42.謎のおっさん、ラーメンを食べる
―ぜんかいのあらすじ―
アイザック「面白いシステム思いついたからVRシステムに乗っけるわ。勿論お前の作るゲームも適用範囲内な」
煌夜「おいやめろばか」
おっさん「ダチが面白そうなゲーム作ったから乗り込むぜ。あとハードとソフトよこせ」
煌夜「やめろこっちくんな」
カズヤ「俺のターン!速攻魔法Force of Will発動!ルクスと俺を超☆融☆合!」
煌夜「(アカン)」
おっさん「そろそろ本気出すから(迫真)」
煌夜「」
煌夜はシリウス枠。はっきりわかんだね。
新連載「VRMMOの開発責任者だが、親友と息子のせいで俺の胃がストレスでマッハ」、始まりません。
◆
カズヤとイグナッツァの戦いは、一進一退の攻防が続いていた。
スピードと手数で勝るカズヤと、パワーや魔力、体力で勝るイグナッツァ。
イグナッツァは強敵だ。それも、とびっきりの。本来であれば、いかにトッププレイヤーといえども、たった一人のPCが相手にできるような相手ではない。
だがカズヤは鍛え上げたスキル、最高級の装備、卓越した戦闘のセンスと経験、そして大いなる意思の力をもって、神と互角に渡り合う。
「ふん……」
イグナッツァが戦いの手を止め、後方へ跳躍。そして改めて構えを取った。
「クズと言ったのは取り消そう。貴様は我が本気を出して闘うに値する、強者だ」
殊勝な言葉に、カズヤは少し驚いた表情。
七柱神の一柱、炎を司る神イグナッツァ。
確かに傲慢な男ではあるが、自らが強者と認めた相手には、たとえ被造物であろうと敬意を払う武人らしさも持ち合わせていた。
「だが、勝つのは我だ。ここからは全力で行くぞ、人間ッ!」
イグナッツァが一陣の赤い風となって、疾走する。
一瞬で距離を詰めたイグナッツァは、紅蓮の炎を纏った両拳で凄まじいラッシュを仕掛けた。
だがカズヤもまた、両手の剣を縦横無尽に振るい、真正面から応戦する!
「【ヴォルカニックラッシュ】!」
「【ダブルエクスキューション】!」
イグナッツァの拳とカズヤの剣が、互いの高速連撃系奥義がぶつかり合う。
スピードはほぼ互角だった。
しかし、決定的な差がひとつ。
「確かに貴様の剣の冴えは素晴らしい。魔法との連携も見事。だが!」
カズヤが徐々に押され、後退していく。
カズヤとイグナッツァの決定的な差、それは腕力!
【Force of Will】の力によってルクスと合体したカズヤのステータスは、全プレイヤーの中でも群を抜いている。
当然、STR(力)も例外ではなく、レッドをも超える値になっている。
ああ、しかし。それでも腕力に関しては七柱神の中でも最強を誇る、イグナッツァには勝てはしない!
「我からすれば軽すぎるッ!受けよ我が奥義!【ビッグバンナックル】ッ!」
凄まじいラッシュにより、遂にカズヤの剣が弾き飛ばされ、体勢が崩れる。
当然、その隙を見逃すイグナッツァではない。間髪入れずに連続で奥義を発動し、右拳がカズヤの鳩尾にめり込んだ。
カズヤの体が床と水平に吹き飛んで壁に激突し、大爆発。
「ふん……なかなか楽しめたぞ。我に全力を出させた事は褒めてやろう」
壁が崩れ落ち、瓦礫の下に埋まる彼を見下ろし、勝ち誇るイグナッツァ。だがその時、
「何を勝ち誇っている……まだ勝負は付いていない」
「何ぃ!?」
瓦礫を跳ね上げ、カズヤが起き上がる。
その頭上に表示されているHPバーは八割ほど失われ、色が瀕死を表す赤色になっているものの、彼は生きていた。
この結果はルクスとの融合による防御力やHPの大幅な上昇、それから咄嗟に防御魔法を使った事による物だ。
「まさか我が奥義をまともに喰らい、生きている者が居るとはな。フフフ……有り難い。まだ楽しませてくれると言うのか!」
イグナッツァが口を大きく開けて笑い、再び構えを取る。そしてカズヤに向けて宣言する。
「だが、どうする!力の差は歴然、正面からぶつかり合っては貴様に勝ち目は無いぞ!それとも何か小細工でもしてくるか?」
カズヤは立ち上がり、そんなイグナッツァへ剣と、真っ直ぐな視線を向ける。
「いいや、正面から行かせて貰うさ」
そして、そう言い放つ。
「無茶だ、カズヤさん!」
「力で勝負したらさっきの二の舞だ!持ち味を活かせ!」
動けないプレイヤー達からそんな声が上がる。
彼らの言う事は至極もっともである。先ほど真っ向勝負を挑んだ結果どうなったかは、もはや語るまでもないだろう。
ならば、一体どうするつもりだカズヤ!?まさか無策の特攻か!?
