、あらかじめ設定しておいたログイン・キーワードを唱える。


「我が名は漆黒の不死鳥!黒!羽!根!フェニーックス!」


 一言ごとにキレのあるポーズを取りながら、最後は大空に舞う鳥のように両手を広げて叫ぶ。

 そして、彼の発したキーワードを受けてVRマシンが……


『エラー、体勢が不安定です。危険ですのでログインする際はベッド等に横になり、決して倒れる事のない姿勢で行なって下さい』


 と、無慈悲なエラーメッセージを吐き出した。


「………………」


 暫くポーズを決めたままで硬直していた不死鳥は、やがてゆっくりと動きだす。ばつの悪そうな顔でベッドに横になり、枕に後頭部を置いた。


「……アクセース」


 そして実にどうでもよさそうな、やる気のない声でデフォルトのキーワードを呟く。その言葉に反応し、VRマシンが今度は正常に動作し、彼の意識を肉体から切り離すのであった。

キャラクター名鑑


【黒羽根不死鳥】

熱血系中二病バカ。小さい。ややシスコン気味。


(2014/9/7 修正)

【黒羽根天使】

クール系中二病バカ。大きい。ブラコン。

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