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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
46/140

23.職人たちの戦い(1)

今回タイトル形式が普段と違いますが、ご覧の小説は間違いなく「謎のおっさんとMMO」です。

今回はおっさんが出てないのでこうなりました。

(行くぞ)


 小さな掛け声と共に、ジーク率いる特殊部隊、もとい魔法工学班が先頭を走る。

 先頭のステラは狙撃銃を構えながら、岩の陰に隠れながら探知スキルを使って索敵を行なった。

 彼女の探知に引っかかったモンスターの反応は、三つ。

 彼女は岩陰から顔を出し、実際に目視で再確認をして、数が一致している事を確認した後、再び岩陰に隠れる。


(敵、三体確認)

(了解。交代しろ)


 指を三本立てて、後方の仲間へと伝える。

 リーダーのジークはそれに頷くと、ハンドサインで交代を指示した。


(ボムを投げる。三秒後だ)


 ジークはアイテムストレージから小さなパイナップルのような物体を取り出し、後ろ手に指を三本立てて、それを一秒ごとに一本ずつ、減らしていく。

 そしてきっちり三秒後、その指がゼロになった時、ジークは岩陰より飛び出しながら、手に持った物を勢いよく投げつけた。


「Fire in the hole!!」


 掛け声と共に投げつけられたのは、彼の特製手榴弾だ。それは放物線を描いてモンスター達の近くに落ちると、その場で爆発して破片を撒き散らす。


「Go!Go!Go!Go!」


 そして、それに続いて銃を構えた魔法工学職人たちが飛び出しながら、一糸乱れぬ射撃を行なった。

 モンスター達はそれに反応し、反撃しようと向かってくるが……


「設置完了!」

「よし、後退!」


 後方に居た物達が声を上げると共に、ジークら射撃を行っていた者達が一斉に後ろに下がる。

 そして、それを追いかけていたモンスター達が、彼らに追いつこうとした時。

 カチッ、という音と共に、地面に設置されていた痺れ罠が発動する。


「起動確認!」

「よし!かかれ!」


 モンスター達は麻痺の状態異常にかかり、無防備だ。今がチャンスとジーク率いるプレイヤー達は一斉攻撃を開始した。

 ジークもまた、三匹のモンスターの中で最も大きく、強力そうな敵に照準を合わせて叫んだ。


「ステラ、合わせろ!」

「了解」


 ジークは眼鏡の奥で目を細めて狙いを定め、ステラは狙撃銃のスコープを覗き込みながら短く息を吸い、止めた。

 そして、二人は同時に攻撃に移る。


「「ユニゾンアタック!」」


 ジークのアーツ【ブレイクバレット】が命中し、強烈な射撃攻撃によって甲殻が破壊されて防御力が低下するモンスター。間髪入れずにステラの【アキュレイトショット】による射撃が同じ箇所を射抜く。

 連携によるボーナスによって大幅に増加したダメージを受け、モンスターは倒れた。同時に、仲間達も他の二体を撃破する事に成功していた。


「よし、もうすぐ採集ポイントだ。さあ掘るぞ!」

「「「おう!」」」


 ジークの言葉に威勢良く応えた男達の手には、掘削用のドリルが握られていた。



 一方その頃、別の場所では……


「最近、新しいスキルが生えてきてな。ちょいと試させて貰うぜ」


 そう言って前に出て、刀を構えたのは褐色肌の鍛冶師、テツヲだ。だがそんな彼の横に並ぶ男がもう一人。柔和な顔つきの、エプロンを着けた調理師風の男……クック。包丁のような形の短刀を、両手に一つずつ持っている。


「奇遇ですね。僕も最近、戦闘用のイリーガルスキルを習得できたんですよ。折角ですのでご一緒させて下さい」


 そんな彼らの目前に居るモンスターはグリフォンだ。洞窟内ではあるが天井は高く、上のほうには外へと繋がる穴が見える。どうやらこの魔物の巣穴になっているようだ。


 グリフォンは空を飛ぶモンスターで、防御力は控えめだが、その機動力と攻撃力は侮れない。魔法や弓、銃を使う者にとっては比較的楽な相手だが、そうでない者にとって空を飛ぶ相手というのは、なかなか攻略が難しいものだ。

 クックとテツヲ、両者とも武器は接近戦用の刀であり、職人であるため防御力はお世辞にも高いとは言えない。果たして彼らは、どのようにしてこの魔物に立ち向かうのか。


「まずは俺から行くぜ!」


 最初に動いたのはテツヲだ。上空から隙を伺っていたグリフォンに対して、彼は左手を向けた。すると彼が掲げた手の先と足元に、魔法陣のエフェクトが出現する。


「魔法だと?一体どんな!?」

「テツヲさんが魔法を!?」


 後方の鍛冶職人たちが騒然とする。そして、すぐに答えは出た。


「鍛冶魔法――【魔剣召喚】ッ!」


 テツヲの手の先に浮かんでいた魔法陣が、真ん中から左右に割れる。それはまるで巨大な門のごとく。そして、その中から無数の武器が現れる。

 片手剣!両手剣!槍!薙刀!レイピア!ハルバード!太刀!他多数!

