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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
60/140

35.謎のおっさん、ボスに挑む(2)

 【二刀流】というスキルがある。

 片手武器を左右それぞれの手に持って戦う為のスキルであり、その状態での攻撃力等のステータスにプラス補正を得る事ができ、更に各種片手武器スキルと組み合わせる事で、二刀流用の様々なアーツが使用可能になるスキルだ。


 このスキルは長く、不遇、地雷と言われていた。

 βテストやサービス開始直後、見た目の格好良さから手を出す者は多かったが……二刀流という物は、当たり前の話だが普通に一本の武器を使うのに比べて、とても難しい。

 更に、肝心の二刀流用アーツの殆どが、酷く扱いにくい、極端な性能の物ばかりであったため、まともに扱える人間がほとんど居なかった為である。


 中でも、かつて最大のネタ奥義と呼ばれたアーツがあった。

 まずMP消費だが、今あるMPの九割を消費し、消費したMPに比例して威力が上がるという極端さ。

 次に発動前の異常に長い溜め。無敵時間なども無いので、まず発動する前に妨害され、潰される。更にチャージ中は防御力・魔法防御力が強制的に0になる。この時点で既に地雷臭がプンプンする。

 更に、どうにか発動できたとしても、技自体のモーションがとんでもなく複雑で難解。技の動きに思考がついてこれず、大抵の場合、途中でアーツが解除されてしまう。

 そして拘束時間が長く、ミスれば隙だらけで、反撃されるのは必至。

 使用後の硬直もこれまたクソ長い。

 これらの多すぎる欠点を抱えているだけあって、威力だけはとんでもなく高い……のだが、前述の通りに欠点が大きすぎる為、誰もがその技をネタ扱いした。


 そう、「かつて」ネタ奥義と、そう「呼ばれていた」、その技は……


「【飛天龍王撃】……!!」


 約十秒間という、技を放つには長すぎる溜め時間。

 当然、敵がそれを見逃す筈が無く、オロチは技の発動を潰そうと、全力をもってカズヤへと攻撃を仕掛ける。

 普通であれば、技を放つ前にオロチの攻撃を受け、あっさりと不発に終わってしまうだろう。しかし、この男もまた、普通ではない。

 【龍王】の名は伊達ではない。この誰も使えない、使おうとも思わなかった技を自在に使いこなして見せたからこそ、クセ者だらけのβテスター達が、敬意を込めてこの男をこう呼んだのだから。


「来い、ソリス!」


 【コールパートナー】を発動し、ペットを召喚するカズヤ。現れたのは、紅蓮の炎を全身に纏う、炎の鳥……不死鳥であった。

 召喚された不死鳥――ソリスが、羽撃きと共に魔法を放つ。

 究極魔法が一つ、【獄炎魔法】。放たれた業火が、オロチの高い耐性をもってしても、なお耐えがたいダメージを与えた。


「次、アウラ!」


 次に現れたのは妖精族の美女。

 以前は手のひらに乗る程度の大きさであったが、現在は妖精の王女(フェアリープリンセス)へと進化した事により、人間の子供くらいの身長まで成長を遂げている。

 手に持った、花飾りのついた樫の杖をオロチに向けるアウラ。彼女は究極魔法の一つ【天空魔法】を使用し、真空波で再生したばかりのオロチの首を刎ね飛ばす。


「アンブラ、続け!」


 主の声に応えオロチの足元の影より、巨大な黒い狼が出現する。

 最初は黒狼(ブラックウルフ)という、初心者でも倒せるモンスターだった。しかし、アルカディア最強のテイマーの下で、最も長く戦ってきたこの獣は、今や影狼王(シャドウウルフロード)と呼ばれる上級モンスターへと進化を遂げていた。

