17.謎のおっさん、特訓する(1)
特訓が必要だ。
おっさんは声に出さず、心の中でそう呟いた。
先日のPKや巨大牛との戦いは、勝てはしたものの危うい場面があった。
おっさんがピンチになったのはPTメンバーであるアーニャを庇っての事だったが、そんな事は何の言い訳にもならない、とおっさんは考える。
おっさんにもトッププレイヤーとしての自負という物がある。.gifではない。
中級者プレイヤーを連れて、たかが十数人のPKやフィールドボスに囲まれたからといって醜態を晒して良い理由などどこにも無いのだ。あまつさえ、守るべき相手に逆に助けられる始末。
余人が聞けば「ちょっと待て、それはおかしい」と言われそうではあるが、おっさんは本気でそう思っていた。廃人怖いです。
荒野の魔物たちも、第七エリアから先は格段に強くなっていた。
砂中に潜み、隠蔽状態からいきなり奇襲をかましてくる巨大ミミズや、大量にリンクしてくる狼の群れ。
更にバジリスク(非フィールドボス。でっかいトカゲ。触れる事で石化や麻痺の状態異常を与えてくる非常に厄介な敵)がいきなり地面の中からコンニチワしてきた時は、流石のおっさんも少々ビビった。
石化の魔眼を持たないレッサーバジリスクであった事と、麻痺無効のアクセサリを装備していた事で有利に戦えたが、おっさんも少々苦労した相手だった。
前線プレイヤー達が現在攻略を進めているのは第五エリアだという点についてはツッコんではいけない。
そういった次第で、一度自身を鍛え直す必要がある。
ちょうどナナとアーニャの訓練に付き合う日だ。どうせやるならとことんやってやろう。そう考えたおっさんは……
◆
「あの、何で私連れてこられたんでしょう……」
おっさんの弟子である見習い職人のユウがそう呟く。
ここは荒野の人気の無いフィールド。ここに集まったメンバーの中には彼女の姿もあった。
「大人数で特訓する事になったから、折角だからお前も参加しろ」
「はぁ……私、職人ですよね……?」
「職人にも戦闘力は必要だ。モンスターの肉や毛皮、危険地帯の奥にある鉱脈や薬草。どれも戦えなきゃ取りに行けねぇだろう?」
「そういうものですか」
おっさんの回答にとりあえず納得した様子のユウ。改めて彼女は周囲を見回す。
「っていうか、凄い人達がいっぱいで私、場違い感が……」
「いやいや、それはあたし達も一緒だから」
ユウの言葉にナナが相槌を打つ。隣ではアーニャもこくこくと頷いていた。
では、この場に集まったメンバーを紹介してみよう。
【七英傑】
謎のおっさん
カズヤ
シリウス
エンジェ
カエデ
レッド
アナスタシア
【トップ職人】
クック
テツヲ
ジーク
アンゼリカ
【一般人枠】
ナナ
アーニャ
ユウ
以上である。
「トッププレイヤーだらけじゃないですかー!やだー!」
一般人がトッププレイヤーに遭遇した場合、程度の差はあるがプレッシャーに耐えきれなくなり精神的に何らかの影響を受ける者が少なくない。あたかもそれは、ライオンに遭遇した草食動物の如く。
この時のユウ達も例外ではなかった。
「つべこべ言うな!始めるぞ!」
おっさんが一喝する。かくして特訓が始まった。
◆
アーニャの相手はシリウス・カエデ・エンジェの三人だ。
「自分の回復魔法による回復量と、それによるヘイト値の上昇がどれくらいであるかを理解しておく事は非常に大切です。高位の回復魔法は消費も激しいですから、必要な回復量に応じてしっかり魔法を使い分けましょう。誰にどの支援魔法をかけて、残り時間がどれくらいか……という事も、ちゃんと把握しておく必要がありますね」
「なるほど……支援魔法を常に切らさないようにするためですね」
カエデは主に支援職としての心得を説きながら、薙刀で組手を行なう。
「アーニャさんはサブ盾や鈍器アタッカーとしても活躍できますから、MP管理が非常に重要になりますね。僕もそうですけど、攻撃用のアーツや魔法と、防御技や回復、それぞれにどれくらいずつMPを割くかの判断力が大事ですね。
それから、両手で武器を持つ場合は腕に付けるタイプの盾をおっさんに作って貰えば良いかと。【武器受け】スキルも併せて習得をお薦めしますよ」
「勉強になります……」
シリウスは前衛としての心得や、盾をしながら回復や支援も行なう自分の経験を元にしたアドバイスを行った。
「ククク、戦は始める前の準備こそが肝要よ……実戦での判断力や魔力の管理は無論だが、スキル構成やステータスの割り振りも大事だぞ。お主の場合は必要なステータスが多いから尚更だ。
MP管理については【瞑想】スキルを最優先で45まで上げよ。瞑想系アーツはMP自然回復量を底上げする代わりに効果時間中はSTRやAGIが大幅に低下する、純魔法使い向きの技ではあるが……45で習得可能な【メディテーションⅣ】はデメリットが一気に少なくなる。ちなみに60で習得可能な【メディテーションⅤ】は完全にデメリットが無くなるぞ。」
「それは是非覚えないといけません……!」
エンジェは魔法使いとしての観点からのアドバイスを。
このようにして、アーニャの方は和気藹々と進んでいた。
次にナナだが、彼女の相手をするのはアナスタシア・レッド・カズヤの三人。
こちらはうってかわって激しかった。
「Speedはまあまあだケド……単調すぎるヨ!」
一番手、アナスタシア。
ナナの速度も決して悪くない。だがアナスタシアは更にその一歩先を行く。苦無や鎖鎌といった癖の強い武器、更に投擲や忍術スキルを使ったトリッキーな戦術に、ナナは始終翻弄されっぱなしだった。
「オラオラどうした!手が止まってるぜェ!」
二番手、レッド。
以前着ていた真っ赤なローブは、今はアンゼリカの手によりドレスに加工されて彼女の身に纏われている。
互いに双剣をぶつけ合う二人。速さはかろうじて互角だが、パワーの差が大きすぎてナナの双剣が一方的に弾き返される。ローブを脱いでも相手は最凶のPKKだ。甘く見てはいけない。
対人戦の経験にも天と地ほどの差がある。ナナはついていくのがやっとだった。
「行くぞ。捌き切って見せろ」
三番手、カズヤ。
長剣の二刀流。リーチでは劣るものの、速さでは小回りの効く此方が有利。そんな考えは一瞬で吹き飛ばされる。
ナナの攻撃はあっさりと見切られ、二刀流の斬撃が左右から次々と襲いかかる。更に併用して攻撃魔法や魔法剣が次々と飛んでくる有様。すぐに防戦一方になり、呆気なく手数で押し切られた。ペットを使っていないだけ、まだ有情であろう。
「なんかアーニャとあたしで差がありすぎませんかね……」
酷いフルボッコである。一方で平和そうな顔で講義を受けているアーニャの方を見て、ナナはがっくりと項垂れた。
修行回。今回はたぶん2分割。




