番外編・6対1ダイジェスト
時系列は、18.謎のおっさん、特訓する(2)の、カットされた6対1の戦闘シーンになります。
戦闘が始まった。
此方はトッププレイヤーが六人。相手は一人。
普通に考えればどちらが勝つかなど、誰が見ても一目で分かろう物だ。
だが、この相手は普通ではない。
謎のおっさん。
全くもってふざけた名前の、まさにその名の通りあらゆる意味で謎だらけの中年男性。
高品質なアイテムを次から次へと生み出すトップ職人であり、かと思えば意味不明で趣味に走りまくった奇妙な物を作り出す変人。
冷徹で、効率を重視する反面、特に意味のなさそうな事に多大な費用や労力を注ぎ込んだり、浪漫を重視した非効率的なプレイングを楽しむ一面も見せる。
口は悪いが人情家で、ジョークを好み、面倒見が良い。だが時折、冷酷で恐ろしい顔を覗かせる事もある。
シリウスがおっさんと初めて出会ったのはβテストの時だ。
基本的に一人で動くおっさんとの接点はあまり無かったが、彼の実力は当時のβテスターの中でも抜きん出ており、注目を集めていた。
当時、レッドが初めて会った際に手も足も出ずに負けたと聞いて驚いたものだったが、本人を見てそれも納得した。
シリウス自身、一人で彼と戦った場合……恐らく勝てる確率は一割にも満たないと感じていた。その評価は今も変わっていない。
そんなおっさんが相手だ。
相手はとにかく色んな意味で規格外。たとえ6対1でも油断はできない。
そう彼らは決意し、剣と盾を構えた。
最初に動いたのはおっさんだった。
姿勢を低くして、両手を鳥の翼のように大きく広げる独特の構え。そしてその両手に握られているのは、二挺の魔導銃剣。
二発の銃弾が放たれる。
狙われたのは、回復役のカエデだ。
回復役を真っ先に潰すのは集団戦の基本であり鉄則。神官は真っ先に殺せ。
その鉄則に則り、おっさんは彼女を狙った。
当然、それをやすやすと許すシリウスではない。
彼は盾役。後衛への攻撃を、その堅牢な防御力と多彩な防御用アビリティで防ぐのが役割だ。
「させません!」
【カバーリング】を使用し、カエデの前に割って入り、彼女に代わって銃弾を受ける。剣と盾を正面に構え、ダメージを軽減させる。幸いダメージ値は大した事はなかった。
そう、ダメージ自体は大した事はなかったのだが……
「……しまった!動けない!」
おっさんが使ったアーツは【パラライズショット】及び【バインドショット】。
麻痺を付与するパラライズショットの効果は、麻痺耐性のアクセサリで防ぐ事が出来た。だがもう一発のバインドショットにより、短時間だが行動を封じられる。
おっさんの狙いは、最初から盾役のシリウスの動きを封じる事にあったのだ。
その間にレッド、カズヤ、アナスタシアが果敢におっさんに攻撃をしかけるが、彼はまるで舞うような動きでその全てを躱しながら、的確に銃弾で反撃している。
そして、シリウスの動きが止まったと見るや、おっさんは【クイックチェンジ】を使用し、武器を切り替えた。
メメント・モリ。そう名付けられた、巨大な……巨大すぎる長銃型魔導銃剣。ほとんど大砲だ。先端に取り付けられた銃剣は重厚で殺傷力が高そうだが、まともに振り回せるようにはとても思えない。
この魔導銃剣は、おっさんがその有り余る資金を大量に注ぎ込んで、コストを度外視して作り上げた決戦兵器である。
コストパフォーマンスは最悪。部品のほとんどがワンオフ品で整備性も最悪。巨大すぎるため取り回しも悪い。だが威力だけは桁外れに高い、酷くバランスの悪い尖った性能の武器だ。
「【マルチロックオン】、【デッドエンドシュート】ッ!」
同時に六人に対して照準を合わせ、おっさんが奥義を発動する。極太のレーザーが銃口より放たれ、シリウス達六人に対して降り注いだ。
カズヤとエンジェは咄嗟に魔法をぶつけて、カエデも弓の奥義を放ってそれぞれ相殺。レッドとアナスタシアは回避行動を取ったものの、回避しきれずに攻撃を受ける。
そしてシリウスは、動けない状態で直撃を食らった。
全員のHPがその一撃で、半分近く持っていかれる。
だが、攻撃はそれで終わりではなかった。休む暇など与えんとばかりにおっさんが動く。
「デッドエンド……」
メメント・モリの先端にある重厚な銃剣をシリウスに向ける。
そして、その反対側――銃口の逆側から、凄まじい勢いでエネルギーが噴射される。まるでロケットブースターのごとく、おっさんはそれにより急発進する。
「まずいぞ……止めろ!」
カズヤ達が咄嗟にそれを止めようとする。だが、間に合わない!
