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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
62/140

37.職人達の祭宴

「野郎共、てめぇらがその手に持っている物は何だ」


 職人達の前に立ち、彼らに向かって問いかける男が一人。

 その男こそ、この場に集いし職人プレイヤー達のリーダー。

 ギルド【C】のギルドマスター、謎のおっさんだ。


『金槌と、銃剣也!』


 【C】の職人達が答え、そのうちの一人が巨大な旗、ギルドフラッグを掲げる。

 旗に描かれているのはギルドエンブレム。各ギルド毎に設定できる、そのギルドのシンボルマークとなる紋章だ。

 ギルド【C】のエンブレムは、職人のシンボルである鍛冶用の金槌と、ギルドマスターが生み出したオリジナル武器であり、彼のメイン武器である魔導銃剣。それらが交差した絵となっている。


「よし。ならば、てめぇらの特技は何だ」


 ギルドメンバー達の回答に頷いたおっさんは、次なる問いを発す。


『生産!生産!生産!』


 生産を、一心不乱の生産を。

 金槌とインゴットを、縫い針と糸を、包丁と俎板を、ノコギリと木材を、スパナと機械部品を、試験管と薬草を、それぞれ己の得意な分野の生産道具を持った職人達が、声を揃えて答える。


「そんなに生産がしてぇのか。モノ作るしか能の無ぇ、放っとくと訳わからねぇ変な物ばかり作り始めるロクデナシ共め。

 いいだろう、ならば生産だ。

 資源を堀り尽くし、買い占め、加工しろ。

 レアな素材を湯水の如く使い、誰も見た事の無ぇアイテムを創り出せ。

 まだ俺達を知らない寝坊助どもの、枕元に伝説級のアイテムを置いてこい。

 NPC販売品なんぞを使っている時代遅れ共の、身包みを剥いで俺達の作った装備を押し付けろ」


 おっさんの演説に、職人達は拳を振り上げ、足を鳴らす。何人かのギルドメンバー達が「流通と経済を支配する」「毎日が産業革命」「Create & Crash(創造と破壊)」「資金力・技術力・数の暴力」などといった文字が書かれたノボリを掲げた。


 そして、彼らは敵――エリアボス・オロチへと向き直った。

 すっかり置いてけぼりになっているボスは、カズヤの魔法剣二刀流とエンジェの魔法拳、アナスタシアとナナの高速連続攻撃、レッドやアーニャの強烈な全力攻撃を受けてフルボッコにされながらも、超再生の力で耐えつつ反撃している。


「おっさん、茶番はもういいのか」


 左右の剣で挟むようにして、オロチの頭を切り落としたカズヤが振り向いて、おっさんに言った。


「おう、足止めご苦労さん。悪いがもう少しだけ、そのまま頼むぜ」

「わかった。なるべく早めに頼む」


 切られた首がすぐさま再生し、カズヤに噛み付く。だがカズヤはおっさんの方を向いたまま、襲い来る頭を見もせずに剣を振るい、再びそれを斬り捨てた。

 おっさんはそれを満足そうに眺めつつ、宣言する。


「それじゃあ行くぜ、てめぇら……。

 祭りの時間じゃああああああああああああ!!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』


 おっさんが手を掲げると、その手が光を放った。

 おっさんの手の先、空中に光り輝くギルドエンブレムが現れる。


「行くぜ!【LC:クリエイターズカーニバル】!!」


 おっさんが使用したのは、ギルドスキル【レギオンクリエイト】。

 その効果は、複数人で協力して生産を行なう【ユニオンクリエイト】の発展形。

 更に【レギオンクリエイト】は通常のユニオンクリエイトとは異なり、ギルドごとに異なる性質を持つ、オリジナルの効果を持った唯一無二の技として発動される。

 その効果は、以下の通りである。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【レギオンクリエイト】


 種別 ギルドスキル/パッシブ


 【解説】

 ギルドメンバーの力を結集して大規模な生産を行なう為のスキル。

 このスキルを習得したギルドは、以下の効果を得る。


 生産スキルを使用した、オリジナルのギルド奥義を作成可能。

 ギルド奥義の作成・発動はギルドマスターのみが行なえる。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【LC:クリエイターズカーニバル Lv1】


