33.謎のおっさん、グダる
火山洞窟の入口に、エリアボス討伐の為に選抜されたプレイヤー達が集う。
彼らの先頭に立つは、ギルド【流星騎士団】団長、シリウス。重厚な金属鎧に身を包んだ少年騎士。ディフェンスに定評があり、その防御力は他プレイヤーの追随を許さない。ルックスもイケメンだ。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます!普段は敵対しているギルド同士の方も多いですが、今日この場においては皆で力を合わせて、共にボスを撃破しましょう!」
拳を握り締めて、猛者達を鼓舞するシリウス。
そんな彼の前に立つ、精鋭プレイヤー達の様子はといえば……
「どうだ!こいつが俺が、夜も寝ないで丹精込めて作り上げた新作武器の数々よ!まあビール飲んで昼寝はしたがな。つーわけで直に拝んで驚きやがれ!」
「ククク、ならば早速我にその金色の杖を献上するがよい。言っておくが生半可な性能の物では驚かんぞって何だこの杖SUGEEEEEEEEE!!」
「ヒューッ!こいつぁ凄ェや。鎌以外の武器も今度作ってくれよ」
作ってきた武器をドサドサとその場に落とし、広げるおっさん。そんな彼に武器を注文していたプレイヤー達が殺到する。
「おう小僧共、てめーらの武器も作ってきたから来な!あとブルーノ、前にお前をブッ殺した時にドロップした処刑斧よ、酷ぇナマクラだったから打ち直してやったぜ。感謝しろよ」
「お?何だ何だ、俺らの分もあるのかよ?」
「おいおい酷ぇ事言うなよオッサン、あの斧もあれで結構な業物……ってなんか異様にパワーアップしてんじゃねーか!」
その中にはモヒカンズの男達も居る。作った武器が後に自らに向けられるとしても、おっさんはそんな事は気にしていない風だ。
「よし、特製シーフードパエリア完成!料理効果はDEXとMAG上昇、それから魔法スキル強化系です。魔法使いの皆さんどうぞ!」
「イヤッホオオオオオオウ!いただきます!」
「なぜ俺は魔法スキルを取っていないんだ……orz」
「俺ちょっと今から魔法系スキル習得して上げてくる。だから食っても問題ない。Q.E.D」
それ以外にも、料理を作って配る料理人達と、それに群がる亡者達……
「ようステラ、ちょっと暇だったからオリハルコン使ってバントラインスペシャル作ってみたぜ。どうよコレ、超COOLじゃね?」
「いいね。こちらもヘカートⅡが完成した」
「うおっ、そっちもやべーな!後で撃たせろよ」
それに、作ったアイテムを見せびらかす職人達……
「やべ、毒消しとクーラードリンク忘れた。誰か譲ってww」
「またかよお前死ねよw」
「クーラー一本、五万ゴールドになりますwww」
うっかり忘れ物を忘れたギルドメンバーをボコる男達……
「それでは突撃インタビューを開始します!アナちゃん、カメラ準備!」
「とっくに完了してマース!」
トッププレイヤーの集団を見て、チャンスとばかりに突撃するパパラッチ集団……
などなど、とにかく各自が思うままに動き回っていた。
「話を聞けえええええええええ!」
シリウスが叫ぶ!しかし効果はなかった!
結局、彼が落ち着いて話ができるようになったのは三十分が経過した後であった。
◆
「……というわけで、一回倒したら終わりのユニークモンスターですので熾烈なドロップ争いが繰り広げられそうですが、基本ドロップアイテムは取った人の物。終わった後の交渉は各自で自由に行なって下さい」
こころなしか、ぐったりとした様子のシリウスが皆を集め、全員に聞こえるように大きな声で話す。各パーティーの動き方や、各種取り決めを一通り喋った後に、シリウスは改めて全員を見回した後に、純白の騎士盾を掲げ、凛々しい表情で宣言する。
「皆さん、確かにこれから戦うボスは、これまでのモンスターとは比べ物にならないほどの強敵です。ですが僕達も、全プレイヤーの中から選び抜かれた精鋭集団。皆で力を合わせれば、どんな強敵が相手でも絶対に勝てるはずです!
