20.謎のおっさん、ギルドを作る
・アップデート情報
本日の大型アップデートにより、様々な新機能が実装されました!
1・ギルドシステムが遂に実装!
複数のプレイヤーが集まり、「ギルド」を組む事が可能になりました。
ギルドとは、一時的な物であるパーティーよりも更に深い繋がりであり、所属プレイヤー同士で協力してギルドを成長させる事が可能です。
ギルドを作成するためには、ギルドマスターを含むメンバーが最低でも五人必要で、作成の際には100万ゴールドを支払う必要があります。
ギルドメンバーは各自が所持する経験値やゴールドをギルドに上納する事で「貢献度」を獲得でき、貢献度が一定値を超えるごとに様々な特典を得る事ができます。
また、ギルドマスターはメンバーがギルドに納めた経験値を使用してギルドを成長させたり、ギルド資金を使ってギルドホーム等の設備を建築および強化する事が可能になります。
またギルド実装を記念いたしまして、本日より1週間の間、ギルド作成資金が半額の50万ゴールドになります。是非この機会に、気の合う仲間と共にギルドを作ってみてください。
2・新スキル・新アイテム多数実装!
新たに十種類以上のスキルが実装しました!既存のスキルと組み合わせる事によって、更に未知のスキルへと進化する事も……?
また一部の既存スキルにも新たなアーツや魔法、アビリティが追加されております。
また、新アイテムも多数実装しました。素材アイテムも多く追加されたため、生産スキルを鍛えている方も是非集めてみてください。
3・新システム「ユニゾンアタック」の実装
仲間と息を合わせて強力な攻撃を行なう「ユニゾンアタック」が実装されました。二人のプレイヤーがタイミングを合わせてアーツ、または魔法を放つ事で強力合体技・合体魔法が可能になります。
タイミングはちょっと難しいですが、ぜひお試しください。
また、二人のプレイヤーが協力してアイテムの製造を行なう「ユニゾンクリエイト」も併せて実装いたしましたので、職人の方はそちらも是非お試しください。
4・AI強化&新モンスター登場!
NPCやモンスターのAIが、より洗練されました!
NPCはより人間らしく、モンスターも、今までとは違った行動を取る可能性があります。
また、新たなフィールドボスも実装されました。
5・特級ダンジョン実装!
上級ダンジョンよりも更に厳しい難易度のダンジョンが実装されました。入場するには、PTメンバー全員が上級ダンジョンをクリアしている必要があります。
非常に難しいですが、それに見合った報酬が期待できます。ギルドメンバーと共に、新たなスキルや合体技・合体魔法を駆使して挑んでみてください。
大型アップデートの内容は以上になります。
それでは、今後ともアルカディアをよろしくお願いいたします。
◆
大型アップデートが実施された。
様々な新要素が追加されたが、その中でも一番の目玉はやはりギルドであろう。キャンペーン期間で半額になっているとはいえ、50万ゴールドはなかなかの額だ。
それでも、中級以上のプレイヤーによって多数のギルドが立ち上げられた。
最も注目を集めているのは、【流星騎士団】と【魔王軍】。それぞれシリウスとエンジェが率いているギルドだ。
それ以外にも、大小様々なギルドが生まれていた。
そんな活気の中で、生産職人たちの取る道は大きく分けて二つであった。
一つはこれまで通りに己の手で素材を集め、商品を作って売る道。そしてもう一つは、ギルドの専属となって、ギルドとそのメンバーの為に腕を振るい、その報酬として素材の提供などの支援を受ける道だ。
生産職人は、戦闘を専門に行なう者に比べると(一部の例外を除いて)弱い。生産スキルが低いうちは稼ぎも悪く、戦士に比べると敷居が高いのである。
そのため、ギルドの支援を受けて安全に素材や資金を提供してもらえる事は職人にとっても有難い。ギルドメンバーによる商品の需要も常にある為、安定した稼ぎが見込めるのだ。
反面、ギルドメンバーのためにアイテムを作って納める必要があるなど、ギルドの規模や方針によって多寡はあるものの、行動を制限される等のデメリットは存在するのだが。
作業場に集う職人達の中にも、そんなギルドのお抱えになった者も何人かいるようだ。
トップクラスの職人達の元には、多くのギルドからの勧誘が殺到した。だがテツヲやクック等のトップ職人達は首を縦に振る事はなく、無所属を貫いている。
そんな中でおっさんはと言うと、彼は今回のアップデートが始まって以来、ゲーム内に姿を現さなくなった。勧誘による煩わしさを避ける為であろうか?
