37.職人達の祭宴
「野郎共、てめぇらがその手に持っている物は何だ」
職人達の前に立ち、彼らに向かって問いかける男が一人。
その男こそ、この場に集いし職人プレイヤー達のリーダー。
ギルド【C】のギルドマスター、謎のおっさんだ。
『金槌と、銃剣也!』
【C】の職人達が答え、そのうちの一人が巨大な旗、ギルドフラッグを掲げる。
旗に描かれているのはギルドエンブレム。各ギルド毎に設定できる、そのギルドのシンボルマークとなる紋章だ。
ギルド【C】のエンブレムは、職人のシンボルである鍛冶用の金槌と、ギルドマスターが生み出したオリジナル武器であり、彼のメイン武器である魔導銃剣。それらが交差した絵となっている。
「よし。ならば、てめぇらの特技は何だ」
ギルドメンバー達の回答に頷いたおっさんは、次なる問いを発す。
『生産!生産!生産!』
生産を、一心不乱の生産を。
金槌とインゴットを、縫い針と糸を、包丁と俎板を、ノコギリと木材を、スパナと機械部品を、試験管と薬草を、それぞれ己の得意な分野の生産道具を持った職人達が、声を揃えて答える。
「そんなに生産がしてぇのか。モノ作るしか能の無ぇ、放っとくと訳わからねぇ変な物ばかり作り始めるロクデナシ共め。
いいだろう、ならば生産だ。
資源を堀り尽くし、買い占め、加工しろ。
レアな素材を湯水の如く使い、誰も見た事の無ぇアイテムを創り出せ。
まだ俺達を知らない寝坊助どもの、枕元に伝説級のアイテムを置いてこい。
NPC販売品なんぞを使っている時代遅れ共の、身包みを剥いで俺達の作った装備を押し付けろ」
おっさんの演説に、職人達は拳を振り上げ、足を鳴らす。何人かのギルドメンバー達が「流通と経済を支配する」「毎日が産業革命」「Create & Crash(創造と破壊)」「資金力・技術力・数の暴力」などといった文字が書かれたノボリを掲げた。
そして、彼らは敵――エリアボス・オロチへと向き直った。
すっかり置いてけぼりになっているボスは、カズヤの魔法剣二刀流とエンジェの魔法拳、アナスタシアとナナの高速連続攻撃、レッドやアーニャの強烈な全力攻撃を受けてフルボッコにされながらも、超再生の力で耐えつつ反撃している。
「おっさん、茶番はもういいのか」
左右の剣で挟むようにして、オロチの頭を切り落としたカズヤが振り向いて、おっさんに言った。
「おう、足止めご苦労さん。悪いがもう少しだけ、そのまま頼むぜ」
「わかった。なるべく早めに頼む」
切られた首がすぐさま再生し、カズヤに噛み付く。だがカズヤはおっさんの方を向いたまま、襲い来る頭を見もせずに剣を振るい、再びそれを斬り捨てた。
おっさんはそれを満足そうに眺めつつ、宣言する。
「それじゃあ行くぜ、てめぇら……。
祭りの時間じゃああああああああああああ!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』
おっさんが手を掲げると、その手が光を放った。
おっさんの手の先、空中に光り輝くギルドエンブレムが現れる。
「行くぜ!【LC:クリエイターズカーニバル】!!」
おっさんが使用したのは、ギルドスキル【レギオンクリエイト】。
その効果は、複数人で協力して生産を行なう【ユニオンクリエイト】の発展形。
更に【レギオンクリエイト】は通常のユニオンクリエイトとは異なり、ギルドごとに異なる性質を持つ、オリジナルの効果を持った唯一無二の技として発動される。
その効果は、以下の通りである。
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【レギオンクリエイト】
種別 ギルドスキル/パッシブ
【解説】
ギルドメンバーの力を結集して大規模な生産を行なう為のスキル。
このスキルを習得したギルドは、以下の効果を得る。
生産スキルを使用した、オリジナルのギルド奥義を作成可能。
ギルド奥義の作成・発動はギルドマスターのみが行なえる。
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【LC:クリエイターズカーニバル Lv1】
種別 ギルド奥義
所有ギルド C
持続時間 180秒
クールタイム 168時間(7日)
【解説】
ギルド【C】が所有するレギオンクリエイト奥義。
職人達の力を集め、解き放つ事で行われる奇跡の大規模生産。
フィールドに工房を召喚し、職人達が結束して生産を行なう。
このギルドスキルが発動している間、ギルドメンバー達は
それぞれが持つ生産スキル・アビリティを共有する。
【共有化されるスキル】
鍛冶 裁縫 木工 細工 魔法工学 調合
料理 釣り 農業 牧畜 錬金術
上記のスキル、及びその派生スキル
各スキル・アビリティのレベルが最も高いメンバーの物を適用
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すなわち、この場に居る五十人を超える【C】のメンバー一同は、一時的にではあるが全員が、テツヲと同等の鍛冶スキル、アンゼリカと同等の裁縫スキル、クックと同等の料理スキル、ジークと同等の魔法工学スキル、ゲンジロウと同等の木工スキル……といった、最高峰の生産スキルを一人で使える状態となっているのだ。
そして……おっさんの持つ、あの技術も同様に共有化されている。
「これが錬金術……!」
そう、おっさんが持つユニークスキル【錬金術】!魔法であると共に生産スキルの側面も持つ、このスキルもまた、共有化されていた。
一つのユニークスキルを数十人のプレイヤーが一斉に使用するという矛盾!ギルド【C】のレギオンクリエイト、クリエイターズカーニバルはそれを可能にしたのだ!
