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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第2.5部 短編・番外編集
72/140

†我ハ漆黒ノ不死鳥也† 其ノ一

 四葉杏子、十四歳の中学二年生。


 プログラマーでありゲームクリエイターの両親の間に生まれ、両親は多忙で家を空ける事が多かったが、幼い頃から聡明でしっかりしていた兄と、父の親友(母の遠い親戚でもあるらしい)の男性の下で、何不自由なく育った。

 両親の影響もあり、幼い頃からゲームにハマり、今では立派な廃ゲーマーである。


 そして年齢柄か、いわゆる厨二病という物を煩っている。彼女の両親が開発し、彼女自身も熱中しているVRMMORPG「アルカディア」においては、銀髪・オッドアイ、眼帯、黒マント、闇魔法メイン……と、オサレでカッコイイ要素を山積みしたキャラクター、【エンジェ】として活躍している事は、皆様もご存知の通りである。


 さて、ゲーム内においては最強の魔法使い、トップギルドの一つを束ねるギルドマスター、漆黒の魔王エンジェとして君臨している彼女であるが、現実世界リアルでは普通の中学生だ。

 成績は中の上。運動はやや苦手。背は低めで、体つきは年相応といったところか。髪型はゲーム内のプレイヤーキャラクター同様に、長めのツインテールだ。当然だが銀髪ではない。


 彼女は現実世界においては、極力目立たないように過ごしている。

 見た目は小柄な美少女であり、否応なしに目立つものの、休み時間などは一人で本を読んで過ごし、積極的に人に話しかける事もないため、周囲からは「無口で儚げなお嬢様」のように思われている。密かに男子からの人気は高い。



 ゲーム内で、おっさんがイグナッツアを打倒してから約二ヶ月の時が過ぎていた。

 現在、暦は西暦2039年の一月。

 冬休みが終わり、今日から新学期が始まろうとしていた。


(あーあ、退屈……早く帰ってログインしたいなぁ)


 充実したネトゲ生活を送れた冬休みを懐かしみながら、杏子は物思いに耽った。

 考えるのは、専らアルカディアの事である。


(もうすぐギルド戦が実装されるし、少しでも戦力を増強しないと……マリア姉(アナスタシア)から、北斗(シリウス)が有力な新人を獲得したって聞いたし、私も今日は有望そうな新人の勧誘でもしてみようかな……)


 ホームルームが始まる前。久しぶりに会った級友との会話で騒がしい教室の片隅で、彼女は一人考え込むのだった。


(今日は最新の、特典付きパッケージの発売日だし。きっと新人がいっぱい入ってくるはず。うん、やっぱり今日は勧誘をしよう。【C】や【流星騎士団】あたりの有力ギルドに先んじて、将来有望な新人をゲットするのだ)


 杏子がそのように考えている間に、いつのまにかホームルームが始まっていた。

 担任教師が新年の挨拶をしている間にも、クラスメイト達はひそひそと話をしている。


「あー、お前達も既に知っているようだが、今日からうちのクラスに新しい仲間が加わる」


 どうやらその原因は、転入生が入ってくる事が原因だったようだ。

 杏子は、


(こんな時期に転入生なんて、珍しい。まあ、どうでもいいけど)


