46.第二部エピローグ
「――コホン、冒険者達よ、よくぞ封印を解いてくれました。また少々予定とは異なりましたが、邪神族に操られていたイグナッツァを開放してくれた事にも感謝します。素晴らしい戦いぶりでした」
長く苦しい戦いが終わった。
創世の女神イリアは、この場に集いし勇敢なる冒険者達に感謝の言葉を述べる。その姿は非常に美しく、神々しい。
そして、畏れ多くもそんな彼女を前にした冒険者たちは……
「勝ったぞおおおおおおおおお!!」
「よっしゃ、おっさんと龍王様を胴上げだ!」
殊勲者の二人の周りに集まり、彼らを胴上げして褒め称える者達。
「レイド組んでたおかげで俺らにも経験値いっぱい入ったンゴwww」
「フヒヒwwwイグナッツァのドロップ品おいしいですw」
「俺らほとんど何もしてねーけどな」
戦利品を眺めてニヤニヤする者達。
「あー腹減った!クックさん俺にもラーメンセットくれ!」
「こっちにも大盛りで!」
「テツヲさーん、武器壊れたから修理頼むわぁ」
商売を始める職人達と、彼らの元に群がる消費者達。
「おうカズ坊、すっかり忘れてたけどクサナギ返せよ」
「……おっさん、確か錬金術の習得権を譲った時に、何でも一つ言う事を聞くと言ったな。くれ」
「確かに言ったが……何だ、気に入ったのか。まあいいや持ってけ」
「ありがとう。ところでイグナッツァのドロップ品で、こんな物が手に入ったんだが。俺にはイマイチ使いにくいから、買い取ってくれないか?」
「おぉ、良いねぇ。10M(一千万ゴールド)でどうだ?」
「もう一声」
激レアアイテムを手に交渉を始めるおっさんとカズヤ。
七柱神という強敵を撃破した事でお祭り騒ぎのプレイヤー達は、誰一人として女神の話を聞いていなかった。
まさかのスルーに軽くキレそうになる女神であったが、ぐっと堪える。
無視されたからといって、怒って攻撃するような真似はしない。大人の余裕というやつだ。決して、下手に攻撃したらおっさんに何をされるかわからなくて怖いからという訳ではない。断じてない。
創世の女神イリアは気を取り直し、床に倒れ伏しているイグナッツァの元へと歩み寄った。
おっさんに倒され、瀕死の重傷を負った炎神の胸に、イリアは手を当てる。すると彼女の手が、そしてイグナッツァの体が淡い光に包まれた。
「……うぐっ」
イグナッツァが呻き声を上げ、ぴくりと動く。そして、その目がゆっくりと開かれた。
「ここは……我は一体……」
「イグナッツァ、気がつきましたか」
「イリア様……?」
イグナッツァが体を起こす。その表情からは、先ほどまでのような険しさは失われていた。彼の意識を操っていた存在が消えた事により、正気に戻ったのだ。
「正気に戻ったようですね。よかった……」
「申し訳ありませぬ……操られていた時の事は、ぼんやりとですが覚えております。よりによって邪神共にいいように操られた挙げ句、貴女様を手にかけてしまうとは……」
イグナッツァが跪き、頭を垂れる。
「頭を上げなさい、イグナッツァ。過ぎた事を悔やむよりも、未来に目を向けましょう。未だ残った六柱は邪神族の手に落ちたまま……。これからの戦いのため、どうか貴方の力を貸して下さい」
「寛大なお言葉、感謝いたします……!」
話がまとまった所で、彼らに声をかける者がいた。
謎のおっさんである。【FoW:世界の破壊者】の効果が切れたようで、今は元の姿に戻っている。
「おう、何やってんだおめーら!打ち上げ始まるぞ、グラス持て!」
ビールがなみなみと注がれたジョッキを両手に持ったおっさんは、それらをイリアとイグナッツァに押し付けた。そして自身もまた、同じ物を手に持った。
「えっ、あのっ……」
困惑するイリアをよそに、おっさんは彼女に背を向ける。
彼の視線の先にいるのは、ジュースが入ったグラスを手に持った少年。重厚な金属鎧とマントを着けて、腰には漆黒の魔剣を挿している。
このボス討伐隊の主宰者である、ギルド【流星騎士団】の団長、シリウスだ。