そんなプレイヤー達の心配をよそに、カズヤは一人の男へと視線を向け、叫ぶ!
「おっさん、クサナギ貸してくれ!」
カズヤが声をかけたのは、謎のおっさんその人であった。
そして、彼の視線の先に居るおっさんは……
「ズズッ!ズルルッ!ズルズルーッ!ああ美味ぇ美味ぇ」
丼を片手に、麺をすすっていた。右手には箸を持っている。
彼の前にあるのは大盛りのご飯、漬物、餃子(6個セット)、そしてチャーシュー、煮玉子、メンマ、ネギ、ノリ等の様々な具材が贅沢に盛られた全部乗せラーメン。
これらの正体はギルド【C】の食堂で提供している特盛ラーメンセット(定価1800ゴールド)である。
「やれやれ、落ち着いて飯も食えやしねぇな。ほれ、持ってけ」
おっさんはトレードウィンドウを開くと、マイペースに夜食をかっ食らう彼の様子に呆れていたカズヤに、アイテムを手渡した。
そして、再びラーメンセットを食す作業に戻る。
「待て貴様!何故動ける!?」
呆気に取られていたイグナッツァだが、いつのまにか神の重力の影響下で普通に動いていたおっさんにツッコミを入れた。
ついでに、むしろ何故この状況でこのおっさんは夜食を食っているのか、そして俺達の分のラーメンセットはあるのかと、未だ動けないプレイヤー達は心の中でツッコミを入れた。
「ああ……俺の事は気にするな」
おっさんは餃子にタレを付け、口に放り込みながらイグナッツァに言った。
「空気だと思え」
お前のような存在感が濃すぎる空気があってたまるか――再びプレイヤー一同は心の中でツッコんだ。
「お前さんの相手は、あっちだろうよ」
おっさんが指差す先では、カズヤがアイテムストレージから、おっさんから受け取ったアイテムを取り出していた。
それは、一本の巨大な大剣。
銘は【クサナギ】。先ほど彼らが討伐したエリアボス、【オロチ】討伐のMVP報酬である。
凄まじい攻撃力と豊富な追加効果を持つユニークアイテムであり、品質は当然★×10。
カズヤはおっさんから借り受け、取り出したそれを床に突き立てる。
「大剣……?」
「カズヤさんが大剣を……?スキル持ってたのか……」
プレイヤー達がどよめく。
「ルクス、ご苦労だった。戻れ」
その時である。突然カズヤが変身を解き、子竜のルクスと分離する。
更にそのまま、ルクスを送還したではないか。
どういう事だ?何故わざわざ変身を解いた?怪訝な顔になるイグナッツァとプレイヤー一同(おっさん除く)。
「来い、アンブラ」
「アオォーン!」
次にカズヤは、巨大な黒い狼を召喚した。
そして先ほどと同じように、呼び出したペットと合体、変身する!