 種別 ギルド奥義レギオンクリエイト

 所有ギルド C


 持続時間 180秒

 クールタイム 168時間(7日) 


 【解説】

 ギルド【C】が所有するレギオンクリエイト奥義。

 職人達の力を集め、解き放つ事で行われる奇跡の大規模生産。

 フィールドに工房を召喚し、職人達が結束して生産を行なう。

 このギルドスキルが発動している間、ギルドメンバー達は

 それぞれが持つ生産スキル・アビリティを共有する。


 【共有化されるスキル】

 鍛冶 裁縫 木工 細工 魔法工学 調合

 料理 釣り 農業 牧畜 錬金術

 上記のスキル、及びその派生スキル

 各スキル・アビリティのレベルが最も高いメンバーの物を適用

――――――――――――――――――――――――――――――


 すなわち、この場に居る五十人を超える【C】のメンバー一同は、一時的にではあるが全員が、テツヲと同等の鍛冶スキル、アンゼリカと同等の裁縫スキル、クックと同等の料理スキル、ジークと同等の魔法工学スキル、ゲンジロウと同等の木工スキル……といった、最高峰の生産スキルを一人で使える状態となっているのだ。

 そして……おっさんの持つ、あの技術も同様に共有化されている。


「これが錬金術……!」


 そう、おっさんが持つユニークスキル【錬金術】!魔法であると共に生産スキルの側面も持つ、このスキルもまた、共有化されていた。

 一つのユニークスキルを数十人のプレイヤーが一斉に使用するという矛盾!ギルド【C】のレギオンクリエイト、クリエイターズカーニバルはそれを可能にしたのだ!


 共有化された生産スキルをもって、次々とアイテムを生産していく職人達。更にそれを錬金術アビリティ【複製】や【高速錬成】を駆使して増やしていく。

 彼らが作りだし、並べたのは大口径の大砲。

 それも、おっさんの持つ超大型魔導銃剣【メメント・モリ】同様、大魔弾を装填可能な魔導砲だ。

 常識では考えられないほどの速度、精密性をもって、職人達はそれを次々と量産していった。


 僅か180秒、三分間という短い効果時間。楽しい祭りの時間は一瞬にして過ぎ去る。

 それが終わった時、彼らの前には百を超える、黒光りする巨大な大砲が鎮座していた。


「待たせたなぁ!準備完了だ!」


 おっさんが声をかけると、オロチと戦っていた面々は速やかに後退。それを確認したおっさんは、その殺人的に鋭い目でオロチを睨みつけると、仲間達を指揮するように右手を掲げた。


「さて、仕上げだ。祭りのフィナーレには花火がねぇとな」


 そして、再びおっさんの手の先に、輝けるギルドエンブレムが現れる。


「派手に上げるぜ!【LA:キャノンカーニバル】発動ッ!」


――――――――――――――――――――――――――――――

 【レギオンアタック】


 種別 ギルドスキル/パッシブ


 ギルドメンバーの力を結集し、一斉攻撃を行なう為のスキル。


 このスキルを習得したギルドは、以下の効果を得る。


 オリジナルのギルド奥義を作成可能。

 ギルド奥義の作成・発動はギルドマスターのみが行なえる。

 ギルドマスターが習得しているスキルに対応する物のみ作成可能。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【LA:キャノンカーニバル】


 種別 ギルド奥義レギオンアタック

 所有ギルド C


 消費MP 15000(ギルドメンバーで分担)

 クールタイム 168時間(7日)