そしてアップデートが行われてから数日が経ったある日、久しぶりにおっさんがログインし、作業場へと姿を見せた。
「ここ数日勧誘がウザくてなぁ……やっと収まってきたけどよ」
「おっさん最近居なかったけど、やっぱりそれを避けるためかい?」
「おうよ。そんで暇だったからよ、アナ公と一緒にハワイ行ってたぜ」
「おっさんは相変わらず自由ですねぇ……っと、リーチです」
作業場の一角で四角いテーブルを囲んで話しているのはテツヲ、ジーク、クック、そして謎のおっさんの四人だ。彼らは卓を囲みながら、小さな四角い、白い牌を使ってゲームをしていた。
それはスケルトンの骨を使って、おっさんが細工スキルの練習と暇潰しを兼ねて作った麻雀牌だった。クックが千点棒を置き、捨て牌を横に曲げる。
「もうリーチかよ早ぇな……安牌無ぇし、とりあえず字牌切っとくか……」
次順、テツヲがツモった北を無造作に切る。初牌だが、クックの捨て牌には字牌や一・九牌が多い。これで当たる事は無いだろうと判断しての事だ。しかし。
「ロンです。一発にウラウラで16000」
「ちょっ、単騎かい!?」
「ダブロン、四暗刻単騎。96000だ」
「ちょっwwwおっさんwww」
おっさんとクックがほぼ同時に手牌を倒す。テツヲ即死。
「チックショー!また負けたああああ!」
「くっそ馬鹿テツめ、お前のとばっちりで3位落ちだ」
テツヲが絶叫し、ジークがぼやきつつ負け分を支払う。それを受け取りながら、おっさんが口を開いた。
「お前らはギルドに入るつもりは無ぇのかい?」
そう尋ねるおっさんに、彼らは一様に頷いた。
「俺達はギルドに世話にならなくても十分稼げるしな。まあ確かに、ギルドスキルとか設備は便利そうではあるんだがよ」
そう答えたテツヲが言うには、ギルドに所属すればギルドスキルでメンバーの特定のステータスを強化したり、スキルの成長に補正を受けたりする事が可能で、またギルドハウスに設置する高性能な生産設備によって、より良い物を作れるとの事だった。
「確かにそういった点は魅力的ですけど、私は組織に飼われるよりは大多数のプレイヤーを相手に、自由に腕を振るいたいですわね。皆様も同じなのではなくて?」
近くを通りかかったアンゼリカがそう口を挟むと、テツヲ達もそれに同意した。
おっさんはそんな彼らを見つつ、クックが淹れた麦茶を一気に飲み干し、空になったグラスを卓に置いた後に煙草を咥え、火をつけて吸った後に言った。
「なら、お前らでギルド作っちまえばいいんじゃねえの?職人同士で集まってよ。設立資金だって、分担すりゃ一人十数万じゃねえか。お前達ならポンと出せる額だろ。基本的に自由に生産やって、素材や資金を融通し合ったり、必要な時に職人同士で協力できるような体制を作っとくのも良いんじゃねえか?」
おっさんがそう言うと、その発想はなかったと言わんばかりに驚く四人。すぐさま彼らはおっさんの言った内容を吟味し、細かい部分を詰めるべく打ち合わせを開始した。
「「「「「職人ギルドを作ると聞いて」」」」」
作業場内に居るソロの職人達も、その話を聞いて続々と集まり、話し合いに参加する。ギルドに所属していない職人は結構な数が居るようである。
やがて話題は、誰がギルドマスターを務めるかという話になった。
ギルドメンバーを束ねるマスター。とても重大な役割であり、誰にでも務まるというものではない。その人選は慎重に行わなければならない。
「当然ですが、それなりの実力がある人ですね」
「職人達のまとめ役となる訳ですから、トップ職人か」
「癖が強い職人達を纏められるカリスマも必要だな」
「他のプレイヤーやギルドを相手に商売をするギルドだから、資金力や商才も欲しいな」
「後は人脈や交渉能力」
「それらの条件を兼ね備えた人物となると……」
集まった者達が一斉に、おっさんの方を向いた。
「おい……何で俺の方を見るんだお前ら」
「いいじゃねえか、どうせおっさんも参加するんだろ?」
「世の中には言いだしっぺの法則という物があってな……」
おっさんは拒否しようとするが、職人達はおっさんを担ぎ出そうと言い募る。やがておっさんは根負けしたように、やれやれと溜め息を吐いた。
「わかったわかった。そこまで言われちゃ仕方が無ぇ。おうてめぇら、俺についてきな!」
「よろしく頼むぜ、ギルドマスター!」
「\キャーオッサーン/」
「流石おっさん、俺達にできない事を平然とやってのける!」
「そこにシビれる憧れるゥ!」
「よっ、日本一!」
おっさんが宣言すると、職人達がどっと沸いた。
「宇宙一だ馬鹿野郎。それじゃギルドマスターは俺がやるって事で、サブマスターは五人まで選べるんだったか?なら俺の一存で任命させて貰うぜ」