「それでは飲み物も行き渡ったところで……色々とイレギュラーな事態もありましたが、ボス撃破を祝しまして……乾杯!」
「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」
集まった者達が一斉にグラスを掲げ、近くに居る者とぶつけ合う。
その中には、ドワーフ達の姿もあった。
「なんじゃこの酒は!?人間の造る酒は凄いのう!」
「おう、この料理も絶品じゃわい!」
ギルド【C】の料理人たちが作った酒や料理を絶賛する者達、テツヲ率いる鍛冶師たちと、鍛冶について熱く議論を交わすドワーフの職人達、屈強な肉体を誇示し、冒険者たちと武勇伝を語り合う者たちなど様々だが、彼らもすっかり打ち解けているようである。
「ささ、イリア様、イグナッツァ様。お二方もこちらへ」
ドワーフの長老が、二人に声をかけてくる。神に挑み、打ち勝ったカズヤやおっさんの武勇、人間の職人達の優れた技術や美味い酒、料理。新たな友人達との出会い。そして自分達の創造主たる炎神が正気を取り戻し、女神イリアも再び地上に姿を現した。様々な良い事がいっぺんに起こり、すっかり上機嫌になっている。
「えーと……その前にですね、これからの話を……きゃあっ!?」
空気についていけずに、真面目な話を続けようとしたイリアであったが、そんな彼女の体が突然抱えられる。
その犯人は勿論、謎のおっさんだ。おっさんは畏れ多くも女神の体を片腕で抱きかかえ、強制連行する。
「目出度い席で野暮な事言ってんじゃねえっつーの!おう料理班!女神様に料理をお出ししろぃ!」
「お、下ろしてくださいぃぃぃぃ!?」
抵抗する女神だったが、おっさんがその程度で止まる筈もなく。
「イ、イグナッツァ!私を助けなさい!」
最後の手段として、女神は眷属たる神の一柱、炎神イグナッツァに助けを求めるが……
「ぬぅっ!?これは……!熱々の激辛タレを豆腐が優しく中和し、歯応えのある挽き肉と、ネギやニンニクの芽のシャキシャキした食感が更に深い味わいを引き出す!鮮やかな赤・白・緑の色合いも食欲をそそり、そしてそれらの味が十分に染み込んだ白米の、なんと美味な事か!このイグナッツア、所詮は人間の作る料理と侮っていた事を恥じ入るばかりよ……!!」
「お気に召していただけたようで何よりです。こちらのラーメンと餃子もいかがでしょう?」
「むっ、それはあの無礼な男が食していた料理だな!いただこうか!」
当のイグナッツァは、クックが作った麻婆丼を絶賛しながらかっ込んでいた。
「イグナッツアああああ!?ちょっと貴方正気に戻ったと思ったらキャラ崩壊してませんか!?」
「おまたせしましたー、Cカレー完成しましたー」
「こまけぇ事気にすんなっての!ほら、料理来たぞ!」
結局、女神は流されるままに宴会に巻き込まれ、その日はまともに話も出来ずに終わったのであった。
「イリアです……こう見えて女神で偉いんですよ……でも誰も話を聞いてくれません……。あ、でもこのカレー美味しい。すいませんおかわりください」
なお、なんだかんだでそれなりに楽しんでいた模様。
◆
後日、改めて女神との話し合いの席が設けられた。
場所は、始まりの町にある神殿。これまでは入る事が出来なかった、何のためにあるのか解らない建造物であったが、封印の一つが解けた事によって進入可能となった。
今後は、この神殿が創世の女神イリアと、正気に戻った神々の、地上における活動拠点となる。
創世の女神イリアは冒険者達に、引き続き神の眷属の打倒、そして封印の解除を依頼した。
目的は残る六種族……エルフ、ウィング、ビースト、エクスマキナ、ドラグーン、デモニスの復活と、女神の力の開放だ。
「また、貴方たちに私が祝福を授けましょう。最初は微々たる物ですが、貴方たちが、私が用意した試練を乗り越えるたびに、強力になっていくでしょう」
イリアがそう言って手をかざすと、その場にいる者たちに光が降り注ぐ。
そして、彼らの目の前にはシステムメッセージが書かれたウィンドウが表示された。
――――――――――――――――――――――――――――――
