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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第一部 おっさん大地に立つ
6/140

謎のおっさん、窮地を救う

 現実世界での時刻は既に夜だが、VRMMORPG「アルカディア」内においては、今の時刻は昼間であった。これは、現実世界とゲーム内では時間の流れが異なる事を意味している。

 仮にゲーム内でも現実世界と同じように時間が過ぎるとなると、夜にしかログイン出来ない社会人は昼のフィールドを冒険する事が出来なくなるし、昼と夜ではモンスターの生態が変化したり、採集できるアイテムに変化があったり、また特定の時間限定のイベントやクエストも存在する事から、ゲーム内での時間の流れは現実のそれよりも大幅に速くなっている。


 そんなわけで時刻は真っ昼間だが、そんな時間にあっても森林フィールドは生い茂った木々に日光を遮られて薄暗く、森の奥に入るほどその傾向は強くなっていた。

 そんな森の奥深くにて、魔獣と対峙する者達がいた。


 ここは城塞都市ダナンより南に位置する、森林フィールドだ。街周辺のものよりも強力なモンスターが棲息する事から、ある程度このゲームに慣れたプレイヤーが訪れるほか、木材を求める木工職人や、薬草やキノコ等を求める調合師、料理人など、多くのプレイヤーが訪れるであろう場所だ。


 ここでモンスターと戦っているのは、二人の見目麗しき少女達だった。

 一人は僧侶服を着た清楚な美少女。名をアーニャといった。

 先日おっさんと出会ってしまった事により、何か凄い武器を貰ってしまった少女だ。右手にはそのおっさんから貰った片手鈍器メイスを持ち、左手には円形の小盾バックラーを装備している。

 髪型は亜麻色のストレートロング。大人しく、少々気弱そうな顔が庇護欲を掻き立てる。そして控え目な性格や大人しそうな見た目に反して体つきは成熟した大人のそれだ。


 もう一人は彼女の友人で、ナナというプレイヤーネームだ。

 動きやすそうな軽装に、胸部を保護する胸当て(ブレストプレート)を装備した剣士らしい恰好をしている。

 彼女の武器は、それぞれの手に握られた、左右一対の両刃剣。その刀身は短剣よりは長いが、一般的な片手剣よりは短い。幅広で、やや湾曲した形のそれは最初から二つ一緒に使う事を前提に作られた剣、すなわち双剣である。

 相棒の少女とは正反対に、オレンジ色のショートカットの髪に、つり目がちな瞳。ボーイッシュで活発そうな少女だ。

 ちなみに、その胸はまるで一面に広がる大平原の如く平坦であった。


 ちなみに双剣は、片手用の剣を二つ扱う二刀流とは、似ているが全く別物である。最初から左右の手に装備して使う事を前提として作られている双剣と違い、二刀流は言ってしまえば、本来そうするべきではない物を、無理矢理二つ同時に使う技術である。見た目は似ていても、実際の動きや運用方法はだいぶ異なる物だ。


 話を戻そう。二人の少女プレイヤー、ナナとアーニャは幼馴染で親友同士である。内気でインドア派、元々ゲーム好きなアーニャが友人のナナを誘い、アクティブで運動好きなナナが実際に自分の体を動かして――あくまで擬似的にだが――遊べるこのゲームに興味を持ち、運良く二人揃って初回ロット分のソフトを入手できた為、正式サービス開始と同時に一緒にゲームを始めて、行動を共にしている。

 今日も彼女達は、二人でPTを組んで狩りをしていた。役割はナナが前衛で攻撃役アタッカー、アーニャが回復や強化といったサポート役である。

 彼女らは、昨日までは街周辺の平原で、小さなイノシシや狼型のモンスターを狩っていた。おっさんが居た所とはまた別の、離れた場所だった為、彼と会う事は無かったが。


 今日も平原で経験値稼ぎとスキルの熟練度上げ……そう思っていたのだが、昨日、狩りの後に別行動していた時に突然、アーニャが意味不明なくらい強力な武器を手に入れてきた為、思い切って上位の狩場に挑戦してみようという事になったのだ。


 狩りは順調だった。

 二人ともまだまだプレイヤースキルは低く、そのため敵の攻撃を何度も受けたが、双剣の手数とおっさん製の超強いメイスの攻撃力で、序盤の敵程度ならば十分にゴリ押しで勝利を得る事が可能だった。

