43.人喰い鴉
―ソードマスターカズヤ―
カズヤ「くらえイグナッツァ!天覇黄龍撃!」
イグナッツァ「グワーッ!ヤラレターッ!!」
雷神「イグナッツァがやられたようだな……」
風神「だが奴は我らの中で一番の小物」
水神「七柱神の面汚しよ……」
土神「次は俺の出番のようだな……」
カズヤ「飛天龍王撃(相手は死ぬ)!!」
七柱神「「「「「「ウボァー!」」」」」」
カズヤ「遂に七柱神を倒したぞ!」
おっさん「よく来たなカズヤよ……待っていたぞ!」
カズヤ「お前は……謎のおっさん!」
おっさん「さあ来いカズヤ!実は俺は一回刺されただけで死ぬぞ!」
カズヤ「俺も厨二病の妹が居る気がしたが別にそんな事はなかったぜ!」
エンジェ「えっ!?」
カズヤ「うおおおおお行くぞぉオオオ!」
カズヤの勇気が世界を救う事を信じて……!
ご愛読ありがとうございました!月豕先生の次回作にご期待下さい!
◆
※このあらすじのようなものはフィクションです。
「謎のおっさんとMMO」本編とはほとんど関係ありません。
◆
「何今の技すげええええええええ!」
「秘奥義って言ったぞ!奥義の上位互換か!?」
「いや、発動タイミング的に各奥義の派生技と見た」
「やったか!?」
「おいやめろ馬鹿フラグ立てんな」
「その大剣どっちか下さい!なんでもしますから!」
「ん?今なんでもするって」
「勝った!第二部完!」
「だからフラグ立てんなっつってんだろハゲ!」
「イグナッツァ、死亡確認!」
「死んでないフラグですねわかります」
「ところで俺ら、いつ動けるようになるん?」
たった一人のプレイヤーが、神を圧倒する姿にプレイヤー達も沸く。
彼らは勝利を確信し、倒れるイグナッツァを期待を込めて見るが……
「クッ……フフフ……ハハハハハハハハハハ!!」
哄笑と共に、イグナッツァがむくり、と起き上がった。
神のHPは、カズヤの攻撃によってだいぶ減少したものの……残り半分ほどが残った状態だ。
「まさか人間が、我と力での勝負を挑み、打ち勝つとはな……見事なり!」
イグナッツァの顔からは、既に被造物たる人間を見下す傲慢さは消えていた。
代わりにあったのは、好敵手に対する敬意と、純粋な闘争に対する喜び。
「だが、我はまだ生きておるぞ!さあ続きを!闘争を楽しもうではないか!」
戦闘狂がカズヤを指差し、再び戦の構えを取る。だが……
「楽しそうな所を悪いが、こっちはこれでガス欠だ」
カズヤを見ると、彼のペットとの融合が自動的に解除されていた。
更にHPはレッドゾーン、MPは既にカラッケツである。
「今の俺に、これ以上出せる技は無い。俺はさっきの技に全てを賭けた。そしてお前はそれを受けて、まだ立っている」
カズヤが放った秘奥義。それは神を倒すに十分な威力であった。
だがイグナッツァの炎を相殺する際に、その威力が大幅に減衰された為、トドメを刺すには至らなかったのだ。
「お前の勝ちだ、炎神イグナッツァ」
カズヤは敗北を受け入れた。
だが神に一矢報いる事が出来たゆえか、その表情は満足そうだ。
「チッ……!」
だが反対に、勝利したはずのイグナッツァは不満げであった。
「……いいだろう、強敵よ。せめて苦しまぬよう、一息にトドメを刺してくれるわ!!」
イグナッツァが、カズヤへと炎に包まれた掌を向ける。
だが、その時である。
何処からか飛来したラーメンの丼が、イグナッツァの頭にスポッと嵌ったのは。
逆さまにしたラーメンの丼を頭に被ったコミカルな姿を見て、それまで強烈な威圧感を放っていた神の姿とのギャップに、その場に居たプレイヤー達やドワーフ達が一斉に噴き出した。