今度は髪が黒くなり、狼の耳と尻尾が生えた姿だ。
腕は黒い毛に覆われ、ふた回りほど太くなっている。
「今度は獣人族もどきか……」
先程の、ルクスとの合体はバランス良く、ステータスを全体的に強化していた。
それに対し今回の、黒狼アンブラとの合体では、STRやVITといった身体能力に特化した形態になっている。
「待たせたな」
カズヤがイグナッツァへと向き直り、床に突き立てた大剣に手を伸ばす。
その時だ、シリウスが彼の背中に向かって叫んだのは。
「無茶だカズヤさん!確かに大剣ならパワー負けしないかもしれない。だけど手数は二刀流に比べたら大きく落ちる!」
シリウスの言う通り、確かに大剣の重量、攻撃力ならばイグナッツァのパワーに対抗できる可能性はある。使う武器がが★×10のユニークアイテムであれば尚更だ。
しかし、最高クラスの手数を誇る二刀流に比べて、大剣の攻撃は遅い。
自らの持ち味である手数を捨ててまで、力で対抗する必要が果たしてあるのか?
もっともな意見だ。だが、それに反論する者がここに一人居た。
「へっへっへ、甘いな王子。俺にはヤツの考えがわかったぜ」
それは独特な髪型と、鋲やトゲ付きの革ジャンが特徴的な、大斧を背負った男。
モヒカンズのリーダーにして熱血硬派PK野郎、その名もモヒカン皇帝だ!
「知っているのかモヒカン!?」
自信満々にそう言い放つモヒカンに皆が注目する。
モヒカンは言った。
「いいか、片手剣の二刀流だと一撃の重さが足りずに競り負ける。
だが大剣を使うとパワーは足りているが、速さが足りない。
どちらも一長一短ってヤツよ。その両方の欠点を補うためには……」
モヒカンがもったいぶって言葉を切る。
その続きを待つ者達に、モヒカンは言ってのけた。
「左右の手にそれぞれ大剣を持って、二刀流をすればいいんだよ!!」
「「「「「な、なんだってー!?」」」」」
そのあまりの馬鹿馬鹿しい発想に、プレイヤー一同は驚愕した。
確かに大剣を片手で持つという行為は、システム的にも可能である。
ただし、それは本来両手で扱う事を前提に作られた物。
当然、重量によるペナルティは受けるし、酷く扱いにくいのは言うまでもないだろう。
ただでさえそんな有様だというのに、それをよりによって高難易度スキルの二刀流と組み合わせようというのだ。
無茶苦茶にも程がある。
「その発想は無かったwww」
「無茶言うなモヒカン。両手合わせて重量ペナが酷い事になるぞ」
「ペナルティ打ち消すのにステータスと二刀流スキルどれだけ必要だと思ってんだ」
「えー……一般的な大剣で二刀流するのに必要な値だと多分、STRとDEXそれぞれ3000、あと二刀流スキル90くらい?それでも足りないか?」
「計算せんでいいw」
プレイヤー達はモヒカンの突拍子の無い発言に爆笑し、総ツッコミを入れた。
だがモヒカンはそんな彼らの嘲笑にも動じず、真剣そのものといった表情だ。
そして同様に……
「おい、モヒカン」
カズヤもまた、無表情のままモヒカンに声をかける。
「あ?なんだよ?」
怪訝な顔をするモヒカンに、カズヤはうっすらと微笑み・・・・・・
「よくわかってるじゃないか!」
左右の片手剣、【白龍】と【黒龍】を交差させる。すると、なんと二本の片手剣が融合し、姿を変えていくではないか!
ヒヒイロカネ製の、左右一対の片手剣。そのもう一つの顔が姿をあらわす。
その名は大剣【黄龍】。黄金に輝く、幅広の両手用直剣だ。
彼はそれを右手で握る。それと同時に、左手で床に突き立てた【クサナギ】を引き抜いた。
「今の俺のSTRは3500、DEXは2100……そしてマスタースキル【二刀流・極】がレベル27だ!重量ペナルティは無い!」
なんと、カズヤは左右の手にそれぞれ大剣を持ち、構えを取った。まさかのモヒカンの予想が大当たりである。
ちなみにマスタースキルは、下地となるスキルを限界まで鍛える事で習得可能な究極のスキルである。
【二刀流・極】は二刀流スキルをレベル100まで鍛える事で進化可能だ。
「どうだ見たか、龍王陛下のお墨付きが出たぜ!これで証明されたな!
