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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
34/140

13.謎のおっさん、大改造ビフォーアフター

「おっさん助けて!」


 そんな声が湖畔に響き渡る。声の主は日光を受けて輝く金色の髪に、青い瞳の端正な顔立ちの少年だ。純白の騎士鎧を着こなし、堅牢そうな騎士盾を携えたその姿はまさに聖騎士。


「なんだシリウスじゃねぇか。どうした」


 湖に釣り糸を垂らしながら、おっさんは客人に向かってそう問いかける。


「どうしたもこうしたも……この剣なんとかしてくださいよ……」


 そう言って彼が取り出したのは漆黒の剣。刺々しいデザインの異形の刀身が見る者に恐怖を与え、鍔や柄に施された冒涜的な意匠は狂気を体現する。

 魔剣カオスジェノサイダー。シリウスの使う片手剣であり、彼の悩みの元であった。


「他の武器を使おうとすると勝手に食べて吸収するし!それどころかアイテムやお金も食べるし!おかげで僕の財布が大ピンチですよ!あと何か邪教徒っぽい人達が魔剣を崇拝してきて教祖に祭り上げられそうになったり、クエスト受けにNPCの住む屋敷に行ったら高級そうな家具とか食べ始めて、弁償するかわりに執事やる羽目になったり!ついでにレッドの馬鹿が最近妙に絡んできたりで僕の胃がストレスでマッハなのでマジで何とかしてください!」


 相変わらず苦労人なシリウスであった。

 なお原因の大半は感想欄における無茶振りのせいである。


「何とかしてやりたい所だが、膝に矢を受けてしまってな」

「どこの衛兵ですか……」


 おっさんは適当にあしらってシリウスを追い返そうとする。今日は釣りをする日であり、シリウスの災難に巻き込まれる日ではないのだ。


「今忙しいんだよ。今度にしてくれ」


 おっさんは冷たくそう言い放つ。だが……


「その姿のどこが忙しそうに見えるってんだああああああ!」


 シリウスが全力でツッコミを入れる。

 ちなみに現在のおっさんの姿は、わざわざ釣りをするために設置した桟橋の一番奥にて、これまたわざわざ製作・設置した釣り用の椅子(高級羽毛枕・クッション付きリクライニングチェア)に深く腰かけた状態で、右手で釣竿を支えている。

 膝の上ではアナスタシアが丸くなって昼寝をしており、おっさんの左手はその頭を優しく撫でている。また椅子の隣に置かれたテーブルの上には、食べかけの焼き鳥とビールが。


 さらっと言ったが、湖に桟橋を設置するのはフィールドの改造にあたる行為である。おっさんはそれを一晩でやってのけた。

 特に規約で禁止されている訳でもないので運営も半ば諦め顔で放置している。実際、釣りスキルを習得しているプレイヤーからは、この桟橋は大変好評である。

 ちなみに一番奥の椅子が設置されているスペースはおっさんの指定席である。勝手に座るとワイヤーで拘束されて湖に向かって投げ落とされるので注意が必要だ。


「うるせえぞシリウス。アナ公が起きちまうだろうが」

「あっはい、すいません……じゃなくて!どうみても暇そうじゃないですかぁ……本当なんとかしてくださいよ。あんたが作った剣でしょうがこれ……」


 シリウスが魔剣をおっさんに差し出す。


「……ったく、しゃーねぇな」


 おっさんが魔剣を受け取る。すると剣はまるで拒否するように震え、刀身がうねうねと勝手に動いておっさんを攻撃しようとした。


「うぜぇ」


 ゴスッ!という鈍い音。おっさんが拳骨を作って魔剣を殴りつけると魔剣は大人しくなった。こころなしか、親に叱られた子供のようにしょんぼりしているようにも見える。


「とりあえず一晩預かってやらぁ。ただし上手く大人しくできるかはわからねえぞ」

「いえ……助かります。何とか少しでも沈静化させてください……」


 そう言ってシリウスはおっさんに背を向けた。


「そういえばおっさん、来週のアップデートで……ようやくギルドシステムが実装されるようですね」


 去り際に、顔だけで振り向いてそう告げるシリウス。

 そのアップデート内容は、今日になって運営チームより告知された物だ。


「らしいな。お前さんは当然、作るんだろう?ギルド」

「そのつもりです。つきましてはおっさん、うちのギルド入りません?」


 シリウスがおっさんを勧誘する。生産者、特に神器アーティファクト級のアイテムをポンポンと作れる程のトッププレイヤーは、とにかく数が少なく貴重な存在だ。故にどのギルドも自分の陣営に抱え込もうとするのは必至。シリウスも例外ではなかった。

