21.謎のおっさん、拠点を作る
新たにギルド【C】を立ち上げた謎のおっさんとギルドメンバー達。
彼らはギルドの作成を終え、一定量の経験値をギルドへ上納。おっさんはその経験値を使用して、ギルドメンバー数の上限を拡張やギルドスキルの習得・強化を行なった。
そして希望したメンバー全員がギルドに参加し、それぞれが資金を出し合った。特にギルドマスターのおっさんに至っては、一人で数百万ゴールドも負担する大盤振る舞いであった。
今回のアップデートにより、街の周辺……東西南北にそれぞれ、ギルド用の拠点や施設を作るためのエリアが追加されていた。
各ギルドは、ギルド資金を使ってその土地を購入し、そこに施設を作る。施設を作るためには、土地の代金とは別に、NPCの職人にお金を払って建物を作って貰う必要があった。
ギルド作成費用も含めれば相当な額になる。そういった訳で、現在そういったギルド用の施設を持っているのは、ひと握りのトップギルドのみである。それ以外のギルドは、自分達の家を建てるために頑張ってお金を稼いでいるところだ。
おっさん率いるギルドCが持つ資金はおよそ九百万ゴールド近く。ごく普通の中級ギルドの十倍以上のとてつもない額である。2位以下にダブルスコアの大差を付けてのダントツだ。
「というわけで、土地を【15エリア】購入した」
おっさんが宣言した。まさかの一ギルドで大量の土地を独占する暴挙である。
「他のギルドが土地を買う金が無ぇ今のうちに抑えちまおうって事か。悪くねぇが、流石に結構金減っただろ?今すぐその土地使いきれるのか?」
そう発言したのはテツヲだ。彼が言った通りに、大量の土地を買ったおかげで潤沢な資金もそれなりに目減りした。
その広大な土地を全て使いきれるだけの建築物を作る資金が残っているか、と言われれば答えは否である。
他のギルドメンバー達もそれは理解しているようで、一部の者を除き困惑した様子だ。
だが、それはあくまで通常の方法を用いた場合の話だ。
「寝惚けてんのかテツ……俺達は職人ギルドだぜ。何でわざわざNPCに高ぇ金払って作らせる必要があるんでぇ?」
おっさんがそう言うと、彼の意図を理解していた少数の者達が頷いた。その内の一人が一歩前に進み、皆の注目を集めた。
白い髪と、長い髭が特徴的な、初老の男性PCだ。顔に刻まれた深い皺と、老いてなお強い意志が込められた目つきが威厳を感じさせる。
「人を雇うよりも、わしらで作ったほうがよっぽど安上がりで良い物が作れるじゃろうなぁ。それに自分達で作ったほうが愛着もわくという物であろうよ。それでギルドマスター殿、当然わしの出番は用意してあろうな?」
彼の名はゲンジロウ。通称ゲン爺。
最高クラスの木工職人であり、その腕前と重ねた年齢による深い知識や落ち着いた物腰で多くのプレイヤーに一目置かれている男だ。
職人……特に彼と同じ木工職人や、弓使いには特に慕われている。
「おう、勿論よ。ゲン爺には今回に限らず、木工職人のリーダー役を頼みてぇ。まずは素材集め……伐採と木材の加工から始めてくれ」
「うむ、心得た。では木工職人はわしの所に集まれぃ!パーティーを組んで伐採に行くぞい!」
ゲンジロウが木工職人達を集め、彼らを率いて素材を集めに出発する。
そして、おっさんは次々と指示を出していった。
「テツは鍛冶職人をまとめて金属素材を集めろ。ジークは魔法工学職人と一緒に、工房に設置する各種設備の製作に当たってくれ。クックと料理人共の仕事は全員分のメシと飲み物を用意、および現場への配達だ!アンゼリカは家具の手配と内装。ユウはそれ以外の連中と一緒に買い出しだ。必要な素材を買い集めて、それと並行して他の商人との人脈作っとけ。フリーで見所がありそうな奴がいたらスカウトして来てもいい」
おっさんの号令の下、全員が動き出す。
潤沢な資金を惜しげもなく使い、トップ職人達がそれぞれのグループを率いて派手に動く。その動きは人々の注目を集め、フリーの職人や目端の利く商人達も、その流れに乗ろうと次々と参加し……最終的に、ギルドメンバーの数は四十人ほどに膨れ上がった。
おっさんはそうして新たに入ってきた人材を、彼らの能力に合わせて各グループに振り分けていく。そして大まかな方針をグループのリーダーに伝え、ギルドメンバー達への指示はリーダー達を信頼して一任した。
そうする事でおっさんの負担が大幅に減り、自由に動けるからだ。
「ところで、師匠はその間何を?」
「随分と金が減ったしな。ちょっと金策に行ってくるぜ」
弟子の質問にそう返し、おっさんは一人で何処かへと出かけたのだった。
恐ろしいほどの速さで建築物が次々と完成していった。
まずは目を引くのは一際巨大な、横に長い建物だ。六つのエリアを丸ごと一つの建築物に使用したそれは、巨大なギルドショップである。
