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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
53/140

30.決戦前夜(2)

お待たせしました。

なかなか忙しく、週末くらいしかまともに執筆時間が取れませんが、最低でも週に1回は更新できるように頑張ります。

「はっ、はっ、はぁっ……!」


 初心者用の貧相な装備に身を包んだ少年が、夜のフィールドを走っている。彼の頭上に表示されているプレイヤー名はルーク。

 月明かりに照らされた表情は、焦燥と恐怖に彩られ……息を切らしながら、必死に背後から迫る者達から逃れようと足を動かしていた。


「畜生っ……どうして……ッ!」


 ルークは装備を見ればわかるように、このゲームを始めたばかりの初心者だ。

 そんな彼に声をかけ、このゲームの事を色々と教えてくれた親切な先輩プレイヤー達。彼等に連れられてフィールドに出て、初めての冒険を楽しんだのはつい先程の事だ。


 だがそんな時間も、突然失われた。

 PK(プレイヤーキラー)。

 いきなり襲いかかってきたそいつらに、初心者の彼に親切にしてくれた先輩プレイヤー達が殺された。足手纏いを抱えた上に、多勢に無勢。その結果は至極当然。


「くそっ、くそっ……!」


 犠牲になったプレイヤー達は、なんとかルークだけでも逃がそうと奮闘。その結果、命からがら逃げ出す事ができた。

 PK達と、何も出来なかった自分に対する怒りと悔しさで顔を歪めながらルークは走った。背後からはPK達が怒声を上げながら追いかけてくる。


「うわっ!」


 PKの一人がクロスボウの矢を放った。なんとか避けるが、それで態勢を崩して転んでしまう。


「へへへ……手間取らせやがって」


 慌てて体を起こそうとするが、既にPK達は目の前へと迫っていた。

 凶悪な人相の男達が二十数人。女も何人か混ざっている。

 頭上にキャラクターネームと共に表示されているギルド名は【赤い手(レッドハンズ)】。悪名高い、大手のPKギルドである。


「初心者が。大人しく殺されてろ」


 嗜虐的な、醜悪な笑みを浮かべて武器を振り上げるPK。

 ルークはそんな彼らを見上げ……初心者用の小ぶりな短剣を握り、PK達を睨みつけたまま立ち上がる。


「何だその目はァ?一丁前に粋がりやがって」

「そんなチンケなナイフで俺達とやろうってのか?」


 それを見てゲラゲラ笑うPK達。

 だがルークは嘲笑されても、彼らを睨んだまま油断なく短剣を構える。


 この状況で勝てるとは思わない。

 だが絶対に屈しない。せめて一矢報いてやる。


「くらえっ!!」


 覚悟を決めて、短剣の基本アーツ「ファストエッジ」を放つルーク。完全に油断していた目の前の男に、高速の二連撃がヒットする。


 ダメージは二発合わせて85。HPをほんの僅かに削った程度に過ぎない。今のルークの実力ではそれが精一杯だ。

 だが、それでも精一杯の意地を込めて抗った。そんな彼を誰が笑えようか。


「チッ……調子コイてんじゃねえぞ、初心者が!」


 油断していたとはいえ、初心者にアーツの直撃を受けた男が激昂してルークを蹴り飛ばす。ただの蹴りだが、それだけでルークのHPは一気にレッドゾーンまで減少し、吹き飛ばされる。