「バスタアアアアアアアアアッ!」
巨大な魔導銃剣を構え、凄まじい勢いでシリウスに向かって突進するおっさん。
それを、ようやく動けるようになったシリウスは盾を構えて迎え撃つ。回避は間に合わず、受けるしかない。
だが、その巨大な刃と突進力を正面から受けるのは、いかにシリウスといえど無謀だった。盾の上からでも凄まじい勢いでHPが減り、その攻撃を受け止めている盾はひび割れ、悲鳴をあげている。
「全力で回復します!シリウス君、なんとか耐えて!」
カエデが素早く回復魔法と防御力上昇の支援魔法を唱える。レッドが横から大鎌をぶつける。カズヤが二本の剣で攻撃しつつ、シリウスに回復魔法を飛ばす。
シリウスも盾だけではなく、魔剣カオスジェノサイダーを振るって片手剣の奥義をメメント・モリにぶつけて相殺せんとし、更に自分でも回復魔法を使って治療を行なう。
だが、そこまでやっても止まらない。三人がかりの回復を上回るスピードで、こちらのHPを削り続けるほどの凄まじい攻撃力。
盾や鎧の耐久力がゴリゴリ削れ、シリウス自身のHPもレッドゾーンに突入し、もはやこれまでかと思った矢先に、ようやくおっさんの突進が終わった。
「チッ……時間切れか」
動きが止まったおっさんに、シリウス達は反撃しようと牙を剥く。
しかしおっさんは一瞬で武器を切り替えると、シリウスの鳩尾に蹴りを放ち、更にその体を蹴って駆け上がった。
最後にシリウスの頭を踏みつけて、おっさんは高く跳躍する。
「僕を踏み台にした!?」
そして空中で回転しながら銃弾の雨を降らせ、まるで羽のように軽やかに、離れた所に着地するおっさん。その間にアナスタシアが投げていた苦無や手裏剣は、全て迎撃され、撃ち落とされている。
「待たせたな!我が力を受けよ!」
そこでようやく、エンジェの大魔法の詠唱が終わる。おっさんは確かに強いが、魔法防御力はせいぜい中の上といったところだ。彼女の大魔法をまともに受ければ一撃で瀕死に追い込まれるであろう。
だがしかし、その詠唱が終わり、魔法が放たれる寸前。
「魔法なんぞ使ってんじゃねえ!」
おっさんが、魔法を放った。
おっさんの手の先に魔法陣が浮かび上がり、その手より放たれた光線がエンジェを捉える。すると、エンジェが詠唱していた魔法が一瞬で消え去った。
更にダメージを受け、その衝撃で吹き飛ばされるエンジェ。
「エンジェさん!?」
「ガハッ……!貴様、魔法を使えたのか……な、なんなのだその魔法は……!」
「さあ、何だろうな?」
おっさんがニヤリと笑う。
それに対して口を開いたのは、カズヤだ。
「スペルブレイカー。【妨害魔法】と【カウンター】の二つのスキルがそれぞれLv20以上で習得可能な、魔法に対するカウンター魔法。消費MPは、相手が詠唱している魔法の2倍。相手の詠唱を打ち消し、更に自分と相手のMAGの両方を使用しての魔法ダメージを与える強力な魔法だ。前述の通り、相手の魔法の規模によっては大量のMPを消費する上にクールタイムが長めに設定されているため、そう連発できる物ではないがな」
油断なく剣を構えたまま、カズヤが解説する。それに対して、おっさんは「ほう」と感心したように頷いた。
「何でぇ、知ってたのかよ」
「当然だ……俺も使えるからな」
カズヤが二本の剣を振るい、おっさんと激突する。
それに合わせて、アナスタシアも忍刀を両手に構えて側面より援護攻撃。
だがおっさんは、彼らの四本の刃を次々と払い、あるいは銃弾で弾き、あるいはその動きで躱しながら、なおかつ反撃も加えているではないか。
「おうアナ公、それにカズ坊……お前らに剣術を教えたのは誰だったか……まさか忘れたわけじゃねぇよなぁ!?」
おっさんは魔導銃剣をブレードモードに切り替える。長めの短剣型となり、接近戦に特化した魔導銃剣。更に魔弾に込められた魔力が刀身を覆い、攻撃力を強化する。
おっさんは二本の短剣を巧みに操って、二人を圧倒する。
「そう呼ばれるのも随分と久しぶりだな……当然、剣だけで勝てるとは思っていない!」
「カズヤ!タイミングはそっちに任せるヨ!」
カズヤは魔法剣と、剣と魔法の複合攻撃。アナスタシアはヒット&アウェイで、投擲や忍術も交えながらの攻撃を繰り出す。
だがそれでも、おっさんは僅かな掠り傷を負うのみ!直撃未だ無し!
