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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
59/140

34.謎のおっさん、ボスに挑む(1)

 エリアボス攻略がグダグダのまま中止になってから一週間後。

 再び集いし猛者たちは、今度こそエリアボス【オロチ】を討伐せんと気炎を上げて、ボス部屋への道を進んでいた。


 そんな彼等の先頭に立つのは、重厚な鎧を着込んだ騎士でも、探索能力に優れた斥候でもなく、一人の職人であった。

 金色の長い髪を縦ロール(ドリルのような螺旋状の髪型だ)にした、華やかなドレスを着たグラマーな美女……ギルド【C】幹部の一人、裁縫師のアンゼリカである。

 なぜ職人の彼女が先頭を歩いているのか?それを語るには、彼女が手に持っている、あるアイテムについて説明する必要があるだろう。


 彼女が持っているのは……手乗りサイズの、人形である。裁縫スキルを用いて、彼女が自ら作成した高品質な品だ。

 その人形は、人間の男性をデフォルメした姿であり……ぼさぼさの黒髪にツナギ姿、それから口にくわえた煙草が特徴的だ。どう見てもおっさんがモデルである。ただし人形のビーズで出来たつぶらな瞳は、モデルとなった人物の凶悪な目つきとは似ても似つかないが。


「【おっさん人形】ですわ。装備しているだけで索敵、トラップ探知および自動迎撃を行なってくれるスグレモノですわよ」


 おっさん人形を手に乗せたアンゼリカが自慢げに言う。

 デフォルメされ、小型化されたおっさん人形を見て、意外と可愛いかも……等と女性プレイヤー達が考えた、その瞬間。

 突然、おっさん人形の目つきが本人そっくりの凶悪なそれへと変貌し、


「おい、モンスターが来るぜ」


 低く、渋い声が人形から発せられる。

 おい誰だ、これを可愛いとか言った奴は。


「おい、モンスターが来るぜ」


 再び。それを証明するかのように、少し離れた所から、モンスターがこちらへと近づいてくる足音が聞こえてくる。


「この間、色々と録音させられたのはソレの為かい」


 おっさん人形の元となった人物、すなわち謎のおっさんが呆れたように苦笑し、アンゼリカへと声をかけた。


「その通りですわ」


 答えるアンゼリカが、おっさん人形を前方に向ける。

 モンスターが現れる。火山洞窟に生息する強力なモンスター、ファイアドレイクだ。見た目は赤い翼竜で攻撃力・防御力ともに高く、強力な火炎属性のブレスを放ってくる。

 ファイアドレイクは先頭に居るアンゼリカにブレスを放とうと、口を大きく開けて息を吸い込んで……


「遅ぇ!」


 一瞬で距離を詰めたおっさん人形が、ファイアドレイクの腹へと痛烈なボディブローを放つ。息を吸い込んでいた所に直撃を貰い、悶絶するドレイク。

 更におっさん人形は、人形用の小型魔導銃剣を左右の手に持ち、倒れたドレイクへと向けて乱射する。


「貴様は虫ケラだ」


 さんざん撃ちまくった後に足で踏みつけ、そう吐き捨てるおっさん人形。HPがゼロになったドレイクが消滅する。

 そしてモンスターの気配がなくなった事で、おっさん人形は元のつぶらな瞳に戻り、アンゼリカの手の上で動きを止めたのだった。


「というわけで、新商品の紹介は以上ですわ。これはきっと売れる」


 そう豪語するアンゼリカだったが、売り上げはイマイチであったとか。性能は兎も角として見た目とかに色々と問題があったせいであろう。ただし、一部の物好きな客からの評価は高かったようである。



  ◆



 そして彼らはボス部屋の前へと到達した。

 黒い、重厚な金属の扉からは重苦しい空気が漂っている。


「では開きます……皆さん、勝ちましょう!」


 シリウスが宣言し、扉に手をかける。

 ギィィィィ……という音とともに、扉がゆっくりと開いていった。


 やがて扉が完全に開ききった時、彼らの目に映ったのは、広大なボス部屋と、八つの首を持つ巨大な竜の姿。エリアボス【オロチ】である。


「おっさん、アナライズお願いします!」

「おう、任せな」


 全プレイヤー中随一の眼力スキルを持つおっさんに、ボスの戦力を探らせるシリウス。それに応え、おっさんがアビリティを駆使してボスのステータスを探る。


「アナライズ成功!送るぜ!」


 程なくして、おっさんがエネミーデータの取得に成功し、それをメンバー全員に送り、共有化した。そのデータは以下の通りである。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【オロチ】


