19.謎のおっさん、露店を出す
ちょっと体調崩して遅くなりました。
「おっさんが来たぞおおおお!」
ここは街の露店エリア。
PCが露店を出して、商売をする時は主にこのエリアを利用する。
ここを使わなければいけないという訳ではなく、何処でだろうと露店は出せるが、やはり人が多く集まる場所で出したほうが方が売る側も買う側も都合が良いのだ。
そんな場所にやってきた男が一人。
ぼさぼさの黒髪に、小さなお子様が目を合わせたら泣くどころか失禁しかねない凶悪な目つき、無精ヒゲに咥えタバコ。服装は、今日は生産をしていた為かツナギ姿だ。
皆様ご存知、謎のおっさんである。
おっさんは基本的に店を出さない。
わざわざ店を出さずとも、彼の作る商品を買いたいという上級者や廃人と呼ばれるPCは沢山居るのだから、作業場に居るだけで勝手に客が買いにくるのだ。
だが、おっさんは時折こうやって露店でアイテムを売りに来る。
それは普段おっさんと接点のない初心者や中間層のプレイヤーにとって、おっさんの作ったアイテムを買える数少ない機会であった。
今日はそんなおっさんの一日を紹介しよう。
「おっさん、この魔導銃剣を二つ売ってくれ!」
「俺にも二つ、あと聖銀の弾丸もくれ!」
一番売れているのはおっさんが作ったイリーガルウェポン、魔導銃剣だ。
おっさんが活躍している動画を見て、この武器に憧れを持ったプレイヤーは多い。
変形機能を搭載した第二世代型の魔導銃剣。おっさんは知己の職人や銃使いの協力もあって、それの量産化に成功していた。
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【量産型魔導銃剣・拳銃型】
品質 ★×7
素材 鋼鉄
製作者 謎のおっさん
【解説】
扱いやすさや整備性、コストを重視し、量産化した魔導銃剣。
変形機能を搭載した第二世代機。
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「おう。銃と短剣のスキルは持ってるな?使い込めばそのうち魔導銃剣スキルが生えてくるだろうから、それまで頑張れよ。
ハイブリッドモードは最初は使いにくいかもしれねぇが、ブレードモードは短剣、ガンナーモードは銃と同じ感覚で使えるからな。状況に応じて使い分けな」
おっさんが代金を受け取り、ホルスターに入った魔導銃剣を手渡すと、受け取ったプレイヤーは嬉しそうにそれをベルトに装着した。
「すいません、魔弾対応型のは売ってないんですか?できれば長銃型が欲しいんですが」
「おっと、悪いがそいつはまだ量産化には至ってねぇんだ。作れるのが俺とジークしか居ねぇしな。そっちはもうちょっと待つか、弾も含めて注文してくれ。それなりの代金は貰うが、オーダーメイドなら素材次第だが神器級だって作れるし、悪い話じゃないと思うぜ」
「わかりました、素材が揃ったらぜひお願いします!早速ダンジョン潜って素材とお金稼いでくるので、これで失礼します!」
一部の耳が早いプレイヤーからの質問にも、言葉遣いはぶっきらぼうだがしっかりと答えていた。
「これは蛇剣か。相変わらず変なモン作ってんなぁ」
客の一人が店先に並べられた片手剣を眺めて呟く。一見、ただの直剣に見えるそれは刀身がワイヤーで繋がれた小さな刃が連結されて出来ている。
鞭のように中距離から振るって攻撃したり、相手を絡め取りながら複数の小さな刃で傷を与えたりと、トリッキーな戦い方ができる武器だ。おっさんが作った物は機械仕掛けになっており、高速でワイヤーを伸ばして射出したり、逆に自動で巻き取ったりといった機能も付いている。
「変な物たぁ何だこの野郎。龍王様も愛用してる武器だぜ、そいつぁ」
「マジで?……って、確かにあの人片手剣と鞭使うもんなぁ……それを聞くとちょっと欲しくなってきたな」
それ以外にも、多種多様な変わった装備が大量に並べてある。
「……ヨーヨー?これで戦うの?」
ワイヤーの巻かれた金属製の円盤を手にとった女性プレイヤーが呟いた。
「扱いは難しいが、回転力と遠心力のおかげで攻撃力はなかなかのモンだぜ。鞭や鎖鎌みてーにトリッキーな攻撃も可能だ。更に回転数が一定以上になると隠し刃が飛び出す仕組みよ」
「おっさん暗器好きねぇ……まあ、面白そうだし買ってみようかな」
「おう、毎度あり。そいつはまだ試作段階だからよ、よかったら使った感想とか教えてくれよ。それに合わせて調整もしてやるからよ」
そういった変わった武器の売れ行きも順調のようである。
おっさんは武器以外にも、アクセサリや、ポーション等の消耗品、料理なども売っており、武器と同様にそちらもよく売れた。
