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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
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番外編・料理長クック

 クックという名のプレイヤーが居る。

 ギルド【C】のサブマスターにして料理長。このゲーム、「アルカディア」にはβテストから参戦しているベテランプレイヤーだ。

 中肉中背で、薄緑色の髪を短く切り揃え、コック帽を被り、エプロンを着けた格好。見た目は良くも悪くも普通といったところだが、清潔感があり、人のよさそうな雰囲気を纏っているのは好印象だろうか。


 彼は天才的な料理の腕前を持ち、その代償に三つのカルマを背負った。


 一つ、とにかく美味い物を作りたい。

 二つ、とにかく美味い物を食べたい。

 三つ、とにかく美味い物を人に食わせたい。


 普段はギルド【C】の良心枠として、暴走しがちな職人達のブレーキ役となっている彼であるが、上記の理由から、料理に対するこだわりは他の追随を許さず、愛ゆえに暴走する事も時折ある。

 今日は、そんな彼の物語に付き合っていただきたい。


  ◆


 ギルド【C】が所有している土地には、巨大なギルドショップが存在する。

 生産・商売ギルドである彼等にとっては、冒険や戦闘以上に、その店の運営こそがメインとなる活動であり最優先されるべき事柄なのだ。

 その一角に、料理チームが運営する食堂が存在する。


 ゲーム内における料理は、言ってしまえばデータの塊であるため、腐敗したり、冷めてしまって劣化する事はない。

 ゆえに、購入した料理を持ち帰るプレイヤーも多いが、買ってその場で食べたいという者もそれなりの数が存在した。

 そのため店内には調理場と販売カウンター、そして食事をするためのテーブルが存在する。基本的には販売カウンターで売っている物を購入する事になるが、常に料理人が常駐し、オーダーメイドも受け付けている。


 また調理場に入っている料理人が、作った物をその場で売り始める事もよくある。ちょうど今も、料理場にいる料理人のうちの一人が、完成した料理をNPC店員へと手渡し、販売を依頼しているところだ。


「料理長の特製フルーツパフェ、限定100個販売開始します!なお、数が少ないため、おひとり様2個までの限定販売とさせていただきます」


 カウンターの内側に立つ、ウェイトレス風の制服を着た女性NPCが宣言すると、食堂内に居たプレイヤー達は食事の手を止め、椅子を鳴らして勢いよく立ち上がった。また入口の扉や天井裏、床下から現れるプレイヤー達も居た。


「きたか……!(ガタッ」

「買うぜ!二つくれ!(ガタッ」

「ちょっと待ちなさい!私が先よ!(ガタッ」

「待っていたぜ……!この時を……!(ガタッ」

「パフェだぁ……?俺はPKだぜ、そんな女子供が食うような軟弱な物……二つ貰おうか(ガタガタッ」

「話は聞かせて貰ったぞ!(ガラッ」


 販売カウンターに殺到するプレイヤー達。

 だがそんな時、突如として無粋な闖入者がその場に乱入する!


「金を出せ!」

「俺達は泣く子も黙る犯罪者ギルドのメンバーだ!ブッ殺されたくなければ金とアイテムを差し出せ!」


 どかどかと足音を立てて侵入する無粋な男達。革鎧を着て、斧や両手剣などの武器を構えた彼らは突如現れ、店員や客を威嚇し始めた。

 そんな男達に対して怯えるNPC店員。だが、食堂の客達はそんな彼等を冷ややかな目で見つめ……食事中ゆえ解除していた装備を一斉に身に纏う。


 純白の金属鎧を着た流星騎士団のサブマスターが片手剣と盾を構え、黒い外套に身を包んだ魔王軍の精鋭が、双剣を両手に握って魔法剣を準備。ギルド戦乙女に所属する女性プレイヤーが弓に矢を三本まとめて番え、モヒカンズの新人達が斧やナタを抜き放ってメンチを切っている。その他多数のプレイヤーが同様に臨戦状態だ!


 数十人のプレイヤーに武器と殺気を向けられ、怯む犯罪者達。

 だが、そんな一触即発の空気の中で穏やかな声が響き渡る。


「ストップです、皆さん。ここでは争い事は厳禁ですよ」


 声の主は、この食堂の料理人達を束ねる、【C】のサブマスターにして料理長。キャラクターネームはクック。


「お気持ちは嬉しいですが、武器は仕舞っておいてください」


 そんな彼の言葉に、矛を収めるプレイヤー達。

 食堂内での争いは厳禁。例え敵対勢力のプレイヤー同士であっても、この場においては仲良く飯を食うべし。それがこの食堂の掟だからだ。

 破った者には出禁、すなわちアルカディア最高峰の料理を食べられなくなるという重い罰が待っているのだ。


「さて……」


 クックが強盗達に向き直り、ニコリと笑う。


 それを見て、思わずほっとする強盗達。先程数十人のプレイヤー(トップギルドの構成員含む)達に囲まれた時は思わずビビったが、目の前の男は大人しそうだ。

 このギルドはかなり儲けているようだ。ギルドマスターは随分とおっかねぇ男だという話だが、この料理人は弱そうだ。しょせんは職人。さっさとブッ殺してずらかるか。


 おめでたい事に、そんな事を考える犯罪者達であったが……


「【牙突】」

「!?」


 突如、包丁を高速で鞘から抜き放つと同時に、神速の刺突攻撃を放つクック。【刀】と【抜刀術】のスキルの組み合わせにより習得可能なアーツ【牙突】が男の頬を掠めた。


「て、てめえ……ひっ!?」


 思わぬ攻撃に怯みかけたものの、無力だと決めてかかっていた職人に攻撃されたという事実に激昂しかける……が、その前に技を放ち終えたクックが、彼の胸ぐらを掴んで片手で持ち上げ、顔を近づける。

 その表情は残念ながらお見せできない!理由は察していただきたい!


「お前も肉団子(ミートボール)(隠語)にしてやろうか?」


 ぼそりと、他の者達には聞こえないように囁くクック。それを聞いた男はガクガクと、生まれたての小鹿のように足を震わせ、その場にうずくまった。そして両手をつき、額を床にこすりつけるようにして頭を下げる。


「すいませんでした。命だけはお許しください」


 土下座、すなわち無条件降伏の証である。

 他の強盗犯たちも、ギルド【C】に所属する料理人たちの手で拘束され、工房へと連行された。この後は地道な生産活動に従事させられた後に釈放される。

 かくして誰一人として犠牲になる事なく、この事件は幕を下ろした。


本編が難航している中、思いついたので番外編投下。

料理人を怒らせてはいけない(戒め)

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