「だったら、こいつでどうだッ!」
レッドが大鎌を、まるでブーメランのように回転させながら水平に投げる。それと同時に、彼女は湾曲した形状の、大型の双剣を構えて突進。
だがおっさんは、迫り来る死神の鎌を跳躍して回避し、更にその薄い刃の上に飛び乗り、それを足場に更に高く飛翔する。
「ちぃッ!だが、まだまだ!」
レッドは戻ってきた大鎌を受け止めると、それを構えて跳躍し、おっさんに迫る。アナスタシアやカズヤも、地上から魔法や投擲によりレッドを援護。
レッドが鎌を、上空のおっさんに向かって振り上げる。空中ならば、地上のような回避行動は取れまい。そうレッドは考えた。
しかし、おっさんは瞬時に魔導銃剣をガンナーモードに切り替え、銃のアーツ【ウィンドバースト】を左右の銃から二発同時発射。
銃口より凄まじい風圧。それによってレッドは地上に向かって吹き飛ばされる。更にその反動で、おっさんは更に高く舞い上がる。
「空中戦に付き合ってやりてぇのはやまやまだが……流石にお前ら六人相手じゃ、あまり余裕は無いんでな。本気でやらせて貰うぜ。【メテオレイン】」
おっさんが地上に向けて、魔弾を雨あられの如く降らせる。
身構える冒険者達。
だが、彼らの前に立って盾を掲げる男が一人。
「お待たせしました、回復完了です!【アラウンドカバー】!」
範囲攻撃の対象を自分一人へと変更させる盾のアビリティを発動させ、広範囲への攻撃を一人で全て受けるシリウス。
数十発の攻撃を受けるが全て防御に成功しており、また後衛による回復も万全だ。
「大義であった!次はこちらが牙を剥く番だな!」
おっさんの攻撃終了と共にエンジェが新たな大魔法の詠唱を完了させ、魔法を放つ。
「【ダークフェニックス】!」
不死鳥を象った黒い炎が、おっさんに向かって飛翔する。敵単体を対象として火炎と暗黒の二つの属性で大ダメージを与える魔法だ。
魔法は同レベルの魔法攻撃をぶつければ相殺する事が可能だ。とは言えこれほどの威力の魔法、魔弾を十発や二十発ぶつけた所で完全に相殺する事は不可能であろう。
可能性があるとすれば【バレットカーニバル】等の高火力の奥義を連続でぶつける事くらいだが、それならそれで切り札を切らせる事ができる。此方が有利になる事に変わりはない。
エンジェ、そして他の五人もそう考えた。
しかし、そこでおっさんは再度、武器を巨大な魔導銃剣、メメント・モリに変更した。その攻撃力をもって大魔法・ダークフェニックスを迎撃しようというのか。
確かに先ほど放った奥義【デッドエンドシュート】であれば、ある程度相殺は可能だろう。だが一度使った奥義は、再使用できるまでにクールタイムが発生する。
ならばどうするか。また別の、新たな奥義でも使うのだろうか?