やがて、時間と共に小さな笑いが大爆笑の渦と化す。
「GOOOOOOOOOOOOAL!!」
そして、背後からイグナッツァの頭に丼を投げつけた犯人――謎のおっさんが、雄叫びと共に両手を突き上げガッツポーズ。
完璧なタイミングでの不意打ちによるシリアスブレイク。「やってやったぜ」と言わんばかりの得意げな顔でおっさんは笑い、わなわなと震えるイグナッツァの背中に声をかける。
「盛り上がってる所を悪いが、選手交代だ」
憤怒の表情でイグナッツァが振り向く。
「俺とも遊んでくれよ、神サマよ。俺はカズ坊ほど優しくねぇんでな……」
それと相対するおっさんは、いつもの人を小馬鹿にするような軽い調子で、両手をだらりと下げ、脱力したような構えを取る。
「この場でキッチリ、決着付けてやらぁ。さあ、かかって来やがれ」
「貴様……!何処までも調子に乗りおって!よほど死にたいようだな!!」
怒りに燃えるイグナッツァもまた、おっさんを敵と認識した。彼の全身から業火が噴き出し、燃え盛る。頭に被せられていた丼が一瞬で灰燼と化した。
「おっさん……この場で動く事が出来ているという事は、【Force of Wil】は認識できているんだな?」
座り込み、体力を回復しているカズヤがおっさんに問いかける。
「おう、さっきお前が使ったのを見た時にな」
おっさん自身も、以前から己が起こす、仕様を超越した現象に対して疑問を持っていなかった訳ではない。
そのためおっさんは、プレイヤーが知らされていない、何らかの隠されたシステムがあると仮定し、それについて考察したした事も何度かある。
そして先程、カズヤが【Force of Will】を実際に使ってみせた事により、おっさんの頭の中でパズルのピースが全てきっちりと嵌り、それを認識できるようになったのだ。
「そうか……だが、それだけでは足りない。その力を完全に発揮するためには……」
カズヤが【Force of Will】の発動条件について、おっさんに説明しようとする。だがおっさんは手を突き出し、それを制した。
「疲れてんだろ、無理しねえで休んでな。それに、その条件とやらについても、もうちょっとで分かりそうな所なんだ」
「……そうか。わかった。後は頼む」
「おう、任せときな」
おっさんは頼もしくそう言って、カズヤとプレイヤー達に背を向けた。
その大きな背中に、プレイヤー達が声援を送る。
「おっさんが出るぞおおおおおおお!」
「延長戦キター!」
「頑張れおっさん、あんたならやれる!」
イグナッツァが自主的に去り、そのまま無事に終わりそうだった所に強引に割り込んだおっさんに対し、文句を言う者はこの場には居なかった。彼らもまた、圧倒的な力を持つ神との戦いの決着を、この目で見たかったのだ。
己がその戦いに参加できない悔しさはあるが、その想いを彼らは、おっさんに託した。
彼らに共通する想いは一つ。
この男が、この一世一代の見せ場において、何もやらかさない訳がない。
一体今度はどんな無茶を見せてくれるのか。
一瞬たりとも目を逸らすな。ヤツの暴挙を見逃すな。
プレイヤー達は固唾を飲んで、おっさんの挙動を見守った。
そんな視線を背中に感じながら、おっさんは神に立ち向かう。
(【Force of Will】、その力を完全に発揮する為には、一切の迷いが無い、強い意思が必要)
おっさんは考える。
カズヤの【FoW:絆の紡ぎ手】は、彼の持つ【他者とわかり合い、繋がりたい】という想いがカタチになった物だ。
ならば、おっさんの持つ強い意思とは一体?
