25.謎のおっさん、ゴリ押す
おっさんがそれを見つけたのは偶然だった。
火山洞窟を一人で探索し、採集を終えて拠点に戻ろうとしたおっさんは、たまたま通りかかった場所で違和感を感じた。
「ん……?」
周囲を見回す。今来た道の他に二つ、合計三つの道が合流する地点であり、広い空間が出来ている。モンスターの姿は無く、不自然なほど静かだ。
部屋の北・南・東側にそれぞれ一本ずつ道。
西側は洞窟の壁に沿って溶岩の滝が流れており、その下には真っ赤な溶岩の池が出来ていた。不用意に触れれば大ダメージを負うであろう。
「何かあるな」
おっさんはマップウィンドウを開いた。
この数日で、火山洞窟内の地図は七割ほど完成していた。おっさんはその地図を見て、
「この部屋の西側に、不自然な空白地帯がある」
火山洞窟のマップはまるで蜘蛛の巣のように入り組んでいて、非常に迷いやすい構造だ。だが、その地図の中に一点だけ、何もない空間があった。それが、この部屋の西側だ。
おっさんは目をこらして、溶岩の滝の向こう側を見つめた。
するとぼんやりとだが、うっすらと扉のような物が見える。
(なるほど。さっきの違和感の正体はこれか)
おっさんは納得したように頷くと、迷う事なく溶岩の池へ向かって跳んだ。
一足飛びに溶岩の池の半分ほどまで跳躍したおっさんは、更に軽業スキルのアーツ【エアリアルステップ】を師用して空中で二段ジャンプをする。
更におっさんは手にした魔導銃剣で【フリーズショット】を放ち、溶岩の一部を凍らせた。その氷はすぐに周囲の熱で溶けてしまうが、おっさんにとっては一瞬だけあれば十分である。
氷の足場を踏み台にして、おっさんは火山の滝へと突っ込んだ。
【シャドウステップ】による無敵時間を利用して溶岩の滝をすり抜けた彼の目の前には、予想通りに隠し通路があった。
そして、その奥には巨大な扉が。
おっさんはその扉に手をかけ、開けようとする。しかし重厚な金属の扉はぴくりとも動かない。
施錠されているのか。そう思い、ピッキングツールを取り出すおっさんだったが、鍵穴らしき物も見つからなかった。
ならば如何にしてこの扉を開けるのか。おっさんが思案し始めたその時、おっさんの目の前、空中に文字列が浮かび上がった。
『汝にこの扉を開く資格なし。断片を全て集めよ』
この扉は、隠しクエストの条件を満たす事で開くタイプの扉であった。そのクエストを進めた者にはこの場所のヒントが提示され、扉を開く資格が与えられる。
だがおっさんはそんなクエストを受けておらず、この場所もクエストとは無関係に見つけた為、扉を開く事はできないようだ。
「ふん!」
だが突如、おっさんは全力で扉に蹴りを叩き込んだ。本職の方もビックリなほど見事なヤクザ・キックである。ガンッ!と音が鳴り響き、扉がわずかに揺れる。
『汝にこの扉を開く資格なし。断片を全て集めよ』
しかし、扉は再び無機質なメッセージを表示するのみであった。
それに対し、おっさんは更なる暴挙に出た。
取り出したるは――彼の体よりも巨大な魔導銃剣。決戦兵器、メメント・モリ。
「真っ二つだ!」
おっさんはメメント・モリに【大魔弾:エクスカリバー】を装填し、トリガーを引く。すると、その銃口より長大な、黄金の光の刃が形成される。
おっさんはメメント・モリを振り回し、光の刃で扉を斬り開いた。
『汝にこの扉を開く資格なし……』
無残に切り裂かれた扉は、それでもなお同じメッセージを繰り返す。
しかし、おっさんはフン、と鼻を鳴らしてそれを一蹴した。
「しゃらくせぇ。俺の行く先を決めていいのは俺だけだぜ。止めたきゃ力づくで止めてみやがれってんだ」
傲慢にもそう言い放ち、おっさんは扉の奥へと向かうのだった。
必殺脳筋ショートカット。
TRPGでゲームマスターをやった事のある方には、似たような事をやられた経験のある方も居るかもしれません。
私はあります。