だが、おっさんが行なったのはアーツの使用ではなかった。彼はメメント・モリに装填されていた、巨大な魔弾のカートリッジを取り外し……そして、また別の、青い色のカートリッジを取り出すとメメント・モリに装填したではないか。
そしておっさんはメメント・モリを構え、高速で飛来する黒炎の不死鳥に照準を合わせる。すると、先ほど新たに装填したカートリッジが青白い光を放ち、激しく発光する。
「大魔弾:コキュートス」
おっさんが引鉄を引く。すると凄まじい魔力が銃口より放たれ、猛吹雪が吹き荒れる。それはダークフェニックスと正面からぶつかり合い、相殺せんとますます荒れ狂う。
凄まじき威力。ただカートリッジを装填し、引鉄を引くだけで大魔法に匹敵する破壊力を生み出すとは。これが大魔弾とやらの力だというのか。
だが、その一発を撃つ代償としてカートリッジに内蔵された魔力を全て使い切ったようで、役目を終えたカートリッジが排出される。それは鮮やかな青色だった先ほどとは違い、灰色にくすんでいた。
そして、おっさんは次なるカートリッジを装填する。次のカートリッジは明るい黄色だ。見れば、吹雪と激突したダークフェニックスは相殺され、その威力・速度を大幅に減らしてはいたが、未だに残っているではないか。
「大魔弾:ミョルニル」
おっさんが引鉄を引くと、今度は太い稲妻が幾重にも奔る。今度こそダークフェニックスは完全に消滅し、更にその余波が六人の冒険者たちに襲いかかった。電撃を浴び、僅かだが動きが止まる。だが、おっさんは無慈悲にも更なるカートリッジを装填。
「大魔弾:レーヴァティン」
巨大な熱線が戦場を横一文字に焼き払う。カズヤが咄嗟に氷魔法をぶつけ、シリウスが全員を庇ってダメージを受ける。再びシリウスのHPがレッドゾーンに。
大魔法にも匹敵するほどの攻撃を、続けざまに三連発。これこそがおっさんが作り出した決戦兵器、メメント・モリの真骨頂である。
見よ、これがこの武器の概要だ。
――――――――――――――――――――――――――――――
【メメント・モリ】
種別 魔導銃剣(長銃型)
品質 ★×9(神器級)
素材 アダマンタイト・ミスリル合金/神魔石
製作者 謎のおっさん
近接攻撃力150 射撃攻撃力120 魔法攻撃力120
魔弾使用可能
大魔弾使用可能
【解説】
もはや通常の武器の枠には収まらない巨大兵器。
凄まじい攻撃力を持ち、特殊な弾丸「大魔弾」を使用可能。
出力の代償として非常に巨大で重く、扱いが非常に難しく、また製作・整備・修理の為のコストも非常に重いワンオフ機。
まさしく強敵との戦いの為に作り上げられた決戦兵器と言えるだろう。
【補足】
大魔弾とは、膨大な魔力を込めた魔弾のカートリッジであり、
一発でその魔力を全て使い切る事で爆発的な威力の攻撃が可能。
その威力を実現させるためにはカートリッジ及び、それを装填するための銃本体の巨大化が必要不可欠であった為、実質的にこのメメント・モリ専用の機構である。
一発で魔力を全て使い切るため、再度使用するためには魔力の充填が必要。
また、こちらも製作コストは非常に高額であった事は言うまでもない。
――――――――――――――――――――――――――――――
三発の大魔弾を撃ち終えたおっさんが地上に降り立つ。
再び二挺拳銃へと装備を戻したおっさんは、反撃しようと迫る冒険者達に銃口を向け……
「【バレットカーニバル】」
そして始まる魔弾の一斉掃射。再び守勢に回る冒険者達。
互いに互いを庇い合い、何十発と迫る魔弾をどうにか凌ぎ、全員虫の息な彼らに対して、おっさんは笑い、そして言い放つ。
「やれやれ……何だお前ら、まさか六人がかりなら俺が相手だろうと簡単に勝てるとでも思ったのか?ちょっと見ねぇ内に随分とヌルくなったもんだな、んん?」
まるで小馬鹿にするように、そして失望したかのように呆れた顔をする。そして一同を見回した後に、おっさんは言った。
「てめぇら俺を誰だと思ってやがる。本気で来やがれ。次にやる気の無ぇ真似しやがった奴は即座に殺すぜ?」
おっさんのその言葉を受けて、六人はそれぞれ腕に力を込める。
「ああ、そうだな……悪かったなおっさん。確かに少々見くびっていた事を認める。俺も含めて皆それぞれ、まだ誰にも見せていない切り札を隠し持っているだろう」
カズヤがそう言って、ペットの子竜を呼び出した。
「惜しまず使っていくぞ。そうでなければこの人は倒せん」
「「「「「了解!」」」」」
彼の言葉に、シリウス、エンジェ、カエデ、レッド、アナスタシアが一斉に頷いた。
「そうだ、来いよガキ共!全力でだ!そして俺に勝ってみせろ!」
「俺のとっておきを見せてやる!行くぞルクス!」
「やるぞカオスジェノサイダー!変形しろ!」
「我が魔道の真髄、これから拝ませてやろう!」
「全力で参ります!お覚悟を!」
「行くぜェおっさん!本気の本気でブチ殺してやらァ!」
「ワタシのとっておき、見せてあげるヨ!」
そして激突する両者。戦いは、まだ始まったばかりである――。
ダイジェストと言いつつクソ長くなった。
ざっくりとどんな感じか書くつもりが予想以上に筆が乗りまして。