 ルークは地面に倒れながらも、目に怒りを込めてPK達を睨んでいた。


「チッ……気に入らねえ。もういい。さっさと死ねよ」


 いたぶられ、怯える初心者の姿を期待していたPKはそれを見て苛立ち、今度こそトドメの一撃を繰り出そうとする。だが、その時……


「良~いガッツだ。男ってのはそうじゃなくちゃいけねぇよなァ」

「ヒャッハー!見てたぜ初心者(ニュービー)、やるじゃねーの?」


 PK達の後ろから男達の声。

 その声につられてPK達が振り返る。


「誰だ!?」


 振り向いたPK達と、ルークが目にしたのは、奇抜な服装と髪型の男達。

 頭上に表示されているキャラクター名とギルド名は、PK達と同じように犯罪者を表す赤色。それが示すのは、新たに現れた男達も同様にPKプレイヤーであるという事。


 しかしルークの目には、彼らは目の前のPK達とは全く違うモノに見えた。

 目の輝きが違う。

 目の前の連中のように濁っていない。野望に燃え、ギラギラと輝いている男の目だ。

 身に纏う雰囲気が違う。

 目の前の連中のように澱んでいない。溢れ出るようなエネルギーを、なにか言葉では言い表せない「スゴ味」を感じる。


「あぁ?モヒカンズじゃねえか。何しにきやがった!」


 【赤い手】のリーダー格の男が、新たに現れた男達――ギルド【世威奇抹喪非漢頭(せいきまつもひかんず)】のリーダー、モヒカン皇帝を威嚇する。


「まさか俺達のエモノを横取りしようってんじゃ……」


 彼がその台詞を最後まで言う事はなかった。

 台詞の間にモヒカン皇帝がアダマンタイト製のバトルアックスを一閃し、斧の上級単発アーツ【ジャッジメントバスター】を発動、直撃を受けて吹き飛んだからだ。


「な、何のつもりだテメエ!」


 色めき立つ【赤い手】のPK達。

 それに対してモヒカンズの男達は蔑んだ目で、冷静に武器を構える。


「てめえらもPKの癖に、今更良い子ぶって正義の味方気取りか!?」


 そんな質問に対して、モヒカン皇帝は斧を構えたまま、


「別にそんなんじゃぁねえ。ただよォ……

 てめえらみてえな“クソッタレ”な“ダサ坊”が気に入らねえだけだッ!!」


 背後に「!?」という文字でも浮かび上がりそうな勢いで、険しい表情で凄む。


「いくぜ野郎共ォ!」

「ヒャッハー!」

「汚物は消毒だァー!」


 そして、その場でPKギルド同士の戦いが始まった。

 人数は【赤い手】が有利。しかしモヒカンズの精鋭達は、次々と【赤い手】のPK達を斬り伏せていった。

 人数に任せて弱い者を虐めるだけの者達と、強者に挑み続ける者達。どちらが強いかは、あえて言う必要もないだろう。

 決着が付くのに、そう時間はかからなかった。



「あの、ありがとうございました……」


 【赤い手】が半壊し、蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを見届けた後、モヒカンズの男達に頭を下げるルークだったが、


「ヘッ、別に礼を言われる程の事じゃねぇよ」

「俺達ゃ気に入らねぇ連中を“PK”(キル)しただけだからな」

「あんなクソみてーな奴等と一緒にされンのが迷惑だからブッ殺しただけだぜ。別にてめーを助けた訳じゃねえからな」


 モヒカンズのメンバー達はそのような事を言って、ルークに背を向けて去っていった。


「ギルド【世威奇抹喪非漢頭】……」


 残されたルークは、彼を助けた者達の名を呟く。

 自分を助けたのは、彼等が言うように、ただ【赤い手】の者達を殺すついでだったのか、あるいはそうでないのかは分からない。

 だが結果的に彼等に救われた事……そして、何か熱いものがルークの胸の奥で燃え上がっている事は、紛れもない事実であった。



  ◆



 おまけ1:ちょっとだけ未来のおはなし



「行くぞルーク!今日は魔王軍と戦争だ!」

「よっしゃあ!じゃあ俺、ちょっと城に忍び込んで魔王(エンジェ)暗殺してきます!あ、ギランさん毒薬下さい!イチバン強烈な奴!」

「おーし、良い気合だ!てめえら、新入りに負けんじゃねえぞ!」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハアアアアア!」