 この影狼王は影と同化し、影から影へと瞬間移動するという凶悪なユニークアビリティを持つ。それを使って次々と転移しながら、アンブラはその爪牙を振るう。

 更に究極魔法【百獣魔法】を使い、配下の狼たちを大量に召喚。オロチの巨体に大量の黒狼が群がった。


「ルクス!」


 そして、カズヤの相棒である白き竜が現れる。

 成長してはいるが、未だ小さく幼い。

 だがルクスは目の前の強敵にも恐れる事なく、その小さな身体で立ち向かった。

 究極魔法【龍語魔法】を使用し、巨大な魔力の塊をオロチへと放つ。更に神聖属性のブレスによる追撃。


「よくやった。下がれ!」


 主の合図と共に、四体のモンスター達が下がる。

 それと同時に、白と黒の剣を握ったカズヤが疾走し、オロチへと斬りかかった。


「出たぞ龍王撃!龍王様の代名詞!」

「ヒューッ!このドタン場で決めやがったぜ!」


 二本の剣による強烈な斬り上げを受け、オロチの巨体が浮き上がる。

 更に高く弾き飛ばし、それを追うように跳躍するカズヤ。

 天を駆ける龍の如く、空中を超高速で移動しながら、左右の剣を縦横無尽に振るう。

 一発一発が奥義級の威力を持つ斬撃による、怒涛の三十六連撃。

 最後の一撃は、両手の剣を全力で、叩きつけるように斬りつけ、オロチのを上空から地面に叩き落とした。

 高速で地面に激突するオロチ。


「やったか!?」

「流石のオロチとて、あの攻撃を受けてはひとたまりもあるまい……!」


 プレイヤー達が喝采する。しかしオロチは踏みとどまり、即座に起き上がった。そして大技を放ち終えて隙だらけのカズヤへと、巨大な爪を振りあげるのだった。


「危ない!」


 誰かが口にする。

 カズヤ自身は技の硬直で動けず、盾役たちも、上空に居るカズヤを庇う手段は無く万事休す。

 絶体絶命かと思われた、まさにその時。


「おおおおおおおおおおッ!」


 龍王、咆哮す。

 オロチの凶爪が彼の細い身体を抉らんとする、まさにその時。雄叫びと共に、カズヤの体がその場から消え去った。


「消えた!?」

「あれ、龍王様どこいったん?」


 オロチの爪が盛大に空振る!困惑するプレイヤー達と同様に、オロチもまた、標的が突然目の前から消え去った事に混乱した。

 そして気付く。振り上げた腕の、手首から先がスッパリと切断され、宙に舞っているではないか!一体いつの間に斬られたのか!?どうして攻撃しようとした相手が突然消え、自分は正体不明の攻撃を受けているのか?オロチ、混乱!


「……見えなかった」


 それを見ていたレッドが、呆然と呟いた。

 レッドは全プレイヤーの中でも随一の動体視力を持つ。単純に反応速度や、動体視力といった能力面では、おっさんをも上回る程の才能の持ち主だ。

 その彼女の目をもってしても、カズヤの動きを捉えきれなかったのだ。一体彼は、いかなる手段をもってオロチにカウンターの一撃を浴びせ、皆の前から消え去ったのか。そして、彼は一体どこへ?

 その答えは、ある男の口からもたらされた。


「あそこだ。オロチの背後に居るぜ」


 おっさんである。いつのまにか地上へと降りてきていたおっさんが、オロチの巨体、その後方を指差した。

 その場に居る全プレイヤーが、おっさんの指差す先へと視線を向ける。すると、そこには……おお、なんという事か!いつのまにか、オロチの背後へと移動し、二本の長剣を構えたカズヤの姿があるではないか!