 アーニャの補助や回復魔法の助けもあり、二人は順調にモンスターを狩っていた。


「いいなぁ、アーニャばっかり。あたしもそろそろ新しい武器が欲しいや」

「お金も貯まってきたし、帰ったらナナちゃんの武器を買おうね」

「アーニャ、そのメイス作った人紹介してくれない?あたしも剣作ってほしい!」

「ふぇぇ……無理だよぉ。知らない人だったし……それに顔が怖いし……」


 ある程度魔物を狩った後、二人は座って休憩しながら話をしていた。

 このエリアに棲息しているのはノンアクティブ・モンスター――こちらから攻撃を仕掛けなければ無害な、大人しいモンスターの事をそう呼ぶ――ばかりであった事もあり、彼女達が油断していたとしても、それを責めるのは少々酷であろう。


 二人がそれに気付いたのは、驚異がすぐ近くに迫ってからだった。


 ズシン。ズシン。

 足音というには少しばかり重く大きなその音に二人が振り返ると、そこに居たのは一匹の熊であった。

 ただしその熊は、全長3.5メートルほどの巨体で、二足歩行する超巨大な熊であったが。


 見たこともないモンスターだ。しかも、殺気を漲らせて二人を見下ろし、睨みつけている。その目はギラギラと妖しく輝き、口からは美味そうな獲物を見つけたと言わんばかりに涎を垂らしており、そこらじゅうに生えている木の幹よりも更に一回り太い腕を、今にも振り下ろさんと構えていた。


 ある日、森の中。熊さんに出会った。熊さんはる気マンマンで、こっちにガン飛ばしてます。さて、どうしよう。

 突然そんな状況下に置かれ、二人の頭が一瞬フリーズした。元々気弱なアーニャに至っては気を失いかけた。


「ふぇぇぇぇ!?」

「ちょっ……何こいつ!?」


 一瞬の硬直の後、二人は慌てて立ち上がって武器を構えた。


「アーニャ下がって!やぁーっ!」


 アーニャを後ろに下がらせながら、ナナは勇敢にも双剣を構えて熊へと斬りかかる。

 左右の剣による二連続斬り。

 だが、その攻撃は熊のHPゲージを、1%も削れてはいなかった。しかも、斬った時の感触が今まで戦ってきたモンスターとは全く違う。力の入れ方が甘かったのか、硬い毛皮とブ厚い肉に刃を弾かれた事と、敵のHPが全く減っていないのを見て驚いた事が重なり、ナナに大きな隙ができる。


「え?」

「ナナちゃん、危ない!」


 無造作に振るわれる熊パンチ。

 スピードはそれなりにあったが大振りのテレフォンパンチであり、普段のナナであれば回避するのは、そう難しくない筈だった。だが敵を目の前に隙を見せてしまったナナは防御も回避もできず、派手に吹き飛ばされて木の幹に衝突した。


 その一撃で、ナナのHPが8割ほども削られる。彼女の視界の隅では、彼女自身のHPゲージが赤く点滅していた。


「【ヒーリング】!」


 大ダメージを受けた仲間を、アーニャの回復魔法が癒す。全力でかけた回復魔法によって、ナナのHPが6割程度まで回復した。

 だが……その迂闊な行動により、熊の狙いがアーニャへと変更された。アーニャをギロリと睨み、熊が右腕を振りかぶる。


 敵対心ヘイトというパラメータがある。

 モンスターやNPCが敵対者に抱く敵意・殺意を表す隠しパラメータだ。

 対象のモンスターを攻撃する等の敵対行動を取る事でそれは上昇し、敵対状態にあるモンスターやNPCは、その値が最も高い相手をターゲットに選ぶ仕様になっている。


 そして、「敵であるナナのHPを回復する」という行動を取ったアーニャに対して、熊は激しい敵対心を抱いた。

 回復役というのは敵にしてみれば非常に厄介な物だ。それゆえ、味方の回復を行なうという行為は敵対心を稼ぎやすい行動である。

 その為、普通は攻撃が後衛へ向かわないよう、盾役が意図的に敵対心を稼ぎ、後衛は敵対心の上昇を抑えるように立ち回るのが一般的なパーティー戦術である。

 だが二人は、これまで比較的楽な相手とのみ戦い、回復も戦闘後に済ませていた為、そんなモンスターの習性を知らなかったのだ。当然、敵対心の仕様についての知識も持ち合わせていない。