Mohikan is always right!!」
「まさかのモヒカン大勝利www」
「カズヤさんがおかしくなったー!?」
「まさか融合するペットを切り替えたのはこの為の布石だったとは、この李白の目をもってしても読みきれなかった」
「ちょっと待て、ステータスとスキルレベルがおかしくね?」
「そこはほら、龍王様だし……」
モヒカンが勝ち誇り、まさかの出来事にプレイヤー達はもはや笑うしか無い。生放送中の動画サイトでもコメントが一気に増える。そしておっさんが最後の麺を食べ終わり、丼を掴んで残ったスープを一気に飲み干した。
さて、カズヤの方に視線を戻すと、彼は左右の大剣をまるでショートソードの如く軽々と振るい、再びイグナッツァと正面からぶつかり合っていた。
巨大な大剣が次々と振るわれる様は、まるで竜巻だ。
「ちぃっ!やってくれる!」
イグナッツァもまた、迫る大剣に拳をぶつけ相殺する。だが今度は弾き返すことは容易ではない。むしろイグナッツァが僅かにだが押されているではないか。
「おのれぇッ!」
イグナッツァは跳躍し、一気に距離を取る。そして追撃せんとするカズヤへと向けて巨大な火球を放った。
その瞬間、カズヤの姿がふっと消える。
「何……どこへ行った!?」
「こっちだ」
カズヤは一瞬にして、イグナッツァの背後へと移動していた。
シャドウウルフ族の持つ種族アビリティ【影潜り】。影から影へと瞬間移動するそのアビリティを、影狼王アンブラと融合しているカズヤは使用する事ができる。この瞬間移動はそれによる物であった。
振り向いたイグナッツァが見た物は、独特な構えを取る敵の姿。
あまりにも隙が大きい構え。だが妙なプレッシャーを感じる。
技が発動する前に潰さんと、拳を放つイグナッツァ。
だがその瞬間、時間が止まる。
次にイグナッツァが目にしたのは、突然自らに襲いかかる二振りの大剣。
「【飛天龍王撃】ッ!!」
成す術なく打ち上げられ、空中で強烈な斬撃が次々と浴びせられた。
(何が起こった!?)
イグナッツァ、混乱。
影狼王との融合や大剣二刀流により、ただでさえ酷い火力が更に上がった【飛天龍王撃】が全段直撃し、神の超ステータスをもってしても危険なダメージがイグナッツァを襲った。
そして、最後の一撃でカズヤの大剣が、イグナッツァを地上に打ち落とす。
急降下し、金属製の床にめり込むイグナッツァ。甚大なダメージを受けたが、逆にこれは彼にとっても大きなチャンスであった。
「良い攻撃だったぞ、人間ッ!だが我の勝利だ!」
即座に起き上がったイグナッツァは、滞空しているカズヤへと、赤い篭手を装着した右手を向けた。 【飛天龍王撃】はご存知の通り、非常に強力だが発動前・発動後の隙が極めて大きい奥義である。
それを見抜いたイグナッツァは、神の強靭な生命力
をもって耐え切り、しかる後に反撃し、確実に仕留めようと企んだのだ。
「この技を受ける事を光栄に思うがいい!これが地上を焼き尽くした、神の炎だ!」
イグナッツァの手が強烈な、真紅の閃光を放つ。そしてカズヤへと放たれる超特大の火球。万事休すか!?
「まだ終わってはいない!」
だが、その前にカズヤが動いていた。【飛天龍王撃】を放ち終えた体勢から、そのまま次の技へと流れるようにコンボを繋ぐ。
彼の体が、二本の大剣が、眩い黄金の光を放ち、そして……
「秘奥義……【天覇黄龍撃】!!」
その光は、金色の龍の姿となって剣先から放たれた。
それはイグナッツァの炎とぶつかり合い、そして……押し返す!
「なっ……こ、こんな……この俺が……ッ!押されているだと……!?ば、馬鹿なあああああああッ!!」
遂にイグナッツァの炎を相殺し、光の龍が神を飲み込んだ。
果たしてこの一撃で決着となるか?
そしてラーメンセットを食べ終えたおっさんは、デザートの杏仁豆腐へと手を伸ばすのであった。
サブタイトルに偽り無し。
どうよこの主人公の異物感。比較的マトモな人にメイン張らせるとよくわかるでしょう。
我ながらこれはひどい。




