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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
32/140

12.謎のおっさん、牛を食べる

「もげろ」

「爆発しろ」


 第一の町、生産職人達が集う作業場にて。美少女二人に挟まれて帰還したおっさんを出迎えたのは、そんな冷たい言葉であった。


「待て誤解だ。これには深い理由がだな……」


 おっさんはそう弁解しようとするが、一切聞き入れて貰えなかった。


「人にクエスト押し付けて両手に花ですか。良いご身分で」

「おっさん、ちょっとそこ代わりなさい」


 ユウやアンゼリカもジト目で睨んできたりと散々である。

 おっさんは舌打ちをしつつ、ナナとアーニャを引き連れて作業場の奥へと向かった。

 そしておっさんは、アイテムストレージから先ほど入手した食材アイテム……【伝説の牛肉】を取り出し、高く掲げた。

 料理人ならずとも、職人であれば一目見ただけで最高の品質であるとわかるそれを見て、周囲の職人達が色めき立つ。


「この食材を調理できる者はおるか!」


 おっさんがそう叫ぶと、それに対し応える声が一つ。


「ここにいるぞ!」


 そう叫び返し、現れたのはアルカディア最強の料理人。【至高の料理人】の異名を持つPC、クックである。彼は今日も愛用のエプロンを身につけ、鍋を振るっていた。


「遂に伝説級の食材が手に入ったんでな。俺も料理はそこそこ得意ではあるが……ここはやはり専門家にたのもうと思ってな。調理、頼めるかい」

「とても光栄なお話で。勿論、喜んで受けさせていただきますよ」


 おっさんが食材を見せると、クックは笑顔で頷いた。彼もまた、初めて目にする伝説級の食材を、最初に調理できるという栄誉を喜んでいた。


「ところでクック、お前さん【上級料理】は幾つになった?」


 おっさんが何気なく質問をする。

 クックはその質問に対してニヤリと笑い、


「【上級料理】?はて、そんなスキルは忘れましたね」


 そう答え、スキル情報ウィンドウを開いておっさんに見せた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 スキル情報:【特級料理】


 種別 アドバンストスキル

 前提スキル 【上級料理 Lv50】から進化

 習得条件 料理による獲得名声値10000以上

 必要ステータス DEX150以上(スキル・装備による補正値を除く)

 現在の所有者 1名


 上級料理を超え、更に進化した料理スキル。

 料理に関するアビリティを、更に高いレベルで習得可能。


 初期習得アビリティ:【絶対味覚】

 ステータス補正値:スキルLv1毎にDEX+3 Lv5毎にSTR+3

――――――――――――――――――――――――――――――


「三次スキルだと!?」

「馬鹿な、もうそこまで辿り着いたというのか!?」

「ありえん……早すぎる……」


 周囲の職人達は、それを見て驚き、戦慄する。


「なるほど。こいつぁ期待できそうだ」

「ええ、その期待に応えて見せましょう」


 おっさんがクックに肉と代金を渡す。そうしてクックが調理に入ろうとした時である。それを止める者達が居た。


「ちょっと待ったぁ!」


 彼らは扉を開けると、おっさんとクックの元へと殺到する。


「おっさん、俺達」

「友達だよな!?」


 最初にやってきたのは、褐色の肌に黒い髪の鍛冶屋風の青年と、作業服を着て眼鏡をかけた二十代後半くらいの男性。

 【刀匠】テツヲと【機工師】ジーク。いずれもおっさんに劣らぬほどの職人であり、よくおっさんと共に革新的な面白アイテムを作っている男達だ。


「わたくしの分も勿論ありますわよねぇ?」

「えー師匠、私にも分けて貰えたら嬉しいな~と思う次第で」


 次に現れたのは裁縫師アンゼリカ。そしておっさんの弟子であるユウ。


「くっ……てめぇら次から次へと……」


 なんとか拒もうとするおっさんとナナ、アーニャだったが、次から次へとハイエナ共が肉をよこせと迫る。数分に渡って抵抗を続けたおっさんだったが、結局全員にそれなりの額のゴールドを出させる事で折れた。それらを全て合わせれば、クックに支払う手数料を除いても結構な儲けにはなったが、敗北感を味わうおっさんであった。


 伝説の牛肉は、クックの手によって正六面体の形に切り分けられていく。大人数で食べられるように、サイコロステーキにするつもりのようだ。


「肉を傷つけることなく筋だけを経ち切っているな……見事だ……」

「うむ、あの正確無比な刀工……肉が全て、寸分の狂い無く均一な大きさに切り分けられている。あれほどの腕を持つ料理人は他にはおるまい」

「あの包丁の切れ味も大した物だ。あれはテツヲの作か」


 クックの手際に職人PC達が感嘆の声を上げる。

 そして彼が絶妙な火加減で肉を焼き、特製のソースをかけて、いよいよ料理が完成するその時。純白の光と共に完成した料理が光を放ち、天使のごとき白い羽となって周囲に舞い散るエフェクトが発生する。