 【解説】

 ギルド【C】が所有するレギオンアタック奥義。

 大量の砲台による一斉砲撃による飽和攻撃を行なう。

 圧倒的な資金力と物量を誇るギルドだからこその攻撃である。

 ギルドマスターの代表的な奥義【バレットカーニバル】の発展系。

 とはいえ規模・威力共に桁違いである事は言うまでもない。

――――――――――――――――――――――――――――――


 おっさんの掛け声と共に、ギルドメンバー一同が三分間の間に、全力をもって作り上げた百五十門の砲が、一斉に火を噴いた。


「吹っ飛びやがれええええええッ!!」


 轟音と共に、魔導砲から光り輝く魔弾が放たれる。

 それらは全てオロチの巨体に着弾し……


「ダメ押しだ!こいつも喰らいなぁ!」


 なんと、おっさんは決戦兵器メメント・モリ(ヒヒイロカネ素材で更にパワーアップ!)を構え、砲撃による爆発の中へ猛然と突っ込んでいったではないか。

 そして突進と共に、巨大魔導銃剣の先端に取り付けられた、重厚な刃をオロチの巨体へ根元まで突き入れた。

 奥義【デッドエンドバスター】が直撃すると共に、おっさんはメメント・モリの引鉄を一切躊躇する事なく引いた。


「フィニッシュ!」


 すると銃剣部分の根元付近で爆発が起こる。まさかの暴発か?

 否、見れば刃が切り離され、爆発によって撃ち出されているではないか。まるでパイルバンカーだ。

 撃ち出されたそれは、オロチの強靭な肉体をズタズタに引き裂きながら進み、貫通した。

 それと共にギルド【C】のメンバー達が、魔導砲を全弾撃ち尽くす。


 大爆発に包まれるオロチとおっさん。

 凄まじい耐久度を誇ったエリアボスも、この猛攻には耐え切れずに遂に崩れ落ちる。

 オロチのHPを示すバーが、遂に全て消滅した。


 爆発が収まると共に、倒れ伏したオロチがゆっくりと消滅していく。

 そして、その場に残る物は何もない。


 おっさんはどこへ行ってしまったのだ?

 まさか砲撃に巻き込まれて、オロチと相討ちになってしまったのか?


 しかし、この場に居る誰一人として、そのような事を考え、不安になる者は居なかった。読者の皆様方も恐らくは同様であろう。


「おっさんは何処にいった!?」

「壁に貼り付いてないか?」

「上から来るぞ、気をつけろ!」

「ハッ、まさか後ろか!?」

「この中の誰かに変装して紛れ込んでいるかもしれん」


 彼らは皆、姿を消したおっさんが、どんな意表を突いた登場をするかと警戒した。ある意味とても信頼されていると言えるだろう。

 そして、そんな彼らを嘲笑うかのごとく、おっさんが現れる。


「残念!ここだああああ!」

「何ィィィィィ!?地面の下からああああ!?」

「ドトン・ジツ!?ニンジャ!?」


 大地を割り、おっさんが地下から登場する。

 おっさんはオロチにトドメを刺すと共に、一瞬で地中に潜んで砲撃をやり過ごしていたのだ。


「……ところでおっちゃん、一つ訊きたいんだけどさぁ」

「おう、どうした?」


 地中に体を残し、首から上を出しているおっさんに向けて話しかけたのは、ナナだ。

 彼女は顔を赤くして、プルプルと震えながら、


「何であたしの真下から出てきてる訳?つーか、見たでしょ?」


 スカートを抑えながらおっさんを睨むナナに向かって、おっさんは悪戯が成功した子供のように笑った。

 そんなおっさんの頭を踏みつけるように、ナナが足を叩きつける。

 だがおっさんは一瞬にして地面に潜ると、すぐさま離れた所に出現。


「こらー!逃げんな、このエロオヤジ!!」

「ガーッハッハッハ!捕まえてみなぁ!」


 ナナがおっさんを追いかけるが、おっさんはそのたびに地面に潜って逃げ続ける。まるでもぐら叩きのような絵面に、周囲から笑いが漏れるのだった。


オロチ編ようやく終了。

後もうちょっとで第二部完になります。

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