「貴様如きが我に挑むだと……?思いあがるな!」
イグナッツァが灼熱の炎を放つ。
まるで荒れ狂う波のごとく押し寄せる業火。それは瞬く間に、おっさんの全身を飲み込んだ。
おっさんは、その攻撃を避けようともせず、まともに食らった。広範囲の攻撃だが、避けようと思えば、おっさんならば避けられたはずの攻撃だったはずである。
「………………」
神が放った業火に包まれながら、おっさんは考える。
己の渇望とは何か。
【Force of Will】を発動させる程の、強い渇望。それが己の内にあったとして、それは一体いかなる物か。おっさんは考えていた。
それは確かにあり、己の心の中にある扉を、内側からドンドンと叩き、俺をここから出せ、早く開放しろと声を上げていた。
おっさんはその声に導かれるように、イグナッツァが放った炎に自ら飛び込んだのだった。
視線の先には、自身を侵食する紅蓮の炎。
炎に焼かれる、己が操る仮初の肉体。時間と共に減少していくHPバー。
背中に感じる視線。耳から聞こえる声援。悲鳴。
勝ち誇ったような獰猛な笑みを浮かべる、敵の姿。
仮初の物とはいえ、死を前にして急速に研ぎ澄まされていく五感。
おっさんの世界から、色と音が失われていく。
静寂と、灰色の視界。その中で、おっさんは自身の感覚が広がっていくのを感じた。目に映る物だけでなく、周りにある物全ての状態が、手に取るようにわかる。
とても、懐かしい感覚だ。おっさんは懐かしむように笑った。
「ああ、そうだ……思い出した」
炎の中で、おっさんは呟く。
「戦場の……そして、死の匂いだ……」
そして、おっさんの体が光を放つ。
だがそれは、カズヤが見せた黄金色の輝きではない。
「全部捨てて、忘れたつもり、だったんだがなぁ……ま、それも無理な話か」
自嘲するように笑うおっさんが放つ光の色は、黒。
全てを飲み込むような、漆黒の光。
「まァ、しかし……思い出しちまったモンは仕方ねぇわな……」
おっさんは己が原点を、最初に抱いた願いを思い出した。
それは、かつて捨て去ったはずの己自身。
「死にかけて思い出すあたり、我ながら何とも度し難い事だが……」
胸に手を当て、己の中で暴れ狂う物をなだめるように、おっさんは深く息を吐いた。
「ま、何とか折り合いをつけて、やっていくしかねぇわな……やれやれ。どうにも黒歴史って奴からは逃げられねぇらしい」
そしておっさんが放つ黒光が、神の炎を打ち消し、飲み込んでいく。
炎が消え去り、おっさんが放っていた光も徐々に収まっていく。
「何だ、貴様は……!?」
イグナッツァが目の前の男を見つめ、驚きの表情を浮かべる。
その光景を見ていたプレイヤー達も、信じられないといった表情だ。
「何だ貴様と聞かれちゃあ、答えねぇ訳にゃいかねえな」
その問いに答える男は、黒い革製の服を着て……
「ある時は、面白アイテムを次々と作りだす職人」
ニヤリと笑い、端を吊り上げた口には煙草を咥え……
「またある時は、ボスモンスターを瞬殺する最強の銃使い」
ろくに手入れをしていない黒髪と……
「その名もズバリ……」
殺人的に凶悪な目つきが特徴的な……
「通りすがりの、謎のおっさんよ!」
二十歳ほどの、青年であった。
◆
「……レイヴン」
その姿を見て、ぽつりと小さく呟いた男が一人。
声の主は、カズヤであった。
それを抜群の聴力で耳聡く聞きつけたレッドが、彼に問う。
「……レイヴン?カラスがどうかしたのか?」
カズヤは無言のまま、じっとおっさんを見つめていたが、やがて口を開き、その問いに答えた。。
「おっさん……あれくらいの年歳の頃のおっさんの、渾名らしい」
彼自身は、その当時は生まれたばかりの幼子であり、人伝に聞いた話に過ぎないのだが。
「伝説の傭兵、戦場の死神、神出鬼没、不死身の男、一騎当千、黒尽くめの傭兵、戦鬼……当時のあの人が持つ二つ名は幾つもあったが……」
ごくり、とレッドが生唾を飲み込む。
「最も有名なものが【人喰い鴉】。おっさんと相対して、生き残った者達は彼をそう呼び、畏れたらしい」
◆
システムメッセージ:
『ユニークアビリティ【FoW:世界の破壊者】を習得しました』
システムメッセージ:
『スキルが進化しました。内容は以下の通りです』
【CQC】→【レイヴンアーツ】
【神眼】→【レイヴンアイズ】
【大剣術・極】→【不破流鏖殺剣】
闇堕ちとか鬱はありません、と断言しておきます。
おっさんも過去に色々ありましたが、いろんな物を乗り越えたり、忘れたり、切り捨てたりしてきた結果として今のおっさんがあり、今回それらの物を思い出しただけです。
それによって多少の変化はあるかもしれませんが、おっさんはあくまでおっさんですのでご安心下さい。
(2014/8/22 加筆修正。イグナッツァさんが丼を被ったままになっていた不具合を修正しました)