 神器級のアイテムを作った時よりも、更に派手なエフェクト。これはもしや。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【クック特製サイコロステーキ】


 種別 料理

 品質 ★×10(伝説級)


 伝説の牛肉を匠の技で一口サイズに切り分け、焼いた料理。

 食材、料理人、道具。その全てが最高級だからこそ出来た奇跡の品。

 とろけるような肉とソースの調和はまさに至福の一言。

――――――――――――――――――――――――――――――


「ようやく、満足できる品が作れました……」


 やりとげたおとこの顔で薄く笑うクック。疲れきっている様子だが、その表情はとても満足げだ。まさにこの作品を作り出すために全力を注いだのだろう。

 そんな彼を皆が祝福する。最初に伝説級の品を作り出した事への惜しみない賞賛と、その場面に立ち会え、それを食べられる事への感謝。そしてほんのちょっとの嫉妬を交えて。


「じゃあ……食うか」


 ひとしきりクックを褒め称えた後、おっさんがそう口にする。均一な正六面体に切り分けられた牛肉は、鉄板と一体となった皿の上で口に運ばれるのを待っていた。

 皆が頷き、箸を伸ばす。

 優しく箸に挟まれた牛肉から、肉汁がじゅわり、と滲み出し、鉄板に落ちると「じゅうっ」という音を立てた。

 自然と口の中に溢れた唾液を飲み込み、おっさんはそれを口に運んだ。


「!?」


 ひと噛みした瞬間、口全体に濃厚な肉の旨味が広がる。ソースが肉を引き立て、その味わいが幾重にも重なって刺激する。

 そして、それがまるで口の中で溶けるかのように儚く消えていく。


 おっさんはそれなりに長く生き、多くの経験を積んだ男だ。各地の美味い物も色々と食べてきた。

 神戸牛。米沢牛。近江牛。松阪牛。どれも食べた事はあるが、そのどれとも違って、だがそれらに勝るとも劣らぬ。

 その素晴らしい味に包まれながら、おっさんの脳裏に、無意識にイメージが浮かぶ。


 おっさんは荒野に立っていた。

 そんな彼の元へ、あの巨大牛が向かってくる。それも一体ではなく、何十体もの巨大牛が、地鳴りの如き足音を響かせながら殺到する。

 この巨大牛の群れは、食べた者を圧倒する濃厚な牛肉の味。それを可視化したビジョンか。

 もはや逃げ場などなく、逃げる必要もまた感じない。

 おっさんは洪水のごとく押し寄せる巨大牛()に飲み込まれた。


 圧倒的なそれに飲み込まれ、倒れるおっさん。

 もはや指一本たりとも動かない。

 そんなおっさんの元に、背中に天使のような白い羽が生え、頭の上に光の輪を浮かべた牛たちが数匹、天より舞い降りた。牛天使だ。

 彼らはおっさんを囲み、再び天空へと昇っていく。


 おっさんの体は牛天使たちに導かれ、空へ。

 その先にあったのは、草木が豊かに生い茂り、清らかな水が湧き、色とりどりの花が一面に広がる大地。

 嗚呼、理想郷アルカディアは此処に在ったのだ。


 アルカディア・オンライン ~謎のおっさんとMMO~ 完



「……ハッ!?」


 おっさんが意識を取り戻した。

 ふと周囲を見渡すと、そこには元通りの作業場の風景と、至福の表情でステーキを食べる仲間たちの姿があった。彼らもまた、おっさんと同じ幻想を見ていた様子である。

 理想郷は遠く、未だ人々はそこに辿り着く事は叶わぬが、彼らは一時的にそこに至った。それを成した料理人・クックと、その食材を入手したおっさんの名は、広く語り継がれるであろう。


 あと、ノリで完とか書いたがまだ終わりではない。もうちょっとだけ続くんじゃ。

牛天使とかいう謎のコトダマよ……。

冷静になってみると何考えてんだろ俺。まあいいや、こういう馬鹿馬鹿しいノリこそ、この小説。


そんな訳で飯テロ回でした。

取材のために米沢牛を食べにいってたら遅くなりました。石を投げないで下さい。


(2014/3/13 表記ミス修正。

 誰だよ六面体と六角形をうっかり間違えたファッキン馬鹿は。

 俺でしたすいません)

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