 おまけ2:【赤い手】の末路



 ギルド【赤い手】のアジトの奥。ギルドマスターの男が不機嫌そうに椅子に腰掛けて、部下の報告を受けていた。


「全滅だァ……?それで相手は?……モヒカンズだと!?クソが!同じPK相手にナメた真似しやがって!野郎共、これから全軍であのクソ共相手に戦争だ!いいな!」


 机を乱暴に拳で叩き、宣言する【赤い手】のギルドマスター。

 集まったギルドメンバー達から賛同の声が上がる。


「よーし。じゃあ準備しろ!でき次第奴らのアジトに攻め込むぞ!」


 ギルドマスターがそう言葉を発した時、部屋の扉が開いて新入りのメンバーが何人か、部屋の中に入ってきた。


「すいませんボス、隣の部屋にいつのまにか宝箱が置いてあったんスけど……鍵がかかってて開かないんスよね。」


 見ると、彼等は一人では抱えられないほど大きな宝箱を持ってきていた。

 ダンジョンの奥で時折発見される、宝石で豪華な装飾がされた高級な宝箱だ。


「鍵が開かねぇから、誰か箱ごと持ってきたのか?まあいい。おう、誰か開錠スキル持ってる奴居るか?」


 箱の豪華さ、大きさから、中身も期待できそうだ。

 これから戦争の準備をしようという時に水を差されたが、この箱に入っている高級品は役に立つだろう。そう考えたギルドマスターは箱を開けようとする。


 サブマスターの一人が名乗り出て、箱を調べた。


「罠は無いっすね。それじゃあ、開けます」


 ピッキングツールを取り出し、鍵を解除しようとする。


「かなり複雑な鍵っすね……これは、中身も相当期待できそう……っと、開きました」


 時間はかかったものの、開錠に成功。彼は宝箱の蓋に手をかけた。

 何が出てくるのか。期待しながら宝箱を覗き込む男達。

 宝箱の蓋が開く。


「……あ?」


 その瞬間、間抜けな声と共に、蓋を開けた男の首が飛ぶ。開錠を行なったサブマスターだ。

 首を失った胴体が、ゆっくりと仰向けに倒れ……HPがゼロになった彼の身体が、幾つものポリゴンの結晶となって砕け散る。


 それと同時に、箱の蓋が完全に開き――そして、箱の中に潜んでいた者の姿が露わになる。

 赤い髪。上質なシルクのようにきめ細やかな白い肌。血のように赤い色のドレスに包まれた肢体は女性らしい曲線を描いている。バストは圧巻の96センチHカップ。顔立ちは非常に端正で、精巧な人形のような美少女だ。つり目がちな瞳は悪戯に成功した子供のように輝いている。


「ドーモ、ミミックです。なんちゃって」


 大鎌を一閃し、【赤い手】のサブマスターを一撃で葬り去ったその少女が冗談めかして名乗りを上げる。その少女の名は……


「宝箱だと思ったかあああ!?

 ざぁぁぁぁあんねんッ!可愛いレッドちゃんでしたァァァァァッ!」


「あ……あ……?」

「レ……」

「レッドだああああああああ!?」

「うわあああああ!レッドが出たぞおおおお!!」


 恐怖に駆られ、逃げ出す【赤い手】のメンバー達を、レッドは大鎌を振り回して次々と殺害していく。彼女はナナ・アーニャの二人と別れた後、フィールドを歩いていた時に偶然、【赤い手】の者達がルークを追い回しているのを目撃した。

 そしてその際、すぐさま介入しようと思ったが、その前にモヒカンズが助けに入った。


 その為、レッドはその場をモヒカンズに任せ、アジトを潰すために単身潜入。そして用意していた空の宝箱(先程、ナナとアーニャを連れて特級ダンジョンに潜った際に入手した物。中身が入っていない宝箱はアイテムストレージに納入できる)を使い、わざわざ中から鍵をかけて潜んでいたのだ!無駄に凝り性なPKKであった。


「オラオラどうしたァ!俺はまだまだ満足してねぇぞ!」


 そして明日のボス戦の準備運動とばかりにPK達を屠るレッド。多少丸くなったとはいえ、やはりレッドはレッドであった。

 かくして、PKギルド【赤い手】は一夜にして半壊の憂き目に遭い、その戦力を大幅に減らす事になるのであった。

モヒカンズ&レッド回。

やっぱこいつらは頭悪くて(褒め言葉)書いてて楽しい。


ちなみにPKギルド【赤い手】の由来は、D&Dの某アドベンチャーより。個人的にも思い入れが大きかったり。

……なのに何故こんなサンシタ・ギルドの名前に使われたとかいうツッコミをしてはいけない。

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