 突然、自分へと攻撃の矛先を切り替えた熊に対して驚きながら、アーニャは左手の盾を構える。だが、熊のぶっとい腕に対して、木製の盾は風前の灯の如く、あまりに頼りない。

 盾の上から熊の豪腕でブッ叩かれ、先程のナナと同じように吹き飛ばされる。盾の耐久度が一気に減少し、アーニャのHPも危険水域レッドゾーンに突入した。


「ちょっと、何よこいつ!?強すぎじゃないの!」

「ふぇぇ……無理だよぉこんなの……」


 二人は既に勝つ事を諦め、何とか逃げようとする。だが、それをさせじと凶暴な熊は無力な少女達へと迫る!迫る!

 まさに絶体絶命!嗚呼、二人の少女はこのまま、熊の餌食になってしまうのか!?


 否、そうはならなかった。

 何故ならば、そこにあの男が現れたからである!

 ぼさぼさの黒髪に白いツナギ!咥え煙草に無精ヒゲ!獲物を狙う鋭い目つき!

 イカレポンチの廃人揃いのβテスター共の中でも、とびっきりに頭のおかしいヤバいヤツ!そう、こいつがウワサの、謎のおっさんだ! 


「おっとぉ……こいつぁフィールドボスじゃねぇか。こりゃラッキーだ」


 おっさんが熊を見て呟く。

 フィールドボス。おっさんは目の前の熊をそう呼んだ。それは各フィールドに一定周期で現れるボスモンスター達の総称だ。


 ボスというだけあって、奴等の戦闘力は、そのフィールドにいる通常モンスターの何倍も、何十倍も強い。理不尽なほど強い。

 そんな相手に対して、プレイヤーたちが取れる手段は二つ。

 一つ目は、遭遇を避けて、見つけたらすぐに逃げる事。

 二つ目は、準備をしっかり整え、大人数でパーティーを組んで討伐する事だ。


 だが、物事には例外が存在する。

 一部の上級者にのみ実行可能な、三つ目の手段が存在するのだ。


「よう、そこの嬢ちゃん達。苦戦してるみてーだな?よかったらその熊、俺が貰っちまっていいかい?」


 突如現れてそんな事を言うおっさんに困惑しながらも、二人の少女はこくこくと頷いた。


 彼女らの反応に、おっさんはニヤリと満足そうに笑って、口に咥えていた煙草を投げ捨てる。

 現実世界において煙草のポイ捨ては厳禁だが、おっさんが捨てた煙草はあくまでゲーム内のアイテムでしかなく、データの塊であるため延焼などをする事はなく、その場で耐久度を失って消滅した。


「よぉし。そういう訳でクマ公、てめえの相手はこの俺だ!」


 そして、おっさんは熊に向かって猛然と駆け出す。

 おっさんは走りながら右手で魔導銃を抜き放ち、弾丸を連射しながら熊に向かって走ると、一瞬で懐へと潜り込んだ。

 熊はおっさんを振り払うように、フックじみた横殴りで迎撃せんとする。


「あ、危ない!」


 ナナが叫ぶ。


「大丈夫だっつーの。まあ見てな」


 おっさんはあっさりと、熊の拳をダッキング(上体を屈めるように下げて相手のパンチを回避する、ボクシングの基礎防御技術だ)で回避する。

 この程度の大振りで隙だらけの拳など、βテスターなら誰でも見てから避けられる。ましてや相手はおっさんである。この程度の攻撃、何百発放とうと当たる確率は皆無に等しい。


 おっさんは上体を屈めたまま、左手でククリを抜き放つと鋭く踏み込み、熊の体を斬りつけた。

 聖銀製の白い刃が、薄暗い森を照らすように煌めき、斬った瞬間に小さな閃光と炎のエフェクトが発生する。これは武器に付与された特殊効果である、神聖属性と火炎属性の追加ダメージが発動した証だ。そして、そのうち火炎属性は【種族:獣】である熊の弱点である。

 弱点を突かれ、熊は苦しそうな呻き声を上げた。


 ちなみにこの熊、【ジャイアント・キングベアー】という名前なのだが、実際どうでも良い事なので以後、こいつを熊と呼ぶ事にする。

 非常に高い攻撃力・生命力を持つ強敵ではあるが、おっさんの敵ではない。

 どうせすぐ死ぬ事になる(ネタバレ)熊の名前など、熊で十分である。

 