【女神の祝福】
種別 エクストラスキル/神の加護
段階 第一段階
【解説】
創世の女神イリアの加護。
全ステータスへの補正や属性・状態異常への耐性など、
バランス良く様々な能力が上昇する。
エクストラスキルは通常のスキル枠を消費しない。
また、通常の方法では成長しない。
創世の女神イリアが発行するクエストを達成する事で成長する。
神の加護は複数習得していても、選択した一つのみが効果を発揮する。
どの加護の効果を有効にするかは、神殿で切り替えが可能。
――――――――――――――――――――――――――――――
「我の加護も与えよう」
女神の傍に控える炎神、イグナッツアもまた同様に、冒険者達に自らの加護を与えた。
彼がこの段階で味方になるのは完全にイレギュラーな事態ではあるが、その力はおおいに役に立つであろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
【バーニングソウル】
種別 エクストラスキル/神の加護
段階 第一段階
【解説】
炎神イグナッツァの加護。
STR、物理攻撃力が大きく上昇する。
また火炎属性の攻撃を強化し、火炎への強い耐性を得る。
エクストラスキルは通常のスキル枠を消費しない。
また、通常の方法では成長しない。
炎神イグナッツァが発行するクエストを達成する事で成長する。
神の加護は複数習得していても、選択した一つのみが効果を発揮する。
どの加護の効果を有効にするかは、神殿で切り替えが可能。
――――――――――――――――――――――――――――――
こうして、神の加護を得た冒険者たち。
彼らは新たなる力を得て、次なる戦いへと旅立つことになる。
「それで女神様、僕達が次に目指すべき場所は?」
シリウスが皆を代表して尋ねる。
「それは……」
女神がもったいぶるように言葉を切り、皆がその続きを待つ。
そして、女神の口からもたらされた言葉は……
「それにつきましては近日中に大型アップデートが行なわれるので、実装をお待ちください♪ぶっちゃけまだ未実装です!」
「メタいなぁオイ!?」
突然のメタ発言にずっこけるプレイヤー一同であった。そんな彼らの様子に、してやったりと微笑むイリア。どうやら女神も色々と吹っ切れたようである。
ともあれ次の大型アップデートまでに、冒険者達にはしばしの休息が訪れた。
しかし、彼らが立ち止まる事はないだろう。
グランドシナリオなど、あくまでMMORPGにとっては一つのコンテンツに過ぎないのだから。
経験値稼ぎに金策、スキル上げ、生産にギルドの規模拡張。やる事は山積みだ。
一つの目的を達成したからといって、ネトゲプレイヤーは止まらない。己を強化し、まだ手を出していないコンテンツへと手を伸ばし、次なるアップデートに備えるのだ。
いずれまた、強大な敵との戦いがあれば再び集い、結束して立ち向かう事もあるだろう。
だが今は、それぞれの道へと歩き出す彼らを見送り、筆を置くとしよう。
謎のおっさんとMMO、第二部はこれにて完結。
次なる第三部でも、おっさんの活躍と暴挙をお楽しみいただければ幸いである。
やっと終わった。
あとキャラ紹介とか、幾つか番外編をやろうと思いますがこれにて第二部完!
色々と苦労しましたが、何とか最後まで書ききれてホッとしてます。
途中キャラクター(主におっさん)が作者の意図に反して暴走を始め、プロットが何度か崩壊したりと苦労しましたが、それも含めて楽しかったです。
第三部に関しては前述の番外編とかやったり、後は第一部を少々手直ししたりとかした後に始めようと思います。
大雑把なプロットは組んでありますが多分また崩壊しかねないし、次はもっと計画的にいきたいなぁ。
最後に。
ここまで読んで下さった皆様、いつも感想をくれる皆様。
可能な限り執筆に時間を割きたいため感想返しは行なっておりませんが、励みになっております。
本当にありがとうございます。
こんな事言うと最終回みたいですが、もうちょっとだけ続くんじゃ。