18.謎のおっさん、特訓する(2)
「鍛冶師たる者、武器を作る技術だけを追い求めちゃあいけねえ。武器の扱い方も解らねぇ奴が、どうして良い武器を作れるってんだ。
少なくとも、自分が専門で作る武器くらいはきっちり使いこなせるようにならねえとな。おっさんだって、メインで作る銃やナイフの扱いは誰よりも上手いだろう?」
そう語るのは鍛冶師テツヲ。
刀剣類の製作を専門としている彼は、剣や刀スキルのレベルもかなり高い。
【抜刀術】等のスキルも駆使し、自ら製作した刀を振るっている。
それに対するは見習い職人の少女、ユウ。
おっさん達の指導によって、生産スキルは着実に成長しているが……武器の扱いや戦闘に関しては、まだまだ未熟であった。
「職人にとっては、己の手で作り出したアイテムこそが最大の武器でもあります。武器や防具は勿論、高品質な回復薬による回復、ステータスを上昇させる料理、様々な道具……そういった戦闘に役立つ物を作り出すため、戦場で何が必要とされるかを知る為にも戦闘の経験は必要だと、僕も思いますよ」
次の相手は料理人クック。
彼は自らの言葉通り、自作の料理――★×9の最高級品だ――によってSTRとAGIを大幅に上げ、二本の包丁を巧みに操って攻撃する。その攻撃力は職人とは思えないほど高い。食材を寸分違わず切り分ける腕前は、戦闘においても精密な攻撃を可能とさせる。
彼が戦闘で使う包丁はテツヲの作った逸品であり、見た目は包丁だが立派な武器である。分類上は片手刀で、料理スキルによって攻撃力にボーナスがかかる、前線で戦う料理人ならば喉から手が出る程欲しがるであろう品だ。
一方おっさんは、魔導技師ジーク、裁縫師アンゼリカの二人を相手にしていた。
ジークが機関銃から銃弾をバラ撒き、アンゼリカがそれに合わせて投擲用の針を一度に十本近く投げて援護する。
「甘ぇ甘ぇ」
おっさんは二丁の魔導銃剣、クリムゾンゲイルとブラックライトニングⅡを両手に構え、飛来する銃弾のうち、自らに当たる物のみを的確に撃ち落とす。
アンゼリカの針も同様だ。おっさんはそれを魔弾で撃ち落としつつ、そのうちの一本を人差し指と中指で挟んで止めると逆に投げ返した。アンゼリカが大きな布生地を取り出し、投げ返された針を受け止める。
「流石おっさん……ならば、新兵器を出させて貰うぜ!」
ジークはそう叫ぶと、アイテムストレージから機械で出来た四角い箱のような物を取り出す。そして魔法の詠唱を開始した。ジークが取り出したのは、何らかの魔法の触媒か。
「魔法だと?」
「そう!これが魔法工学と召喚魔法を組み合わせた、全く新しい召喚獣だ!
【コールサーバント】!来いよ、マシンゴーレム!」
ジークの詠唱が終わり、召喚魔法が発動する。
彼の手にあった箱が消え去り、そして地面に描かれた魔法陣から現れたのは……巨大人型ロボット……?否、その正体は機械仕掛けのゴーレムだ!