途中、無謀にもおっさんの売るアイテムをしつこく値切ろうとしたファッキン・ニュービーが現れ、おっさんに蹴り飛ばされて退場したりもしたが、些細な事であろう。
「値引きしろだぁ?つまりテメーは俺の商品にはそれだけの価値が無いって言いてぇんだな?いいだろう、侮辱は死をもって償え」
とは、その際のおっさんの台詞である。おっさんの売る物は高品質だけあって高価だ。だがそれは良い素材を使い、優れた技術を用いており、それらを使って出来た品が希少であるゆえ、その価格は適正……むしろ一般プレイヤーでも少し無理をすれば買える分、良心的な方であろう。
ゆえにおっさんはその要求を突っぱねた。己が丹精込めて作り上げた物の価値がわからない物に売る物など、一流の職人は持ち合わせていない。
「馬鹿な奴だ。おっさんが十分安くしてくれてるのが解らないのかね」
「全くだな。せめてもうちょっと丁寧な態度で頼めばよかった物を。職人を馬鹿にするような態度を取って生きていけると思ってんのかね」
「しかもあのおっさん相手にだぜ……相手選べよ」
「見た感じ初心者だしな。知らなかったんじゃね?」
周りの反応は概ねそんな感じであった。
そんな時であった。一人のプレイヤーが、その騒動のどさくさに紛れて、おっさんの目を盗んで【窃盗】スキルを使用したのは。
茶色いローブで全身を覆い隠した男だ。その目標は、おっさんが並べていた商品の中のひとつ。量産品ではなく、一品物の神器の短剣だ。
その男は露店からそれを掠め取ると、【ダッシュ】スキルを用いて一目散に逃げ出した。
「泥棒だ!」
「ガード!ガード!」
偶然それを目にした他の客が叫ぶ。
当然おっさんも既に気付いており、狙撃銃を構えていた。ろくに狙いも付けずに即座に発射された弾丸は、それでも正確に犯人に命中した。
「ぐあっ!」
銃のアーツ【レッグブレイクショット】により脚を撃ち抜かれ、一定時間移動不可能の状態異常を付与された窃盗犯が、その場に倒れる。
そこへ、街を巡回していたNPCの衛兵が殺到する。
「スタァァァーップ!そこまでだクソ犯罪者!貴様は法を犯した、罪を償って貰おう!大人しく罰金を払うか、それとも牢獄に入るか、あるいは抵抗するか今すぐ選ぶがいい!個人的には抵抗する事を推奨するがな!泣いたり笑ったり出来なくなるまでファッキしてやる、このゲロカス窃盗犯め!」
「アイエエエエエエ!?」
とても街の平和を守る衛兵とは思えないような暴力的な表情と下品な台詞を撒き散らすNPCを前に恐慌状態に陥る窃盗犯。
彼はPK集団の下っ端であり、変装して街に忍び込んで(悪名値が一定値を超えた者が街に入ると衛兵に追い回されるため、変装する必要がある)窃盗スキルを使ってアイテムやお金を集める任務をこなしていたのだ。
ところが、知らずに狙いを定めた露店がおっさんの店であった事が彼にとって最大の不幸と言えるだろう。
すっかり抵抗する気を無くした彼は、そのまま衛兵に連行されようとするが……
「おう、待ちやがれ衛兵ども」
その時、衛兵達を止める声が上がる。低く渋い、おっさんの声。
何故止める?そう思いつつ、衛兵達が怪訝そうにおっさんへと振り向く。
助けてくれるのか?僅かな期待を胸に、窃盗犯が顔を上げる。
だが、そこで彼らが見たのは……大きく「滅」「殺」と描かれたホッケーマスクを顔に装着し、回転ノコギリのような刃を持つ巨大な剣を構えた、ツナギを着たジェイソン……もとい、おっさんの姿であった。
「俺が本当の蹂躙のやり方を教えてやる」
その言葉と共に、チェーンソー型の大剣がギュイィィィィィィン!と凶悪な唸り声を上げる。更に、おっさんの周囲にはビット兵器が複数、空中でホバリングしながらいつでも射撃をする体勢を整えていた。
「衛兵さん助けて!もう二度としません!牢獄に行って反省しますから!」
あまりの恐怖に、先ほどまで自分に殺気を向けていた衛兵達にすがる窃盗犯。しかし衛兵達は、一切迷う事なく生贄の羊を差し出した。
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞどうぞ」
「\(^o^)/オワタ」
盗人殺すべし。慈悲はない。
かくしてこの一件を撮影した動画が公式サイトにアップされて以降、街中で窃盗スキルを使う者は居なくなったそうな。
今日もアルカディアは平和だった。
今日もアルカディアは平和だった(欺瞞)
NPCはプレイヤー達と交流する事で影響を受け、彼らもまた変化していきます。一部のプレイヤーの影響を受けてはっちゃけたNPCの姿もちらほらと見受けられ、今回の衛兵達はその一例。




