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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第一部 おっさん大地に立つ
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謎のおっさん、取引する

(ふえぇ……どうしてこんな事に……)


 僧侶クレリックの少女、アーニャは心の中でそう呟く。


 僧侶といっても、スキル制を採用しているVRMMO「アルカディア」には、職業の概念などは無い。

 彼女はスキル構成が【鈍器】【神聖魔法】【回復魔法】【支援魔法】などの、一般的なRPGで言うところの僧侶っぽい構成であり、また服装もそのような格好をしている為、便宜的にそう呼んでいるだけの事である。


 とは言え特定の組み合わせの、複数のスキルのレベルを上げる事で取得できる【称号スキル】という物があり、その中には職業名のような物もあるのだが。



 さて、そんな彼女……アーニャであるが、前述の通りRPGに出てくる僧侶のような服装だ。

 前面に十字架が描かれた青い法衣と、セットになっている帽子。首には十字架の首飾り。

 その法衣であるが、何故か下半身には深いスリットが入っており、白いニーハイソックスに包まれた健康的な脚がチラリと見えている。

 この服をデザインした方は、多くの男性プレイヤーから賞賛を送られるであろう。ハラショー。

 彼女自身は亜麻色の髪をセミロングにしており、服の上からでもわかる豊満な胸と、腰のくびれから安産型の大きなお尻、スリットから覗くふとももにかけてのラインが素晴らしい、わがままボディの持ち主である。背の高さは平均的で、言わずもがな美少女だ。


 話を戻そう。

 彼女はとても怯えていた。その理由は、彼女の前に立つ男性にあった。

 ファンタジーな世界観に全く似合わぬ白いツナギ、ボサボサの黒い頭髪、不精ヒゲに口に咥えた煙草。そして非常に凶暴そうな、その瞳。

 今もっともホットな(色んな意味で)話題のPC。

 噂のナイスガイ、【謎のおっさん】である。


「おう、そこの嬢ちゃん」


 アーニャが街を歩いていた時、突然背後からそう声をかけられた。

 振り向いたその先に居たのは、悪名高きモヒカン殺し(キラー)


 彼がゲーム開始時にやらかした暴挙については、既に多くのプレイヤーの間で話題になっており、アーニャもそれを知っていた。

 そして当然のように彼女はビビった。膝がガクガクと、まるで生まれたての小鹿のように震えている。


「ななな、なんでしょうか……?」


 一体この男は自分に何の用があるというのか。

 決闘デュエルでもしたいのか。それとも恐喝カツアゲか。あるいはひょっとして、何かいやらしい事をするつもりなのでは?

 嫌な想像が頭の中をぐるぐると駆け回る。


「何びびってんだオメー……まあいいか。嬢ちゃん僧侶っぽい格好してるけど、【ブレッシング】は使えるかい」


 【ブレッシング】とは、【神聖魔法】と【支援魔法】の、二つのスキルを上げる事で習得できる、自分や味方に祝福を与えて一定時間、全ステータスと暗黒属性耐性を上昇させる便利な魔法だ。

 複数のスキルが必要ではあるが、比較的低いレベルで習得できる。アーニャも既にそれを習得しており、使い勝手の良さから愛用していた。


「は、はい……使えます……。MLvマジックレベルはまだ5ですけど……」


 コクコクと頷くアーニャ。


「おっ、そりゃ良かった。悪いんだけどよ……」


 そう言って、おっさんは慣れた手つきでウィンドウを操作し、


「コイツに【ブレッシング】かけてくれねえかい?」


 アイテムストレージから、水の入った瓶を幾つか取り出した。


「この、水の入った瓶にですかぁ……?」


 意味がわからない、といった風にアーニャが訊ねる。


「おう、知らねえ奴も多いんだがな。魔法やアーツは物にも使えるんだぜ。この水が入った瓶に対して使うんだって思いながらやってみな」


 半信半疑ながら、アーニャは言われた通りに【ブレッシング】を唱える。するとおっさんが手に持った、水が入った瓶が淡い白光に包まれる。【ブレッシング】のエフェクトだ。


「おっ……出来た出来た。ありがとよ」

「ふぇぇ……ほんとに出来ちゃいましたぁ……」

 言われた通りにやったら本当にできてしまった。


「ま、こんな風にな。このゲームじゃアイテムに魔法使って変化させたりも出来る訳よ。ほれ」


 おっさんが手に持った水をアーニャへ向けて差し出す。

 それに恐る恐る触れると、アイテムの説明が書かれたウィンドウが出現した。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【聖水】


 種別 消耗品

 品質 ★×5

 属性 神聖


 【効果】

 キャラクター1体が対象。対象は以下の効果を得る。

 ①10分間 全ステータス+25

 ②10分間、暗黒耐性+25%


 【解説】

 祝福を受けた水が入った瓶。

――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぇぇ……スキルでこんな事ができるんですね……」


 彼女が使える【ブレッシング Lv5】そのままの効果を持った水を見て、感心したように呟くアーニャ。


「ちょうど製造の素材でこれが欲しかったんだが、知り合いで使える奴がログインしてなくてなぁ……ありがとよ嬢ちゃん。助かったぜ」


 そう言っておっさんは人の好さそうな笑顔を浮かべた。

 そして聖水をアイテムストレージに仕舞い、新しく何かを取り出す。


「こいつは礼だ。よかったら使ってやってくれや……ああ、聖水は情報が出回ってないから、存在自体を知ってる奴が少ねぇし、支援魔法を取ってないヤツには便利なアイテムだ。金策に困ったら、作って露店で売ってみるといいぜ」


 そう言っておっさんは、手に持った武器……片手鈍器メイスをアーニャへと渡し、作業場の方へと走り去っていった。

 呆気にとられてそれを見ていたアーニャだったが、しばらくして我に返る。


「思ったより怖い人じゃないのかも……?」


 口調は荒っぽいが、あまり怖くはなかった。

 それに色々と知らない事も教えて貰ったし、聖水を作ったお礼に武器も貰った。

 最後に見せた笑顔も、それまでの強面とのギャップで気のいいおじさんのように見えた。


「あっ、そういえば武器、もらっちゃった……いいのかな」


 手には渡されたメイスの、ずっしりとした重み。

 最初に支給された初心者用メイスを使っている身としては、有り難いが……いいのだろうか、と思いつつ、なんとなしに貰ったメイスの情報を見ると……


――――――――――――――――――――――――――――――

 【改良型アイアンメイス】


 種別 鈍器(片手用)

 品質 ★×6(精巧級)

 素材 鉄/鉛

 耐久度 18/18

 製作者 謎のおっさん


 【装備効果】

 攻撃力:衝撃+24 魔法+10


 【付与効果】

 [雷刃2]物理攻撃時、雷属性の追加ダメージを与える Lv2

 [治癒1]HP自然回復速度上昇 Lv1

 [空き]


 【解説】

 鉄で作られた、扱いやすい片手鈍器。

 中に鉛が仕込まれており、重い一撃を食らわせる事ができる。

――――――――――――――――――――――――――――――


「……ファッ!?」


 無垢な新参プレイヤーの少女の手に突然、現時点で世界トップクラスの武器が渡った瞬間であった。

(2013/12/7 誤記修正)

(2015/2/15 加筆修正)

(2017/1/21 加筆修正)

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