「いいねぇ……!流石はジーク、やってくれるぜ」
おっさんが楽しそうにニヤリと笑う。
「新しい……惹かれるな……!」
それと少し離れた場所で魔王様がキラキラした目でそれを見ていた。
「おっと、私の事も忘れて貰っちゃ困るわね。とっておきを見せてあげるわ」
そう言ってアンゼリカが取り出すは、彼女が自ら作ったクマのぬいぐるみ。
一見、何の変哲も無いただのぬいぐるみだ。だが侮るなかれ。これは立派な、彼女のメイン武器である。
「イリーガルウェポンか」
おっさんが呟く。非正規武装とは、おっさんの魔導銃剣のように、既存のカテゴリに当て嵌らない、このゲームの本来の仕様には無い特殊な武器の総称である。
また、職人達の自由な発想と技術によって生み出されるそれらの武器は、使う者の創意工夫によって全く新しい戦闘スタイルを生み出す事もある。
それがシステムAIによって認められれば、イリーガルスキルと呼ばれる、これもまた本来の仕様には無い、オリジナルのスキルが新たに生まれる事もあるのだ。
ちなみにイリーガルスキルに関しては武器以外にも、様々な要因によって発生する。例えば基本スキルの【格闘】だが、これを現実で空手を修めた者が空手の技を何度も使って上げていったらイリーガルスキル【空手】スキルに変化した、といった例が報告されている。おっさんの持つ【CQC】や、アナスタシアの【忍術】等も同様に、既存スキルが変化した物だ。
こうした変化や新たにスキルが生まれる現象を、このゲームのプレイヤーは一般的に『スキルが生える』と呼んでいる。
さて、アンゼリカの武器であるこのぬいぐるみのカテゴリ名は【戦闘人形】。彼女は同名のイリーガルスキルを用いて、操り糸でこの人形を操作して戦う。
そこまではおっさんもよく知っていたが……
アンゼリカは更に、同じ見た目の人形を続けて取り出す。
その数、二十体。
「お行きなさい!」
アンゼリカが指示を出すと、ぬいぐるみが一斉に起き上がり、武器を構えておっさんに向かって突撃を開始した。
「自動人形か。完成したんだな」
「まだまだ改良が必要ですけどね!」
二十体の戦闘人形と機械巨人による同時攻撃。職人ならではの戦い方と言えるだろう。おっさんは機械巨人の左腕に取り付けられた回転式機関銃の連射を躱しつつ、人形の攻撃を捌き続ける。
「なるほど、二人とも良い出来だ。だが俺も、似たようなコンセプトの新製品を作っていてな」
そう言っておっさんが取り出したのは、金属で出来た球体が二つ。大きさは野球のボールよりやや大きい程度か。魔導機械のようで、スイッチのような物が付いている。
おっさんは左右の手に一つずつ持ったそれのスイッチを指で押し、そして球体を上に向けて投げた。するとその球体が真ん中から割れ、変形する。
一瞬で変形が完了し、全長20センチメートル程の小さな、奇妙な形状をした兵器が姿をあらわす。それは小型のブースターで空中を高速で移動しながら、取り付けてある銃口を自動人形たちに向ける。
「行きな!マシンガンビット!レーザービット!」
マシンガンビットと呼ばれた兵器が、小さな銃弾を凄まじい勢いで連射して自動人形を蜂の巣にする。同時にレーザービットと呼ばれた兵器が、直線型のレーザービーム……魔弾を発射して別の自動人形の頭を吹き飛ばした。
「ファ○ネルだとぉ!?くっそおおおお!先を越されたかあああああ!」
ジークが地団太を踏んで悔しがる。あとフ○ンネル言うな。
「わ、私の人形たちが……ぜ……ぜん……め……めつめつめつ……」
おっさんのビット兵器が自動人形を駆逐し、それを見たアンゼリカが崩れ落ちた。それを横目に、おっさんはジークの召喚したマシンゴーレムへ向かって疾走する。
それを迎え撃つ機械仕掛けの巨人。突き出した右拳が、手首から切り離されて高速で飛来する。所謂ロケットパンチという奴だ。
おっさんは左右の魔導銃剣より発射された魔弾でロケットパンチを弾き、逸らす。そしておっさんは巨人の足元へとたどり着いた。
それを受けてマシンゴーレムは右足を大きく振り上げ、そして真っ直ぐに振り下ろし、おっさんを踏みつぶそうとした。しかし、
「遅ぇ」
その前におっさんが、左脚の膝と足首に、一瞬でそれぞれ四発ずつ魔弾を放ち、バランスを崩したマシンゴーレムの脚部に手を添え、投げ飛ばす。
おっさんのカウンター技により、マシンゴーレムは回転しながら吹き飛んだ。