 そう考え、興味なさげに頬杖をついた。


「よし、黒羽根!入ってきなさい」


 担任教師が、教室の入口へと向かって声をかける。

 直後、扉が開き、一人の男子生徒が入ってきた。


 小さい。

 教室内のほぼ全員が、そんな第一印象を抱いた。


 身長は150cmに満たないほどで、中学二年生の男子にしてはかなり小柄だ。線も細く、童顔で髪も長いため、まるで少女のような外見である。


「じゃあ黒羽根、自己紹介をしてくれ」


 教師の言葉に、黒髪の小柄な少年は頷く。そしてチョークを右手に持ち、黒板の方を向いた。


「小せえな……小学生じゃないのか?」

「でも結構可愛いかも~」


 彼のそんな姿を見て、クラスメイト達がひそひそと話し始める。

 黒羽根少年は、初日からなかなか目立っている様子だ。

 だが彼らは知らない。今のはほんの序の口であった事を。

 そして、彼の伝説がこれから始まるという事を……。


 黒羽根少年が、背伸びをしながら黒板に、己の名を大きく書き上げる。

 そこに書いてあった文字は……


 【黒羽根 不死鳥】


 であった。


「なんだあの名前……?」

「ふし……ちょう……?」


 困惑するクラスメイト達へと、向き直った黒羽根少年。彼は大きく息を吸い込み……


「俺の名は黒羽根(くろばね)不死鳥(フェニックス)!このクラスに舞い降りた、黒炎を纏いし漆黒の不死鳥だ!」


 何やら格好よさげなポーズを取りながら、大声でそう宣言した。

 そう、黒羽根不死鳥(フェニックス)、それが彼のフルネームである。


「「「「「   !?   」」」」」


 クラスメイト、混乱。

 だが、まだ終わりではない。

 突然、教室の扉がガラッ!と大きな音を立てて開いたかと思えば、一人の女子生徒が勢いよく教室に飛び込んできたではないか。


 漆黒の艶やかな髪に大きな目。中学生離れしたスタイルの持ち主で、かなりの美少女である。

 そして何より目を引くのは、その身長だ。「女子にしては」などという枕詞が必要ないほどの、かなりの長身である。

 彼女は不死鳥の隣に立ち、チョークを手に取り、己の名を黒板へと書き出した。

 そして彼女もまた、不死鳥同様にクラスメイト達に宣言する。


「私の名は、黒羽根天使(エンジェル)。このクラスに舞い降りた、漆黒の翼を持ち破壊と再生を司る堕天使」


 彼女もまた、不死鳥同様にポーズを決めつつそう言い放った。

 黒板にはやはり【黒羽根 天使】という文字が書かれている。

 ちなみに不死鳥と天使は双子の兄妹であり、天使は隣のB組の生徒だ。妹のほうが兄より20cm以上身長が高いが、姉弟ではなく彼女のほうが妹である。


「「というわけで、よろしくお願いします」」


 黒羽根兄妹が揃って頭を下げる。

 クラスメイトと担任教師は揃って絶賛困惑中だ。


 これで掴みはオッケーだ。

 彼ら……黒羽根兄妹は、事前にこの暴挙を計画していた。


 黒羽根不死鳥(フェニックス)

 黒羽根天使(エンジェル)


 実に日本人離れした奇抜な名前である。

 幼い頃からそれが原因で、周りの子供達にからかわれる事も多かった。


 彼らは考えた。

 どうすれば名前が原因で、からかわれたり、苛められたりする事が無くなるのか。

 考えに考え抜き、彼らが至った結論とはすなわち、


 「いっそ開き直って、自分からネタにして笑いを取ればいい」


 である。


 最初は困惑していたクラスメイト達も、彼らのダイナミックな自己紹介にウケたようで笑いをこぼしている。

 作戦成功だ。

 二人は顔を見合わせ、親指を立ててお互いの健闘を称えあった。

 だが、そんな仲睦まじい兄妹に、声をかける者が一人。


「あー、君達……色々と言いたい事はあるが、後で職員室に来なさい」


 担任教師である。表情は笑顔のままだが、妙な威圧感を感じる。これが漫画であれば彼の背後に「ゴゴゴゴゴ……」といった擬音が浮かんでいることだろう。


「押忍、すいませんっしたー!!」


 不死鳥は男らしく、その場で土下座した。

 なお、天使のほうは自分のクラスの担任に連れ戻された後に、同様に説教をされた事は言うまでもない。


 そんな彼らの姿を見ながら、四葉杏子は……


(な、何あれ……!意味わかんない……!!)


 俯きながら、抑えがたい衝動に耐えるようにプルプルと震えていた。

 凄まじくインパクトのある名前と外見。兄妹揃う事でお互いがお互いを、より一層引き立て合う強烈な個性。

 そしてトドメにあの、厨二病全開の自己紹介である。

 杏子はそれを聞いた時、思わず立ち上がって教壇へとダッシュし、


「控えよ愚民共!我が名はエンジェ、このクラスを支配せし漆黒の魔王なるぞ!者共、頭が高い!」


 などと叫びたくなるのを必死に堪えたものだ。


(あいつらヤバい……関わらないようにしないと……!)


 奴等と下手に関われば、うっかり自分の本性が衆目の前に曝け出されかねない。現実世界で悪目立ちするのは御免なのだ。関わらないようにしよう。

 そう決意しながら、杏子は問題の転入生……黒羽根不死鳥をちらりと見る。するとそこには……


「黒!羽!根!フェニーックス!」


 一声発するごとにビシッ!とポーズを取り、最後に華麗な背面宙返りを決めながら、大きく翼を広げた鳥のようなポーズで締める不死鳥の姿があった。


「いいぞー黒羽根ー!」

「おっと、俺の事は気軽にフェニックスと呼んでくれ!」

「「「フェニックス!フェニックス!」」」


 早速クラスメイト達に囲まれている。かなり陽気な性格のようで、先ほどのインパクトのある自己紹介もあってか一瞬で打ち解けたようである。


(ブーッ!?ちょっ、やばい、見るな見るな……!)


 その姿に思わず噴き出しそうになり、目を閉じて必死に堪える杏子であった。

番外編になります。

第三部を始める前に、おっさん以外をメインに据えた短編を幾つかやる予定です。

まずは熱血系厨二病男の娘、黒羽根フェニックスの活躍にご期待下さい。

そして四葉杏子(エンジェ)の運命やいかに。

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