 短剣での斬撃と同時に、おっさんは至近距離で右手の魔導銃から更に数発、熊に鉛弾をブチ込む。それに対して熊は再び反撃するものの、その攻撃はあっさりと空を切った。


「ハッ、遅ぇ遅ぇ。止まって見えらあ」


 回避、斬撃、銃撃、キック、斬撃、回避、銃撃……止まる事なく、おっさんは次々と熊に攻撃を加えていく。

 よくおっさんの動きを観察してみれば、彼の動きは一つの動作の終点が、次の動作の始点となっており、そのため全く無駄の無い連続的な動きになっている。

 更に、おっさんの攻撃は全て、的確に熊の弱点を突いていた。

 これこそが、おっさんが習得しているスキルの一つである、【眼力がんりき】スキルの効果である。


 対象のステータスや所持スキル等の情報を探るための【アナライズ】や、対象の弱点となるポイントを察知可能な【弱点看破】、未知のアイテムの情報を見る事のできる【鑑定】、ダンジョン等でトラップを察知できる【罠看破】、隠蔽状態のモンスターやPCを発見する【隠蔽看破】、より遠くまで見通す事が可能になる【鷹の目】、暗い場所でも目が見えるようになる【夜目】。

 スキルレベルを上げる事で、上記のような便利なアビリティを取得でき、更に他のスキルとの組み合わせでも様々なアビリティを習得可能な、とても便利なスキルである。


 公式のスキル・データベースでは「遠距離攻撃や盗賊、商人プレイをする方を中心に、便利なアビリティが揃っているのでオススメするスキルの一つです」と紹介されているが、おっさんに言わせれば、これは必須スキルと言って差し支えない物だ。

 シューターと盗賊と商人でこれを持っていない奴は論外だし、近接アタッカーにとっても弱点を狙えれば効率的にダメージを与えられ、クリティカルヒット等のボーナスを得ることで効率的に経験値を稼げるのだから。


 おっさんが習得しているアビリティ【アナライズ】と【弱点看破】のおかげで、熊の弱点はバッチリ判明済みである。

 そして、その弱点を的確に狙い続けられるおっさんの技量と、新調したばかりの、おっさん特製の武器。

 この三つが合わさり、フィールドボスの膨大なHPが少しずつ、だが確実に減っていく。たった一人のプレイヤーの手によって。


「すごい……」


 ナナはその場に突っ立ったまま、呆気に取られた目でおっさんを見つめていた。

 あれがトッププレイヤーの戦闘。

 目で追うのがやっとだが、彼が凄い事をしているという事だけはわかった。それと、ただ闇雲に剣を振り回すだけの自分の戦い方とは、次元が違うという事も。

 羨望か、嫉妬か。その両方か。無意識に双剣を握る両手に力が入った。


「あっ……!支援します!」


 我に返って、アーニャはおっさんに支援魔法を飛ばす。

 【ブレッシング】による全ステータス強化、【パワーゲイン】による攻撃力上昇。必要ないかもしれないが、【プロテクション】による防御力上昇といった支援効果バフがかかり、おっさんが強化された。


「おっと、昨日の嬢ちゃんか。ありがとよ」


 熊をあしらいながら、おっさんが笑顔を浮かべて礼を言う。

 だがその時、支援魔法を使った事により、再び敵対心を稼いでしまったアーニャに再び熊が襲いかかろうとした。

 彼女のHPは未だ危険水域。もう一度攻撃を受ければ、今度こそ死亡は免れないであろう。少女の危機だ!


 しかし、当然そのような隙をおっさんが見逃す筈がなかった。


「どこ見てんだコラァ!」


 熊の腹をおっさんが、強烈なヤクザキックで蹴り抜いた。更におっさんは、蹴った場所を足場にして熊の体を駆け上がる。

 腹から胸へ、胸から肩へ、肩から頭へ。連続で蹴りを入れながら、おっさんは熊の頭上に飛び上がりつつ、右手に持った魔導銃を、空高く放り投げた。そして左手に持っていた短剣の柄を、両手で強く握り、


「【フェイタル・ストライク】ッ!!」


 【両手持ち】というスキルがある。片手武器を両手で持った際に攻撃の威力を上昇させるパッシブ・アビリティや、そうした際に使用可能なアーツが習得可能になるスキルである。

