22.謎のおっさん、火山へ
以前、おっさんとカズヤの二人が上級ダンジョンをクリアして荒野エリアを開放してから、一ヶ月と少しが経過した。
プレイヤー達は荒野の探索を進め……そして、ようやく前線プレイヤー達は最終地点へとたどり着いた。
そこにあったのは火山洞窟。
内部の温度はなかなか高く、火炎属性の強力なモンスターが数多く棲息する危険地帯だ。
その情報が出回るにつれて、耐熱性能が高い防具や、耐火・耐高温を付与する消耗品アイテム、それから火山のモンスターに対して効果が高い、冷気属性の追加ダメージを与えるような武器の値段は否応なしに上がった。
他プレイヤーより一歩早く荒野を踏破し、事前にその情報を得ていた「とある職人」とその仲間達は事前にそういった装備品やアイテムをきっちり製作しており大儲けしていたが、その件は今回の話には特に関係ないため、詳細は省く。情報は力である。不正はなかった。
さて火山洞窟であるが、危険な最前線なだけあってモンスターの経験値やドロップはかなり美味い。のみならず、洞窟内に点在する採掘ポイントからは、炎鉄鉱やアダマンタイト鉱などをはじめとする、上質な鉱石が採れる。
金属以外にも豊富は資源が眠っているそこは、危険だが職人達にとっても魅力的なエリアだ。
勿論、最前線ゆえ職人にとっては危険な場所だ。
そのため、普通は前線で戦闘を行なうプレイヤーが狩りのついでに採ってきたものを買い取ったり、あるいはクエストを出して、それを受注したプレイヤーに採ってきて貰い、報酬を渡したりして入手している。
……そう、普通は。
では普通ではない者達はどうするかと言うと。
「今日は火山洞窟で採集祭りだ。ありえねえとは思うが、あそこで採れる物を知らねぇとか、その魅力がわからねぇとか言うようなファッキン情弱(クソッタレの情報弱者)は居るか?」
ギルドハウスのロビーにて、ギルドマスターたる謎のおっさんが集まったメンバーに問いかける。
「おいおい、そんな不心得者が居る訳ねぇだろう」
誰かがそう声を上げて、周りが一斉に頷く。よく訓練された職人である彼らにとって、良質な素材の入手先の情報は当然覚えておくべき事柄である。
「よし。それじゃあ全員で火山へ向かう。出発は三十分後、ギルドハウス前に集合だ。しっかり準備しておけよ」
おっさんがそう言って締めると、ギルドメンバー達は解散して思い思いに動き出す。
そして三十分後。
ギルドハウス前に、ギルド【C】のメンバーが再度集合した。
「よし、集まったな。じゃあチームリーダー、報告を頼むぜ」
「じゃあ俺からだ。鍛冶班、ギルドメンバー全員の武器の耐久度チェックと修理、完了したぜ」
「料理・調合班、耐火・耐熱バフを付与する料理と飲み物、ポーションを全員分用意してあります。勿論味のほうも保証しますよ」
「裁縫・細工班、耐火性能が高い衣服・防具・アクセサリを全員分、配布済みです。当然、デザインにもしっかりこだわりましたわ」
「木工班、弓や木製品の耐火コーティング処理、終わっとるぞ」
「商人班は私から。ギルドショップの在庫の補充と、NPC店員への連絡、完了しました」
おっさんの指示に、テツヲ、クック、アンゼリカ、ゲンジロウ、ユウが順番に報告する。おっさんはそれらを頷きながら聞いていく。
「あれ……?ジークさんと魔法工学班の連中どこいった?」
それを見ながら、メンバーの一人が訝しげに呟き、それを聞いた他のメンバーも「そういえば……」「あれ、居ない……?」と騒ぎ始めた。
それに対しておっさんは手を二回叩いて鳴らし、「静かにしろ」と言って騒ぎを静める。
「ジーク達には別の仕事を頼んであってな……おっと、来たようだな」
おっさんの視線の先を、ギルドメンバー達が追う。
そこには……遠くから土煙をあげて高速で走ってくる、巨大な金属の塊が複数。
「待たせたな!魔法工学班、銃や魔導兵器の整備と弾薬の準備……それから、頼まれてた魔導バスと魔導トラックの準備、バッチリ完了してるぜ!」
それは大型の車であった。
バスの運転席から、窓を開けて身を乗り出したジークがそう宣言する。
トラックの運転席にも魔法工学をメインで鍛えている職人が乗っており、サプライズが成功したと言いたそうな顔でニヤニヤと笑っていた。秘密裏に作っていた新製品を披露する最高のタイミングを狙っていたのだろう。
「と言うわけだ。全員、バスに乗り込め!トラックの荷台、全部埋め尽くすまで採りまくるぞ!」
「「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」」
こうしてギルド【C】の面々は、一路火山へと向かうのだった。
魔導バスが荒野を走る。
道中、荒野を徘徊するモンスターが「なんだあれは?」とでも言いたそうな顔でバスやトラックを見て襲いかかろうとするが、高速で走る車はあっというまにそれらを置き去りにする。