共有化された生産スキルをもって、次々とアイテムを生産していく職人達。更にそれを錬金術アビリティ【複製】や【高速錬成】を駆使して増やしていく。
彼らが作りだし、並べたのは大口径の大砲。
それも、おっさんの持つ超大型魔導銃剣【メメント・モリ】同様、大魔弾を装填可能な魔導砲だ。
常識では考えられないほどの速度、精密性をもって、職人達はそれを次々と量産していった。
僅か180秒、三分間という短い効果時間。楽しい祭りの時間は一瞬にして過ぎ去る。
それが終わった時、彼らの前には百を超える、黒光りする巨大な大砲が鎮座していた。
「待たせたなぁ!準備完了だ!」
おっさんが声をかけると、オロチと戦っていた面々は速やかに後退。それを確認したおっさんは、その殺人的に鋭い目でオロチを睨みつけると、仲間達を指揮するように右手を掲げた。
「さて、仕上げだ。祭りのフィナーレには花火がねぇとな」
そして、再びおっさんの手の先に、輝けるギルドエンブレムが現れる。
「派手に上げるぜ!【LA:キャノンカーニバル】発動ッ!」
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【レギオンアタック】
種別 ギルドスキル/パッシブ
ギルドメンバーの力を結集し、一斉攻撃を行なう為のスキル。
このスキルを習得したギルドは、以下の効果を得る。
オリジナルのギルド奥義を作成可能。
ギルド奥義の作成・発動はギルドマスターのみが行なえる。
ギルドマスターが習得しているスキルに対応する物のみ作成可能。
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【LA:キャノンカーニバル】
種別 ギルド奥義
所有ギルド C
消費MP 15000(ギルドメンバーで分担)
クールタイム 168時間(7日)
【解説】
ギルド【C】が所有するレギオンアタック奥義。
大量の砲台による一斉砲撃による飽和攻撃を行なう。
圧倒的な資金力と物量を誇るギルドだからこその攻撃である。
ギルドマスターの代表的な奥義【バレットカーニバル】の発展系。
とはいえ規模・威力共に桁違いである事は言うまでもない。
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おっさんの掛け声と共に、ギルドメンバー一同が三分間の間に、全力をもって作り上げた百五十門の砲が、一斉に火を噴いた。
「吹っ飛びやがれええええええッ!!」
轟音と共に、魔導砲から光り輝く魔弾が放たれる。
それらは全てオロチの巨体に着弾し……
「ダメ押しだ!こいつも喰らいなぁ!」
なんと、おっさんは決戦兵器メメント・モリ(ヒヒイロカネ素材で更にパワーアップ!)を構え、砲撃による爆発の中へ猛然と突っ込んでいったではないか。
そして突進と共に、巨大魔導銃剣の先端に取り付けられた、重厚な刃をオロチの巨体へ根元まで突き入れた。
奥義【デッドエンドバスター】が直撃すると共に、おっさんはメメント・モリの引鉄を一切躊躇する事なく引いた。
「フィニッシュ!」
すると銃剣部分の根元付近で爆発が起こる。まさかの暴発か?
否、見れば刃が切り離され、爆発によって撃ち出されているではないか。まるでパイルバンカーだ。
撃ち出されたそれは、オロチの強靭な肉体をズタズタに引き裂きながら進み、貫通した。
それと共にギルド【C】のメンバー達が、魔導砲を全弾撃ち尽くす。
大爆発に包まれるオロチとおっさん。
凄まじい耐久度を誇ったエリアボスも、この猛攻には耐え切れずに遂に崩れ落ちる。
オロチのHPを示すバーが、遂に全て消滅した。
爆発が収まると共に、倒れ伏したオロチがゆっくりと消滅していく。
そして、その場に残る物は何もない。
おっさんはどこへ行ってしまったのだ?
まさか砲撃に巻き込まれて、オロチと相討ちになってしまったのか?
しかし、この場に居る誰一人として、そのような事を考え、不安になる者は居なかった。読者の皆様方も恐らくは同様であろう。
「おっさんは何処にいった!?」
「壁に貼り付いてないか?」
「上から来るぞ、気をつけろ!」
「ハッ、まさか後ろか!?」
「この中の誰かに変装して紛れ込んでいるかもしれん」
彼らは皆、姿を消したおっさんが、どんな意表を突いた登場をするかと警戒した。ある意味とても信頼されていると言えるだろう。
そして、そんな彼らを嘲笑うかのごとく、おっさんが現れる。
「残念!ここだああああ!」
「何ィィィィィ!?地面の下からああああ!?」
「ドトン・ジツ!?ニンジャ!?」
大地を割り、おっさんが地下から登場する。
おっさんはオロチにトドメを刺すと共に、一瞬で地中に潜んで砲撃をやり過ごしていたのだ。
「……ところでおっちゃん、一つ訊きたいんだけどさぁ」
「おう、どうした?」
地中に体を残し、首から上を出しているおっさんに向けて話しかけたのは、ナナだ。
彼女は顔を赤くして、プルプルと震えながら、
「何であたしの真下から出てきてる訳?つーか、見たでしょ?」
スカートを抑えながらおっさんを睨むナナに向かって、おっさんは悪戯が成功した子供のように笑った。
そんなおっさんの頭を踏みつけるように、ナナが足を叩きつける。
だがおっさんは一瞬にして地面に潜ると、すぐさま離れた所に出現。
「こらー!逃げんな、このエロオヤジ!!」
「ガーッハッハッハ!捕まえてみなぁ!」
ナナがおっさんを追いかけるが、おっさんはそのたびに地面に潜って逃げ続ける。まるでもぐら叩きのような絵面に、周囲から笑いが漏れるのだった。
オロチ編ようやく終了。
後もうちょっとで第二部完になります。