 種別 エリアボス/ユニークエネミー

 種族 竜族


 HP 1,550,000/1,550,000


 STR 2200

 VIT 2000

 AGI 500

 DEX 800

 MAG 1000


 耐性(弱) 冷気 疾風 大地 電撃

 耐性(中) 火炎


 弱点 貫通・刺突(目) 斬撃(首) 衝撃(頭)


 【解説】

 火山洞窟の最奥を守るボスにして、荒野エリアのエリアボス。

 非常に高い生命力と攻撃力・耐久度を誇る。

 様々な属性に対して耐性を持つため、元素魔法は効きにくい。

 物理攻撃または神聖・暗黒・混沌属性の魔法が効果的。

――――――――――――――――――――――――――――――


 提示されたデータにざわめくプレイヤー達。トッププレイヤー集団の彼等にとっても、これまで戦ってきたボスモンスターとは文字通り、桁が違う。


「ガチガチの前衛型だな。特にSTRがやべえ。2200か……ところでレッド、おめぇのSTRいくつよ?」

「補正込みで1120だぜ」

「だそうだ。レッドの倍くらいだが、多分武器の威力やスキル補正、アーツその他合わせりゃレッドに殴られた方がよっぽど痛ぇだろ」

「おk、なら大丈夫だ。俺はレッドに殴られても二発までなら耐えれる」


 よくレッドと戦っているモヒカンズや流星騎士団のメンバーがそう言って笑う。


「HPもバカ高ぇし、防御も高そうだ。とは言え弱点を狙えば物理攻撃はよく通るようだし、大丈夫だろうよ。おめぇら大好きだろ?スキルを上げて物理で殴るの」


 脳筋呼ばわりされたプレイヤー達からブーイングが上がる。それをニヤニヤと笑いながら眺めつつ、おっさんは続けた。


「MAGが1000もあるだけあって、ブレスの威力も高そうだな……っと。ああ、ところでカズヤにエンジェ、おめぇらのMAG、今いくつだっけ?」

「基本値920、スキルや装備の補正を入れて1200だ」

「ククク、我の魔力は補正込みで1700あるぞ」


 さらりと答えるカズヤと、体を大きく反らしてドヤ顔で言うエンジェ。それを聞いた他のプレイヤー達からどよめきが起きる。


「だそうだ。うん、やっぱ大した事ねぇなオロチ」


 手のひらをクルリと返すジェスチャーをしながらおっさんが言うと、笑いがこぼれた。


「それで最後にDEXとAGIだが、こっちは両方とも3桁だな。他のステータスに比べりゃ全然大した事ねぇや」


 おっさんの台詞に「それでも十分高いと思うんだけど……」というような表情をするプレイヤー達。そんな彼等に、おっさんは頼もしく笑ってみせた。


「つーかどっちも俺の半分しかねえじゃねぇか。ゴミだ」


 おっさんがそう言い放つと、再び場が笑いに包まれた。


「ふふっ……ではおっさんが提示してくれた情報をまとめますよ」


 シリウスが前に出て、皆の視線を集める。


「あのデカブツは……」


 と、シリウスはオロチを指差し、


「攻撃力はレッド以下!魔力はカズヤさん、エンジェさんのご兄妹には及ばず!素早さや技術はおっさんの半分以下の!体力だけは一丁前に高い置物という事で皆さん、よろしいでしょうか!?」