「俺のゴーレムがあああ!?」
驚愕するジークに対しておっさんは一言。
「確かにそこそこ強ぇが……俺に対してはああいった、デカくて攻撃力が高い奴は相性最悪だぜ。気をつけな」
この後も組み合わせを変えつつ、職人達もまた訓練に励んでいた。
◆
そんなこんなで一通りの戦闘訓練が終わった後。
「さて……準備運動も終わった事だし、そろそろ俺の練習にも付き合って貰おうかね」
おっさんがそう言葉を発した。
ナナやアーニャ、ユウ、それに職人達の相手をした後だが、まだまだ元気そうである。
彼の視線の先にあるのは、七英傑と呼ばれるPC達。
カズヤ、シリウス、エンジェ、カエデ、レッド、アナスタシアの六名である。
おっさんが本気で特訓をするなら、やはりその相手は彼らを置いて他には居ないだろう。
「ようやくかい。それでお客サン、どの子をご指名で?」
レッドがおっさんに問いかける。冗談めかして言っているが、どうやら彼女もやる気のようで、自分を選べと目で訴えていた。
他の五人も彼女ほどではないが、おっさんと戦うのは楽しみであるようだ。
そして、レッドのその問を受けておっさんは答えた。
「全員だ」
「…………………なんだって?」
「全員まとめてかかって来い、って言ったんだよ」
尊大な態度でニヤリと笑って、おっさんはそう言った。
「……オイオイ、おっさんよォ……アンタがクソ強ェのはよォーく分かってるけどさ?幾ら何でも俺達六人を相手に一人でってのは流石に無理があるんじゃねェの?つーか……ナメてんの?」
頬を引きつらせてレッドが言う。
だが、おっさんは更に火に油を注ぐが如く、
「折角の特訓なんだ、難易度は高く設定しなきゃ練習にならねぇだろ?それに、どうせタイマンやったら俺が勝つに決まってるしな。まあ……」
おっさんはそこで言葉を切り、六人の顔を見渡して、煙草を咥えて火を付ける。そして煙草をゆっくりと美味そうに吸い、煙を吐き出すとふんぞり返って言い放った。
「丁度いいハンデって奴だ」
何たる傲慢か。トッププレイヤー六人を相手に、そう言ってのけたおっさん。それに対して他の六人は当然の如くブチ切れ、何としてもこの増上慢の鼻っ柱をへし折ってやろうと決意する。
「その喧嘩、買った」
かくして、謎のおっさんVSトッププレイヤー六名の戦いが始まった。
状況はあまりにも不利である。
万能型のカズヤ、盾役のシリウス、魔法アタッカーのエンジェ、支援型のカエデ、物理アタッカーのレッド、攪乱・遊撃担当のアナスタシア。
この六名が手を組んだのである。パーティーのバランス的にも申し分の無い、間違いなくこのゲーム内で最強のチームである。フィールドボスが泣いて土下座するレベルだ。
だがおっさんは、それに対しても一切怯む事なく立ち向かう。
その目に宿るは絶対の意志。己の勝利を一切疑っていない。
かくして、最強のプレイヤーと、最強のパーティーの戦いが始まった。
――そして一時間後。
「いやー、やっぱ流石に六対一は無理だったか。悪ィ悪ィ、流石にちょっと甘く見てたぜお前ら。挑発するような真似して悪かったが、本気でやって貰いたかったからよ。ま、おかげで良い訓練になったぜ!ありがとよ」
戦闘に敗れ、死亡状態からカエデの魔法で蘇生したおっさんが、楽しそうに笑いながら謝罪と感謝を口にする。
流石のおっさんといえど、この六人が相手では流石に勝利するのは無理であったようだ。
そして、そのおっさんに勝利した六名はと言えば……
「まさか倒すのに一時間近くかかるとは……甘く見ていたのは俺達の方だったか」
「僕、HPが何度かレッドゾーンに突入しましたよ……盾も鎧もボロボロです……」
「我の魔法が悉く封じられるとは……化け物か……」
「回復が追いつきませんでした……MPも残り僅かです……」
「つーか、下手したら最初の奇襲で半壊してたぞ俺ら……よく勝てたな……」
「ワタシの攻撃、全部避けられましたヨ……自信喪失デース……」
ボロボロの状態でしゃがみ込んでいる者、仰向けに地面に倒れている者と死屍累々であった。一体どっちが勝者なのやら。
「えーっと……師匠って、職人……ですよね……?」
そんな光景を見て、思わずそう呟いたユウであった。
少しお休みして気力を回復させて帰ってきました。
ここ最近戦闘の話が続いてたので、次回以降は何話かは生産方面の話になる予定です。
(2014/4/5 誤記・誤字修正)