一つの建物の中に、食料品&料理、金属製の武器防具、服飾、アクセサリ、弓などの木工製品、魔導銃や魔導バイク等の機械製品……と、様々な種類の店がまとめて入ったショッピングセンターだ。
この店を利用するプレイヤーは、一つの建物の中であらゆる種類のアイテムを揃える事ができる。
次にギルドメンバーの家となるギルドハウスが2エリア分。
各メンバー用に個室と倉庫が用意されているのが大きな特徴だ。ハウスというよりもむしろマンションのような形状である。
それから、料理に使う野菜や果物、調合に使う薬草などを栽培するための畑で1エリア。
そして職人ギルドには欠かせない、ギルドメンバーのための工房で1エリアを使用した。工房は街にあった作業場よりも広く、また設備も充実している。
これで合計10エリア。
そして残りの5つのエリアは、ギルドマスターのおっさんと、サブマスターのクック、テツヲ、ジーク、アンゼリカの四人に1エリアずつが与えられ、それぞれ個人用の家と大工房が作られた。
本来ギルド用の土地を、一つ丸ごと個人で使うという贅沢っぷりだ。家はついでのような物で、各自に与えられた工房は非常に高機能で、各自の得意な分野に合わせて専用のチューニングが施してある。
例えばクックの土地は料理に特化した調理用の工房と個人用の畑といった具合だ。
「これで俺とサブマスターのクック、テツヲ、ジーク、アンゼリカの四人は個人用の工房を持ったわけだが……勿論他のギルドメンバーにも、ギルドへの貢献次第で専用の工房を与えたり、欲しい設備を優先的に作ったりといった優遇措置を取る事は考えている。っつーわけで、欲しい奴は頑張って稼げよ?
ああ、それとユウはサブマスターだが、職人としてはまだ見習いだからな。一人前になったらお前にも作ってやるから、当分は俺の工房で修行だ」
おっさんの言葉に、ギルドメンバー達は益々奮い立った。先に述べた通り、ギルド用の土地を個人で使えるような贅沢は本来ありえない出来事である。
ましてや、それで自分の為の専用の工房が貰えるとあれば職人としては頑張らない理由が無い。
そうして目標を提示し、それを目指してギルドメンバー達が切磋琢磨する事で、メンバーの技術はより向上し、ギルドはますます利益を得る。
そうやってギルドが儲かれば儲かるほど、土地や建物やアイテムを多く揃える事が出来る。
そうなれば、頑張ったギルドメンバーにご褒美をあげる事も容易になる。
そして専用の施設を獲得すれば、それによって彼らはますます良い製品を生み出す事ができるだろう。
そしてギルドがますます儲かる。
以下ループ。正のスパイラルである。
こうしてギルド【C】は、ますます発展していくのだった。
◆おまけ◆
ギルド【C】のメンバー達が忙しく動き回っていたその頃……
「また負けたぁぁぁ!ボス強すぎ!」
「うーん……流石に二人で上級は厳しいね……」
ダンジョンの入口にて、大声で叫んで悔しさを発散させている剣士の少女と、それを宥めているシスター服の少女が居た。
ナナとアーニャのコンビである。
彼女らは本日、二人で上級ダンジョンへと挑戦していた。
道中のモンスターや中ボスは問題なく倒せたが、最下層に待ち受けるボス、イフリート相手に敗北して死に戻ってきたところである。
「あいつHP少なくなると途端に凶暴化するし……あれさえ無ければなー」
「火属性の敵相手だと私の武器は相性が悪いのも痛いね……装備変えてみる?防具も火耐性高いのあれば有利に戦えると思うし……」
彼女らはその場で、ボスへの対策会議を兼ねた反省会をしていた。
そんな時に、おっさんがダンジョンから出てきた。
「あれ、おっちゃんじゃん。今日はダンジョンアタック?」
「おう、お前らか」
おっさんを見つけたナナが声をかける。それに手を上げて応えたおっさんは、さらりと言い放った。
「まとまった金が必要でな。特級ダンジョンをソロで周回してる所だ。ボスドロップやクリア報酬がなかなか美味ぇからな。それじゃもう一周してくるぜ」
そう言い残して、おっさんは再び特級ダンジョンに入っていった。
実装されたばかりの難易度最高のダンジョンが既に踏破され、ソロの稼ぎ場と化していた。何を言っているのかわからねーと思うが、往々にして廃人にとってはそんな物である。
そうしておっさんは、ギルドメンバー達が拠点を作っている間に資金稼ぎに勤しむのであった。
ちなみに、その際に稼いだ経験値はほぼ全てがギルドに納められ、ギルドスキルが大幅に強化されて職人達の作業効率がとても上がった。
タイトル詐欺。おっさんは作業に参加していなかった。まあ間接的に貢献してはいますが。
日本への帰国準備などで色々あって遅くなりました。