おっさんはクック、テツヲ、ジーク、アンゼリカの四人を指名し、彼らはそれを了承した。そしておっさんは、ここに居ない最後の一人を呼び出す。
「ユウ、手ぇ空いてたらちょっと来い!」
「師匠、なんですか?丁度いま作り終わった所だから大丈夫ですけど……」
おっさんが声を上げると、魔法工学ブースで作業をしていたユウが顔を出した。彼女の手には、たった今作り上げたばかりであろう長銃がある。
おっさんはちらりとユウが作った銃を見た後に、彼女に目線を合わせた。
「まあまあの出来だな。それで用件だが、ここにいる連中と職人ギルドを作る事にした。活動内容は、各自が自由に生産活動を行ないつつ、職人同士の横の繋がりを太くして連携を取りやすくして、またギルドショップを最大限に活用して、ただ作るだけじゃなくて流通・販売までを全部自分達で行ない、独自の市場を開拓する事も重視している。将来的には他のギルドを相手に大きい取引もやっていこうと思ってる」
おっさんがそう言うと、ユウはおっさんの言葉を自分の中で噛み砕いているのか、少し考えた後に大きく頷いた。
「生産と商売に特化したギルドですか、いいですね。色んな分野の職人が集まればギルド内で作れない物なんて殆どなくなりますし、それをバラバラにじゃなくて一箇所で売る事でショッピングモールみたいな事もできると思いますし。私もぜひ参加したいです」
「理解が早くて助かるぜ。というわけで、サブマスターよろしくな」
「えー……まあ、いいですけど。色々と勉強になりそうですし」
ここに来たばかりのユウならば慌てて拒否したであろうおっさんの一方的な命令に、ユウはげんなりしながらもあっさりと従った。
責任ある立場だが、それだけに経験は積めるだろうし、トップ職人を目指す彼女にとっては悪い話ではない。それに、おっさんの無茶振りにもいい加減慣れた。
「ギルド設立用の資金はユウを除いたサブマスター四人と俺が十万ずつ出す。それと、生産ギルドをやる以上は拠点や設備に対する初期投資が必要不可欠だ。よってギルド作成後、ギルドメンバー全員から最低五万ずつギルドにゴールドを上納して貰う。今持ってねぇ奴は一週間以内に納めとけよ」
五万ゴールドは少々痛いが、決して払えない額ではない。おっさんの言う事ももっともであるし、特に文句も出ずにギルドメンバー達は頷いた。
「サブマスター五人は悪いが、所持金の半分を納めて貰う」
「了解。懐が寒くなるが、最初が肝心だからな。文句はねーぜ」
ジークが頷き、他の四人も同意した。
「多少の不満はあるだろうが、お前らに金を出させる以上は、ギルドマスターの俺は当然それ以上負担させて貰うつもりだ。俺は所持金の八割を納めるとしよう」
おっさんの発言に、軽く騒ぎが起こった。
おっさんの持つ莫大な資金の八割。一体どれほどの額なのか。
「それじゃ最後に、ギルド名を決めねぇとな。案があればどんどん出してくれ」
おっさんのその言葉を皮切りに、次々と意見が出される。ギルド名を決める話し合いが一番長引き、すったもんだの末にようやくギルド名が決定し、ギルドが作成された。
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【ギルド情報】
ギルド名 【C】
ギルドマスター 謎のおっさん
サブマスター クック
テツヲ
ジーク
アンゼリカ
ユウ
ギルドメンバー人数 21/25
ギルド資金 885万ゴールド
【ギルドスキル】
生産スキル成長率強化 Lv3
採集数増加 Lv1
獲得ゴールド増加 Lv1
生産経験値増加 Lv3
【活動内容】
生産スキルによるアイテムの製造および、製造したアイテムの販売。
職人同士の横の繋がりを重視すると共に、他ギルド・プレイヤーに対しても営業・販売活動を行ない人脈や販路を広げる。
【ギルドメンバー応募条件】
Lv20以上の生産スキルと商売スキルを所持している事が条件
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ギルド名はアルファベット一文字で「C」。
Creative、Customize、Communicationなどの、職人の共同体として重視すべき事柄と、外から見たこのギルドのイメージとしての、Company。
それらの頭文字が元になっている。
そうして新たに出来たこの異色のギルドが他のプレイヤー達の注目を浴びるのに、そう長い時間は必要なかった。
後にゲーム内の経済を支配する、伝説のギルドが誕生した瞬間であった。
主に技術力とギルド資金がおかしい(白目)