28.謎のおっさん、会議をする
「では、これよりエリアボス攻略会議を始めます」
ギルド【流星騎士団】団長、シリウスの宣言と共に、会議が始まった。
彼のギルドの団員達、6人1組のパーティーが火山洞窟の最奥、ボス部屋へとたどり着いたのは昨夜の事であった。彼らは重い扉を開け放ち、勇躍ボス部屋へと突入した。
元より勝てるとは思っていない。しかし、少しでもボスの情報を持ち帰るべく彼らは奮戦した。結果的に強力無比なボスに散々にやられて逃げ帰ったものの、ある程度の情報を得る事はできた。
エリアボス。
フィールドボスやダンジョンボスとは異なり、広大な荒野エリアを総括する大ボスである。当然とんでもなく強い。
また、システムメッセージによると、それらのボスは一度討伐されたら二度と出現しないユニークモンスターであり、討伐する事で次のエリアが開放されたり、グランドシナリオが進行したりと、ゲームに大きな影響を及ぼす存在との事だ。
まさに、精鋭プレイヤー達が一致団結して当たるべき強敵といえるだろう。
「ボスの名称は【オロチ】。八つの頭を持つ巨大なドラゴン族モンスターです。八本の頭による波状攻撃と、火炎・冷気・電撃属性のブレスを使い分ける強敵で、何より厄介なのは酸のブレスを吐き、範囲ダメージと共に、命中すれば装備品の耐久度を大きく削られます。また、HPを自動的に回復する再生能力を持っている事も確認されています」
シリウスが集まった者達の前にウィンドウを表示しながら、説明を行なっていく。
「また、上級・特級ダンジョンのボスや一部のフィールドボスのように取り巻きを召喚します。召喚される取り巻きはファイアドレイクを中心に火属性モンスター。また、ボス部屋の奥は崖になっており、底には溶岩の海があります。【オロチ】は最初その中から首を出しているので、まずは八つの頭をそれぞれ撃破していく必要があるでしょう」
シリウスがそう纏め、集まった各ギルドの代表達からボスの攻撃への対策や、役割分担などについて次々と意見が出ていった。
ボス攻略のための戦力は、6人パーティー×10の合計60人。
その内訳は以下の通りである。
・ギルド【流星騎士団】12名(2パーティー)
盾役・前線維持を担当。騎士団長シリウスを中心に重装備の盾持ち、副団長カエデを中心にバランスの良いオールランダーが多数所属する。
・ギルド【魔王軍】12名(2パーティー)
魔法をメインに火力担当。エンジェを筆頭に魔法使いや、攻撃特化の者が多い。
・ギルド【アルカディア放送局】6名(1パーティー)
遊撃・攪乱を担当。ゲーム内の情報を集め、取り扱うギルドであり、定期的な動画配信なども行なう一風変わったギルド。
ちなみにアナスタシアはこのギルドのサブマスターだが、今回は別のパーティーへの所属となる。
・ギルド【戦乙女】6名(1パーティー)
回復・支援を担当。女性プレイヤーのみで構成された女の園。
ちなみに彼女らのギルドハウスは男子禁制だが、何故かおっさんは普通に顔パスで出入りしている。
解せぬ。(男性プレイヤー一同談)
・ギルド【世威奇抹喪非漢頭】6名(1パーティー)
近接物理攻撃担当。まさかのPKギルドが異例の参戦。これには拒否する声も上がったが、戦力的には申し分ない事や、他ギルドに所属する初心者プレイヤーの中に彼等に助けて貰った事がある者が意外と多く居る事などから参戦を認められた。
いつもの五人に加えて、先日新たに古参のPK、【処刑人】ブルーノをサブマスターに迎え、豪腕PK6名が暴れ回る。
・ギルド【C】幹部チーム 6名(1パーティー)
物理攻撃担当。テツヲ・クック・ゲンジロウが近距離、アンゼリカ・ジーク・ステラが遠距離攻撃を行なう。
自ら生み出した超高性能アイテムを駆使しての、職人の戦いぶりに期待したい。
・ギルド【C】支援チーム 6名(1パーティー)
回復・補助用アイテムによる支援全般を担当。また、現地での即席修理なども行なう。ユウをリーダーに、各種アイテムの性能を理解し、使いこなせる者達を選抜。
また、強酸ブレス対策の耐酸コーティングや、事前のアイテム類の準備は全て、ギルド【C】が担当する事となった。
ここまで、54名。そして最後に、
・精鋭部隊 6名(1パーティー)
ボス【オロチ】本体への、少数精鋭による切り込み担当。いかなる状況であってもボス本体への攻撃を最優先し、大ダメージを与え続ける事を期待される、最も危険な役割。
ここに所属するメンバーは以下の通り。
謎のおっさん
カズヤ
レッド
アナスタシア
ナナ
アーニャ
以上がエリアボス【オロチ】に挑む者達である。
会議の結果、ボスに挑むのは明日の夜、現実世界での日本時間21:00と決まり、解散となった。
「俺が居ない間、そっちは任せたぜ」
ギルド【C】の幹部達にそう言い残して、おっさんは明日の決戦に挑むパーティーメンバーを集めた。皆、おっさんとは気心の知れた仲であり、連携に関しては問題ない。
カズヤ、レッド、アナスタシアの三名については戦力的にも申し分なく、ナナとアーニャのコンビも彼等には劣るものの、めきめきと実力を付けてきている。
だが、当の本人達は随分と緊張している様子で固くなっている。
「俺は工房に篭るが、お前らはどうする?」
対エリアボス用の装備を整えるために生産に専念するおっさんが、パーティーメンバーに尋ねる。
「俺もやる事がある。明日また会おう」
「ワタシはこれからアテナちゃんと一緒に生放送デース」
カズヤは用事があると言い残して去り、アナスタシアも所属ギルド【アルカディア放送局】の活動のひとつであり、毎週欠かさず動画サイトで生放送している人気番組「アルカディアらぢお」の放送のためにパーティーを一時脱退する。
「あたし達は……どうしよ。ダンジョンでも行こっか」
「そうだね。少しでも鍛えておかないと」
重要な任務に少々緊張しているナナとアーニャのコンビは、明日に備えて少しでもレベリングを行なおうとしているようだ。
「おうレッド、どうせオメーは暇だろ。付き合ってやれよ」
「えー……まあ、別にいいけどさ。じゃあその代わりにおっさん、俺の分の武器も作ってくれよ」
「言われなくても作ってやるから安心しな。原価代くらいは出せよ」
レッドはおっさんの指示により、そんな彼女達を鍛えるために付き添う事となった。最凶PKKによるスパルタ式パワーレベリングの始まりだ。果たして二人娘は生き残る事ができるか。
そして明日の戦いに備えるため、彼らは一時解散した。
次回「決戦前夜」へと続きます。
ボス戦から第二部完結まで、少しの間バトル中心&微妙にシリアス入るかもしれませんので、間に小ネタや短編挟むかも。