 特におっさんの場合は戦闘職としても超一流。財布の中身も、そんじょそこらのプレイヤーとは文字通り桁が違う。こいつを勧誘せずに誰を勧誘するんだって話だ。

 そして、シリウスの勧誘に対するおっさんの答えは……


「勘弁してくれ。俺は気楽にやりてぇんだよ。誰かのお抱えになるとかは御免だね」

「そう言うと思いましたよ。まあ一応言ってみただけですので」


 気楽なソロプレイを好むおっさんはあっさりと断る。シリウスの方も、それを解っていたのだろう。すんなりと引き下がった。


「つーか今日だけで勧誘15回目だぞ……どいつもこいつも俺の釣りを邪魔しやがって、何か俺に恨みでもあんのか」

「ハハハ……それはまた」


 思わずぼやくおっさんに苦笑するシリウスだった。



  ◆



 シリウスより魔剣カオスジェノサイダーを預かったおっさんは、魔導バイク・グリンブルスティを駆って街へ、作業場へと戻る。

 そしておっさんは、交流のある生産職人たちを招集した。


「というわけで、この魔剣を改造する」


 おっさんの言葉に頷く職人達。

 噂に名高い白騎士シリウスが振るう魔剣・カオスジェノサイダー。それを己の手で思う存分いじくれるのだ。職人達の腕に思わず力が篭る。


「おっさん、前々から試してみたかった改造法があるんだが……」

「研究の結果、新たに作り出した合金がある。ぜひ試させてくれ」

「せっかく【魔導鍛冶】持ちのおっさんがメインでやるんだ。魔導機械技術も大いに盛り込もうぜ。ところで新作の魔導ジェネレーターがここに……」


 狂気の宴が始まり、職人達は徹夜で改造に取り掛かる。

 そして、夜が明けた!



――――――――――――――――――――――――――――――

 【カオスジェノサイダー改】


 種別 魔剣(片手剣) ユニークアイテム

 品質 ★×10(伝説級)

 素材 判別不能

 属性 混沌

 作者 謎のおっさん


 攻撃力+98 魔法攻撃力+60 防御力+15


 攻撃時、混沌属性の追加ダメージ Lv10

 攻撃時、対象にランダムな状態異常を付与 Lv8

 攻撃時、対象のHPとMPを吸収する 発動確率20%

 攻撃時、使用者のHPとMPを吸収する 発動確率5%

 攻撃時、使用者に猛毒を付与 発動確率5%

 攻撃時、以下の魔法をランダムで発動 発動確率10%

 【カオスボルト Lv10】

 敵単体に連続で混沌属性のダメージ

 【カオスストーム Lv5】

 自分を中心とした中範囲に混沌属性のダメージ

 【イクリプスファング Lv1】

 敵単体に混沌属性の大ダメージ+中確率で即死


 この武器は生きており、自我を持つ

 この武器は使用者の経験値を分け与える事で成長する

 この武器はアイテムを与える事で成長する

 この武器は変形機能を搭載している


 【専用化:シリウス】

 この武器は専用化されており、世界でただ一人しか装備できない


 【解説】

 もはや片手剣の領域を完全に逸脱した魔剣。

 その性能はチートを通り越して異常の一言。

 実質ユニークアイテム。

――――――――――――――――――――――――――――――


 なんという事でしょう!匠の華麗な技により、魔剣カオスジェノサイダーが更なる進化を遂げてしまいました!


「な……なんじゃこりゃああああああああああああ!!」


 シリウスの絶叫が街に響き渡る。

 ログインした彼が目にした物は、更に凶悪に進化した魔剣の姿と、


「お前の言う事聞いて、なるべく大人しくするように言い聞かせておいたぜ。後はお前が上手く制御するこったな。

 追伸・後はそいつがもっと強くなりたいと言ってたから、俺のフレの職人を総動員して超・強化してやったぜ。それと代金は近いうちにメールで郵送するか直接払いに来い」


 との、おっさんからのメールであった。


『今まで迷惑をかけたなシリウスよ。我が創造主と、その友人達の強化により、より強固な自我と理性が確立されたゆえ、今後は食欲のままにおぬしの所持品を貪り喰らうような真似はせぬように心がけよう。色々と迷惑をかけたが、今後も共に戦場を駆けようではないか、相棒よ』


 そして、今まで以上に流暢に喋り出す魔剣。昨日まではなかった知性までもが垣間見える。一体この一晩で何があったというのか。


『だが今後も不要な装備品などを与えて貰えれば、我の成長を促進する効果もあってお互いの為になるであろう。そうそう、我の成長方法と、成長より新たに得られるであろう技能、そして新たに入手した変形機能についても語っておこうか!む、聞いておるのかシリウスよ!」


 凄まじい勢いで語り始める魔剣。

 それを聞きながら、ハイライトの消えた目でシリウスは虚空を見つめるのだった。


「どうして……こうなった……」

一晩のうちに魔剣に何があったかは、あまりにも冒涜的な内容のため描写は省かせていただきます。

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