「おk」

「異議なし!」

「よろしい!というわけで、サクッと片付けてしまいましょう!突撃!」


 シリウスを先頭に、プレイヤー達がオロチに向かって突撃する。


 咆哮と共に八つの頭がそれぞれ、プレイヤー達に向かって襲いかかる。同時に、取り巻きのモンスター達も一斉に殺到する。


「無駄だ!」


 そう声を上げるは、ギルド【魔王軍】のギルドマスター、エンジェ。おっさんに貰った★×10の伝説級の杖【麒麟】を片手で振り回しながら、先頭へと躍り出る。

 モンスターの一体がエンジェに飛びかかるが、彼女はそれを、右手に持った杖で綺麗にブロックして衝撃を受け流す……と同時に、固く握った左拳をモンスターへと突き入れた。

 拳自体のダメージはそれほどでもなかったが、彼女の拳が命中すると同時に、拳に刻まれていた魔法文字が光を放ち、魔法が自動的に発動し、モンスターに大ダメージを与えた。

 更に、その間にも詠唱を進めていたエンジェの魔法が完成し、広範囲をまとめて薙ぎ払った。


 エンジェが使用したのは、【魔法剣】スキルの派生系。格闘スキルと組み合わせて使用する【魔法拳】である!

 杖で敵の攻撃を防ぐと共に、魔法拳による反撃により物理と魔法、両方のダメージを与え、更に戦闘を行ないながら魔法を行使する、高度な詠唱スキルによる攻防一体の戦術。


「ククク、見たか愚か者め!これこそが我が奥義……」


 エンジェが自慢げに何やら解説を行なおうとした、その時である。


「む、あれはもしや……!?」

「知っているのかライディーン!?」

「うむ、間違いない……あれはまさしく古代エルフカラテ!」

「古代エルフカラテ!?」

「古代エルフカラテだと!?一体何なのだそれは!?」


「ちょっ、違っ……違うぞ!?」


 エンジェの戦いぶりを見ていたプレイヤー達の一部が騒ぎ出す。彼等が言う古代エルフカラテとは一体何なのか!?

 ライディーンと呼ばれた男がミンメイ書房刊と書かれた書物を片手に詳しい解説を行なっているが、それはこの小説の本筋とは特に関係ないため、割愛する。



 さて、そのようにしてエリアボス討伐に挑むメンバー達は取り巻きのモンスター達を瞬く間に駆逐し、ボスへと挑みかかる。

 それに対して、ボスは咆哮と共に八本の首を鞭のようにしならせて、勇者達へと振り下ろした。

 そのうちの一本が、おっさん達のパーティーへと襲いかかる!

 口を大きく開き、竜のアギトがおっさん達を噛み砕かんとする。だが……


「Too easy!」


 その前にアナスタシアが苦無を二本まとめて投擲し、それらは正確にオロチの両目に深々と突き刺さった。


「いただきぃ!」


 そしてナナが、両手に装着した、六本の爪を持つ双剣で喉を切り裂き、


「レッドさん、お願いします!」


 アーニャが下段に構えたバットを振り上げ、オロチの顎を打ち上げ……


「任せな!これでラストだ!」


 そこへ上空から落下してきたレッドがハンマーを全力で振り下ろし、ダメ押しの一撃。更にすぐさま武器を大鎌へと換装すると、返す刀で首を刎ね飛ばした。

 頭を失ったオロチの首が、ぐったりと地面に横たわる。四人がかりの連携攻撃を受け、僅か十秒で頭の一つが無力化された。


 そんな中、おっさんとカズヤの二人は立ち止まる事なく駆け抜け、ボス部屋の奥……崖の手前まで到達した。

 崖の下には溶岩の海。そしてその中にはオロチの本体が鎮座している。

 本来であれば今の状態でオロチ本体に手を出す事はできず、八つの頭のHPを全て0にすることで、本体が溶岩の中から飛び出してきて戦えるようになるのだが……


「行くぞ、おっさん!」

「任せときなぁ!」


 カズヤが二本の片手直剣【白龍】と【黒龍】を構えて魔法を詠唱し、おっさんが巨大な魔導銃剣【メメント・モリ】をオロチ本体へと向ける。


「【アイスフィールド】!」


 まずはおっさんが錬金術を使い、フィールドの属性を冷気属性へと変え、


「ユニゾンアタック!【大魔弾:コキュートス】!」

「【コールエレメンタル:ウンディーネ】!」


 おっさんが大魔弾を放ち、広範囲を猛吹雪が襲う。カズヤが究極魔法【精霊魔法】を使用し、精霊を召喚する。身体が水で構成された、半透明の美女の姿をした精霊、ウンディーネだ。