 魔法陣の中から出現したそれらは、一斉にグリフォンへ向かってまっすぐに飛び、その体を滅多刺しにした。グリフォンは大ダメージを受けて落下!


「説明しよう!鍛冶魔法とは鍛冶スキルを元に作り出されたイリーガルスキルであり、現状俺だけが使えるオリジナルの魔法である!そして今使った魔法は魔剣召喚……自身が作った武器をあらかじめ登録しておく事で、それらを召喚して大量の武器を敵にぶつけて大ダメージを与えることができる!消費MPが武器の数や品質に応じて跳ね上がるのと、使った武器の耐久値がゴリゴリ削られるのが難点だがなぁ!……という訳で、トドメは任せたぜクック!」

「はい、任されました……行きます!」


 クックが跳躍し、落下するグリフォンとすれ違うように左右の包丁を縦横無尽に振るう。その太刀筋は、高速で落下するグリフォンの弱点を的確に切り裂くほどに正確。

 アルカディア最高の料理人であり、調理スキルを使用する際にも両手で別々の包丁を扱える彼にとって、モンスターの弱点を正確に狙う事など赤子の手を捻るような物である。

 そして、彼の攻撃はまだ終わらない。


「料理魔法奥義――【爆熱!ローストフレイム】!」


 最後に包丁でグリフォンを真下に叩き落としながら、クックが魔法を発動する。するとグリフォンの巨体の下に、それよりも更に大きな鍋が召喚された。鍋は赤熱して、敷かれている油がパチパチと音を立てている。

 グリフォンが鍋に落下すると同時に、クックが手をかざす。すると一瞬にして鍋の内部が激しい炎に満たされ、炎に包まれるグリフォン。


「はっ!」


 最後に、クックは空中で宙返りをして体勢を整えると、鍋に向かって調味料を投げ込んだ。そして彼が着地すると同時に火が、そして鍋が消え去る。

 そして、その鍋の中身はクックのアイテムストレージへと収納された。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【クック特製ローストグリフォン】


 品質 ★×10(伝説級)

 作成者 クック


 【食事効果】

 STR上昇 Lv8(持続時間大)

 AGI上昇 Lv10(持続時間大)

 風属性耐性上昇 Lv5(持続時間大)


 【解説】

 グリフォンを一匹まるごと焼いた野性的な料理。

 極大火力で一気に中まで焼いて、熱と旨味を閉じ込めた。

 そのため単純な調理方法ながら驚くほど美味い。

 とても大きく、大人数で囲んで食べるのに適している。

――――――――――――――――――――――――――――――


「グッドクッキング!ヒューッ、すげぇ技だな!」

「テツヲさんこそ、あの威力は凄まじかったですよ」


 お互いに拳をぶつけ合い、そしてテツヲはそこでふと思い出したように、


「ところでそのグリフォン……食っていいのか?」


 そう尋ねるとクックは頷いて、珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ギルドメンバー全員分は無いですし……ここに居る皆で食べちゃいましょうか。他の班の皆さんには内緒ですよ?」


 その言葉に湧き上がる料理班&鍛冶班のメンバーたち。


「イヤッホォォォォォォウ!」「俺、鍛冶やってて良かった……!」「★×10の料理とか初めてだ……」「よし、この機会に少しでも味を盗まなければ……」「今、世界の中心は間違いなく俺ら」


 等々、口々に叫んでお祭り騒ぎであった。

 この時一緒にグリフォンの丸焼きを食したメンバー達の間では、同じ料理を皆で囲み、秘密を共有した事で強い絆が生まれた。



「職人と一口で言っても、専門の分野が違うとなかなか接点が無いせいか、意見が食い違ったり利害が対立する事も結構あるものだ。

 だがギルド【C】の職人達は、別のチーム同士でも横の繋がりが非常に強い。お互いにお互いを尊重し、サポートし合っているんだな。職人同士の互助組織というギルドの理念がそうさせているのか……ともかく、奴らの強さの一因がそこにあるのは間違いないだろう」


 とは、後にこのギルドについて述べたプレイヤーの言葉である。

 その職人同士の密接なコンビネーションの秘密は、実はこんな所にあるのかもしれない。

仲間達にスポットを当ててみたかった。

次回はちゃんとおっさんが出ます。


あと、今回は2~3分割予定。


(2014/5/3 表記ミス修正)

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