 おっさんが放ったのはその中のアーツの一つ、【フェイタル・ストライク】。片手用の刀剣類を一時的に両手持ちにして、強烈な刺突攻撃を繰り出す技だ。やや隙が大きく、両手持ちのために片手を開ける必要こそあるが、その威力はかなりの物だ。

 おっさんが放ったそのアーツにより、短剣の刃が根元まで、熊の脳天に突き刺さって大ダメージを与える。ダメ押しとばかりに刺さった短剣の柄を踏んで、おっさんは高く跳躍した。


「【クイックチェンジ】」


 おっさんはアビリティを発動し、予備の魔導銃を空いた左手に装備する。

 二種類以上の武器スキルを習得することで覚える事ができるアクティブ・アビリティ【クイックチェンジ】。その効果は装備している武器を、アイテムストレージ内の別の武器へと一瞬で交換するという便利なものだ。

 それにより一瞬で左手に魔導銃を装備しながら、おっさんは空中で先程、真上に放り投げた魔導銃をキャッチする。これで、おっさんの両手に魔導銃が握られた。二挺拳銃スタイル完成である。


 おっさんは熊の頭上、空中で上下逆さになりながら、両手の銃を真下に向けた。完全に死角となっている頭上から、おっさんのアーツが放たれる。


「見てろよ嬢ちゃん達!おっさんが格好良く決めてやっからよ!」


 魔導銃のアーツ【チャージショット】を発動し、おっさんは両手の魔導銃で二発同時に、魔力を溜めてからの強烈な射撃を行なった。

 それを受けて熊が地面へと倒れる。


 クリティカルヒット、ヘッドショット、弱点攻撃、空中攻撃、スタン付与……といったバトルボーナスが一気に入る。

 敵が強敵であれば、それだけバトルボーナスによる経験値も多く入る。おっさんは元々それらを積極的に狙っていくスタイルだが、ボスが相手という事で、今は特に積極的に狙いに行っていた。現に、今の戦闘中のボーナスだけで、おっさんは結構な量の経験値を稼いでいた。


「ステータスオープン。経験値をDEXにできる限り割り振れ!」


 おっさんは落下しながら口頭でシステムに命令を下す。システムAIはそれに従ってステータスメニューを開き、おっさんの所持する経験値を可能な限りDEXを上昇させるために使用した。


 そして着地と同時に、おっさんは更にアビリティを発動した。発動したのは魔導銃スキルのアビリティ、【クイックリロード】。その効果によって、一瞬で左右の銃に弾丸を再装填する。


「さーて……トドメといくか!!」


 スタン状態の熊へ二挺の魔導銃を向け、おっさんは【奥義】を発動させた。


 数多くあるアーツや魔法の中には、【種別:奥義】と書かれた物が存在する。それらは強力な反面、MPの消費が莫大だったり、使用前や使用後の隙が大きかったり、再使用するのに必要なクールタイムが普通のアーツや魔法に比べて非常に長かったりといった様々なデメリットや制約が存在するため、使い所をしっかりと見極める必要がある。

 また、奥義は通常のアーツや魔法に比べて習得条件も厳しく、習得するために必要な経験値も大量の必要である。更に一部の奥義には習得するために特定のクエストをクリアする等の、特殊な条件が必要な物すらある。


 長くなったが、それだけ奥義というのは習得が難しく、消費が大きく、使い所が難しい。

 だが当然、それだけのデメリットを補って余りある性能が、奥義にはある。


「【バレットカーニバル】発動!」


 おっさんの発声に呼応して、奥義アーツが発動。おっさんが両手に握った拳銃が光り輝く。


 拳銃型魔導銃の奥義の一つ、【バレットカーニバル(銃弾祭り)】。

 その効果は魔導銃の残弾を全て、一瞬で撃ち尽くす多段攻撃。

 弾倉内の弾を全て使いきり、魔導銃の耐久度の消耗も激しい。消費MPも高く、使用時と使用後の隙も大きい、数ある奥義の中でも特にリスキーなスキルだ。

 だが癖が強く、ハイリスクな分、上手く決まればその効果は絶大である。


 左の銃から25発。右の銃から25発。

 合計50発の弾丸が、スタンして無防備状態の熊へと至近距離から放たれた。


 このゲームでは、頭部に大ダメージを受けたり、連続で攻撃を食らったりする等して一定量のダメージを受ける事で、気絶スタンが発生する。

 そして、その状態で追撃を受けた場合、被ダメージ及び被クリティカル率が大幅に上昇するのだ。


 更に、このゲームにおけるクリティカル率は、攻撃側と防御側、それぞれのDEXパラメータの対決により計算される。つまり、DEXの数値が相手より大きく上回っていれば、それだけ自分はクリティカルが出やすくなり、相手はクリティカルが出にくくなる。