いざとなったら僕がこの盾で皆を護りますので、どうか皆さん、僕に力を貸して下さい!」
「(キリッ」
真面目な表情で宣言するシリウスだったが、その言葉尻を捉えて茶化す者が一人。プレイヤー達の間から、笑いをこらえて噴き出す声が幾つか上がる。
シリウスが犯人を探して振り向く。するとそこにはニヤリと笑うレッドの姿。「やってやったぜ」と言わんばかりのドヤ顔だ。
シリウスは右手を伸ばし、にっこりと笑うと、レッドの頭をがっしりと鷲掴みにして力を込める。アイアンクローだ。
「お前いいかげんにしろよクソレッド死ねよ」
「うるせーお前が死ね」
それに対してレッドも反撃し、シリウスの頬を両手で掴んで引っ張った。そのままお互いに我慢比べのように力を込め続ける。両者のHPが地味に減っていく。幼馴染同士の意地のぶつかり合いだ。
「おう、おめーらの仲が良いのはわかったが、イチャついてねーでさっさと進めやがれ」
そんな二人を制止する声が上がる。声の主は……謎のおっさんだ。
「別にイチャついてなんかないですよ!誤解を招くような言い方はやめて下さい!」
「そうだぜ!つーか別に仲良くなんかねえし!」
二人同時にそう叫び、ぱっと離れる。二人ともやや頬が赤い。素晴らしい息の合い方であった。
そんな二人を見て、おっさんはにやにやと笑った。
「いっひっひ、そう照れる事ねえだろ。いやぁ若いってのはいいねぇ。式はいつ挙げるんだい」
おっさんがそう言って二人をからかう。
おっさんにとっては軽い冗談であったが、それを受けてシリウスとレッドは顔を真っ赤にして反論して反論する。
それを面白がって、更におっさんが絡む。
やがて完全に冷静さを失った二人は……
「いやいや俺とシリウスとかありえねーし!つーかこのアホが好きなのはカエデ姉の方だから!」
「そうですよ!僕はカエデさん一筋です!この馬鹿は勿論、他の女性には興味ありません!」
拳を握り締めてそう力説する。
だが、盛大な自爆だ。
唐突な告白に固まるプレイヤー達。そしてシリウスとレッド。
「って何言ってんだ僕はああああああああ!」
「やっちまった……悪いシリウス、つい」
頭を抱えて絶叫するシリウスと、地面に両手をついて項垂れるレッド。
「あらあら……どうしましょう」
困ったような、それでいて少し嬉しそうな表情のカエデ。
シリウスはそんな彼女へと向き直り、
「カ、カエデさん……すいません、その、突然の事で申し訳ないですが……今の件については、二人の時にしっかりとお話したいので、後でお時間をいただいてもよろしいでしょうか!」
真っ直ぐな瞳でカエデの目を見て、そう言った。
未だ混乱し、冷静さを欠いた状態ながらも、突然の事に困っている思い人を放っておいてはならぬと奮起するシリウス。
彼の真摯な言葉を受け、穏やかな笑顔でこくりと頷くカエデ。
「団長!」
「団長が男を見せたぞ!」
「俺達、一生ついていきます!」
そんな騎士団長の姿に感動し、彼の下に集う団員達。
「特ダネキタ――(゜∀゜)――!!」
突然の告白劇に沸き立つ【アルカディア情報局】のメンバー達。
「祭りだああああああああああ!!」
「エンダアアアアアアアアアアアア!」
「宴の準備じゃあ!ボス?知らない子ですね」
悪ノリを始めるプレイヤー達。お祭り騒ぎである。
「始まる前からグッダグダじゃねーか……おい、どうする気だおっさん」
ただ一人、冷静なカズヤがおっさんにツッコミを入れる。
「いやぁ参ったねコリャ。どうしたものやら」
当のおっさんは、そんな風にとぼけながらボリボリと頭を掻くのであった。
◆
結局、その日はもうボス討伐という空気ではなくなり、解散した。
ボス討伐は一週間後に延期される事になった。
ちなみに。
その後、シリウスはギルドハウスの団長室に、カエデを呼び出して二人きりで話をしたそうな。
その会話の内容は、当の本人達以外には知る由もないが……ギルド流星騎士団のメンバー達の証言によると、二人は以前よりも随分と距離が縮まり、時おり二人きりでどこかへ出かける事が増えているとの事であった。
もう一つ。
シリウスとレッドをからかって、うっかり暴発させてしまった犯人、およびボス討伐をグダグダのまま中止させた主犯ということで、プレイヤー達からおっさんに対し、罰ゲームの指令が下された。
罰ゲームの内容は、最高の装備を作ってシリウスとカエデにプレゼントする事。その際の費用・材料は全ておっさんが負担する。
おっさんは数日の間、工房に篭り続け、じっくりとその罰ゲームを遂行した。
本人以外でおっさんの工房に出入りできる一番弟子の証言によると、彼らのための装備を作っているおっさんは、妙に楽しそうであったそうな。
あれだけ決戦前に色々やっといて結局延期だよ(笑)
ボス戦書いてる途中で急遽ビビッと来たので……。
あと、ボス戦から第二部終了まで、かっこいいおっさんが続く予定ですので、ここらで一発、アホなおっさんを書きたかったのもあります。
私がボスレイドを主催し、人を集めて打ち合わせをすると、何故かよく脱線しまくってグッダグダになります。
なぜだろう。俺はこんなに真面目で紳士的なのに。
ともあれそんな経験を元に書きました。
次回ようやくボス戦突入します。