 カズヤは召喚した精霊と共に、冷気属性の魔法を連続で放った。

 彼等の攻撃により、オロチの身体ごと溶岩の海が凍りつく。


「よし、成功だ!野郎共、出番だぜ!」


 オロチの動きが止まったのを確認し、おっさんがギルド【C】のメンバーを呼び寄せる。職人達がおっさんと共に銃弾を放ち、また爆弾のような攻撃用のアイテムを、動けないオロチに次々と投擲し、ダメージを与えていく。

 その隙に、冒険者達はオロチの頭を次々と確固撃破していった。


 程なくして、八つの頭が完全に潰される。

 するとオロチの巨体が赤く発光し、震え始めたではないか。


「ここからが本番です!気をつけて!」


 シリウス率いる重騎士パーティーが油断なく盾を構え、後衛達が彼らを回復したり、支援魔法をかけ直したりして準備を整えた。


 オロチの頭が瞬時に再生される。

 そして、八つの口から一斉に、一際大きな咆哮が上がる。

 溶岩ごと本体を封じていた氷が砕け、オロチが跳躍する。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 おたけびと共に、上空より八つの頭を持つ竜が舞い降りる。

 矮小な人間達を押し潰さんと、その巨体を生かして上空より降下攻撃を行なうオロチ!


「全員、離れて!」

「上から来るぞ、気をつけろ!」


 討伐隊の者達は、上空から襲い来る敵を見上げ、警戒せんとするが……


「あ、あれは……おっさん!?」


 彼らの視線にあったものは、空高く跳躍し、その巨体をもって自分達を踏み潰そうとする巨大なエリアボスの姿。

 そして、そのオロチよりも更に高く、二挺の魔導銃剣を携えて空を舞う、おっさんの姿であった!


「どこ見てんだコラァ!」


 いつのまにか天井近くまで上昇していたおっさんが、空中でヒヒイロカネ製の新作魔導銃剣で魔弾を連射した。


 オロチは突然空中で襲ってきたおっさんに反撃しようと暴れ、八つの首からブレスを放つ。だがおっさんは、空中で重力に逆らうかのように、不自然な方向転換を行ないそれらを回避!


「なんだあの動き……!」

「あれは!?まさか、銃の反動で空中戦を!?」


 オロチ及びプレイヤー一同、混乱。

 そんな彼らを見下ろしながら、おっさんは落下していくオロチへと魔弾を浴びせ続ける。ちなみにおっさんは、銃の反動や【軽業】スキルを最大限に生かして滞空し続けている。本当に人間かこの男。


 オロチが着地し、轟音と共に地面が揺れる。

 おっさんの事はどうにもならない物として諦めたのか、オロチは八つの首を冒険者たちに向け、一斉に特大のブレスを放った。


「護りきります!」


 シリウスを筆頭に、騎士たちが盾を構え、防御スキルをフル活用して受け止める。支援役が魔法で障壁を張ってそれを助け、傷ついた前衛達を回復魔法で癒す。

 魔法使い達はブレスに対して魔法をぶつけ、相殺する。弓や銃を扱う者達はブレスを放つ頭に反撃の矢弾を叩き込み、近接アタッカー達は飛び込むチャンスを待つ。


 だがそんな中、オロチの懐に飛び込む男が一人。カズヤである。

 その男は両手に持った剣を高速で振るいながら高速で詠唱した魔法を連続で放ち、オロチにダメージを重ねていく。

 そして、オロチのすぐ近くで、まるで飛翔する鳥のように、両腕を大きく広げた構えを取った。


 あまりにも隙が大きい構え。カズヤはその構えを取ったまま全身にオーラを纏い、硬直したように動かなくなる。どうやら、溜めモーションが必要な大技か。


「あ……あの技は、まさか!?」

「龍王様のあれが見れるぞ!」

「アナちゃん、皆、カメラ準備ー!」


 カズヤの構えを見た者達が、戦闘中という事も忘れて沸き立った。


 果たして、彼が繰り出さんとする技の正体とは一体?

 次回、龍王の奥義が炸裂する。刮目して見よ。

間が空いて申し訳ない。

ここしばらく体調がイマイチだった所に、風邪をこじらせてダウンしておりました。

次はそれほどお待たせせずに続きを出せるかと……多分。


(2014/7/6 誤字修正)

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