 そして、おっさんのDEXの値は全プレイヤー中、ダントツの一位。当然、熊をも大きく上回っている。更におっさんは元々、クリティカルや弱点攻撃に特化したスタイルだ。


 その結果起こったのは、奥義アーツの五十連撃による、全段クリティカルヒット。それが全部弱点直撃という有様である。その火力たるや、熊の残ったHPを消し飛ばして余りある物である事は想像に難くないだろう。


 クリティカルヒットのバトルボーナスが50発分に加え、50ヒットコンボ、オーバーキル、更に奥義でトドメを刺した事による、シークレットアーツ・フィニッシュのボーナス。そしてボス討伐経験値に戦参加経験値によって、おっさんに大量の経験値が入った。


『フィールドボス、ジャイアント・キングベアーが討伐されました。

 討伐貢献度1位、【謎のおっさん】さん

 討伐貢献度2位、【アーニャ】さん

 討伐貢献度3位、【ナナ】さん

 討伐貢献度4位、該当者無し

 討伐貢献度5位、該当者無し

 以上の方々に特別報酬と初回撃破ボーナスが支給されます』


 エリア内にアナウンスが流れる。


 かなりの量の経験値とゴールド(ゲーム内通貨)がおっさんに入る。

 また、一応熊と戦ったナナとアーニャにもかなりの経験値とお金が入った。強力な敵である分、参戦するだけでも結構な報酬が貰えるのだ。本来もっと大人数で挑む事を想定されているフィールドボスの報酬を、三人という少人数で分けたのだから尚更である。


 そして、熊が消えたその場に現れるドロップアイテムの山。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【魔獣の最高級毛皮】×10


 種別 素材(皮革)

 品質 ★×9


 【解説】

 強力な獣型モンスターの毛皮。

 非常に強靭で、服や鎧の材料になる。

 主に【裁縫】スキルによる生産に使用する。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【熊の最高級肉】×15


 種別 素材(食材)

 品質 ★×9


 【解説】

 最高級の熊肉。非常に稀少で美味である。

 【料理】スキルによる生産に使用する。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【中級魔石】×3


 種別 素材(魔石)

 品質 ★×7


 【解説】

 淡い輝きを放つ魔石。中には魔力が詰まっている。

 魔導機械の動力となる、稀少な石。

 【魔法工学】スキルによる生産に使用する。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【鉱石?】×1(未鑑定)


 種別 素材(鉱石)

 品質 ???


 【解説】

 鉱石だが、詳しい事はわからない。

 現在の鑑定レベルでは鑑定できないようだ。

――――――――――――――――――――――――――――――


 本来は大人数で分配するはずのドロップアイテムだが、ほとんどソロで討伐した為、その大部分がおっさんのアイテムストレージへと納まった。おっさん大儲けである。


 おっさんは大量に入手した経験値でスキル枠を幾つか拡張した後、あらかじめ取得するスキルを決めていたのであろう。迷う事なく幾つかのスキルを新規取得する。

 【料理】【商売】【木工】【軽業】【隠密】……と、生産・戦闘の両方をバランス良く取得する。


 ちなみにスキル枠の拡張は、最初はわずか100の経験値で済む。

 だが次は200、その次は400……と、拡張するたびに必要な値は増えていく。

 スキル枠に上限は無く、理論上は全てのスキルを習得する事も可能ではあるが、前述のようにスキル枠は増やせば増やすほど必要経験値が増えるため、新しいスキルを習得する時はよく考える必要があるだろう。

 実際におっさんは今回の拡張とスキル取得によって、大量に得た経験値の半分以上を消費した。

 ステータスの上昇やアビリティ、アーツの取得にも経験値を使う事を考えれば、今回は枠の拡張はここで止めておくのが無難だろうと、おっさんは判断した。


「ま、こんなもんかね……っと」


 ウィンドウを閉じて顔を上げると、おっさんは思い出したかのように少女達の方を向き、


「よっ、お疲れさん。どうだい、おっさん恰好良かっただろ?」


 そう言って、人の好さそうな笑みを浮かべるのだった。

(2015/2/18 加筆修正)

(2017/3/22 加筆修正)

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