「……おっさん。アンタには見えてたのかい?」


 レッドの問いかけに、隣に立つおっさんは頷いた。


「あの速さは異常だ。俺の目にも、軌道すら見えなかった。あれは……一体何なんだ?」


 レッドが、オロチの背後より二刀流十七連撃奥義【ダブルエクスキューション】を放つカズヤを睨みながら、おっさんに問う。

 そうしながら彼女は思い出していた。

 数ヶ月前、まだこのゲームがβテストだった当時の事。レッドはカズヤと決闘(デュエル)をした事がある。

 その時に彼を追い詰め、勝ったと思った瞬間に……レッドは斬り伏せられていた。その時、カズヤがどんな攻撃をしたのかすら、レッドは認識できずに倒された。


「あの時と一緒だ。恐らくあの野郎は、どういう方法かは分からねェが……俺達には目で追えねェくらいのスピードで動く手段を持っている。そしておっさん、あんたはその正体を知っている……いや、思い返せばアンタも同じような事やってたな」


 レッドは思い出す。以前、上級ダンジョンにて、おっさんと戦った時の事を。あの時、不意を打っての必殺の一撃、どう考えても回避が間に合わない、最高のタイミングで放った攻撃を、おっさんは紙一重とはいえ回避してみせた。


「あれは……何なんだ。チートじゃなけりゃあ、習得条件が知られてないレアスキルか何かか?」


 レッドが、おっさんに目線を移しながら強い口調で尋ねた。

 おっさんは、そんなレッドを横目で見て……少しの沈黙の後、口を開いた。


「あれは、【神威(カムイ)】という名の技だ」

「神威……?やっぱ聞いた事ねェな。どんなアーツなんだ?」


 おっさんが言った【神威】なるアーツを脳内で検索し、記憶に無い事を確認するレッド。そんな彼女に、おっさんは言う。


「アーツじゃねぇ。ついでに言うなら魔法でもアビリティでもねぇ。このゲーム……アルカディアのシステムとは関係の無ぇ代物だ」


 おっさんの言葉を、レッドは最初、理解できなかった。

 このゲームとは関係の無い物。それはつまり。


「……現実世界から持ち込んだ物って事、か?」

「正解。あの技……【神威】ってのは、とある古流剣術の奥義で……ざっくりと説明するとだ、脳のリミッターを解除して、超高速で思考する事で、人間の限界を超えた速度を得る事ができる……って感じの技だ。

 こいつを極めれば、擬似的な時間停止……止まった時間の中を動く事だって可能になる」

「………………冗談みてェな話だけど、本当にそんな事が出来るンなら、あのスピードも説明がつくか……頭が痛くなりそうだ」


 こめかみを指でグリグリと押さえながら、レッドが呟いた。


「ちなみに……おっさんも時間、止められンの?」

「体感で0.5秒程度はな。昔……全盛期の頃は五秒くらい止められたんだが、今はそれくらいが限界だ。全く、歳は取りたくねぇよな。最近は体のあちこちにガタが来やがってなァ」


 レッドの再びの問いかけに、おっさんはさらりと言った。


「ちなみに、アイツは連続で七秒くらい止められるぜ」


 おっさんが指差す先には、召喚した精霊やペットの支援を受けながら、二刀流でオロチをフルボッコにするカズヤの姿があった。

 時折、まるで瞬間移動をするかのように姿を消し、そのたびにオロチが正体不明の負傷を負いながら混乱し、のたうち回る。


「おお凄ぇ、あんにゃろ、時間止めながら空中走りやがった。ありゃ俺でも難しいテクだぜ。やっぱ天才だわ。もうアイツ一人でいいんじゃねぇかなぁ」

「……やっぱアンタら人間じゃねーわ」


 子供の頃から様々な武術を仕込み、育ててきた弟子の活躍を眺めながら、おっさんは楽しそうに笑い、そんな彼らを見て、脱力するように肩を落とすレッドであった。

カズヤさんのターンでした。

新たに判明した事実、おっさんは時間を止める。ただし連発はできませんし、ピンチの時以外は使いません。


Q:結局【飛天龍王撃】ってどんな技なん?

A:阿修羅覇鳳拳(連撃仕様)

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