だが火山が近くなるにつれて、大型かつ高速なモンスターに捕捉され、危うい場面もあった。
「バジリスクとジャイアント・ワームが来たぞ!二匹同時かよ!」
「このままだと追いつかれる!どうするおっさん!」
その巨体に似合わぬスピードで、荒野を代表する大型モンスターが二匹同時に迫る。
「窓を開けろ!射撃準備!」
おっさんの指示の下、バスの窓が一斉に開く。
職人達はそれぞれが所持する銃を構え、窓の外へと銃口を向けた。
ちなみに。
生産をする際、DEX(器用さ)のステータスが高いと品質が良い物を作りやすいため、職人にはDEXを最優先であげている者が多い。
そして、DEXは銃や弓などによる射撃の攻撃力にも大きな影響を与えるステータスでもある。
また射撃武器スキル、生産系スキルは共に、スキルレベルを上げる事でDEXへの補正が大きくなるという共通点を持つ。
そういった理由で、職人と射撃武器は非常に相性が良い。
そのため、このギルドのメンバーは全員、銃か弓のどちらか、あるいは両方を使える射撃武器使いである。
「撃てー!」
バスの窓から無数の銃弾が放たれ、モンスターを傷つける。だが二匹の巨大モンスターはわずかに怯みつつも、怒り狂って更に勢いを増して攻め寄せてきた。
「チッ……埓があかねぇな……ジーク!」
「おう!秘密兵器を出すぜ!ポチっとなぁ!」
おっさんの言葉に、ジークが運転席の赤いボタンを勢いよく押す。
するとバスの屋根が開き……屋根と天井の間に隠されていた、巨大な機銃がその姿を現した。
それと同時に、バスの中にも屋根の上へ……機銃のもとへと行くための梯子が出現する。
おっさんは機銃を操作するために、梯子に足をかけようとするが……
「待った。おっさん、ここは私に任せるべき」
おっさんの肩を掴んでそれを止める者が一人、いた。
「ステラか。……撃ちてぇんだな?」
「勿論。あれを作ったのは私。最初に撃つ権利を主張する」
「ま、いいだろう。そのかわり……」
「必ず仕留める。楽勝」
「ならば良し!行ってこい!」
【銃姫】ステラ。元βテスターにして、βテスト貢献度ランキング第13位。
クールで無口・無表情な少女だ。ややつり目がちで、髪は水色のショートカット。背は高く、170センチにやや届かないくらいで細身。胸のサイズは普通~やや大き目。具体的にはユウ以上アーニャ未満。
おっさんやジーク同様に魔法工学の職人だが、彼女の場合は銃や弾薬の製作を専門にしており、それ以外の物は作ろうとしない。銃を専門にしているだけあって、こと銃の製作に関してはジークをも凌ぐほどの腕前だ。
また本人も名うての銃使いで、特に狙撃銃の扱いが得意な女性プレイヤーだ。彼女もまた、おっさん率いるギルド【C】のメンバーであり、その戦闘力は流石におっさんには劣るものの、かなり高い。
彼女はおっさんに送り出され、バスの屋根の上へ駆け上がる。
そして、そこに取り付けられた機銃に手をかけ……狙いをつけ、トリガーを引く!
ズガガガガガガガガガッ!と連続した大きい音と共に、銃弾が連続で撃ち出される。反動も大きく、ステラは暴れ狂う銃を必死に抑えながら撃ち続ける。
彼女の顔は上気し、頬は赤く染まり……そしてその顔には、うっとりとした満足そうな笑顔を浮かべていた。
「はぁはぁ……やっべ、この反動と爆音……たまんねー……」
熱い吐息を吐きながらそう呟く、一見クールな彼女。実際は銃に魅了され、撃つのが大好きなトリガーハッピーであり、銃を撃つ事で発情する淑女だ。
そんな有様でも狙いはしっかりしており、銃弾を全て命中させて、ギルドメンバー達の助けもあってモンスターを倒したステラ。名残惜しそうに引鉄から手を離す。
「ふぅ……もう終わり。もうちょっと撃ちたいけど、我慢……」
銃弾が無くなるまで撃ち尽くしてオーバーキルしたい所だが、ギルドの備品でそうする訳にもいかない、と判断する程度の理性は残っていたようである。
彼女が梯子を降り、バスの中に戻るとおっさんが出迎えた。
「よう、おかえり。楽しかったかい」
「ほぼイキかけた」
「相変わらずで何よりだ」
「次はもっと大きいのが良い。メメント・モリの量産化を希望」
「却下だ。予算も技術もまだまだ足りねぇよ」
「残念。今後の進展に期待する」
足りてたら量産する気かよ、あのコスパ最悪のぶっ壊れクソ兵器……
彼らの会話を聞いていた他のギルドメンバー達は、そう心の中で呟き恐怖した。
ともあれ、そんなトラブルがあったものの、おっさん率いるギルド【C】の面々は、無事に火山へと到達したのであった。
次回、火山洞窟に眠る資源をおっさんが襲う。震えて待て。
おっさん「バレットカーニバル?ああ、良いよなあの技」
ステラ「バレットカーニバル?ああ、イイよねあの技」
同じ事言ってる筈なのに何だこの違い。